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No.3「ギター・アンプ解析 Roland / SPIRIT 20」


 これは現在私が自宅用として好んで使っているRolandの「SPIRIT 20」です。



 これは古いものなので今時のギターアンプのような「多彩なデジタルFX」があるわけでもなく
名機と呼ばれるわけでもなく、ミュージシャン御用達なわけでもなく、プレミアも付きませんが
エフェクターで加工する前の「クリーンの音」がJC-120に近いので、
スタジオ等でもJC-120を好んで使ってエフェクターで歪ませるタイプの私にとっては
「自宅にジャズコーがあるような感覚」で使えるので重宝しています。



 さて、気に入ってるアンプは永く使いたいし、もし壊れても直せるようにしておきたいですよね。
そこで、どういう回路になっているのかを見ていきます。

キャビネットからシャーシを外します。



基板の左上にあるOPアンプ「4558D」はリバーブのドライブ回路用です。歪み用ではありません。



汎用部品が並んでいます。



基板の裏にも部品やジャンパー線があります。



数値を読み取るのに邪魔なものを剥がしたりするわけですが・・・



ここは回路図を起こすのに邪魔なので一度全部取っぱらっちゃいます。



読み取れるものや邪魔にならないものはそのままにしておきます。
270kΩの抵抗器(写真右)についてはあとで説明します。



基板の外にもシャーシを放熱器にしてパワートランジスタ2SD288が取り付けられています。
2SD288はコレクタ損失20Wで、ここでは15Vの電圧を作るのに使っています。



こっちは基板の下に隠れているので普段は見えないところなんですが、
ここもシャーシを放熱器として2SD313が2個取り付けられています。
コレクタ損失30Wのパワートランジスタで、これが出力段です。



これはミクロン電気のセメント抵抗器ですが、数値が隠れていて見えないものが3つあります。



これらは回路的に合成抵抗になるような箇所ではなかったのでそのままテスターを当てて測定しました。
3つとも10Ωでした。


この青いのは何も表記されていませんが、形状からしてチョークコイルですね。
電解コンデンサに結合されていて、接着を剥がして見てみても側面にも脳天にも数値が記載されていません。



インダクタンス・メーターで測定したところ2.7mHでした。
これはリバーブのドライブ回路でリバーブユニットの出力側に付いてます。



とりあえず回路図を起こしておきました。

Roland SPIRIT 20 回路図
spirit20_schematic.jpg

で、さきほど言った「基板の裏に取り付けられている270kΩの抵抗器」ですが
これはもともと基板の表に15kΩの抵抗器があるところに、裏で270kΩの抵抗器を並列に追加しています。

15kΩと270kΩの並列合成抵抗になりますから、1÷(0.0666666+0.0037037)≒14.2kΩ
なので、15kΩが14.2kΩになるだけです。(実測で14.25kΩでした。)

許容誤差±5%のカーボン抵抗でわざわざ0.8Ωだけ下げる意味は何なのかというと、

まず、ほとんど全てのトランジスタアンプは熱暴走対策で温度補償回路が組み込まれていて
出力段のトランジスタのエミッタ側に抵抗器を入れて無音時でも微量の電流を流しておくのですが
そのバイアス電流を1台1台調整することが必要になります。
(電流の測定は回路を切り離さなければならないので、実務的には電圧を測定して電流を計算で求めます。)

私は個人的には半固定抵抗器で調整する方が馴染みがあるのですが、
このアンプは、出力段のエミッタ電圧を半固定抵抗器を使わずに合成抵抗で調整しているようですね。

慣れてる人は出力段のトランジスタに0.33Ωのエミッタ抵抗が付いてるのを見ただけで
「あぁ、0.33Ωならここは○○mVに調整すればいいな。」とかって、ピーン!とくると思います。

工場で担当者が1台1台テスターで電圧をチェックして抵抗値を選んで取り付けてる姿が目に浮かびます。


だとするとこの裏の抵抗器は1台1台抵抗値が異なっているということになるわけで
本当に1台1台抵抗値が異なっているのかは、「SPIRIT 20」をもう1台入手すれば確認することが出来ます。




ということで、検証用にヤフオクでジャンク品をゲットしました。
見た目はこっちの方が綺麗なのですが、スピーカーのコイル内部で断線してて音が出ません。
他は大丈夫で、外部スピーカーに繋げば正常に音が出ます。




どーん!2段積み!



これを「ガラクタ」と思うか「最新のどんなアンプよりも価値がある」と思うかは、あなた次第です!


人の価値観って怖いですね。

新しく仕入れた方の基板。こっちの方が綺麗です。



もともと持ってた方は製造番号が「041330」、新しく仕入れた方は「258037」です。
新しく仕入れたやつの方が新しいですね。



基板の型番はどちらも「AP0150-060」ですが、若干の違いがあります。



リバーブのドライブ回路用のOPアンプ。
1台目の方は4558Dで、あとから仕入れた方は4558DDです。1980年製と1982年製ですね。




あとはトランジスタがいくつか異なっています。

1台目のやつで2SD288だったところが、2台目の方は出力段と同じ2SD313になってます。



これは現在はどちらも廃番品ですが、当時2SD288の仕入れ値が上がったとか
保有在庫を2SD313に統一することで効率化を図ったとか、まぁそんなとこでしょう。

出力段の方は2SD313が2個で変更ありません。



あとはこれも時代背景といいますか、2SC1570が2SC2240になってたり、



2SA929が2SA970になってたり、



2SK117が2SK246になってたりしますが、



このようなトランジスタの違いはべつに回路的に意味があって変更したわけではなくて、
ただ単にその時代ごとに流通性のよい安価な汎用品を使っているだけです。



で、基板裏・・・早速ですが・・・



1台目のやつに裏で並列に取り付けられていた270kΩの抵抗器が、新しく仕入れた方には無いです。



表側でいうと「R5」の15kΩと並列になる部分なのですが、この「R5」はどちらも15kΩですので
1台目の方は合成抵抗で14.2kΩにしてあって、2台目の方はただの15kΩということです。


で、それとは別に、その左下の「R65」が目に付きました。
1台目のやつが33Ωになってるところが2台目の方は22Ωになってます。
見た目がALLEN−BRADLEYかOHMITEのカーボンコンポジションっぽいやつです。

1台目のやつ。(R65が33Ω)


2台目の方。(R65が22Ω)


実はこの「R65」も、出力のエミッタ電圧を調節できるところなんですよね。


やはりこれは1台1台抵抗器の値を変えることで調整していますね。
調整しなくて済むわけがないですし。


それでは、それを実際に検証してみましょう。



まずは出力段の2つのエミッタ電圧を2台とも測定します。

エミッタ電流は入力が無信号時の状態で10mA〜20mAが適正で、
オームの法則に従って、エミッタ抵抗が何Ωかによってエミッタ電圧を何mVにすればよいかが決まります。
エミッタ抵抗は一般的に0.1Ω〜0.47Ωあたりで任意ですが、このアンプは0.33Ωになっています。

エミッタ抵抗が0.33Ωですから、
エミッタ電流を10mA流したい場合は V=0.33×0.01 ですので、エミッタ電圧を3.3mVに設定すればよいし、
エミッタ電流を20mA流したい場合は V=0.33×0.02 ですので、エミッタ電圧を6.6mVに設定すればよい。

ということです。


温度補償回路が効いてないとエミッタ電圧がみるみる上昇し続けて熱暴走が始まります。
それを十数秒〜数十秒も放置するとドライバー段の抵抗器がメラメラと炎を上げて燃え始めますので、
製作・修理・改造などをして最初に電源を入れる時は必ずエミッタ電圧を監視しながら調整します。

要は、そのように調整されているかどうかを確認しましょうということです。


(1台目)
・2.4mV
・4.2mV



(2台目)
・3.2mV
・3.5mV



2台目の方がバランスがいいですが、どちらも安定していて3.3mVに合わせていることが分かります。
エミッタ電流を10mA流すように設定してあるということですね。

熱暴走の気配もなく「ちゃんと調整されている」ということです。




さて、肝心なのはここからです。

半固定抵抗器を使わずに、抵抗器の値で調節しているということの検証です。


まず、1台目は15kΩと270kΩの並列合成抵抗(実測で14.25kΩの状態)で

エミッタ電圧が3.3mV付近になっているわけですが、
これに対して、2台目は270kΩが取り付けられていない状態でエミッタ電圧が3.3mV付近になっています。
この2台目に270kΩを取り付けたらどうなるかを実験することによって
1台目にハンダ付けされた270kΩを外すことなく、270kΩを外したらどうなるのかが分かります。

実測で15.05kΩのところに並列で実測267kΩの抵抗器を取り付けます。
この取り付けもワニ口クリップを使えばハンダ付けをせずに出来ます。



実測で14.28kΩです。


この状態でエミッタ電圧を測定すると・・・


(2台目に270kΩ取り付けた状態)
・0.3mV
・0.6mV



3.2mVだったのが0.3mVに、
3.5mVだったのが0.6mVに下がりました。

2.9mVずつ下がっています。


つまり、1台目の方は基板裏に270kΩを取り付ける前は
・5.3mV
・7.1mV になっていて、

それを基板裏に270kΩを取り付けて
・2.4mV
・4.2mV に(3.3mV付近になるように)調整しているということです。

すなわち1台目の基板の裏の270kΩは、
無音時のバイアス電流(エミッタ電流)を10mAに調整する為に取り付けたものであることが分かりました。



次に、「R65」が1台目は33Ωになっていて2台目は22Ωになっている件についての検証です。

先ほどのは基板の表の15kΩが基準で、調整が必要な場合にだけ裏で合成抵抗で調整していますが
こちらは基板の表側に装着されているので、33Ωと22Ωのどちらかが基準ということでもなく
他の値になることもあり得ます。

具体的に何Ωにすればよいのかは、基板が完成して電源を入れてからでないと決められません。

これも、実験をするにあたってハンダ付けをいじらずに出来る方法でやります。
ワニ口クリップで合成抵抗を作れるのは抵抗値を下げる方向だけですので
1台目の33Ωを22Ωにしたらどうなるか、という実験をします。

この実験によって2台目を33Ωにしたらどうなるのかも分かります。

33Ωに66Ωの抵抗器を並列に繋げば合成抵抗で 1÷(0.0303+0.0151)≒22Ω になります。

この状態でエミッタ電圧を測定すると・・・


(1台目のR65を22Ωにした状態)
・5.6mV
・7.9mV



ということで、3.2mV〜3.7mV上がりました。


つまり、もし2台目の「R65」が1台目と同じ33Ωだとすると逆に3.2mV〜3.7mV下がるので
・0mV
・0mV(−0.2mV)
になってしまいます。


これは設計者が「このアンプは無音時のエミッタ電流を10mA流すことにしよう。」と決めたので
1台目には33Ωを取り付けて、2台目には22Ωを取り付けることで
どちらもエミッタ電圧が3.3mV付近になるように調整されているということなのです。

データの結果がそういうことを示しています。

基板を見て半固定抵抗器が無いからといって、調整が不要だというわけではないということですね。



ちょっとトランジスタで気になる点があったので紹介しておきます。

出力段の2SD313のhFEを測定してみたところ

(1台目 2SD313)
・hFE=43
・hFE=43

(2台目 2SD313)
・hFE=41
・hFE=52

という結果でした。

なんと1台目の方が揃っていて2台目の方がばらついてます。
出力段のhFEはエミッタ電圧のばらつきとは関係ないということが分かります。

それよりも、この2SD313はランクがEなのでhFEが100〜200のはずなんですよ。

(2SD313のランク)


気温が低かったので多少は低く出てもおかしくはないのですが
ランクがEなのにhFEが40程度ということは、トランジスタが劣化しているということです。


“パワートランジスタは特に” ということもありますが、トランジスタも真空管と同様に劣化するものなのです。


「これは下手したら要交換か?」と思い、念の為に新品の2SD313をジャラジャラ出してきて
わざとhFEに差がある組み合わせとかも含めて色々試してみました。



新品のランクEの中に1つだけhFE=74というのがありましたが、
それ以外はどれも100〜200に納まっていましたのでやはり40程度というのは劣化してます。
が、劣化した中古のhFE40程度だろうと、新品のhFEが140や180程度だろうと
エミッタ電圧や音には影響がありませんでした。

なお、このトランジスタは先述のとおりシャーシを放熱器として利用していますので
ちょっと差し替えて測定するだけでもちゃんとシャーシで放熱しないと、みるみるうちに熱暴走を始めます。

確認してみたところ、1分くらいで30mVを超えていきました。2分はもたないでしょう。
熱暴走を知っている人がテスターを見ながらこの程度ですぐにやめれば大丈夫ですが、
知らない人がこういうことをすると抵抗器がメラメラと燃え始めて火事になりますので注意が必要です。



さて、エミッタ抵抗には福島双葉電気の「金属板抵抗器」が使われていますが、
下の写真のように、1台目は2つの抵抗器が完全に離れているのを2台目では結合させてます。
こういうところには注目せざるを得ないですね。



熱結合にしては甘いのでグラつき防止の為の固定かもしれませんが、抵抗器にも温度係数がありますし
メーカーとして少しでもばらつきを無くしたいということなのかもしれません。
実際、2台目の方がエミッタ電圧のばらつきが改善されています。

もしこのバランスも整えたい場合は「R53」の抵抗器を半固定抵抗器にして調節することで解決します。
1台目の方は「R53」の値を少し大きくする方向でバランスが取れてくるはずです。
が、このアンプの設計者は半固定抵抗器を使いたくないんでしょうね。そんな気がします。

それはそれで設計者のポリシーというか、そういうこだわりってわりと好きですね。
「もしそういうポリシーがあるのなら」の話ですけど。



ここでは紹介しきれていない実験や検証も多く、個人的な見解も随所に含まれていますが

・同じ製品なのに実際にこれだけ個体差があって、回路の定数も違う。
・アンプには回路図だけでは表せないような、繊細で重要な部分がある。
・トランジスタアンプも真空管アンプと同様、調整が必要なものである。
・トランジスタも真空管と同様、劣化するものである。

ということなどを再確認することが出来ました。


そういえば産業用の機械もそうですし、バイクやギターもそうですが
製造・組み立てされただけの新品の状態ではまともに動かないものというのは意外に多くて
1台1台職人技で調整しなければまともに動かないようなものこそ、楽しいのかもしれませんね。

2014.3.5

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