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No.17「Marshall / Lead12 比較・検証」

〜 同じアンプなのに何故こんなに音が違うのか? 〜


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最初は見た目だけで入手したMarshallのLead12ですが
JCM800と同じ扱いにくさや、しかしコツを掴めば何とかギリギリ使えるクリーンサウンドが出せることや
音はともかく、Marshallのルックス、ロゴ、基板の見た目など、その魅力に取り憑かれてしまい・・・

気が付けば、Sシリアル2台、Wシリアル2台、Xシリアル1台の、合計5台になりました。

今後も増えるかもしれません。

(追記:2019年現在、Rシリアル1台、Sシリアル3台、Wシリアル2台、Xシリアル1台の、合計7台になりました。)




この5台、全て音が違うんです。 同じセッティングにしても音量さえバラバラなほど違います。


そこで今回は、何故こんなに音が異なるのか、原因を探しながら検証してみたいと思います。



ただし、後期型のXシリアルは初期や中期とは回路も基板も違うゆえ、音も違って当然なので検証の対象から外します。
仕様が違い過ぎて、わざわざ相違点を探すまでもないんですね・・・

さらっと紹介だけしておきます。



シリアルナンバーX21227です。1989年8月7日製ですね。



初期・中期のものとは基板自体が違い、部品の配置も異なります。



初期・中期との大きな違いは、歪みが増しているのと、共用だったH.P./LINE OUTジャックが別々になったことです。
個体差を無視すれば基本的なトーンはだいたい同じなので、あまり音の違いにこだわらず、得にレア度も気にせず、
コレクション目的でもなく、基板の見た目も気にしないのであれば、初期や中期にこだわる必要はないと思います。



【Pシリアル】 の存在について触れておきます。
初期、中期は H.P./LINE OUT ジャックが兼用で、後期からジャックが2つに分かれたことは一般的に知られていますが
Sシリアル や Rシリアル よりも前の Pシリアル というのをネットで数台ほど確認しておりまして
Pシリアル には H.P./LINE OUT ジャックがありませんでした。兼用か分かれてるかじゃなくて、無いんです。


1981年製もあるかもしれないという情報が海外サイトにありますが
今のところ、Lead12に割り当てられているシリアルナンバーのアルファベットとして確認出来ているのは

P=1982年、R=1983年、S=1984年、T=1985年、U=1986年、V=1987年、W=1988年、X=1989年、Y=1990年、Z=1991年

ということになります。
ちなみにMarshallでは数字と見間違えやすい「O」や「Q」はシリアルナンバーに使われていません。


なお、YAMAHAの1985年10月のカタログに「11月10日発売」ということでLead12が載ってます。
日本での販売開始は1985年11月10日だったということです。定価49,000でした。


1985年ということは既に Tシリアル が製造されてた時期ですが・・・


見て下さい!! 電源スイッチの横に H.P./LINE OUT ジャックがありません!!

Pシリアルだと思われます!! 日本でもPシリアルが販売されていたのでしょうか!?

(「規格および仕様は、改良の際予告なく変更する場合があります。」 とは書いてありますが)



あとは、H.P./LINE OUTジャックの配置やサランネットの色などについてはネットでもちらほら掲載されてますし
以前の記事(No.12 Marshall / Lead12 修理) にもだいたい書いてありますので、そういう部分はここでは省略します。



では、まずWシリアル2台とSシリアル2台の合計4台を全て同じセッティングで弾き比べます。


あくまでも比較が目的なので、音の好みは無視して一番フラットな設定で固定します。
(4台とも、GAIN=1、VOLUME=10、TREBLE=5、MIDDLE=5、BASS=5)

Marshall Lead12 比較・検証動画 1





えっ!? って思うほど音量がバラバラですよね。 ツマミの取り付け角度が全部同じになってることは確認済です。


       〜〜〜 動画を視聴しても音量差が感じられない場合 〜〜〜

     スマホやノートパソコンなどのスピーカーが小さな機器で視聴した場合、
     音量が上限で均一化されてしまい、音量差が感じられな場合があります。
     その場合はヘッドホンで聞くと違いが分かるかと思います。



WシリアルよりもSシリアルの方がかなり音量が小さいことが分かると思います。
特に S18351 は 「どこかおかしいんじゃないのか?」 と思うほど極端に音が小さいです。



今度は全てのツマミを真ん中にしてみます。

(GAIN=5、VOLUME=5、TREBLE=5、MIDDLE=5、BASS=5)


Marshall Lead12 比較・検証動画 2





さっきはあんなに音量が違っていたのに、ツマミを真ん中にするとどれもだいたい同じくらいの音量になりますよね。
セッティングによっても個体差の度合いが変化するんですね。

しかし音量はだいたい同じでも音質は全然違います。
Sシリアルの方がかなり中音域が強いですよね。

一般的に 「Sシリアルは(初期は)中音域が強い」 と言われていて、まさにその通りだと思います。



・音量が違う
・音質も違う
・WシリアルとSシリアルで違う
・同じシリアル同士でも違う
・セッティングによって個体差の度合いが変化する


なんだか色々と違うのです。

人は謎に惹かれ、違いが気になり、比べたがる生き物なのです。


Sシリアル(初期)とWシリアル(中期)では若干の回路的な変更があるのですが
そこは音の違いが発生するような変更ではないはずです。

何故こんなに音が違うのか、具体的に原因を追及したいと思います。



とりあえず基板全体を見比べてみましょう。


上の写真で4台並べてあるやつの左上から。
W12632。1988年3月17日製。オリジナル。改造なし。







右上。
W20127。1988年5月18日製。一番最初に買ったやつ。
可変抵抗器が全て別物に交換されていたので、自分でリプレイスメント(=同等品)に交換。







左下。
S21230。1984年8月15日製。Sシリアルのラベルは基板の箱の内側に逆さまに貼られています。
VOLUME以外の可変抵抗器がリプレイスメントに交換されていて、スピーカーケーブルがBELDEN 9497に交換されていて
あと・・・Sシリアル時期の特有のツマミのはずが現行のツマミに交換されてました。これは残念。







右下。
S18351。1984年7月3日製。←あってる? なんか・・・字が・・・
どうしてもSシリアル本来のツマミが欲しかったので購入。可変抵抗器もツマミもオリジナル。改造なし。







ツマミの話が出たので・・・

これが普通のLead12のツマミです。軸はギザギザのローレット式です。



これは2台のSシリアルのうち最初に購入した方のS21230に付いてたツマミです。ローレット式。
Sシリアル用のツマミでもなく、普通のLead12のツマミでもなく、現在市販されているMarshallのツマミです。



そしてこれがSシリアル用のツマミです。後に購入した方のS18351に付いてるやつ。
目盛りを指すところが尖っていて、軸がネジ式。このツマミは現在では入手不可能です。





具体的に比較を始める前に・・・その1

一番最初に購入したW20127の電源スイッチのパイロットランプがどうもチラチラ点灯したり消えたりしたりしてて
しまいには暗いままになったりするようになったので、取り外して見てみることに。



へー、こうなってるんだー。 ふむふむ。



新品に交換。



修理完了。 キラーン!





具体的に比較を始める前に・・・その2

S21230はスピーカーケーブルが BELDEN 9497 に交換されてあって



他のは全て普通のスピーカーケーブルなのですが



どうみてもこの4台の明らかな音の違いはこのスピーカーケーブルによるものではないと思いますので
順番的に後回しというか、とりあえずはスピーカーケーブルより先に他の箇所を検証していこうと思います。

ただ、4台中3台は基板を引き出して上に乗せるにはケーブルが短いので
最終的には全てのスピーカーケーブルを交換する予定で BELDEN 9497 と BELDEN 8470 を用意してあります。





では、基板上の部品が違う箇所を具体的に見ていきます。


W12632



W20127



S21230



S18351




赤と白の組み合わせが全部違うっていう・・・


はいWシリアルとSシリアルで抵抗器が違う、C4のコンデンサがアキシャルリードとセラミックディスク、
ボックス型コンデンサが赤いのと白いのが全てバラバラ、S21230とS18351でC4のセラミックの大きさが違う、

など・・・抵抗値や容量などの定数が同じでも見た目が違う部品が多いです。
これらは個人的にはこの基板、このアンプを気に入るかどうかの非常に重要なポイントなのですが・・・

実際にはそんなに音の違いに影響してくるとは思えません。 ほぼほぼ見た目の問題だけです。


ちなみにこのコンデンサはヨーロッパのスロベニアという国にある Iskra というメーカーのKEUシリーズで
メタライズド・ポリエステル・フィルムです。



現行品もありますが、これはVintage扱いされてますね。





しかしそれよりも初期と中期で明らかに異なる箇所があります。



まず、初期の頃にあったC11のコンデンサが途中から省略されています。
元々あったものが無くなってるっていうのは気になりますよね。

これは差動増幅のTr2のBASSに付いている抵抗器と並列に繋いであるコンデンサで、
これはバイパスコンデンサやカップリングコンデンサではなく、スピードアップコンデンサだと解釈しているので
回路的にはトーンに影響するコンデンサではないですね。

C11を取り付けても音は変わらないということを確認する感じだと思います。試すとしてもあと回しです。


それよりも気になるのはこっちですよ。
初期の頃は最終段トランジスタのアイドリング電流を半固定抵抗器で調節出来るようになっていました。
私がアンプの修理をする時にいつも調整しているところ。 いわゆるバイアス調整ってやつですね。

ちなみにこの半固定抵抗器も Iskra 製です。



それが途中から470Ωの固定の抵抗器に変更されちゃって、調整しなくなったんです。

ネットで基板を見てもどれも470Ωですし、私が所有している2台も470Ωなので
調整してから固定に置き換えてるわけではなく、元々あった1kΩの半固定抵抗器のだいたい真ん中ということです。

まぁ何台も生産していて 『いつもだいたいこのへん』 って分かってきたから横着、いや、省略したのでしょう。

どうせ使ってるうちにパワートランジスタなんて劣化してhFEも落ちて変化してくるわけで、
せっかく最初に調整しても結構変わっちゃうところですし
まぁ劣化によるhFEの低下では熱暴走する方向には変化しないので、大丈夫っちゃぁ大丈夫ですけど
私から見ると “ 調整するのをやめた ” というのはとても残念なことです。

これは私の中では大きな変更だと捉えています。
私としてはこの半固定抵抗器があるのが初期という認識です。 中期以降にはありません。



実際に測定してみます。


Lead12はアイドリング電流を12mVに設定してますので



エミッタ抵抗が0.33Ωですから、エミッタ電圧が4mV付近ならいいわけですが・・・
(0.012A×0.33Ω=0.00396V)


W12632
: NPN側
 4.0mV
 / PNP側
 7.7mV
W20127
: NPN側
 3.4mV
 / PNP側
 16.7mV
S21230
: NPN側
 2.2mV
 / PNP側
 22.7mV
S18351
: NPN側
 3.5mV
 / PNP側
 3.3mV


まぁー、バラバラですね(笑

このアンプには入力の差動増幅回路の調整機構は無いので
調整する半固定抵抗器はこの1か所だけで、NPN側(MJ3001側)だけを調節することになりますので
PNP側(MJ2501側)に比べれば、NPN側の方が4mVに近くなっているわけですが

この測定結果を見ると、W12632が一番基準値に近く、S21230が基準値から一番遠い状態ということになります。
一番音が大きいのがW12632なので関係あるような気もするのですが、一番音が小さいのはS18351なので
これが原因という結論には至らないわけですが、出来ればこれはこれで調整したいところです。


PNP側は、結果的には半固定抵抗器の調整によってNPN側に連動して変化するので、
この調整ではNPN側とPNP側のアイドリング電流の差を縮めることは出来ません。

よって、ここはNPNのMJ3001とPMPのMJ2501のhFEが同じものを使うことが重要なのですが
やはり劣化してhFEが変化して下がってきているのだと思われます。
あるいは最初からコンプリメンタリ・ペアの特性を揃えていない可能性もなくはありません。

その場合、つまり 「だいたいでOK」 という方針の場合(笑
差動増幅のトランジスタ2個もペアでhFEが揃っていない可能性も大いにあり得ます。




その差動増幅のペアのトランジスタというのはこれです。TR1とTR2です。
これはhFEを揃えることはもちろん、hFEというのは周囲温度に比例して常に変動するものなので
TR1とTR2の温度を同じに保つ為に貼り合わせて密着(=熱結合)させると良いのですが
見ての通り2つのトランジスタの間にコンデンサと抵抗器があるくらい離れてます・・・



W12632。 BC184です。っていうか、Micro Electronics製のBC184なんてもう手に入らないのでは?



W20127。 これもBC184です。 



S21230。 おーっと、これはBC182なんですね。



S18351。 ん? 同じSシリアルでもこれはまたレアなITT製のBC184Bです。 BC184とはhFEが異なります。




これらのBC184、BC182、BC184Bは定格電圧やhFEが異なるだけで、種類としては同じです。
複数のメーカーから出ていてメーカーによって無い型番もあったり、独自の型番を出したりしています。
いわゆるセカンドソースですね。代替品や互換品よりもオリジナルに近い意味合いです。

実際に使われているMicro ElectronicsのBC184とBC182とITTのBC184Bはデータシートが見つからないので
他社のデータシートを参照します。

例えばMOTOROLAの場合だと、まず定格電圧によってBC182、BC183、BC184に分かれていて



hFEの分類にはさらにBC182AとBC182Bがあります。



このMOTOROLAのデータシートには BC184B は載ってないですね。

FAIRCHILDにはBC182、BC182B、BC182L、BC182LB、BC184、BC184C、BC184L、BC184LCなどがありますが
やはり BC184B は見当たりません。



BC184B のデータシートはCDILとNJSくらいですかね。





まぁメーカーはともかく

・BC184
: hFE=240〜900
・BC182
: hFE=125〜500
・BC184B
: hFE=240〜500


という分類ですね。


そして何故か、データシートに載っていないMOTOROLAのBC184Bを普通に仕入れることが出来ました。
新しいデータシートとかあるのかな?



ついでにFAIRCHILDのBC182Lも仕入れておきました。
データシートによるとBC182はhFE=125〜500ですが、BC182LはhFE=240〜500です。



BC184BのhFEは、基準値が240〜500のところ436でした。



BC182LのhFEは、基準値が240〜500のところ290でした。
290ということはBC182としてもBC182Lとしても許容範囲ですね。



とりあえずBC184BとBC182Lを20個ずつ仕入れてみたのですが、どちらもかなりhFEが揃ってました。

もともと許容範囲が広いので普段はあまりシビアになる必要はありませんが、
差動増幅で使う場合は使う2つのトランジスタのhFEは揃えますので、全て測定して選別します。


これは基板のトランジスタを取り外してhFEを測定して、もし差があるようなら交換してみる感じですが
ここまで散々見たり説明したりしたわりには・・・

実はこれが音の違いを生じさせている原因だとは思っていません。


ただ単に、本来は差動増幅の2個のトランジスタはhFEをそろえるべきであるということと
アイドリング電流はちゃんと調整するべきであるということです。


しかしですね・・・
差動増幅の2個はhFEがわりと揃ってるのが20個ずつあるからなんとかなるとしても
最終段のMJ3001とMJ3005は生産終了品なので大量に仕入れるのは困難です。
オリジナルはMOTOROLA製ですが、セカンドソースの他社製でも大量に仕入れると結構な金額になります。

このへんは今回の主旨からは外れるので、トランジスタを外してまで確認・調整するのは後回しにします。



ちなみに差動増幅とは別のところでPNPのトランジスタが使われているのはどれもBC212でした。
これはBC182のコンプリメンタリになります。



BC182はMicro Electronicsのデータシートがありました。
これによるとBC182もBC212もランクがA、B、C、に分類されていることになってます。



Micro ElectronicsのBC182のBランクがMOTOROLAのBC182Bと同じってことですね。



中期、後期になってくると使用部品が統一されてくるのですが
初期は色んなところの部品の見た目がバラバラで、揃ってないものが多いです。

「わざと同じ部品を使わないようにしてるのかな?」 と思うくらいです。

このアンプは電源電圧の±19Vからオペアンプへ供給する電圧を±16Vに落としているのですが
電源ラインとは別に、当然±16Vに落とした電圧のラインにもバイパスコンデンサがあります。

それがこれです。



Wシリアルの方は同じ部品で揃ってますが、何故かS21230だけメタライズド・ポリエステル・フィルムです。
せめて・・・ブランドが違ってもせめて電解コンデンサにしますよね普通?
べつに平滑コンデンサは電解コンデンサでなければいけないということはありませんが
これはきっと遊んでるんですよ。作ってる人が。


メーカーどこだろ・・・ 鏡に写して反転させます。 ラーの鏡・・・



先生! TAITSU メタライズド・ポリエステル・フィルムMM 2.2uF / 100V 許容誤差±5% じゃないですかこれ!!

タイツウですよ、タイツウ!

世界的に有名な日本のフィルムコンデンサ専門のメーカーで、優秀だと評判のコンデンサです。
メーカーの説明もMMは電源の平滑用となってますから、ちゃんと適切な部品を選んで使っていることが分かります。

電子オタクの音響マニアがニヤニヤしながら製作している光景が目に浮かびます。



でも・・でも・・・

これ 2.2uF になってますけど・・・・本当はここ 22uF なんですよね・・・(まじか・・・)



参ったなぁ。

これは単なる平滑コンデンサだけど、うーん、正直これで音がどこまで変わるか? 変わらないでしょ・・・

ただ、S18351は普通の電解コンデンサなので、少なくともWシリアルとの明確な音量の違いの原因はこれではないわけです。


保留かな。


おそらくSシリアル同士での微妙な違いを生む原因の一つになってる可能性はあるけれども
もっと他に明確な仕様の違いがあると思います。


Sシリアル(初期)は豪華な部品を惜しげもなく使ってるんですよ。
中期以降は部品が急に安価なものに変わりますから、そこが初期型の魅力ですよね。

まぁ部品や基板は見た目ですから。  正直、音なんか二の次ですよ(えぇぇ!?



エミッタ抵抗もWシリアルは TY-OHM という台湾製の抵抗器で統一されてますが、



S21230 はセメント抵抗器で、S18351 の黒いのは ERG と表記されているので・・・
松下(Panasonic)の ERG という金属(酸化物)皮膜固定抵抗器・・・かと思ったら違うみたいですね。
松下なら「Mマーク」が付いてるはずだし、よく見ると渦巻の線が見えるので巻線抵抗器ですがメーカーは不明です。
ということで、やっぱりSシリアルだけバラバラなんですよね。

まぁバラバラとはいってもちゃんと電力がかかるところに適した種類の抵抗器を選んでいるので、デタラメではないのです。

決められたルールを守りながら、自由に遊んでいる感じがしてなりません。

もしかしたらSシリアルを10個集めても、どれ一つとして同じ仕様なんて無いのかもしれない。
っていうか、わざとそういうコンセプトで作ってる?


そういえばJCM800が全盛期の頃って 「マーシャルは当たり外れが大きい」 なんてよく言われてました。
もしかしたらそういう 「個体差が大きいこと」 をあえて表現しようとしてたのかも。


楽しいねー。



先生! こんなのどうでしょう?

同じだと思ってたオペアンプのMC1458CP1が初期と中期でメーカーが違います!

WシリアルとSシリアルとの明確な違いの原因のうちの一つになり得ます。

中期はMOTOROLA製で、初期はRCA製なんです。



それでですね・・・これは先ほどもチラっと説明したのですが
MC1458CP1の定格電圧が±18Vなので、このオペアンプへの入力電圧を±19Vから±16Vに下げてます。

回路図を見てもらった方が分かりやすいかもしれません。
Lead12の3005(3段積みタイプ)の回路図をSシリアルの基板と照合して5005版に訂正したので載せておきます。


Lead12 5005 checked by GUITARDER
lead12_5005_schematic_check_guitarder.jpg


回路図の一番左のところに「+16V IC1 PIN 8」と「−16V IC1 PIN 4」とあります。
MC1458の8番ピン(Vcc)に+16Vを供給して、4番ピン(Vee)に−16Vを供給するわけです。

音量に差があるというのは電圧の大小が関係していることが多いので、ここの電圧を測定します。

まずは基になるトランスの交流電圧を測定すると、どれも実測13.8V〜13.9Vで安定しています。
そこからブリッジダイオードで直流に変換された電圧は+17.8V〜+17.9V、−17.3V〜−17.8Vで
負電源側が0.5Vのバラツキがあるものの、ほぼ安定しています。
設計上は±19Vですが、まぁ現実的にはこんなもんでしょう。


そのうえでオペアンプの入力電圧を測定すると・・・

W12632
 : MOTOROLA / MC1458CP1
 : Vcc +15.8V
 : Vee −15.6V
W20127
 : MOTOROLA / MC1458CP1
 : Vcc +15.7V
 : Vee −15.3V
S21230
 : RCA / MC1458CP1
 : Vcc +14.0V
 : Vee −13.6V
S18351
 : RCA / MC1458CP1
 : Vcc +13.8V
 : Vee −13.8V


という結果でした。

余裕を持って確実に定格電圧は守れていますので問題ないのですが、
MOTOROLA製よりもRCA製の方がオペアンプの入力電圧が低いことが分かります。
負電源側も、電源電圧で0.1Vしか誤差が無かった正電源側も、どちらも最大2.0Vもの差が出ています。


電源電圧がほぼ同じで、電圧降下させてるのも同じ抵抗器1本で処理しているだけですので
これでオペアンプの入力電圧が異なるというのはオペアンプに依存しているからであると考えられます。

まずはSシリアル(初期)が中期や後期に比べて音が小さい原因の一つとして候補に挙げられそうです。


なるべく基板を傷付けたくないのですが、一度オペアンプをソケット化して比較してみる価値はあります。
OD-808でも使われているTexas Instruments製のMC1458Pならいっぱいあるので
Texas Instruments製に交換して統一したらどうなるか?とか、試してみたいと思います。





とりあえずハンダ付けなどを要する交換などの検証作業はあと回しにして、怪しい箇所をもっと探していきます。




実はなんだかんだいって一番怪しいと思っているのは可変抵抗器です。
4台のうち2台は可変抵抗器がリプレイスメント(=同等品)に交換されているからです。

あと、セッティングによって個体差の度合いが変化するというのも、可変抵抗器のせいだと思われます。


可変抵抗器の抵抗値にはわりとアバウトな許容誤差というのがあって
たとえ同じブランドの同じ可変抵抗器でもバラつきがあっても出荷されます。

ただ、一番怪しいとは思っているものの
私のLead12は、W12632とS18351がオリジナルのままで、W20127とS21230がリプレイスメントです。

オリジナルとリプレイスメントがWシリアルとSシリアルで分かれているわけではないので
WシリアルとSシリアルでの音量の違いは、可変抵抗器のせいではないということになりますが
若干のトーンの違いは生じる可能性はあります。

これがWシリアルのオリジナルの可変抵抗器です。 TAIWAN ALPHA の刻印があったりなかったり。



これはSシリアルのオリジナルの可変抵抗器です。 何も刻印がありません。





ちょうどオリジナル可変抵抗器仕様のW12632には多少のガリがあるので、直しながら色々と確認していきます。

左のやつがリプレイスメントで、右のやつが取り外したオリジナルです。



リプレイスメントには ALPHA の刻印があります。



製造時期によって若干のマイナーチェンジがあるという程度の違いだと思いますがどうなんですかね。

カバーを外して端子が接触する部分だけに綿棒などで接点復活剤を付けてクルクルします。
接点復活剤はスプレーでプシューって吹き付けるのは無駄に周りが汚れるので良くないですよ。

ちなみにカバー上部にある穴は回転する軸のストッパーを設けたことで結果的に穴が開いているだけで
接点復活剤を注入する穴じゃありませんので・・・




軸がスカスカになって壊れたようなのもわりと直せますが、カーボンが激しく摩耗してるのとかは直らないですね。





この22kΩ(B)の抵抗値を測定してみたところ、リプレイスメントが20.5kΩ、オリジナルが21.5kΩでした。

上の方でも説明したように、私はよくVOLUMEをフルにしてGAINで音量調節するので
そのGAINの可変抵抗器をオリジナルとリプレイスメントで差し替えて違いを比べてみたところ・・・



うーん・・・これでは違いを感じにくいです。



比べるならツマミの向きを合わせて比べるのではなく、抵抗値で比べるべきですね。



オリジナルの全ての可変抵抗器を外して、もっと細かく抵抗値を比較してみます。

ツマミを左に回し切った状態が0Ωで、右に回していくと抵抗値が増えていき
ツマミを右に回し切った状態でそれぞれの可変抵抗器の最大抵抗値に達するわけですが

最小、9時方向、真上、3時方向、最大、の位置での抵抗値を測定して比較したものが以下です。



--------- オリジナル (W12632から取り外して測定)------------

 22kΩ(B)  GAIN用






3.2kΩ
11.2kΩ
19.2kΩ
21.5kΩ


 1MΩ(A)  VOLUME用






62kΩ
172kΩ
800kΩ
1.09MΩ


 22kΩ(B)  TREBLE用






3.6kΩ
12.5kΩ
21.1kΩ
23.0kΩ


 4.7kΩ(B)  MIDDLE用






0.5kΩ
2.2kΩ
3.8kΩ
4.3kΩ


 22kΩ(B)  BASS用






3.2kΩ
11.1kΩ
18.9kΩ
21.1kΩ




-------------- リプレイスメント --------------------------

(リプレイスメントは新品が2台分ある中から無作為に1台分を選びました。)


 22kΩ(B)  GAIN用






3.6kΩ
10.3kΩ
17.1kΩ
20.5kΩ


 1MΩ(A)  VOLUME用






54kΩ
146kΩ
651kΩ
960kΩ


 22kΩ(B)  TREBLE用






3.7kΩ
10.7kΩ
17.5kΩ
21.1kΩ


 4.7kΩ(B)  MIDDLE用






0.7kΩ
2.5kΩ
4.2kΩ
5.0kΩ


 22kΩ(B)  BASS用






3.6kΩ
10.4kΩ
17.1kΩ
20.4kΩ



結構な誤差がありますよね。


まぁ先ほども言ったように
W12632とS18351がオリジナルのままで、W20127とS21230がリプレイスメントということは
オリジナルとリプレイスメントがWシリアルとSシリアルで分かれているわけではないので
WシリアルとSシリアルでの大きな音量の違いは可変抵抗器のせいではない、ということだと思うのですが
上の各ツマミの抵抗値を見比べてみると、ツマミの向きを同じにしても抵抗値がバラつくことが分かります。


つまり、ツマミの向きを揃えても同じ抵抗値にならない。すなわち、同じ音にならないということです。
これは同じシリアルでも音が違うということの原因になり得ます。


また、各ツマミの可変範囲の中の特定の場所によっては、抵抗値が10kΩ以上変化しても音に反映されなかったり
逆に、ちょっとの抵抗値で大きく音が変わる箇所もあります。


例えばこのアンプはBASSのツマミは真ん中より上は回しても低音はそれ以上増えず、変化しません。
BASSのツマミは 5 にしても 10 にしても同じ音で、最小から真ん中までの範囲でしか変化しないのです。
確かJCM800もそんな感じだったので、低音を出すのに苦労した記憶があります。

そしてVOLUME用の 1M(A) をフルにした状態を比べると、 1.09MΩ と 960kΩ というバラつきがあります。
1.09MΩ よりも 960kΩ の方がGNDとの遮断能力が低いので音量が若干小さくなります。
でも数字で見ると130kΩもの差がありますが、Aカーブということもあって実際には若干の差なんですけど
それでも目盛りでいうと「10」と「9.5」くらいの差になります。


もう一つは、先ほどの 「ちょっとの抵抗値で大きく音が変わる」 というのが、GAINの 0 から 2 までの間にありまして
こっちの方が実際の音量に与えている影響が大きいようです。



同じSシリアル同士なのに S21230 と S18351 では音どころか音量がだいぶ違います。

試しに S21230 の GAIN のセッティングに対して、S18351 の GAIN のセッティングを「同じ目盛りの位置にセットした場合」と
「抵抗値が同じになるように測定してセットした場合」 で比較・検証してみます。

@「同じ目盛りの位置にセットした場合」




A「抵抗値が同じになるように測定してセットした場合」
1.5 か 1.4 くらいになりました。 これは期待できます先生!!





実際に音を比べてみます!!



       〜〜〜 動画を視聴しても音量差が感じられない場合 〜〜〜

     スマホやノートパソコンなどのスピーカーが小さな機器で視聴した場合、
     音量が上限で均一化されてしまい、音量差が感じられな場合があります。
     その場合はヘッドホンで聞くと違いが分かるかと思います。



@「同じ目盛りの位置にセットした場合」

(GAIN=1、VOLUME=10、TREBLE=5、MIDDLE=5、BASS=5)
Marshall Lead12 比較・検証動画 3





A「抵抗値が同じになるように測定してセットした場合」

Marshall Lead12 比較・検証動画 4



抵抗値を合わせたら音量も揃ってかなり近い音になりました。

可変抵抗器の許容誤差によってここまで音が変わるということです。


抵抗値にバラつきがあるので、ツマミを同じ目盛りの位置に合わせたのでは同じ音にならないということです。


そして、かなり近い音になったものの、抵抗値を合わせたのがGAINだけなので、まだ完全に同じ音ではないですよね。
S21230 に比べて S18351 の方が低音が弱いです。


本当はGAINだけでなく全てのツマミを抵抗値で合わせて同じにしてみたいところですが、実はそれは不可能なんです。


GAINの場合はたまたま1番端子から入る信号を2番端子からGNDに捨てる量を抵抗値で調節しているので合わせられましたが、
可変範囲全体の(合計の)抵抗値に誤差があるので、
1番端子と2番端子間の抵抗値を合わせても、自動的に2番端子と3番端子間の抵抗値が誤差のある状態で決まってしまうのです。

まぁGAINの抵抗値を合わせただけでも、あれだけあった音量差がほぼ同じになったということは検証出来たと思います。


しかし、これはまだSシリアル同士での個体差の範囲内での結果なので
WシリアルとSシリアルでの大きな音量差も可変抵抗器の許容誤差によるものだとは言い切れません。


Wシリアルの2台は音量が同じくらいで、それに比べてSシリアルの2台はだいぶ音量が小さくて
その音量が小さいSシリアル同士でもまた音量が異なっているので、WシリアルとSシリアルでの大きな音量差は
可変抵抗器の許容誤差以外にも原因があるような気がするんですよね。



そこで今度はWシリアルとSシリアルで抵抗値を揃えて比較しようと思うのですが
先ほど説明したように、抵抗値を測定して合わせたのでは完璧には合わないわけですよ。


なので、可変抵抗器による誤差である可能性を完全に排除する為に、固定の抵抗器に置き換えました。


1番端子と2番端子の間に1本と、2番端子と3番端子の間に1本ということです。
ド真ん中にする場合は左右の抵抗値を同じにすればいいわけです。



もちろんこの場合は可変は出来なくなります。


精度の良い金属抵抗をさらに選別し、WシリアルとSシリアルで全く同じ抵抗値で揃えて固定にしました。





GAIN=1、VOLUME=10、TREBLE=5、MIDDLE=5、BASS=5 のセッテイングに合わせて
全て実測値で

GAIN=0.996kΩ+21.8kΩ、VOLUME=0.99MΩ+0Ω、TREBLE=9.96kΩ+9.96kΩ、
MIDDLE=2.18kΩ+2.18kΩ、BASS=9.96kΩ+9.96kΩ

という組み合わせで2台とも全く同じにしてあります。


これで音を比べてみます。

Marshall Lead12 比較・検証動画 5





Sシリアル同士を抵抗値で合わせた時と同様、音量はかなり揃いました。

やはり可変抵抗器による違いというのが大きかったということなんですね。



でも音量はかなり揃いましたけれども、明らかにSシリアルの方が中音域が持ち上がってます。

低音が弱いから中音域が目立っている。と捉えた方が妥当かもしれません。

中音域が強いというよりは 「中音域寄り」 っていう感じ。



いずれにせよ、可変抵抗器の誤差をなくしてもSシリアルの方が中音域が寄りということは
Sシリアルの方が中音域が寄りである原因は、可変抵抗器ではないということです。

ここからが勝負という感じがします。



ここまでの検証結果をまとめると・・・

【 検証結果 1 】 同じシリアル同士で音量や音質に差がある。その原因は可変抵抗器の許容誤差によるものである。
【 検証結果 2 】 SシリアルとWシリアルで大きな音量差がある。その原因は可変抵抗器の許容誤差によるものである。


ということになります。 


そのうえで 「WシリアルよりもSシリアルの方が中音域寄りである。」 という違いがまだ残ってますので
可変抵抗器以外の原因も深く踏み込んで追究していきます。


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