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No.11「ギター・アンプ修理 Roland / SPIRIT 20」


 これは前にも登場したRolandの「SPIRIT 20」です。
2台所有しているうちの1台ですが、年代物ゆえ、ついに不具合が出るようになりました。



古いアンプにはよくみられる症状で、何もしてないのに「ガサガサ・・・」というノイズが入ります。

最初は「プツ・・プツプツ・・・」だったのが「ガサガサ・・・ザザッ、ガサガサ・・・ザザザーッ、」
といったノイズになってきました。
まるで近くでラジコンか何かを操作していてその電波を拾っちゃったような感じのノイズです。

ちなみに気温が10度Cくらいで低めの時で、症状が出るのは電源を入れてから30分くらいしてからです。
この条件が関係あるかどうかはこの段階ではまだ分かりません。

「暖まるとノイズが出る」という話はよく聞きますし
「気温が低い時にこのような症状が出る」という話も聞きます。

また、その原因や対処法として「初段〜中段のトランジスタの故障が原因。交換すれば直る。」とか
「長時間通電させてやれば回復する」という情報もあります。


しかしついに、もうずっと「ガサガサガサザーザーザー」と鳴りっぱなしになってしまいました。
電源を落としてしばらくしてから入れ直してもいきなり大きな音で「ガサガサザーザーザー」の状態。


これは修理しなければなりません。



まずは簡単にチェック出来るところから確認していきます。

以前、回路解析をした時に出力段のトランジスタのhFEがとても低かった記憶があります。
それでも問題無く動作していたので交換しないでいました。

トランジスタは電流を流せば流すほど過熱するものであり、過熱すると劣化するものであり、
劣化するとhFEが低くなり、hFEが低くなり過ぎると動作しなくなるものなので
とうとう劣化による動作不良で要交換かという懸念がありました。

出力段のトランジスタは2SD313-Eが2個で、シャーシ底面から板ごと外せます。



両方とも測定します。



両方とも hFE=40 です。やはりかなり低いです。
以前の記事で解析した際に測定した時は両方とも hFE=43 でした。
この差は周囲温度によるもので、手に持った時の体温でも10や20くらい上がるものなので
温度管理もせずに「hFEが3減った」とは言えません。
もし12とか15とかだったら怪しもう、という気構えです。

とはいえ、この2SD313のランクはEですがデータシートによるとEは hFE=100〜200 ですので、
40だと低過ぎることは確かです。



ちなみにこのデータシートでの測定条件は 2V / 1A なのに対してこのテスターは 3.2V / 10μA で、
場合によっては測定条件が異なると結果が異なることもあるので同じ測定条件で試みましたが
私の環境では2Vで1Aもの大電流を流すのは無理でした。

ただhFEは温度には敏感に反応して変化しますが、電圧と電流の条件に対してはかなりの幅で一定の値が出ますし
このテスターで手持ちの新品2SD313-EのhFEを測定すると165で、



さらに新品を30個くらい測定しても全てが100〜200の基準値内、ほとんどが160〜170前後ですので、
hFE=40というのはやはり劣化しているということが分かります。

劣化してるといっても正常に動作していた時から既にこのくらいの数値でしたので
「劣化してはいるものの実用には問題ではない」という結論がもう自分の中で出てしまっているわけですが、
一応、新品で hFE=165 のペアを選別して交換してみました。



しかし、症状は全く変わりませんでした。やはりこの出力段トランジスタが原因ではないということです。

これが原因ではなかったので、元の2SD313に戻しました。



まぁ出力段トランジスタが原因ではないことは最初から想定内でしたのでさっさと次にいきます。


原因究明の基本、基板を眺めます。


修理の玄人と素人の違いは何かというと、
べつに 「難しい測定器を駆使して信号をオシロで観測して・・という作業が出来るか否か」 ではなくて
「基板を見ただけで何を発見し、どう推測するか。」の違いだと思います。


これかな? ブリッジダイオードの足が真っ黒です先生!!



あと、どうでもいいけど足を突っ込む場所がずれてますよ先生・・・(涙



穴の大きさからして、外側の穴は異なるピッチに対応すべく開けられた穴ではなくてテスターを当てる為の穴です。
外側の穴と内側の穴は同じパターン上にあって、外側の穴はハンダで埋められているので
その穴にテスターを入れると足と導通しているわけです。足にテスターを当てれば済むことではありますけども。

結果的にはどっちの穴に足を入れても同じなんですけど、一本だけ足を踏み外すなんて慌て過ぎじゃないですか?


まぁそれはいいとして・・・


この「GI W02」というブリッジダイオードは壊れやすいかもしれないということを聞いたことがあります。
聞いたことがあるだけなので、「GI W02 は壊れやすいんだ。」と脳内変換するのは良くないと思います。
「どのブランドの配線材が良い」という聞いただけの情報を鵜呑みにするのと一緒です。

でも怪しいですよ先生! 足が真っ黒なんだから!!

ということで電源を入れてガサガサザーザー鳴りっぱなしの状態でテスターを当てます。

普通は、スピーカーを痛める可能性のある状態で検査するような時には
スピーカーの代わりに「ダミー抵抗」を繋いでおきます。

スピーカーを繋いでいるとスピーカーを痛める可能性がありますし、
何も繋がないで出力を上げるとトランスや回路を痛める可能性があるからです。

これは 10W / 47Ω のセメント抵抗を6個並列にしてありますので 60W / 7.83Ω になります。
実測でほぼ8Ωで、8Ωのスピーカーのダミー抵抗として使えます。



しかし今回のような場合は「ガサガサザーザー鳴っている時のブリッジダイオードの状態」を確認する必要があるので
スピーカーを繋いだ状態で、短い時間で素早くチェックします。
たまに心臓の発作が起きる場合には、発作が起きてる状態で心電図を取らないと異常が確認出来ないのと同じです。

そして、ガサガサザーザー鳴っている状態で、直流が正しく出ていることを確認。
つまりこのブリッジダイオードも原因ではなかったということです。



そうするといよいよこれですか。 2SD667。



実は「ガサガサ」「カサカサ」というノイズの原因は初段〜中段のトランジスタの故障であるという説がありまして
基板を観察していたら、上面の部分が白っぽくなっているのを発見。



この2SD667はランクがCですから、hFE=100〜200 のはずです。



外して確認してみます。 拭いたら綺麗になりました・・・



hFEも143で正常値だし、壊れている様子はありません。



ネットではこの症状に対して「連続通電で解決する」という方法もありました。

故障していないものであれば、動作を安定させる為にエージングなどの処置をすることはありますが
この症状で連続通電させるのは危険ですよね。
「音が気になるならスピーカーを外せばよい」などというアドバイスも見かけました。
この状態でスピーカーを外しても、逆に危険を知らせる警報機を外してしまっているようなものです。

結局、
「初段〜中段のトランジスタの交換」で直った人もいれば直らない人もいて
「連続通電」で直った人もいれば直らない人もいるわけです。

つまり、同じ症状でも原因は1つではないということです。

とりあえずこの2SD667が原因ではなかったので、元に戻しました。



さらに基板を眺めていくと、 「やっぱりここに辿り着くのか。」 という感じです。

可変抵抗器部分ですが、どう見ても怪しいです。 なんか2段になって盛られてませんか?



私が今までアンプを修理してきたものの中で一番多い故障の原因・・・

そうです。ハンダ割れなどによって起こる接触不良です。

とりあえずここだけジュワっとコテでやり直したら、見事に直りました。
あれだけガサガサ、ザーザー鳴りっぱなしになっていたのがピタリと止まりました。


原因はハンダの劣化による接触不良でした。


ということで原因が究明できたので、全ての可変抵抗器部分のハンダ付けをし直します。
基板に付いてる古いハンダを再利用して、コテを当てるだけで済ますのはよくありません。


まず古いハンダを綺麗に除去してから、



新たにハンダ付けします。



このような可変抵抗器を取り付ける基板の穴はだいたい端子の太さに対して大きいので
ハンダ付けに慣れてない人はお団子になり易いところです。
私は融点の高い無鉛ハンダを使っていますのでさらに難易度が上がります。

初心者はやむを得ず融点の低い鉛入りのハンダを使うことをお勧めしますが、

趣味や仕事でハンダ付けを継続的に行う人は環境の為に必ず無鉛ハンダ(鉛フリー)を使うべきです。

どうしても音質にこだわりたい方は、KESTERでも鉛フリーがあります。
でもせっかくKESTERなどを使ってもハンダが下手だと音質どうのこうの以前に接触不良を起こしますので
まずはハンダの融点によるコテの温度の使い分けが出来るようになってからの話ですね。



修理をする際には、自分の経験から「あぁ、この症状だと原因はこれか、あれだな。」と推測することは大事ですが
ネットで色々な情報を得られるこの時代、あまり他人の情報を鵜呑みにしても振り回されてしまいます。

情報は外からいくらでも集められますが、ノウハウは自分で蓄積して溜めていくしかないということですね。

今回の修理は、 「たとえ同じ症状でも原因はそれぞれ異なる事も多い」 という好例でした。

2016.3.9

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