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No.1「ギター・アンプ修理 Guyatone / GA-580 SUPER LEAD」


 近所のHARD OFFにあったギター・アンプ「Guyatone GA-580 SUPER LEAD」
古いエフェクターやアンプの基板が好きな私は、そのデカさと古さに目が留まりました。


1,050円で 「ジャンク品。 まともな出力音が出ません。」 との説明書き。


基本的に、アナログ回路のギター・アンプなら部品さえ抜き取られていなければ修理できると思っているので
楽しみながら修理してみることにしました。


Guyatone GA-580 SUPER LEAD。
高さ55cm、幅45cm、奥行22cm。ずっしり重いです。







コントロールはBOOST、VOLUME、TREBLE、BASS、REVERB です。
つまみが2個ありません・・・



刻印は「150VA」(ボルトアンペア)で、
カタログによると「連続最大出力100W・平均出力50W」です。

たいていのアンプは「W(ワット)」で表記してあるから「このアンプは○○ワットだよ。」って簡単に言えるけど
「150VA」とか「連続最大出力100W・平均出力50W」とかって書かれてると、
友達に「このアンプ何ワット?」って聞かれた時に迷うよね・・・

「VA」っていうのは「ボルトアンペア」って言って、電圧(V)×電流(A)で計算するので
これは家電としては100Vのコンセントと1.5Aのトランスを使ってるから 100V×1.5A=150VA なんだろうけど
回路としてはトランスの2次側からの±25V(DC)の両電源を使ってるわけで、
じゃぁ電流は? というとそんなものボリューム次第でもあるしヒューズが2Aだから最大2Aで
±25Vの両電源ということは電位差が50Vだから 50V×2A=100W が生み出せる最大の電力(出力)だから
友達に「このアンプ何ワット?」って聞かれたら「100W」って答えればいいかな。

スタジオやライブで普通に使えるくらいですね。でか・・・


買う時に店で本体裏のパネルの内側に何やら紙のようなものが貼ってあるのを触って確認してたので
「古いアンプだから回路図が貼ってあるのかも」って楽しみにしておりましたが・・・

いざパネルを外してみたらそれは回路図ではなく、断熱用にアルミのシートが貼ってあるだけでした・・・




基板はこんな感じの2階建て。
予想通りの古臭い基板を見てニンマリすると同時に、回路図を起こすのが簡単そうで一安心。



「やっぱギターアンプっていったらチューブでしょ」 という人はこれを見ても興味が沸かないかもしれませんが、

私は良いアンプかどうかは「チューブかトランジスタか」で決めるのではなく、そのアンプごとに決めますので
個人的にはチューブにはチューブの魅力があると思っていますが、それと同じように
「見た目」も「回路」も「音」もトランジスタにはトランジスタの魅力があると思っているので
もうこれを見た瞬間に「入手してよかった。」と思いました。

「見た目」は合格。ってことですね。



まずは・・・

・ほこりが積もっていてショートしちゃってるわけではないことを目視で確認。
・ヒューズが飛んでいないことを確認。
・断線や破損やショートや焦げた跡など、可能な限り目とテスターでチェック。

一通りチェックしたら、電源を入れて 「まともな出力音が出ませんでした。」 の症状を確認します。


電源、ON。


バチっ!!(爆音) ビイィイィイィィィィーーーーーー!!!!!(爆音)


即、電源OFF。


静まり返った部屋と高鳴る鼓動。その場は、異様な雰囲気に包まれました。


本物のジャンクでした。




とりあえず基板を見ていきましょう。

回路図を起こしてみると、2階建ての基板の上のやつが「プリアンプの基板」で、
下のやつが「パワーアンプの基板」というように分かれていました。

Guyatone GA-580 SUPER LEAD 回路図1 PREAMP基板(クリックで拡大)
ga-580_schematic_1.jpg

Guyatone GA-580 SUPER LEAD 回路図2 POWERAMP基板(クリックで拡大)
ga-580_schematic_2.jpg

今までにもいくつかトランジスタ・アンプの基板を解析してきましたが
1枚の基板にプリ部とパワー部が混ざっていて部品点数も多く密集しているものが多いので、
このように基板が分かれているととても分かり易いですね。


まず上のプリアンプ基板ですが、2SK30ATM-GRが2個と2SC1000-BLが3個と2SD330が1個。
あとラジオの製作ではお馴染みの小型トランスST-32もあります。リバーブ用でした。



2SK30ATM-GRはごく一般的な汎用FETですが、丸みをおびたこの古いタイプの形状がレトロです。



2SC1000-BL。私が大好きな「シルクハット型」です。



この2SC1000はレアですけどこれの互換上位品種の2SC2240なんかは今でも普通にありますので
無くなると困るというほど貴重なものというわけではないですし、
シルクハット型にこだわらなければ、それほど入手困難でもないです。


SANYOの2SD330です。



 これはパワーアンプの出力段としてもよく使われるやつです。
コレクタ損失が定格20Wで、10Wのパワーアンプの出力段としてよく使われてます。
放熱器を付けてないので一見しただけで「ここでの用途はパワーアンプの出力段ではないな。」と察しがつきます。

この2SD330自体はちょっと入手困難ですが、もし壊れていても互換品や代替品は結構ありますので問題ないですね。
特にプレミア性もありません。

(修理する時には部品の入手性や、互換品や代替品の有無は大事なのです。)



次に下のパワーアンプ基板を見ていきましょう。



2SA564Aが2個。今時こんなの使う人いませんね。
作動増幅による入力段なので、欲を言えば向かい合わせて接着して熱結合させるといいんですけどね。



2SA1015の前によく使われてた昔の汎用品です。30年〜40年くらい前の基板でしょう。
交換するなら2SA1015で済むものなのでプレミア性はありませんが、私はこのレトロ感が好きです。


そして・・・


まるで飛行場に三機のUFOが着陸、待機しているかのような・・・



幻のトランジスタ2SA607と2SC960です。
ダイオードが2本見えるのは温度補償用です。トランジスタに熱結合させるのがセオリーなんですけどね。



2SA607と2SC960はオーディオ・アンプを製作する人ならよくご存知だと思います。
金田式アンプの定番トランジスタですね。

入手が不可能というわけではありませんが、特に2SC960は希少ですね。
「2SA607と2SC960のコンプリメンタリ・ペアで限定販売3,000円(在庫4組、最後の入荷)」みたいな感じです。
単体での相場は、2SA607が1個735円〜1,050円、2SC960は1個1,960円とか。
売ってる店も限られてますね。

とにかく壊れてても捨てられないレベルの外観です。


これだけで充分過ぎるほど1,050円の元を取ってるわけですが、
基板の下に放熱器が付いてまして・・・



ここにメインの出力段用のパワートランジスタがあります。



東芝、2SC793です。  2SA607がUFOだとすると、こちらはUFOの母船みたいなもんです・・・



昔のオーディオ・パワー・アンプにも使われてたトランジスタで、今でも1個1,000円くらいで入手できますが
この2SC793×2と、先ほどの2SA607×1と2SC960×2を交換すると7,000円くらいかかるということです。

もちろん素子の値段だけで優劣や価値が決まるわけではないですが。



さて、どこから手をつけていくかということになりますが、まずはプリアンプ基板から。
最初にちょっと気になったコンデンサがあるので、とりあえず暫定的に応急処置をしておきます。



錆びてるというか・・・焦げてるというか・・・





47μF/50Vなのですが、あいにく手持ちの47μFは耐圧25Vだったので
耐圧50Vの22μFを並列にして44μF/50Vにします。まぁここは暫定的になので。

ちなみに取り外したコンデンサは致命的なダメージはなく、一応コンデンサとしての機能は有してましたが
容量が47μFの2倍くらい、92μFもありました。
交換必須ですがとりあえず暫定的に処置したので、あとでちゃんとしたものに交換します。



次に、トランスとダイオードブリッジの各部の電圧ですが、
回路に繋いだ状態では電源を入れると ビイィイィイィィィィーーーーーー!!!!!(爆音)と鳴るので
「トランスだけ」と「トランスとダイオードブリッジだけ」で電圧を確認しました。
どちらも電圧は正常で、特に不具合はありません。




とりあえずは「可能性は低くても確認はしておかなければ」という箇所をパッパッパっとチェックしていきます。


■個人的な興味でダイオードブリッジをディスクリートで組んだものに差し替えてみたのと、
 以前オーディオ・アンプを自作した時に、VOLUMEの可変抵抗器の破損でこの症状が出たことがあるので
 VOLUMEの可変抵抗器を交換してみたりしました。 →症状は変わりません。

■2SK30Aと2SC1000は、足にテスターを当てて簡易的に故障診断をしました。 →問題ありません。

■全ての可変抵抗器をテスターで良否確認と、GNDとショートしてないか等をチェックしました。 →問題ありません。

■2SD330を取り外してhEFを測定。 →ランクDで正常。

■回路図を見ながら部品の足と足の導通チェックでハンダの浮きが無い箇所を可能な限り確認すると同時に、
 念の為、あちらこちらを再ハンダ。 →症状は変わりません。

■全ての電解コンデンサについて、アナログ・テスターを当てて針の動きで簡易的に良否確認。 →問題ありません。

■電源部の平滑コンデンサ4700μFの容量測定。実測5000μFちょっとあるけどコンデンサとしての機能は有しています。
 (どうも今までの経験からしても古い大容量電解コンデンサは容量が大きくなりますね。)



どうやらプリアンプ基板には問題は見当たりません。

パワーアンプ基板か、配線か。

この症状は先ほど言った「VOLUMEの可変抵抗器の破損」でもみられるし、「GNDの浮き」でも経験があるし、
「正常なアンプでシールドを差し込んでVOLを上げて片手はGNDに触れない状態でもう片方の指をシールドのHOTに触れる」と
同じような症状になりますね。

あと、このアンプには無いけどOPアンプが壊れててもなるし、トランジスタのエミッタとコレクタが接触してもなるし
つまりはトランジスタが壊れててもなります。

希少なトランジスタが壊れてるということだけはなるべくあって欲しくないですが、
今のところ一番怪しいのはトランジスタの破損。
その次に怪しいのはやっぱりどこかのハンダ割れとか配線のような部分。

また、「古いアンプはまず電解コンデンサを交換すること」みたいなのをよく聞きます。
実際ネットでも「まずは古い電解コンを全て新品に交換します。お決まりですね。」みたいのをよく見かけます。
でもそれは修理ではなくてオーバーホールの場合の話であって、
古くても液漏れもなく容量もあるので、今回のような不具合の症状の原因だとは思えないというか
わけも分からず「とりあえず電解コンを交換すれば直るかもしれない」みたいなのはあまり好きではなく、
他に原因を探すべきだと思っているのですが、逆にここで、電解コンが原因じゃないことを確認しておきます。



元は4700μF/75Vですが、耐圧75Vというのがちょっと無いので耐圧50Vで。

まぁここにかかる電圧は25Vの実測24V程度なので、一時的に倍の電圧がかかる可能性があるにしても
余裕を持って48V〜50Vで大丈夫です。

あと1000μF/50Vも交換。仮付けです。最終的にこれを付けるかどうかは修理が終わってから考えます。




電源、ON。


バチっ!!(爆音) ビイィイィイィィィィーーーーーー!!!!!(爆音)


即、電源OFF。


当然ですが、やはり症状は変わりません。

まぁ症状が変わらないことの確認なので。

4700μFの電解コンデンサは、元のものに戻します。
最終的に新品に交換するかどうかは、修理が完全に終わってから決めます。



次にいきます。
プリアンプ基板にも電解コンデンサにも問題が無いということは、パワーアンプ基板が怪しいです。

むやみに外したり付け直したりしたくなかったのですが、ちゃんと確認したかったので外しました。



これで何か良いエフェクターかペンダントを作れそうですね。


せっかくなのでパワーアンプ基板のトランジスタを全て取り外してhFEを測定することにします。



基板に乗った状態でアナログ・テスターでの簡易チェックをしたので壊れてはいないという確信はありましたが・・・

・2SA564A:hFE=191 (Rランクの規定値は180〜360)
・2SA564A:hFE=176 (Rランクの規定値は180〜360)

・2SA607:hFE=97 (Lランクの規定値は90〜150)

・2SC960:hFE=79 (Lランクの規定値は90〜150)
・2SC960:hFE=50 (Lランクの規定値は90〜150)

壊れてるとまではいきませんが、5個のうち3個は規定値を下回ってしまっていますね。

新品当初からこういう値だったとは考えられないので、
高負荷での連続使用や、現在の「ビイィーーー!!」という不具合の症状による劣化と考えるのが妥当です。

トランジスタは、真空管が「消耗部品」なのに対して「半永久部品」と呼ばれていますが
「定格の範囲内で使用していても(hFEなどの特性の)信頼性を損なう場合があります」ということが
メーカーのデータシートに記載されていたりするので、劣化することはあり得るものなのです。
これらを交換したからといって直るわけではありませんが、できれば交換した方がよいということになります。

しかし、2SA564Aは互換品の2SA1015に交換でいいとしても
2SA607や2SC960のようなプレミア価格の希少なトランジスタを3個も交換するというのは、余程このアンプに愛着があるとか
少なくとも完全に修理できてからじゃないと、また劣化したり壊れてしまう可能性が大きいです。


とりあえずは、壊れているわけではないのでこのまま使うことにします。



ということで、あとはもう残ったのはこれだけです。
わずかに残ったこの中に不具合の原因があるのでしょうか?





ここで今までの経緯を整理しておきましょう。

1.電源を入れると、バチっ!!(爆音) ビイィイィイィィィィーーーーーー!!!!!(爆音)ってなる。
2.基板上の部品を見た目で確認。怪しいコンデンサを交換。
3.トランス、ブリッジダイオード、電源の平滑コンデンサの良否と、正常な電圧が出ているかどうかの確認。
4.プリアンプ基板上のトランジスタや電解コンデンサを外さずに、テスターで簡易的に良否チェック。
5.プリアンプ基板には問題が無いと判断。
6.パワーアンプ基板上のトランジスタはhFEが規定値を下回っているが、壊れてはいないことを確認。

<現在に至る>





電解コンデンサはテスターで良否判断をしてプリアンプ基板の47μFと同じく致命的な故障は無いと判断しているので、

・抵抗器の値をチェック
・配線や部品の足で接触不良をチェック
・全ての箇所を再ハンダ

これでトランジスタを元に戻して組んでみます。


もしこれで直ったら「ハンダ割れが原因だった」ということになりますが・・・

元通りに組んで電源ON・・・



すると、音が出ました。
あの「ビイイィィーー!」というのは消えてます。

ジャズコーを思わせるような、非常にクリアな生音ですね。

だだ、「バチッ」とか「ブツ・・ブツ・・・バチ・・・」という小さなノイズが出ます。


気にせずしばらく弾いてましたが・・・


数分経ったところで大きな音で「バチっ!!(爆音)」と鳴り、すぐに電源をOFFにしました。

多少は改善されたようには感じていましたが、直ってはいませんね。

そして、色々と点検していて、怪しい箇所を見つけました。



放熱器の裏側です。2SC793をネジ留めしている部分なのですが、
ネジがネジを通す穴(通称:バカ穴)の内側に接触しないように絶縁する為の絶縁ブッシュがあるんですけど・・・





トランジスタ側には無いのです。


放熱器はアルミなので電気を通すものですが、これは黒アルマイトでメッキしてあるので電気を通しません。
しかし、ネジ穴の黒アルマイトが剥げると、もう片方のトランジスタのネジと接触してしまうわけで、
この2SC793の金属ケースはこのトランジスタのコレクタなので、2つの2SC793のコレクタ同士がショートしてしまうのです。

テスターでショートを確認しました。

これ、新品の状態から絶縁ブッシュは片側だけだったんでしょうかね?
まぁこのトランジスタは一度取り付けてしまえばもう外さないということが前提なのでしょう。
「うまく真っ直ぐにネジを通して留めること」と、「ネジで擦れてアルマイトが剥げないように気をつけること」
さえ守っていれば一応は大丈夫だということにはなりますが、これだと確実ではないですよね。

そこで、手持ちの絶縁ブッシュをトランジスタ側にも追加しました。





これで、「バチッ」とか「ブツ・・ブツ・・・バチ・・・」という小さなノイズが消えました。
「ビイイィィーー!」というのもこのショートのせいだったようで、ノイズは全てなくなりました。


自分で勝手に変な改造をして壊したというわけでもない限り、不具合の原因なんてこんなもんなんですよね。
原因が見つかるまでは大変なのですが、見つかってしまえば「なーんだ。」ってなもんです。


「ブツ・・ブツ・・・バチ・・・」というのが消えたのでかなり安定して、





これで修理完了ですね・・・






と、思っていたら、今度は音が割れてます。歪んでるというよりも、汚く濁った、割れた音です。


一難去ってまた一難。


まず、音が割れているのはさっきの大きな「バチっ!!(爆音)」でトランジスタが壊れた可能性があります。
あと、バイアスがズレているという可能性もあります。

再度トランジスタを全て外してチェックしたところ、残念なことに・・・
2SA607が壊れていました・・・

もうペンダントにするしか使い道が無くなってしまいました・・・



2SA607が壊れたので、仕方なく代替品に交換です。

2SA607は互換表によると2SB631、2SA497、2SA546、2SB527が互換品になっていますがどれも廃番で
価格や流通性を無視すれば2SA497、2SA546あたりならまだなんとかありますが、
互換表よりもデータから20個くらい挙げて、価格と流通性も重視して探した結果、2SA965を選びました。
コンプリメンタリにあたる2SC2235の価格や流通性も考慮してのチョイスです。

(完全な互換品ではなく、あくまでもこのアンプの為に私が勝手に選んだだけの代替品ですので
 特に、互換品を探して検索してここを見に来た方は注意してください。)

トランジスタの互換品や代替品を探している時間って楽しいですよね。
修理の醍醐味でもあります。



で、壊れていない2SC960も2SA965のコンプリメンタリということで、同時に交換することにします。
2SA965のコンプリメンタリにあたる2SC2235にします。



見た目の存在感が弱くなってしまったのが残念ですが
まぁ直って動作を確認したら、あとでいくらでもまた好きなものに交換は出来ますので。


とりあえず電源を入れてバイアスがどうなっているかを確認してみます。

壊れたトランジスタを交換したことで、割れて濁った音がクリアな音になって
「バチッ」とか「ビイィー!」というのも全くしなくなり、


「なかなか良い音だなぁ。」


と思ってしばらく弾いていたら、何やら香ばしい臭いが・・・

慌てて電源を切り、落ち着いてから再度電源を入れ、バイアスがどうなっているかを確認しようとしたところ
バイアスが狂ってるどころか、エミッタ電圧がどんどん上昇していきます。

エミッタ抵抗が0.1Ωなので、1mVというのが適切なエミッタ電圧の目安でもあるのですが、
28mV・・・47mV・・・84mV・・・127mV・・・どんどん上昇して止まりません。



トランジスタがもの凄く熱を持っています。

これはいわゆる「熱暴走」です。



トランジスタの発熱によってB-E間電圧が下がり、エミッタ電流が現象することでコレクタの増幅率が上がり、
コレクタの増幅率が上がってコレクタ電流が大きくなることでまたトランジスタの発熱量が増える・・・
このループによって急速にコレクタ電流と発熱量の増大を繰り返してしまいます。

熱暴走を放置すると今度はすぐにでも出力段の2SC793が壊れます。

危険なのですぐに電源を切りました。




熱暴走する以外には、音的には不具合はなくなりました。

ただしばらくすると熱暴走が始まり、一度熱くなり始めると急速に臨終へ向かいます。
ダイオードによる温度補償回路が付いているにもかかわらず。です。


・壊れてはいないけどhFEが揃っていない2SA564AをhFEのそろった2SA1015に交換。まだ熱暴走します。

          ↓

・念の為、47μFの電解コンデンサを交換。まだ熱暴走します。

          ↓

・半固定抵抗器のガリがひどいので暫定的に可変抵抗器に交換。まだ熱暴走します。

          ↓

・残りの10μFの電解コンデンサも交換。セメント抵抗も片側見た目が怪しいので交換。まだ熱暴走します。



熱暴走が治まりません。





これはもう部品のせいではないですね。


バイアスの電位が適正ではない。という結論に到達しました。


この基板には元々、バイアス調整用の半固定抵抗器が付いているのですが、それは

「片方の出力段のエミッタ電圧に対して、もう片方のエミッタ電圧を合わせて同じにする為のもの」なので
出力段の2つのトランジスタのエミッタ電流のバランスを微調整するだけで
バイアス電位そのものを上下させるのとは違うものなのです。


で、今回ドライバー段のトランジスタをhFEが倍近くある2SA965と2SC2235に交換したことで
両方のエミッタ電圧が同じにそろってはいるのですが、両方そろったたままバイアス電位が高いから
制御しきれなくなってしまっているのです。


理屈を抜きにして言うと、
同じ型番のトランジスタに交換しただけなら、元々ついてる半固定抵抗器でバランスだけ微調整すればいいのですが
トランジスタ自体をhFEが大きく異なる別の型番のものに交換した場合には、回路の定数を変更しなければならない。
ということです。


なんとかしてエミッタ電圧を1mV程度で安定させなければなりません。


ちなみに「エミッタ電流」と「エミッタ電圧」という2種類の言い方を使いわけていますが、同じことです。
電流の量を測定しながら電流を調節する為には回路を切断して電流計を挿入しなければならず、
だったらオームの法則に従って電圧を測定しながら電圧を調節すれば、電流も比例して調節される。ということです。
電圧なら回路を切断せずに測定できるからというだけの話です。



要するに「別のトランジスタに交換したので、エミッタ電圧を1mV程度で安定させる為の調整が必要」ということです。



この段階で、普通なら元々ついていたのと同じトランジスタを仕入れて交換するでしょう。
本来ならばそれで修理は完了です。


でも今回のようなケースだと 「互換品ならどんなものでも大丈夫」 とは言い切れませんし
互換品よりも互換性の乏しいような「代替品」だと、そのままでは使えません。

そこで・・・

せっかくのジャンク・アンプですから 「教材」 として有効活用して、
あえてオリジナルとは別のトランジスタに対応するように調整してみます。



こういうのは実際に実験で確認することが大事なので、温度による変化のデータを取ります。
そこで、実験用にパワーアンプ基板と同じ回路をラグ板で製作しました。

これなら元の基板や部品を傷めたりせずに実験・調整が出来ます。



あと、出力段の2SC793も実験で壊したくないので代替品を使います。

互換品の2SD895、2SD428、2SC2522が全滅で、
2SC4466、2SC2460A、2SC2527、2SC3834、2SA1064、2SC5196、2SD1485、2SD1271、2SC2334、2SD1237、2SD843・・・

色々探した結果、オーバースペックですが2SC5198を選びました。
コレクタ・ベース間電圧=140V、コレクタ電流=10A、コレクタ損失=100W です。



この回路の場合、アイドリング電流を調節する為のバイアス電位を決定する抵抗器は3箇所ありますが、
一般的には2.2kΩの抵抗器の部分を可変抵抗器にしてテスターでエミッタ電圧を測定しながら調節します。
やることは真空管のバイアス調整と同じです。

ここを調節しながら、エミッタ電圧を監視してデータを取ります。
必要であれば抵抗器を可変抵抗器を並列にして可変領域を調節します。
また、放熱器を付けない場合と、小型の放熱器を付けた場合でも比較してみます。
この小型の放熱器で安定していればアンプに付いてる大きな放熱器でも大丈夫ということで。



ラグ板で組んだパワーアンプ回路をアンプに接続します。



2.2kΩで熱暴走するわけですから、この抵抗値を上げてバイアス電位を下げます。
そして、VOLUME=0 時のアイドリング電流ということで、出力段のエミッタ電圧を測定します。

まずは1kΩ上げて3.3kΩからやってみます。

(2SC5198、3.3kΩ、放熱器あり)
  1分後 = 0.4mV 
  2分後 = 0.4mV 
  3分後 = 0.4mV 
  4分後 = 0.4mV 
  5分後 = 0.4mV 
  6分後 = 0.4mV 
  7分後 = 0.4mV 
  8分後 = 0.3mV 
  9分後 = 0.3mV 
 10分後 = 0.3mV 

安定はしてますがアイドリング電流が小さ過ぎですね。
ほぼ発熱していないので、温度補償回路が機能するに至っていないようです。


ここから0.1kΩずつ抵抗値を下げていくことにします。
では、3.2kΩから。

(2SC5198、3.2kΩ、放熱器あり)
  1分後 = 0.3mV 
  2分後 = 0.3mV 
  3分後 = 0.3mV 
  4分後 = 0.3mV 
  5分後 = 0.4mV 
  6分後 = 0.4mV 
  7分後 = 0.4mV 
  8分後 = 0.4mV 
  9分後 = 0.4mV 
 10分後 = 0.5mV 
 11分後 = 0.5mV 
 12分後 = 0.5mV 
 13分後 = 0.5mV 
 14分後 = 0.5mV 
 15分後 = 0.5mV 
 16分後 = 0.5mV 
 17分後 = 0.5mV 
 18分後 = 0.6mV 
 19分後 = 0.5mV 
 20分後 = 0.5mV 
 21分後 = 0.5mV 
 22分後 = 0.5mV 
 23分後 = 0.5mV 
 24分後 = 0.5mV 
 25分後 = 0.5mV 
 26分後 = 0.5mV 
 27分後 = 0.5mV 
 28分後 = 0.6mV 
 29分後 = 0.5mV 
 30分後 = 0.5mV 

非常に緩やかな上昇をしながら、0.5mVで安定しています。
でもまだ目標の1mVには足りないです。

ちなみに、0.2mVくらいでもギターの音は普通に出ます。

次は3.1kΩにしてみます。

(2SC5198、3.1kΩ、放熱器あり)
  1分後 = 0.5mV 
  2分後 = 0.6mV 
  3分後 = 0.6mV 
  4分後 = 0.6mV 
  5分後 = 0.6mV 
  6分後 = 0.6mV 
  7分後 = 0.6mV 
  8分後 = 0.6mV 
  9分後 = 0.6mV 
 10分後 = 0.6mV 

安定してますが、1mVにはまだ足りません。


次は3kΩです。

(2SC5198、3kΩ、放熱器あり)
  1分後 = 0.6mV 
  2分後 = 0.7mV 
  3分後 = 0.8mV 
  4分後 = 0.9mV 
  5分後 = 0.9mV 
  6分後 = 1.0mV 
  7分後 = 1.1mV 
  8分後 = 1.1mV 
  9分後 = 1.2mV 
 10分後 = 1.3mV 
 11分後 = 1.4mV 
 12分後 = 1.4mV 
 13分後 = 1.5mV 
 14分後 = 1.6mV 
 15分後 = 1.6mV 
 16分後 = 1.7mV 
 17分後 = 1.8mV 
 18分後 = 2.0mV 
 19分後 = 2.2mV 
 20分後 = 2.3mV 

上昇し続けるようになりました。
6分後には1.0mVに達してますが、それ以降も上昇し続けています。
2.3mVだとまだ触れても体温くらいの熱しかないのですが、
これだと熱暴走するのも時間の問題です。

ちなみにだいたい20mVくらいまで上がると2SC5198がヤケドするくらいに熱くなって
180mV〜200mVくらいまでいくと壊れる感じです。
(一度壊しました。20mVを超えると一気に、あっという間に180mV〜200mVくらいまで急上昇します。)

なので、20mVくらいまで上がったらもうヤバイと思って電源を切るべきでしょう。



さて、ここまでの実験で、この調子では1mVに設定しようにも難しいことが分かりました。

そこで、ダイオードをトランジスタにくっ付けます。(=熱結合)
エポキシ系の接着剤が好ましいのですが、実験でまた外したりもするので今はセロテープでとめてます。



こうすることでトランジスタとダイオードの温度が同じになるので
トランジスタの温度特性をダイオードの温度特性が打ち消してバランスを取る効果が最大限に生かせます。

この処理はべつに“苦肉の策”でも何でもなくて、本来はこうするのが普通なのですが
このギターアンプはこの処理がなされておらず、基板に装着されているだけでした。



まぁGuyatoneさんも商品化の際に試運転をして安全を確認していたはずですから
これだけで欠陥品だとか対策が甘いとかって言うつもりはありません。
どちらかというと私の今回のトランジスタの選択がシビアな設計を求めてしまっているというのはあると思います。
かといって、それもべつに設計が甘いということにはならないとも思ってますが。



では、熱結合をした3kΩでやってみます。

(2SC5198、3kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.7mV 
  2分後 = 0.7mV 
  3分後 = 0.6mV 
  4分後 = 0.7mV 
  5分後 = 0.7mV 
  6分後 = 0.6mV 
  7分後 = 0.6mV 
  8分後 = 0.6mV 
  9分後 = 0.6mV 
 10分後 = 0.6mV 

熱結合する前の1分〜2分あたりの数値で安定するようになりました。
温度補償回路が機能しているということです。


試しに、これで放熱器を付けなかったらどうなるのかやってみました。

(2SC5198、3kΩ、放熱器なし、熱結合あり。)
  1分後 = 0.6mV 
  2分後 = 0.8mV 
  3分後 = 0.9mV 
  4分後 = 1.2mV 
  5分後 = 1.5mV 
  6分後 = 2.2mV 
  7分後 = 6.3mV 
    ・
    ・
  (熱暴走開始) 

7分で6.3mVにまで上昇してしまい、その後、熱暴走を開始しました。

放熱器を付けないのは論外だということと、こんな小型の放熱器でも結構効果があるということが分かります。



さて、熱結合することにより、安定した状況で3kΩで0.6mVを確保することが出来ましたので
ここからまた抵抗値を下げていきます。

2.9kΩです。

(2SC5198、2.9kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.7mV 
  2分後 = 0.7mV 
  3分後 = 0.8mV 
  4分後 = 0.8mV 
  5分後 = 0.8mV 
  6分後 = 0.8mV 
  7分後 = 0.8mV 
  8分後 = 0.8mV 
  9分後 = 0.9mV 
 10分後 = 0.9mV 
 11分後 = 0.9mV 
 12分後 = 0.9mV 
 13分後 = 1.0mV 
 14分後 = 1.0mV 
 15分後 = 0.9mV 
 16分後 = 0.8mV 
 17分後 = 0.8mV 
 18分後 = 0.8mV 
 19分後 = 0.8mV 
 20分後 = 0.8mV 

0.8mVで安定するようになりました。もうちょっとですね。

次に2.8kΩです。

(2SC5198、2.8kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.8mV 
  2分後 = 0.9mV 
  3分後 = 0.9mV 
  4分後 = 0.9mV 
  5分後 = 0.9mV 
  6分後 = 0.9mV 
  7分後 = 0.9mV 
  8分後 = 1.0mV 
  9分後 = 1.0mV 
 10分後 = 1.1mV 
 11分後 = 1.0mV 
 12分後 = 1.0mV 
 13分後 = 1.1mV 
 14分後 = 1.1mV 
 15分後 = 1.2mV 
 16分後 = 1.1mV 
 17分後 = 1.2mV 
 18分後 = 1.2mV 
 19分後 = 1.1mV 
 20分後 = 1.2mV 
 21分後 = 1.2mV 
 22分後 = 1.2mV 
 23分後 = 1.1mV 
 24分後 = 1.1mV 
 25分後 = 1.0mV 
 26分後 = 1.1mV 
 27分後 = 1.1mV 
 28分後 = 1.2mV 
 29分後 = 1.1mV 
 30分後 = 1.0mV 

多少の変動はありますが、だいたい1.0mV〜1.2mVくらいで安定してます。
今は熱結合が仮にセロテープで留めてあるだけなので、ちゃんと接着すればもっと安定すると思います。


試しに2.5kΩにしてみました。

(2SC5198、2.5kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
 20秒後 = 1.3mV 
 30秒後 = 1.7mV 
 40秒後 = 2.0mV 
  1分後 = 18.6mV 
    ・
    ・
  (熱暴走開始) 

1分ちょいで熱暴走開始です。

ということは、2.9kΩか2.8kΩあたりがいいということになりますが
E系列で許容差±5%だと2.7kΩの次が3kΩなので、半固定抵抗器にするのが良いと思います。

この基板でいうと半固定抵抗器が2つになって
「バイアス電位の調節」と「2つのバイアス電位のバランス」の両方が調節出来るようになります。



ところでこれらは2SA607と2SC960を2SA965と2SC2235に変更した場合の実験ですが
出力段に2SC5198を使っていますので、出力段に2SC793を使ったデータも取らないとまた違うかもしれません。

出力段は、壊れない限りオリジナルの2SC793を使うつもりなので、これでもデータを取ることにします。





まずは2SC5198の適正値、2.9kΩでやってみます。

(2SC793、2.9kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.2mV 
  2分後 = 0.2mV 
  3分後 = 0.2mV 
  4分後 = 0.2mV 
  5分後 = 0.2mV 
  6分後 = 0.1mV 
  7分後 = 0.1mV 
  8分後 = 0.1mV 
  9分後 = 0.1mV 
 10分後 = 0.1mV 

2SC793のケースの方が放熱性に優れているからか、ガクンと下がりました。
データシートでは2SC5198-OのhFEは80〜160、2SC793-YのhFEは50〜120。
hFEだけの問題ではないようです。


2.7kΩではどうでしょう。

(2SC793、2.7kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.2mV 
  2分後 = 0.2mV 
  3分後 = 0.2mV 
  4分後 = 0.2mV 
  5分後 = 0.2mV 
  6分後 = 0.2mV 
  7分後 = 0.2mV 
  8分後 = 0.2mV 
  9分後 = 0.2mV 
 10分後 = 0.2mV 

0.2mVのまま安定してしまっています。


2.5kΩまで下げてみます。

(2SC793、2.5kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.3mV 
  2分後 = 0.4mV 
  3分後 = 0.4mV 
  4分後 = 0.4mV 
  5分後 = 0.4mV 
  6分後 = 0.5mV 
  7分後 = 0.5mV 
  8分後 = 0.5mV 
  9分後 = 0.5mV 
 10分後 = 0.5mV 
 11分後 = 0.4mV 
 12分後 = 0.4mV 
 13分後 = 0.4mV 
 14分後 = 0.4mV 
 15分後 = 0.4mV 
 16分後 = 0.4mV 
 17分後 = 0.4mV 
 18分後 = 0.4mV 
 19分後 = 0.4mV 
 20分後 = 0.4mV 

0.4mVで安定しています。


次に2.3kΩにします。

(2SC793、2.3kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.6mV 
  2分後 = 0.6mV 
  3分後 = 0.7mV 
  4分後 = 0.7mV 
  5分後 = 0.7mV 
  6分後 = 0.7mV 
  7分後 = 0.7mV 
  8分後 = 0.7mV 
  9分後 = 0.7mV 
 10分後 = 0.7mV 

0.7mVで安定しています。2SC5198よりも安定してる感じです。


次は2.2kΩです。なんと、元々の値です。

(2SC793、2.2kΩ、放熱器あり、熱結合あり。)
  1分後 = 0.8mV 
  2分後 = 0.9mV 
  3分後 = 0.9mV 
  4分後 = 1.0mV 
  5分後 = 1.1mV 
  6分後 = 1.2mV 
  7分後 = 1.2mV 
  8分後 = 1.2mV 
  9分後 = 1.2mV 
 10分後 = 1.1mV 
 11分後 = 1.1mV 
 12分後 = 1.1mV 
 13分後 = 1.0mV 
 14分後 = 1.2mV 
 15分後 = 1.0mV 
 16分後 = 1.1mV 
 17分後 = 1.1mV 
 18分後 = 1.1mV 
 19分後 = 1.0mV 
 20分後 = 1.1mV 

1mV〜1.1mVで安定しました。
ということは、2SC793なら2.2kΩのままで良いことになります。
ただし、2SA607と2SC960を2SA965と2SC2235に変更した場合は、そのままでは熱暴走してしまいますので
ダイオードの熱結合は必須です。




ということで、今回のまとめです。

・元々の不具合の原因は、2SC793の足のショートでした。対策をして不具合は直りました。
・途中で2SA607が壊れました。2SA965に交換。ついでにコンプリメンタリの2SC960も2SC2235に交換しました。
・2SA607と2SC960を代替品に交換したことで熱暴走するようになりました。
・熱暴走は、ダイオードの熱結合と、トランジスタによってバイアス抵抗の値を変更することで治まりました。



基板は最終的にこのようになりました。
トランジスタと電解コンデンサとセメント抵抗器を交換してダイオードを熱結合させたのと、
半固定抵抗器の追加・移動ですね。



温度補償用のダイオードはエポキシ・パテで2SC2235に密着させました。
念の為インシュロックで留めてありますが、完全に固まったら外してもいいかな。



半固定抵抗器を1個追加して2個になりました。
1つは全体のバイアス電位の調整用で、もう1つは2つあるエミッタ電流のバランス調整用です。
これで、色々な代替品のトランジスタに変更できます。
この基板は垂直に立てて装着する為、ドライバーで調節し易いように半固定抵抗器のネジの面を上に向けました。



元々この基板には使っていないパターンや穴が多く存在していたので
半固定抵抗器を上部に移動・固定させるのにそれを利用しました。

市販の工業製品って、プリントパターンの設計ミスや変更やVer違いでの使い回しとかで
使わないパターンや穴があるのって本当に多いですよね。







これで修理は完了ということで基板を本体に取り付けて電源を入れ、ギターを繋ぎました。
心地よい音なのでちょっと弾いてから「さて、バイアス電圧の確認をするか。」と思ったその瞬間・・・


基板の真ん中から高さ10cmくらいの炎がメラメラと燃え、ビイイィィーー!! と鳴りました。


慌てて炎を吹き消し、電源を切りました。
熱暴走です。


「直って良かった。」というちょっとした気の緩みでミスをやらかしました。


バイアス電位の調整用の半固定抵抗器ですが、5kΩの半固定抵抗器を使うよりも
1kΩの抵抗器と2kΩの半固定抵抗器を直列にして1kΩ〜3kΩの範囲を調整できるようにした方が
ネジの可変域に対する抵抗値の範囲の関係で調整がし易くなるので、そうするつもりだったのに
1kΩの抵抗器を入れ忘れてしまいました。

なので、半固定抵抗器がどの位置になっていても2kΩ以下にしかならない状態だったので、
調整するまでの時間すら待てないほど、電源投入時から熱暴走が始まってしまっていたのです。

ここに1kΩを入れなければいけませんでした。



このミスのせいで抵抗器が1本燃え、2SA965と2SC2235が1個ずつ壊れました。
(あと、ハンダ面のコーティングも忘れてたのでコーティングしました。)

大事な2SC793を壊すわけにはいかないので、とりあえず出力段のトランジスタを2SC5198にします。



今度は大丈夫です。
逆に、端子を穴に通さないので、変なショートの危険性とかも無くなりました。
しばらくテスターを繋いだままエミッタ電圧を監視しながら弾いてみましたが
放熱器も実験の時より大きいのでかなり安定するようになりました。

エミッタ電圧を0.5mVに設定すればずっと0.5mVで、0.8mVに設定すればずっと0.8mVで安定します。


これで修理は完了です。



元々付いてた2SA607を仕入れればオリジナルの状態に戻せますし
中段や出力段のトランジスタを自由に変更することも可能になったので、これからも遊べます。
1,050円のジャンク品でここまで楽しめれば満足ですね。




 GA-580はジャズコーのようなクリアな音が出て、トーンの効きが良くて幅広い音が出せる印象です。
クセがなくとても素直な音で、ギターそのものの音がそのまま出ます。

逆に言うと、全くと言っていいほど個性がないギターアンプですので
「このアンプじゃなきゃダメなんだ。」みたいな需要は無いでしょう。

BOOSTは音量が大きくなるタイプなので歪みません。歪ませるならエフェクターが必要です。
VOLUMEを絞れば家でも弾けますが、とても大きな音が出るので部屋で使うのに向いてるとは言えません。

で、クリーンな音がとても素直な音のわりには、エフェクターで歪ませるとどうも納得いく音になりません。
トーンはよく効くTREBLEとBASSが付いているものの、基本的には「硬い音」なのに低音弦は「ブーミー」というか
ジャズコー用のセッティングに慣れてると使い勝手が違うので音作りを全部やり直す必要があるというか、
その為には「適したエフェクター」が今までとは違うものになるといった感じです。

でも時間をかけて音作りをしていったら、だんだん自分の好みの音に近づいてきました。
1つのエフェクターでクセを掴んでおけば、慣れた分だけ他のエフェクターでもセッティングが早いです。
これは自分にとって最高のアンプだというわけにはいきませんが、
やはり精神的な何かが作用するのか、何十年も修理しながら使ってるような愛着があります。



 最後に・・・チューブに対してトランジスタで対抗心を燃やす気は無いのですが、
やっぱりトランジスタにはトランジスタの、チューブには無い良さっていうのがありますね。
タイトで安定した音のわりには強弱もかなり付けられるし、コシのある図太い音も出るし、
トランジスタの1つ1つが個性を持っていて、調整が必要だったりバラツキがあったり劣化したりもするし
「良いトランジスタ・アンプは音にも温もりが感じられる。」 そんなふうに思います。

2013.11.12



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