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No.6「YAMAHA / CA-X1 修理(その2)」
前回の記事で無事にYAMAHAのパワーアンプ「CA-X1」の修理が完了し、 動作確認を兼ねて3時間ほどレコードを聴いてました。 エミッタ電圧も安定していて何の問題もなく絶好調です。 ただ、2SD234がかなり熱くなるのがどうも気になります。 冷静に考えてみれば元々ここにはメーカーが放熱器を付けていないので 放熱器は不要だということは明らかなわけです。 パワートランジスタが熱くなるのは当たり前で、余計な心配だとは思います。 でもやっぱり気になるので、とりあえずヒートクリップで熱の逃げ方などを試していました。 これだけでもかなり放熱効果があります。 しかし・・・そこで悲劇は起きました。 ヒートクリップを外したときに基板の上に カラン♪ と落としてしまい・・・ バチっ!! といって音が止まりました。 慌てて電源を落としましたが、完全にショートしてしまった時の、あの感じです。 修理が完了して喜びの余韻に浸りながら「魔力の刻印」を聴いて動作確認中だっただけに なんともいえない虚無感と、自責の念にかられました。 再び電源を入れたところ、音は出ました。 壊れてなければいいのですが、念の為、熱暴走を懸念してまずエミッタ電圧を測定。 急激に熱暴走するわけではないですが、緩やかに上昇していきます。危険です。 ヒートクリップを落とした辺りの基板の周囲温度が上がっているのを感じるので トランジスタを一個一個触って確認していくと・・・ やたら熱くなっている2SC1509が2個。 ヤケドするくらい熱く、ストーブ化してます。異常な状態です。 いつ熱暴走を始めてもおかしくない状態。 危険なので電源を落とします。 外してhFEを測ってみると 上のやつが壊れていました。端子がショートしてしまっています。 一気に大電流が流れてしまったのでしょう。 逆に良かったです。これを交換すれば直る可能性が高いので。 下のやつは壊れてはいませんでした。hFE=92でした。 データシートにはランク「R(130〜220)」と「S(185〜330)」しか載っていませんが これはランクが「Q」ですね。 このCA-X1の回路図は見当たらないのですが、 例えばYAMAHAのCA-610の回路図には「2SC1509 Q or R」と書いてあるので データシートには載ってないけれども、ランク「Q」の存在は認められているようです。 このような「データシートに載ってないランク」は他の型番でもたまに見かけます。 データシートに載ってないのではhFE=92が基準から外れているかどうかは分かりませんが 古いものだし、壊れたやつと一緒に交換することにします。 もうトランジスタは全て交換するつもりですが、 「どれが壊れているか分からないけど全部交換すれば直るだろう」という方法よりも 「このトランジスタが原因だったので、これを交換したら直った。」という結論が欲しいので、 まずはここだけを交換して直るかどうかを試します。 2SC1509はまだ入手可能なのかも含めて、互換品でもっと安いのがあるかとか 今後の入手性なども考慮して妥当なトランジスタを探します。 「トランジスタ互換表」 はメーカーが互換品として認めているものが掲載されているわけではなくて 「雑誌の出版社が独断と偏見で大まかに選定してみたものである」 ということを念頭においた上で参考にすれば、有意義に活用できると思います。 私は互換品を探すことそのものに趣味性を感じます。 エフェクターでも 「この型番じゃなきゃダメなんだ」 ということもあれば オペアンプやダイオードを互換品に交換して違いを楽しんだりしますよね。 それに加えてオーディオアンプや何らかの機器を修理する場合は 過去のほとんどのトランジスタが廃番になり、流通在庫も減る中で 「いかに互換品や代替品を探せるか」 が修理の可能性をも左右します。 2SC1509の互換品を調べてみると・・・ 『86年のトランジスタ互換表』 2SD438、2SC1124、2SC1627、2SD571、2SC1214、2SC2024、2SC3244 『2002年のトランジスタ互換表』 2SC4488、2SC1627、2SD571、2SC1214、2SC2024、2SC3244、2SD1859 若干の違いがあります。 まぁべつに間違っているわけではなくて、時代ごとに流通しているものも異なりますし 結局、何が互換品に該当するかは、回路や人それぞれの考え方によっても異なってきます。 また、86年と2002年のどちらに掲載されているものだろうが関係なく 型番ごとに入手性や値段の違いが出てきます。 新しい型番の方が入手困難だったりもします。 わりと入手し易いのは2SC1627か2SD571あたりだと思いますが、 ちょっと値段が高いだけで2SC1509そのものも入手可能ですね。 すると、普通はこの中のどれかを仕入れて交換するところなのですが・・・ 1 : できれば今すぐに直したい。 2 : このトランジスタを交換すれば直るのかどうかを早く確認したい。 3 : 互換表に載ってない「自分で選んだ代替品」を試したい。 ということで、手元に在庫してあるトランジスタの中から2SC2235-Yを選びました。 hFEはべつに2SA763と合わせるわけでもなく、低めのを探してこの2個だけ172で統一。 とりあえずこれで直るかどうか試してみて、直ったらあとで2SC1509を仕入れて交換するか そのまま2SC2235にするかどうかはまだ決めていません。 これは互換表の2SC1509のところには載っていないものですが データシートから判断すると全く問題なく使えます。 問題ないどころか、むしろこっちの方が良いくらいです。 これらの主要な部分を比べてみましょう。 まず、「用途」ですが
表現の仕方が異なるだけで同じです。問題ないです。 そして、「最大定格」を比べると
2SC1627と2SD571は、2SC1509に比べてどれかが劣っていますが
2SC2235は何も劣っていないことが分かります。 もちろん2SC1627と2SD571が劣っているとはいっても僅かな差でしかなく、 この程度の余裕も無いほどのギリギリの設計なわけがありませんので問題ないと思います。 相互に交換しても問題ないので「互換品」です。 それに比べて2SC2235はオーバースペックなので2SC1509の代わりにはなるけれども、 逆に、2SC1509は2SC2235の代わりにはなりません。 すなわち、「互換品」とは呼ばないけれども、充分に立派な「代替品」になるということです。 例えば、試しにトランジスタ互換表で2SD571の互換品を探してみると・・・ 2SC1509の互換品として2SD571が載っていますが、 逆に、2SD571の互換品としては2SC1509は載っていません。 それは2SC1509が2SD571に比べてコレクタ電流もコレクタ損失も劣っているので 2SD571が2SC1509がの代わりにはなるけれども、2SC1509は2SD571の代わりにはならない。と、 このトランジスタ互換表を編集した担当者は判断した。ということです。 ということは2SD571は厳密には2SC1509の互換品じゃないんですよね。代替品にはなりますけれども。 つまり、互換表に載っているからといって必ずしも互換品だとは限らないし 互換表に載っているものだけが互換品とは限らないのです。 こういったことを頭に入れたうえで、トランジスタ互換表を参考にしたり データシートを見比べたりしながら自分で代替品を探すと楽しいかと思います。 さて・・・2SC1509を2SC2235に変更するということは 2SA777も2SC2235のコンプリメンタリにあたる2SA965にしておきましょうかね。 まぁ2SA777のままでも大丈夫っちゃぁ大丈夫なのですが。気持ちの問題。 外した2SA777-QはhFE=75でした。規定値が90〜155ですから、壊れてはいないものの劣化しています。 それに対して交換する2SA965-YのhFEはなるべく小さいやつを選んで190。 hFEは揃えようにも限界があるし、どうせ元々のやつがみんな劣化してバラバラなので まぁエミッタ電圧がちゃんと調整出来て熱暴走しなければそれで良しとします。 ということで、交換してエミッタ電圧を調整します。 無事にエミッタ電圧の上昇が止まりました。 9mVに設定してバッチリ安定しています。 2SC2235と2SA965でも全く問題なく代替品になることも確認出来ました。 とにかく直って良かったです。 しかしここで、 最初は動いていたメーターの針がいつのまにかLEFT側だけ動いていないことに気付きました。 ショートしたときにやっちゃったのでしょうか。 色々遊べて楽しいですねぇ。 この基板はちゃんと「METER」とか書いてあるので分かりやすくていいですね。 この2つのトランジスタだけチェックすればよろしいかと。 上のやつ。2SC1918-E。hFE=196。壊れていないようです。 これは互換品が2SC2240で、手持ちの在庫が山ほどあるのでそれを使いました。 べつに汎用の低周波増幅であれば2SC1815でも何でもいいと思います。 下のやつ。壊れているわけではないのですが、文字も見えないくらい黒こげです。 これを交換した時点で直りました。 さて、これで全ての修理が完了しました。 あとは、やはり各トランジスタが相当劣化しているように見受けられるということもあり、 趣味的な意味も兼ねて、トランジスタと電解コンデンサを全て交換します。 交換作業をするのに、トランジスタと電解コンデンサの配置図を描いておくとやり易いですね。 YAMAHA CA-X1 トランジスタ配置図 トランジスタは全て手持ちの在庫で、希少で高価なものはなるべく避けます。
2SA573はランクが「6」でhFEは一応基準値(400〜800)内の490でしたが hFE=315の2SA1015-GRに変えてしまいます。 交換しなくていいものを交換してしまっていますが、新品にしましたよ。ってことで。 2SA763の4個はhFEが240〜280でした。これも2SA1015-GRに交換。 2SB560-EはhFE=100〜200が基準値のことろ62でした。劣化してます。 これを2SA965-Yに交換。hFE=213になりました。 熱くなるパワートランジスタの2SD234-OはhFEの基準値が70〜140のところ57でした。 やっぱり熱くなるほど劣化しますよね。 そこで、許容コレクタ損失が25Wの2SD234よりもう少し熱に強い30Wの2SD313-Eに交換。 本当はこの放熱器を付けたかったのですが、この状態で装着するのはスペースの都合で無理でした。 もし放熱器を付けるのであれば、足を伸ばすか、出力トランジスタの放熱板に穴を開けてネジ留めするなど 何らかの工夫が必要です。 トランジスタ等の交換をする際は古いハンダを確実に除去してから部品を外します。 熱を加え過ぎたり無理にグラグラ動かしたりするとパターンが剥がれるので注意が必要です。 取り付ける際のハンダ付けも確実に、吸い付くように綺麗に。 ハンダ付けに関してはストイックになった方が吉です。 私はハンダ付けしたら必ず虫眼鏡で仕上がりを入念にチェックします。 有鉛ハンダと無鉛ハンダの融点を覚えてコテの温度を使い分けられれば大丈夫かと。 製作や修理が上手くいくかどうかは、99%ハンダ付けにかかっていると言っても過言ではありません。 ついでに半固定抵抗器も交換しようと思いますが ここにはこのようなタイプよりも・・・ このようなタイプのほうが・・・ このように足を広げて基板の穴のピッチに合わせられて良いかと。 こんな感じになります。 トランジスタはすべて交換終了。 取り外した残骸。 劣化してhFEが基準値以下になってるものもあれば、交換する必要もないものもあります。 次はコンデンサです。 特殊なコンデンサは常に在庫してるわけではないので バイポーラ4つと、容量や体積が大きいもの等をいくつか今回の為に仕入れました。 電源用のコンデンサも交換しようと思います。 あとは手持ちの在庫で済ませます。 PROTECTION回路のあたりからいきましょう。 左から16V/22μFを50V/22μF、25V/4.7μF(NP)を50V/4.7μF(BP)、50V/10μF(BP)を50V/10μF(BP) 何かを狙って選んだわけではないです。容量が同じで元の耐圧以上であればいいです。 ただ22μFは容量と耐圧の他に「大きさ」にこだわりました。 手持ちの在庫のやつだと50Vのでも小さくて細いのになっちゃうので。なんだか、ねぇ。 NP(ノンポーラ)とBP(バイポーラ)は「無極性」ということで同じ意味とします。 基板のマークもBPを乗せてる所も「NP」って印刷してありますし。 交換する度に動作確認します。 続いて、220μFのL-CHと R-CH 今回仕入れたやつを先に交換していきます。 これは4.7μFのバイポーラが2つ。 電源用。 ちょっと径が細くなりますが、ニチコンKW、オーディオ用、50V、6800μF、85℃ 古いほうは実測6800μFと8000μFで、新しいほうは実測6300μFでした。 こちらはニチコンFG、50V、1000μF 古いほうは実測1240μFで、新しいほうは実測1000μFちょっと。 交換しなくてもまだまだ問題なく使えると思いますが、 「交換しておいたほうが安心」 と思うか 「無駄」 と思うかは、あなた次第です。 あとは全て汎用の電解コンデンサです。べつにオーディオ用じゃなくてもいいかなと。 どんどん汎用の黒いので埋まっていきます。 取り外したコンデンサ。 交換前。 交換後。 ノイズもガリもなく、クリアーな音で正常に動作して安定しています。 楽しいですねぇ。 最後にもう一つだけ確認しておきたいことがありました。 出力段のパワートランジスタ2SC1403と2SA745ですが 当然のように熱により劣化していてhFEのバランスも崩れています。 でもまぁ壊れているわけではないしまだ使えるのでいいのですが もし壊れた場合でも比較的入手しやすい互換品があるので、一応確認しておきたいと思います。 2002年のトランジスタ互換表に2SC5197というのが載ってます。 86年のトランジスタ互換表には3000番台までしか載ってないのでわりと新しいトランジスタです。 2SA745の互換品は2SA1695というのが載ってますが、やや入手性が良くないのと 2SC5197のコンプリメンタリは2SA1940なので、2SC5197と2SA1940を数セット仕入れてみました。 2SC1403が「コレクタ電流8A、コレクタ損失70W」のところ 2SC5197は「コレクタ電流8A、コレクタ損失80W」です。 そう考えてみると、以前GuyatoneのGA-580の時に使った2SC5198でも良さそうです。 2SC5198は「コレクタ電流10A、コレクタ損失100W」です。 2SC5198だとコンプリメンタリが2SA1941になります。これも入手しやすいです。 とりあえずこのように取り付けて、エミッタ電流を微調整するだけで使えることを確認しました。 ここまで色々いじって遊んでると、同じものをもう1台作れるようになっちゃいますね。 安心して末永く愛用出来そうです。 昔のパワーアンプやギターアンプは、オリジナルの部品にこだわらなければ代替品は結構あるので 大抵のアンプは修理出来るんじゃないかと思います。 2015.7.24 |
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