ギターダー
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No.09「YAMAHA / YTA-95 改造」



さて、前回のYAMAHAのYTA-95の修理の続きで、今度は改造です。



では、依頼主様からの「改造の依頼」 をおさらいしましょう。

■■第一次改造内容■■

本当はもっと細部に至るまで色々あったのですが、簡単にまとめると・・・

『ch1側の入力ジャックが「HIGH」と「LOW」の2つあるうち
上の「HIGH」を「BrightスイッチをONにしたような状態」に変更するのと、
ch2側を丸ごと取り払ってそこに「周波数帯域の異なる2種類のパラメトリック・イコライザー」を装備して、
パライコ1の周波数帯域が100Hz〜1.6kHzで
パライコ2の周波数帯域が500Hz〜8kHzで
パライコのLEVELは±15dB程度で、Qの操作感が快適で滑らかなカーブを描くもので、
「入力ジャックのHIGH」を「パライコ1のカーブの切り替えの選択スイッチ」に変更して
「入力ジャックのLOW」を「パライコ2のカーブの切り替えの選択スイッチ」に変更して
「VOLUME」を「パライコ1の帯域選択」に変更して、「BASS」を「パライコ1のブースト/カット」に変更して
「MIDDLE」を「パライコ2の帯域選択」に変更して、「TREBLE」を「パライコ2のブースト/カット」に変更して
「T(高域強調) / NORMAL / U(低域強調)」のトグルスイッチを
「パライコ1-ON / パライコOFF / パライコ2-ON」のトグルスイッチに変更したいのですが、出来ますか?』


といった内容でした。
ここに掲載するにあたってかなり簡素化してあります。

■■第二次改造内容■■

しばらくメールのやりとりをしながらパライコの接続の順番や切り替えについて色々と吟味して
「パライコ1」と「パライコ2」を直列のセットにして「2パライコ」とし、トグルスイッチについては
その「2パライコ」の位置を元々の3バンド・トーンの前と後で切り替えるのと「2パライコ」をOFF、の
3通りで切り替える「pre-ON / パライコOFF / post-ON」にするということで、
だいたい上記の要望を全て叶える感じの方向性に決まりました。

「pre-ON」というのは、増設するパライコが元々の3バンド・トーンの前(pre)に来るという意味で
「post-ON」というのは、増設するパライコが元々の3バンド・トーンの後(post)に来るという意味です。
「パライコOFF」は元々の3バンド・トーンだけの、オリジナルの状態です。

■■第三次改造内容■■

ある程度作業を進めてから、途中でさらに改造内容の変更がありました。
記事の途中で変更するとややこしくなるので、先に変更内容を説明してしまいます。

変更内容は、

『ch1側の入力ジャックの「HIGH」を「BrightスイッチをONにしたような状態」に変更するのをやめて
その代わりに、コンプレッサーを増設したい。』

とのご要望でした。

具体的には、

「飛び道具or隠し味として割り切れる簡易設定コンプ」あるいは、
「Xotic EffectsのSP CompressorやPJBのD-200(というベースアンプヘッドに搭載のComp Limiter)のような
適切にチューニングされた簡易コンプ」

が欲しい、とのことです。

入力ジャックの「HIGH」を「BrightスイッチをONにしたような状態」にするのに
試行錯誤しながらの調整でだいぶ時間を費やして、わりといい感じに出来そうだという状態になっていましたので

「おぉー、これやらないのか・・・」

と思いましたが、まぁ私も色々と勉強になったし
「適切にチューニングされた簡易コンプ」と思いながらXotic EffectsのSP Compressorの動画を見ていて
「ピーン!」と閃いたこともあったので、コンプレッサーを増設することにしました。


ということで、改造内容を簡単にまとめると

・「2バンド・パラメトリック・イコライザーの増設」
・「元の3バンド・トーンと増設する2バンド・パラメトリック・イコライザーの順番の切り替え」
・「適切にチューニングされた簡易コンプレッサーの増設」

ということになります。



【パラメトリック・イコライザーの製作】

まずはこのch2の部分をまるごとパライコにチェンジするということになります。
入力ジャックのHIGHとLOWもつまみに変えます。




作ったことがあるとか、作り方が分かっているものを製作するとかだったら単に作業するだけですが
こういう改造は回路設計やプリント基板のパターンの設計もそうですが、それ以前に「全体の設計図」というか
「作り方そのもの」を自分で考案しなければなりませんので、
どちらかというと作業時間よりも、考える時間や設計図等の記録を残す作業の時間の方がはるかにかかります。

ということで、既にオーバーホール済みのこのch2の基板ももう使いませんので
この基板を取り払って、代わりに同じ大きさでパライコの基板を製作して取り付けることにします。



パラメトリック・イコライザーの回路自体はそんなに難しいものではないので
周波数帯域や可変範囲などを計算で求めて要望通りの仕様に合わせて専用設計する感じですが
パネルのレタリングとかスイッチで順番を入れ替える配線の仕方とか・・・どうなることやら・・・

ざっくりと「まぁなんとかなるでしょ。」と思って依頼を受けたわけですが
ご依頼主様との打ち合わせはメールのやりとりで、本が1冊仕上がるくらいの内容になってまして
参考音源やPCのDTMソフトのパライコのキャプチャー画像なども使いながら
Qの幅や周波数帯域や操作感など、細部にわたって「具体的な仕様」のご要望が明確になってくると同時に、
ご依頼主様は仕事柄、市販の製品でも違和感を感じて周波数を測定して確認したり個体差や精度に敏感な方なので
大手メーカーの市販製品程度の精度を上回るクオリティでなければなりません。

ましてやこのアンプ自体が希少で、しかも「思い入れのある大事なアンプ」ということで
自分のアンプを趣味でいじくるのとはプレッシャーが違います。



まずは回路設計の中で、周波数帯域を設定しなければならないわけですが、
その前にパラトメリック・イコライザーの機能について少し説明しておきます。

周波数ごとにレベルを上下させるだけのグラフィック・イコライザーに対して、
パラトメリック・イコライザーは「LEVEL」「Q」「FREQUENCY」というパラメーターを調節することで
より細かく自由度の高い音作りが出来るというものです。


音を波形で表したものでみると「Q」は山の尖り具合で、音の硬さや丸みが変化します。



「LEVEL」は山の高さで、音の大きさが変化します。マイナスにも調節出来ます。



「FREQ(FREQUENCY)」は山ごと周波数をずらします。どの周波数帯で上の2つの効果を使うかを決めます。



この「FREQ」の範囲(周波数帯域)は、楽器用だと低音30Hz〜高音10数kHzくらいまでの帯域が一般的です。
ギターの音だと500Hz〜1kHzくらいが肝です。


今回、希望する周波数帯域は話を進めていく中で何回か変更があったのですが、
最終的にはBOSSのパライコ「PQ-4」の可変域と同じにしたいということで

・パライコ1:100Hz〜1.6kHz
・パライコ2:500Hz〜8kHz

にすることになりました。
ただし、BOSSのPQ-4の回路は定数が大雑把なうえに、そもそも「Q」のつまみが無くて固定なので
PQ-4の回路は使えません。独自の回路で定数を計算で求めることになります。

パライコは一般的にOPアンプによるバンドパス・フィルターを形成していますので
まず周波数帯域の上限を決めてから、次に可変範囲を設定することで
上限から下限までの周波数帯域を決定します。



周波数帯域の上限は 1/2πRC で求めます。

逆算で求めるのは大変なので
何度か公式に数値を当てはめて算出しながら微調整して詰めていきました。

が、しかし、C(コンデンサ)の数値がE系列に基づく数値や仕入れ可能な数値では限界があって
例えば、2200pFの次はもう3300pFとかになってしまうわけです。
これでは狙った周波数に対してドンピシャにならず、若干前後してしまいます。

ほとんどの大手メーカーの市販品はその程度の誤差は許容範囲としていますし、
実際にはこの程度の誤差であれば、さほど重要ではないことが多いのも事実です。

しかし、せっかくですのでなるべくドンピシャな数値にしたいので
2つのコンデンサを並列合成して、より細かく設定することにしました。



そして、以下のように定数を決定しました。


■■(パライコ1)周波数帯域の上限■■
C=2200pF+100pF
R=43kΩ

1/2×3.14×43,000Ω×0.0000000023F
1/0.000621092=1610Hz(1.6kHz)

ゆえに、周波数帯域の上限=1610Hz(1.6kHz)


次に、可変範囲は R1+R2:R2 で求めます。


■■(パライコ1)可変範囲■■
Ra=100kΩ
Rb=6.8kΩ
周波数帯域の上限=1610Hz

100kΩ+6.8kΩ:6.8kΩ
=15.7:1
=1610Hz:103Hz

ゆえに、可変範囲=103Hz〜1610Hz(1.6kHz)


■■(パライコ2)周波数帯域の上限■■
C=1800pF+180pF
R=10kΩ

1/2×3.14×10,000Ω×0.00000000198F
1/0.000124344=8042Hz(8kHz)

ゆえに、周波数帯域の上限=8042Hz(8kHz)


■■(パライコ2)可変範囲■■
Ra=100kΩ
Rb=6.8kΩ
最高周波数=8042Hz

100kΩ+6.8kΩ:6.8kΩ
=15.7:1
=8042Hz:512Hz

ゆえに、可変範囲=512Hz〜8042Hz(8kHz)


これならいいと思います。

しかし、後日、部品を仕入れに行ったところ
1800pFがどこにも無いんですよ。

そこで、「1800pF+180pF=1980pF」にしてたのを「1000pF+1000pF=2000pF」に変更。

■■(パライコ2)周波数帯域の上限■■
C=1000pF+1000pF
R=10kΩ

1/2×3.14×10,000Ω×0.000000002F
1/0.0001256=7961Hz

ということで、8000Hzに対して誤差が42Hzから39Hzに縮まったので、これで良しとします。



しかし今回は妥協が許されないので、
仮組みした実験機を使って、実際に測定して確認することにしました。

100Hz_Q広(Qつまみ最小)
一応100Hz(0.1kHz)付近にピークがあってなだらかな山になっていると思います。
1.8kHz付近に何か出てるのはたまたま何かノイズが乗ってるだけだと思います。




100Hz_Q狭(Qつまみ最大)
帯域を狭くしたらドンズバで100Hzにピークが来たと思います。
300Hz(0.3kHz)付近にも音が出てます。これは精度の限界というか、この程度はこういうものなのではないかと。





1.6kHz_Q広(Qつまみ最小)




1.6kHz_Q狭(Qつまみ最大)





500Hz_Q広(Qつまみ最小)
このグラフだけで判断してしまうと「もっと8kHz付近まで広範囲に出て欲しい」と思うかもしれませんが
山の全貌が表示されていないからグラフに表れていないだけのような感じだと思います。




500Hz_Q狭(Qつまみ最大)
500Hz(0.5kHz)と同時に1kHz付近や1.5kHz付近にも音が出てます。精度の限界です。
「製品の精度の限界なのか、それとも測定の精度の限界なのか」も分かりづらいというのが本音です。





8kHz_Q広(Qつまみ最小)




8kHz_Q狭(Qつまみ最大)
FREQは設計上では8kHzにピークがくるはずですが、7.5kHzになってます。精度の限界です。
Qは「ちゃんと広がったり狭まったりしているな」と、測定精度が悪いながらも確認出来ます。





測定器・測定方法による精度や測定環境に限界がありますので、
実際にいざ測定してみると、これだと予想していたよりも満足な計測とは言えないのですが、
これでもわりと設計通りに動作していることが確認出来ている方なのではないでしょうか。

ギターアンプに搭載してギター用として使うパライコとして、完璧だと思います。




ということで、プリント基板のパターンを設計して・・・ (楽しいけど根気のいる作業です。)



プリント基板が完成しました。
ある程度のところでケリを付けないと、改良しようと思えば改良の余地は無限大です。



部品を装着していきます。
BUCKETHEADの「COLMA」というアルバムを聴いてノスタルジックな世界に浸りながらハンダ付けしました。



電子工作をする人なら見てすぐ分かることなのですが、
一般的によく使われる抵抗器には主にカーボン抵抗器と金属抵抗器がありまして
普通は茶色いのがカーボン抵抗器で、青いのが金属抵抗器です。
明確な違いは許容誤差です。
カーボン抵抗器は許容誤差が±5%で、金属抵抗器は±1%です。

市販の大手メーカー品は一般的にカーボン抵抗器が使われています。
このYTA-95もカーボン抵抗器が使われています。

何故かというと、理由は2つです。

1.安いから。
2.許容誤差が±5%で充分だから。

このことで、最近になって私はとても悩みます。

過去の私の製作記事を見ても分かるように、私は金属抵抗器を使うことが多いです。
どうしても心理的な作用で、「許容誤差が少ない=高性能」と思ってしまうのです。
確かに許容誤差5%と1%ですから1%の方が精度が良くて高性能であることは間違いないのですが
理論的に考えてもエフェクター程度の回路ではその恩恵を受けていないわけです。
ものによっては、あるいは場所によっては精度が必要な場合もありますが、それにしてもです。

また、自作マニアに多いと思いますが、もっと深刻な心理作用で
「安いカーボン抵抗器を使うとケチってると思われてしまうのでは?」
という強迫観念に駆られるというのもあります。

カーボン抵抗器だと「安物」に感じてしまうわけです。
そして、そんな理由で金属抵抗器を使うことに疑問を感じるわけです。

あの一世を風靡した名機のOD-1やTS-9もカーボン抵抗器であるということも含めて考えると・・・


「本当に自分の回路や音に自信があるなら安いカーボン抵抗器で勝負出来るはずだ」と思うんですよ。


ということで、ウチにはカーボンも金属もほぼ全ての数値が部品屋さんと同じように常に在庫してますが
カーボンと金属のどっちを使うか、棚を見比べながらかなり迷いました。

音質ですか? カーボンと金属での? 変わりませんよ。

もしかしたらプラシーボ効果的に何か違いを感じるかもしれませんけども、
高価なAllen Bradleyの抵抗器なんか評判が良いですけどカーボンですし
結局、カーボンか金属かではなくて、値段が高いものが「良い音だ」という評判を生んでるのが事実です。

ただし、可変抵抗器は本当に安物のダメなやつは同じ抵抗値でもラジオみたいな軽い音になってしまいます。

要するにちゃんと自分で違いを確認して、「良い、悪い。」を判断すればいいわけで
カーボン抵抗が劣っているなどということは絶対にないので、
でも逆に金属が劣っているなどということも絶対にないわけで・・・

結局、金属抵抗器を使っています。



さて、ユニットからch2の基板を取り外します。



取り外した基板。



これが製作した「2 PARA EQ」の基板。



基板は可変抵抗器の足で直角に固定されています。2連の足もあるのでガッチリ支えられています。
黄金に輝く電解コンデンサ、その名も「Fine Gold」 かっこいいですね。



並べてみるとこんな感じです。 これを差し替えるわけです。
頭で思い描いていた通りに具現化することが出来ました。



ただし、元の基板はch2のプリアンプ基板なのに対して、差し替えるのは増設するパライコの基板で
しかもスイッチで接続順を切り替えるようにするので、配線が全く異なります。

実際に作業する時間よりも、自分で作業手順をマニュアル化したりして整理する時間の方が長いです。



当初の依頼にあったけどやらなくなった「センドリターン・ジャックの追加」や「Bright入力への変更」なども
改造可能なことを確認したうえでマニュアルを作成してあります。
マニュアルを見ながら作業するのではなくて、自分がマニュアルを作成する側なのです。



私は今まで自分で設計した回路図やプリント基板などの記録の他に、ケースの加工図面や組み立て方や
様々な調整要領や、実験の記録や、今回のような改造に関する配線方法やスイッチの配線方法など、
あらゆる記録を取っていて、もう何冊ものクリア・ファイルになっています。
HPでは公開していない製作や実験についての資料も数多くあります。

私はこれを「ギターダー・ファイル」と呼んでいて、努力の結晶と技術の記録でもあり
本やネットで調べてもどこにも載っていないような解説や情報が満載で、
どんなに貴重な電子回路の書籍やどんなに貴重な製作本よりも大事なものです。

ぶっちゃけ、これがあればギターダーに変身することが出来ます。完全極秘ファイルです。



あとは、切り替えスイッチが問題でした。

元々、入力に「BRILLIANCE」という、まぁBRIGHTスイッチの低域版もあるといった感じの
それぞれ高域と低域を強調させる切り替えのトグル・スイッチが付いていて



これを利用したかったのですが・・・これがですね・・・
実際にテスターを当てて確認すると、どこにもも導通しない端子ばっかりで、

端子がいっぱい付いてるくせに、実は単なる「2回路3接点」なんですよ。
おそらく製造コストの問題で、共通部品として作られているのでしょう。





「3バンド・トーン」と「2PARA EQ」の接続順を前後で切り替える為には「4回路3接点」のスイッチが必要で、
仕入れようと思ってもなかなか見つからないのです。 うーむ・・・

そこで、結構悩んだのですが・・・

ダイヤル式のロータリースイッチなら「4回路3接点」のものがあったので、
トグル・スイッチを諦めてロータリースイッチにすることにしました。

これはトグルスイッチの取り付けプレートです。このままではロータリースイッチは取り付けられません。



ベーク板を加工します。 好きな言葉は「無いものは作れ」です。



難易度の高いものを設計図の通りに作ることも大事なのですが、
単純なものでも自分で工夫して考えて作ることの方が “ものづくり” には必要不可欠です。



「回り止め」の穴位置が絶妙です。
これでロータリースイッチを取り付けることが出来るようになりました。



装着出来ることを確認します。






はい、次。
基板も取り付けてみて何も問題がないことを確認したら・・・




この焼き豚みたいに縛ってあるロープをほどいて



不要な線を除去して、必要な線を結線したり追加したりして



まとめます。



増設する基板に必要なVccとGNDの線を引っ張り取り出しておきます。



あとch1の基板にある1μFの電解コンデンサを配線材で引き伸ばして
基板内の「3バンド・トーン回路」を分離させます。
プリント基板のパターンを切断するのを避けてこの方法にしました。
ロータリースイッチへ結線する為の準備です。



今はまだch1だけで音出し確認出来るように、伸ばした線同士を結線してあります。
まだ修理中だった頃は、プリアンプ・ユニットを箱の外に出して基板むき出しの状態で音を出すと
コンセントやら蛍光灯やらのハムノイズを拾って「ブーン」と鳴っていたのですが、
今は基板むき出しの状態でも全くノイズが無く、ギターを弾かない時は「シーン」としています。

このアンプは電源の「ON」が2ポジションありまして、
コンセントの向きを入れ替えるのと同じ状態をスイッチ操作で出来るようになっています。
それは「コンセントの向きを入れ替えるとノイズが減る機器である」ということなので
すなわち、元々ノイズが乗りやすいアンプであるということでもあるのですが、
ここまでノイズが無くなるとは我ながら感心します。
とはいえ、環境・条件によっては気まぐれにハムノイズが出たりするので
「ON」のポジション切り替えが重宝することもあると思います。

あと余計な話ばかり続きますが、このアンプは今時のアンプと大きく異なるところがありまして
基板がシールドされていないんですよ。

エフェクターでいえば、アルミダイカストなどのケースに収められていない状態。

隙間だらけなんです。

これよりもうちょっと新しいアンプは、基板の下は鉄板で覆われていて、
箱の内側である木部の天井にはアルミ箔が貼ってあります。

こういった「防磁」がなされていないのです。

それに、250VのACコンセントにまで対応したトランスということもありますので
やはり様々なノイズには弱いのかな、と。

まぁこういう古いアンプはこういうところも含めての「古き良き」なんでしょうね。



【コンプレッサーの製作】

ここで、パライコの基板を組み込む前にですね、
追加で依頼のあった「コンプレッサーの増設」も進めていきます。

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「飛び道具or隠し味として割り切れる簡易設定コンプ」あるいは、
「Xotic EffectsのSP CompressorやPJBのD-200(というベースアンプヘッドに搭載のComp Limiter)のような
適切にチューニングされた簡易コンプ」
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とのご要望で、私はXotic EffectsのSP Compressorの動画を見て「ピーン!」ときたのが
高中正義も使用していたという「ORANGE SQUEEZER」でした。

一度使ったことがあった時にとてもカッコいい音がして、それを思い出したのです。
これはちょっとした調整でガラっと音が変化してしまうので
どうやらそれはFETのIDss(トランジスタでいうhFE)の影響がモロに出てしまうという特徴のせいで
一度じっくり研究してみたいと思っていたのですね。

それをギターダー版として独自に改良・調整して搭載するということでご依頼主様に快諾を頂きました。

これがまた実験を開始すると、本当にFETのIDssによる個体差がとても影響するんですね。
オリジナルのORANGE SQUEEZERにはつまみ類が無いものの、基板に調整用の半固定抵抗器があるのですが
それで調節する以前に、ただ単にIDssを測定して同じIDssのものを選定してペア・マッチングさせるだけでは駄目で
2つのFETでIDssをずらした方が良い感じで効果が最大限に生かされるのです。

そのIDssの比率も絶妙で、比率が合っていれば全体的なIDssはある程度は追加の抵抗器で微調整が可能です。
この調節はギターダー版にしかないのでオリジナルの回路だと運が良くないと当たり外れが大きいと思います。

また、この回路はOPアンプを使っていますがそのうち大幅に改良・変更を施して
ディスクリートで独自のコンプレッサーを追求しようと思います。

でも今回の簡易的なギターダー改良版でもかなりいい感じに仕上がってます。
例えば、MXRのdynacompだと独特のコンプ感が変な風に働き過ぎて
個人的には「せっかくの力加減が相殺されてしまってストレスが溜まる」という感じがするのですが
そういうストレスが無くなって、どちらかというとアタックとサスティーンに重点を置いたコンプです。
それでいながら、いい感じの音圧でコンプ感があります。


ということで、基板を製作します。 穴はボール盤で開けます。 
普通の穴は0.8mmで、足が太い整流用コンデンサ等は0.9mmにしてます。



以前 『こんな小さな穴をボール盤なんかで開けてずれないんですか?』 と聞かれたことがありますが
ドリルの方からど真ん中にピタッ!と吸い込まれるように入っていくのです。
ちょっとくらいずれそうになっても勝手に補正されて、吸い込まれるようにど真ん中に開くのです。
これは本当です。フォースの力によるものだと信じています。


現像剤で膜を落としてフラックス入りのコーティング剤で保護して完成です。



部品を乗せていきます。
Jamiroquaiのライブ・アルバム「If I Like It, I Do It」を聴きながらハンダ付け作業しました。



ちなみにこれ、SENCITIVITYの可変抵抗器を1k(B)で設計して仕入れてあったのですが、
何度も微調整を繰り返すうちに1k(B)では足りなくて3k(B)くらいが欲しいと思うようになって、
でも普段はロングシャフトは使わないので、ロングシャフトで今在庫しているのは数種類だけで
というか、そもそも仕入れようにも1k(B)の上は5k(B)だったので

「どうしようかなー」と、しばらく考えた末に・・・

在庫していた20k(B)に3.3kの抵抗器を並列で繋ぎました。



こうすることで合成抵抗になり、「0kΩ〜20kΩ」の可変抵抗器だったものが

1/{1/20k+1/3.3k}=1/0.353=2.83kΩ ですから「0kΩ〜2.83kΩ」の可変抵抗器になります。

写真で見ただけだと端子の1番と3番を抵抗器で繋いだだけに見えますが、
抵抗器の足を使って2番と3番も結線してあります。3番を使わずに1番と2番を抵抗器で繋ぐだけでもいいですが
2番と3番を結線してあげた方が接触不良時の保険になります。

実測で「「0kΩ〜2.78kΩ」でした。 これでOKです。


さて、次は基板を設置する場所です。

プリアンプ・ユニットの骨組みの部分に穴を開けさせて頂くことにしました。
何やら番号が書いてあって、これが隠れてしまうと後で大変な事態になって取り返しが付かなくなるので(嘘)
番号が隠れないように位置を決めました。(気持ちの問題)



このように固定しました。




次にINPUTジャックを外します。



下の「LOW」をジャックとして残して、上のジャックをコンプレッサーの「SENCITIVITY」つまみにするのですが、
ジャックの穴径は9.5mmで可変抵抗器の径は7mmなので、穴が大き過ぎてガタガタなのです。



そこで、またこのようなアタッチメントを製作してはめ込むことにしました。
ch2の方もパライコ用に上下とも可変抵抗器になりますので、上下とも7mmのものが必要です。



上手く出来ました。 はーっはっはっはっは・・・・・・・(現在、夜中の2時です)





ここで、LOWインプットを残す為の処理を確認します。
意味が分かりにくいかもしれませんね。

入力のHIGHとLOWは、入力する機器のインピーダンスが高いか低いかで使い分けるのですが
実際の仕組みは入力部分で通過する抵抗器の値が異なるだけです。

このアンプではHIGHでは34kΩ、LOWでは68kΩになります。
LOWの方が大きい抵抗を通過するので、若干音量が小さくなります。 それだけの違いです。

なので、どちらに入力しても同じといえば同じなのです。
間違えて入力して壊れるなどということはありません。

しかしながら、そのシステムは素人にとっては複雑なものになっていて、
プラグを差し込むとOFFになる端子の付いた「スイッチ付のジャック」を利用して切り替えているのです。

要するにこれはHIGHとLOWの2つのジャックを組み合わせてのシステムなので、どちらかを取り除く際には
場合によっては抵抗値を変更する処理が必要になるのです。


回路図で説明するとこうなります。



つまり、このアンプではLOWの入力ジャックを取り除いた場合にはHIGHが並列にならなくなり、
HIGHなのにLOWと同じ68kΩになってしまうので、68kΩの抵抗器を34kΩに交換する必要が生じます。

ただし今回の場合は、HIGHを取り除いてLOWを残すので68kΩは68kΩのままになりますから、
変更の必要はありません。


これはどういうことかというと、
仕組みをよく理解していない人がむやみにジャックを交換したり外したりすると、
それだけでアンプの調子がおかしくなってしまう原因になるということなのです。

たかがジャック、されどジャック。です。



こんな感じで配線をしていきます。



古代人はタコ糸で縛っていたようですが、私は現代人なのでインシュロック(結束バンド)使います。



配線にも色々とセオリーがあって、
入力ジャックと基板のINは短い方がいいとか
なるべく空中に広がらないように壁に沿って束ねた方がいいとか
「信号の線」と「電源(VccとGND)の線」は離した方がいいとか
なんでもかんでも束ねればいいというわけではないとか
なんでもかんでも撚ればいいというわけではないとか
1点アースを守れとか
グランド・ループしないように気をつけろとか
分からない人ほど1点アースだのグランド・ループだの言いたがるとか・・・

一応あれこれと何通りか試してみながら一番ノイズが乗りにくいようにしました。
というか、よほど変な配線にしない限りはどうやっても同じでした。

ただ、コンプレッサーだけは電源ノイズやスイッチのポップノイズがどうしても残りまして、
スイッチはメカ式の完全トゥルー・バイパスなのでどうしても「ポツ」っていうのは仕方がないのですが
完全に切り離さないように1MΩの抵抗を繋いだりして、少しはマシになりました。
でもメカ式の限界はあります。

電源ノイズは、まぁ自宅の部屋で弾くような音量なら気にならない程度なのですが
大音量にすると「ジー」とか「ビー」とか乗ってきたりします。

外付けのコンパクト・エフェクターにするとか外部電源として別にアダプターを用意すれば解決するのですが、
配線の引き回しとかでは全く対策にならず、結構悩みました。

かなり悩んだ挙句、電圧を落としました。
元々高めだったんですよね。

2パラEQとコンプ用に、アンプから12Vを引っ張ってきていたのですが
この両方を使うことでトランスの電圧降下があって、実測10.48Vだったわけです。
この電圧降下は不具合でもなんでもなくて、昔のアダプターなんかもみんなこれですね。
BOSSでいうところのACA-100ってやつです。

この10.48Vに対して整流用ダイオードを2本直列に繋いで、
整流と同時に 0.6V×2=1.2V 電圧を下げて、実測9.28Vにしました。

こうすることで、かなり電源ノイズが減りました。



これでもう回路的には完成ですが、
実は修理の段階で1つだけパワーアンプ基板内のコンデンサを妥協していたものがあって
それを改造する際の仕入れの時に入手しておいたので交換します。



ニチコンMUSEのオーディオ用のバイポーラです。



元々バイポーラ(両極性)だったんですよね。 バイポーラじゃなくても電圧を実測で測って電圧の高い方をプラスにしてあるので
有極性のコンデンサでも良かったのですが、ここは電位差が少ないのでやっぱりバイポーラにしました。




あとは、もう片方のスピーカーも新品に交換するってやつです。
これは悩んだりすることのない単なる作業ですので、後回しにしてありました。

もちろん隣と同じ、JENSENのC12N-8です。



もう前回の取り付けで要領が分かってるので、
合わせてみるまでもなく棒ヤスリでネジ穴を百回ずつジーコジーコ削って取り付けます。
端子もコネクター式に交換しました。

このコネクターは本当の使い方は抜けないように完全にかしめて使うもので
本当は一度かしめてしまったら簡単には抜けないのですが
多くのアンプのコネクターは抜き差しが可能な程度に軽くかしめてあります。

バイスを使って全体を均等にちょっとずつ様子を見ながら、丁度良い加減にかしめると良いです。



さぁ、いよいよラストスパートです。

つまみが変わるのだから、コントロール・パネルのレタリングも変わるわけです。
元の文字を消さなくちゃいけないし、でも黒地に白文字は難しい。

悩んだ末に、ステッカーを製作することにしました。
普通用紙で何度も印刷しては合わせ、印刷しては合わせ・・・
ラインシルバーをベースに使ってシンプルなデザインに。



アルミの丈夫なステッカーで、さらにラミネート・フィルムで保護してあります。耐水でUVカットです。
つまり、炎天下の野外ライブでも豪雨の中でのライブでもこのステッカーは大丈夫です。
アンプ本体はどうなるか分かりませんけども・・・

デザイン等かなり不安だったのですが、思ったよりは良い感じになりました。
かなり最悪な風合いを予想していたのでホっとしました。



こんなもんで勘弁してください・・・





最後にもう一仕事です。

トグルスイッチの先っぽにはこのようなシルバーの丸いプレートが付いているのですが・・・



無いものがありましたので・・・



「無いものは作れ」という信念に基づき、製作。



はい。




完成です。






JC-55と大きさを比較。 写真で見るより大きいんです。  これも写真ですけど・・・



なんだかんだで修理に1ヶ月、改造に1ヶ月半。合計で2ヶ月半かかりました。

ここには書ききれないほどの打ち合わせのやりとりや
様々な困難、苦労、楽しみがありました。


終わってみて思ったことがいくつかあります。
まず一つは、修理業者との比較です。

実はこれ、結構な額の修理代金と改造代金を頂いているわけですが
私は修理業者ではないので、 「出来るか出来ないかで言えば、出来ます。」 ということで
「挑戦心」 や 「自分の経験にもなるから」 という思いでやってるのが大きいです。

しかし、やはり修理業者の場合は、時給や日給で採算を考えると断るのも無理はなく、むしろ当然ですよね。

修理業者は「出来るか出来ないか」じゃなくて、「採算が取れるか取れないか」ですから
何も考えずにパッパと交換するものを交換してハイ終わり。みたいな感じじゃないと仕事にならないですし、
メーカー修理だったら時間のかかるものは基板ごと交換でしょう。

もちろん修理業者も熟練の技術や豊富な知識があってこそ成り立ってる職人さんですから尊敬に値しますし
何でも修理出来る技術は持っていると思います。
でも、修理業者はプロだからこそ、「パッパと交換するものを交換して終わるもの以外は断る」のだなと。


おそらく、というか絶対的に、修理業者にとって「時間をかけて○○する」ということは一番避けるべきことで
それに比べて私がやってることというのは、時間をかけてチェックしたり記録を取ったり、
時間をかけて部品を選んだり探したりという、全て「修理業者と逆のこと」なんですね。

プリントパターンも設計自体はパソコンでちまちまやりますけども、
途中で何度もプリンターで紙に印刷して蛍光ペンで回路図と照らし合わせてとか、
そういう作業にかなり時間をかけてしまっています。

「間違いがある、ない」の他にも、「パターンの隙間」にこだわるんですよ。
よほどの高周波回路でもない限り、また、よほど極端な隙間でない限り、ある程度は「どうでもいい部分」でも
納得いくまで時間をかけてこだわるのです。 でも正直、「そこはもうこだわらなくていい」というのが現状です。

そういうようなことから作業中に何度も自分を修理業者と比較して
「自分のやり方は無駄が多いのだろうか?」と考えさせられました。

まぁ修理業者と比較すること自体、無駄なことなのですが。


もう一つは、同じ修理でも自分のアンプを自己責任でやるのとは全く違うということを痛感しました。
それはそれは恐ろしいほどのプレッシャーがありました。

特に「細かく仕様を求められた改造・増設」となると、
マニュアルも無くて初めて作る「一個もん」を製作するということになりますし
「相手の希望通りに」尚且つ「このアンプに組み込むという制約の中で」という条件が付きますので
時間的にも精神的にも負担が大きいんですね。

途中で痩せましたからね(苦笑

「修理改造依頼受けダイエット」ですよ(笑

ま、すぐに戻りましたけどね(爆

しかし、その分、勉強になった部分も多かったのも事実でして
難題に取り組む姿勢とか、諦めないこととか、何が勉強不足なのかを知ることとか
可能な事か否かを判断する速さとか・・・直接の技術とはまた違う部分で何かを悟りました。

また、自分に課すべき大きな課題のようなものも見えてきました。
「何でも直す」ということを目標にする場合の、スタイルを確立する必要があるかもしれません。
よくよく考えてみると、元々ある程度は自分のスタイルがあったとは思いますが、
それは「元に戻す」という直し方とは別に、「別の部品や別の方法で機能を再生産する」というか
「作り直す」っていうんですかね、おそらくこの考えかたは今までの製作にも表れていて
今まで私はOPアンプで成り立っている回路をディスクリートで置き換えるというようなことをやってますし、
根底にあるものは同じなのかもしれません。

曲でいえば「完コピ」も楽しみたいのですが、「カバー」も極めたいと思うことと通じるのかなと。
「いかに別の手法でアプローチしながら再現するか。」

そこにオリジナリティを見出したいというのが、修理にも表れているのかもしれません。


これらのようなことを先述の「修理業者との比較」と照らし合わせて考えてみると・・・

普通の修理は修理業者に任せて、自分は独自の修理を目指せばいいのかな。と。


そんなことを、今回の作業を終えて思いました。


2016.1.20

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