ギターダー
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No.19「HUGHES&KETTNER / EDITION BLUE 15-R 修理」


修理というのは経験を積めば積むほど様々なスキルが身に付くものでして
その経験は、今後の修理や設計・製作にも役立つと思っていますので
時間がある時にはわざわざジャンクのアンプを買ってきて修理したりしています。


今回は HUGHES&KETTNER の EDITION BLUE 15-R のジャンクを入手したので修理しようと思います。




私の中で好みのギターの音というのは色々あるんですけど
その中の一つに HUGHES&KETTNER や MESA BOOGIE の Mark III あたりから RECTIFIRE 系の歪みがあります。
ざっくり言うと METALLICA の2nd、3rdアルバムでのバッキングなどの重低音サウンドなのですが
ジョン・ペトルーシとかだと単音を弾いても重低音というか、ただザクザクと歪ませるだけでは出せないような
独特の ドンシャリ感 がありまして、でも極端なドンシャリじゃなくて何とも言葉で表現しにくいのですが
「適度なドンシャリ感」 に 「もう一つのプラスアルファ」 が加わると理想かなと思います。
(この 「もう一つのプラスアルファ」 が何かは後ほど・・・)


かなり以前、もう10年くらい前かな?
楽器店でエフェクターを試奏した時のアンプが HUGHES&KETTNER の大き目のコンボだったんですけど
アンプ直で、 私が求めているそれ系の重低音サウンド が出てしまったんです。
今までずっと 「大型チューブ・アンプならではの音」 だと思っていた、あの音が、です。

そして店員さんにそのアンプはトランジスタ・アンプだと聞いて
「トランジスタ・アンプでもこんな重低音サウンドが出るのか!」と驚いたものです。


歪み系エフェクターを試奏したのに 「エフェクター要らないじゃん!」 って。


型番を覚えてなかったんですけど、今思うとそれは HUGHES&KETTNER EDITION BLUE 60-R だったのではないかと。

おそらく私がトランジスタ・アンプを尊重するようになったのはこの件が大きいと思います。
「ギター・アンプはチューブが良い」 という既成概念が一気に崩れたわけです。

まぁそこらへんの話を熱く語り出すと止まらないのでここでは割愛しますが、
今回修理するアンプはそれの15W版になりますね。

なお、現行の EDITION BLUE シリーズは全て DFX (デジタル・エフェクト搭載)にグレード・アップしているのですが
個人的にはアンプはアナログでなるべく機能が少ないこちらのタイプの方が好みです。


まぁなんだかんだ言ってもこれ、電源すら入らないジャンクなんですけどね(笑




修理の経験を積む材料としてちょうどいいですね。

よほど入手不可能で代替品すら無いような部品があってそれが壊れてるとかでない限りは、直せる自信はあります。

とはいえ、電源すら入らないジャンクです。
ただの ゴミ になる可能性もゼロではありません。 というか現状 ゴミ です。

それでもいいのだ! これはアンプを買うのではない! 中の基板を確認する権利と、修理の経験を買うのだ!



それでは見ていきましょう。

相当なボロです・・・








角にはめる「コーナーガード」が無いところが数か所あります。
「コーナーガード」をはめる部分は干渉しないように意図的に削ってあるようです。




裏面のシャーシーの板を留めるネジが4か所ありません。




ボロ過ぎでしょ・・・




ゴム足も1個ないです。 どうすれば1個だけなくなるんですかね・・・




チャンネルが 「CLEAN」 と 「LEAD」 の2つあります。




LEAD チャンネルに GAIN と MASTER があるのですが、さらに全体の MASTER もあります。




えーと・・・背面パネルがネジがネジ留めではないんですね。 ちょっと外せませんね。
シャーシーのネジが4本無かったのは、「シャーシーを外そうとしたけど外せなかった」 ということなのかも?




仕方なく全面のパネルをスピーカーごと外しました。 そうか、もともとこれは前から開ける仕様なのか。



前回、MarshallのLead12の修理の時に全面のパネルを外していたことで運よくこの発想が浮かんだのですが
今まで 「基板はアンプの背面パネルを外して取り出すものだ。」 という先入観があったので
やはりこういう細かいことも、経験を積むほど身に付くスキルのうちの一つかなと思います。

色々なアンプを修理していると、シャーシーや基板をキャビネットに固定する方法が独特なものがあったりして
意外と勉強になることも多いです。




こんにちは〜




基板が見えました。




よし! スプリング・リバーブのユニットだ! もし直らなくてもこれだけで元が取れちゃいます。




シャーシーを取り外しました。






空っぽの箱です。




サランネットは綺麗なんですね。




スピーカーも綺麗です。 コーンも破れてなさそうです。




基板を外す為につまみやナットを外していきます。



ちなみに私は同じナットでもなるべく 「このナットはここのナット」 として扱いたがる方です。
全く気にしない場合もありますけど。



はい! 基板です! 箱の中で守られていたので全くホコリも無くて綺麗です。

写真の左の方に黒いダイオードが縦に4本並んでいるのが見えます。
ダイオード・ブリッジをディスクリートで形成していることが分かります。私がよくやるタイプの設計です。




とくにレアな部品は無いですねぇ。 汎用オペアンプの4558DDがあります。

一見しただけで、部品番号が若いので入力に近い回路であり、この 4558DD は DRIVE回路であって
D1とD2のダイオードは歪みのクリッピング・ダイオードであることや、
C6 のセラミック・コンデンサはオペアンプの位相補正で−INPUTとOUTPUTの間に入れてるものだなとか
回路図を見なくても手に取るように分かりますよね。




レアな部品が無いというのは魅力に欠けるとも思わなくもないのですが
実はそれは、私が目指しているところでもあります。

どういうことかというと、例えばTS9などの名機って、レアな部品なんか使ってないですよね?
本当に安価な汎用部品なんですよ。

それなのに多くのギタリストに認められて初期モデルにプレミアが付くほどになるというのは
設計が良いからなんですよ。

なので、高価なパーツの仕様であることをアピールしなくても勝負出来るエフェクターを作って初めて
本当に良いエフェクターを作ったことになるという思いがあるのです。アンプもです。

そう考えると、こういうレアな部品が無いような一見するとつまらない基板こそ注目すべきだと思うのです。




ここにも4558DD。




ここにも4558DD・・・って、ここなんか4回路入りオペアンプ1個にすりゃいいのに、まぁコストの関係か。




どこかで見たことがあるような抵抗器ですね。 Lead12 で見ましたねぇ。巻線抵抗器でしょうねぇ。




おっと、出ました先生!! LM1875T です。
これは出力パワーが30Wまで可能な20WのパワーアンプICですね。 現在でも入手は可能です。



これを 「トランジスタ・アンプ」 と呼ぶか 「ICアンプ」 と呼ぶかは考え方次第ですね。
パワーアンプICの中にはトランジスタ等のディスクリート部品が入っているわけですので
私はこれもトランジスタ・アンプと呼んでもいいと思いますけど。

もしくはICとトランジスタをまとめて 「ソリッド・アンプ」 と呼べば間違いないですかね。



トランスです。 どうか無事でいて下さい! これさえ無事ならなんとかなります!
まぁトランスが壊れててもお金さえかければ直りますけど。




コントロールパネルのアクリル板です。 拭いたら綺麗になりました。




電源スイッチです。 私はこれが一番怪しいと睨んでいます。




真っ先にこれを確認します。 コネクターなので簡単に外せました。




導通チェックしたところ、案の定これが原因のようです。
スイッチを ON にしても導通がありません。
そして、使っていない方の端子があってそっちは ON にすると導通があります。

スイッチは、ものによっては製造ラインの共用によって端子の数が同じでもダミーの端子の場合もあります。
例えば端子が4つあっても内部の作り方で2回路1接点の製品と1回路1接点の製品を分けたりします。

この R13-28F というスイッチは2回路1接点という仕組みで、 ON / OFF する回路が2つ入ってます。
一般的には片側の回路で電源のACの配線を ON / OFF するのに使い、
もう片側の回路で電源のパイロットランプを ON / OFF するのに使います。

そして、その片側が壊れていて導通しない状態です。

しかしこのアンプはパイロット・ランプの代わりに LED で BLUE のネオンを光らせているので
片側の端子は使ってないんですね。 LED はDC(直流)なので基板からVccを引っ張ります。


つまり運良く片側の回路が余ってるんですよ。


なので、導通がある方にコネクターを差し替えます。




直りました。 普通に音が出ます。 スイッチを交換しなくて済んだので良かったです。




さて、言う必要性があるので毎回同じことを言ってますが・・・


「へー、こんなのだったら俺でも簡単に直せたなー。」


と思った人ほど修理の経験が浅い人であり、安易に真似をして怪我や事故を起こしやすい人です。

注意しましょう。


手品の種明かしを説明してもらってから 「なぁんだ、簡単じゃん!」 ってなるのは当然ですが
それは、種明かしを説明してもらったからなのです。

修理の経験が浅い人はウンともスンとも言わないアンプを前にして全く原因が見つけられないどころか
今回のアンプのような場合、シャーシーを取り出すことすら出来ない可能性が高いです。


いざ修理に挑戦してみたものの、どうしても原因が分からなくてネットで尋ねる人は多く
そういうのもほとんどが、分かってしまえば簡単なことが原因です。

ジャンクのギターアンプやオーディオアンプは、電源を入れると バン!! っていう爆発音がしたり、
抵抗器がメラメラと燃え始めたりします。
コンセントを抜いていてもテスターを間違えて当てると バチっ!! っと火花が散って黒焦げになったりします。

アンプの修理は危険です。
簡単そうだと思って私の真似をして挑戦してみるのは結構ですが、当方は一切責任を取りませんので。あしからず。



しかし電源が入って音も出ますけども・・・

肝心の青い光が付かないんですね。 これじゃぁ EDITION BLUE とは呼べないでしょう。


4つ角にある LED を個別にチェックしたら、4つのうち1個しか点灯しません。




しかも左右それぞれ2個ずつある LED は直列なので、1個の LED が切れているともう1個も付かないのです。
なので1個だけ生きていても全く点灯しないのです。


手持ちの高輝度青色LEDに交換しましょう。




大きさが違うけど仕方がない。 まぁ光れば大きさは関係ないですし。




装着してこんな感じ。
左側の小さい LED が交換した方で、右側の大きい LED が元々ついてたやつです。




おおぉ!! 小さい方がこんなに明るい!!




そういえば他にも青色LED持ってたな・・・




こっちの方がちょっとだけ大きい。 これにしてみるか・・・




大きさは違うけど明るさは同じ。 だったら4個とも大きい方のこれで統一しよう。





キラーーーーーーーン!!




ちなみに CHANNEL SELECT ボタンを押してない時は CLEAN チャンネルで




CHANNEL SELECT ボタンを押すと LEAD チャンネルになって赤が点灯します。




明るい。




アクリル板の穴が開いてる切り口とかの 「側面」 だけが照らされるのね。 不思議。
この照らす仕組み自体は昔からあった手法だけど、最初に考えた人って凄いよね。




1個だけ足りなかったゴム足は、適当に似たようなやつに4個とも交換します。




裏面のシャーシーを留めるネジは同じものを調達できました。 木ネジじゃなくてトラスネジです。




革がめくれてるのを・・・




貼り付けて直します。





この コーナーガード が5個も足りない。
しかも大きなホムセンで探しても無い!! ネットで Marshall用のとかなら見つかったけど形が全然違う。
中国から似たようなのを取り寄せることは出来るけど、そこまでしなくてもいいや。




前側がこうなってると目立つので




後ろから持ってきてここに付けます。




修理完了!!

修理としては手ごたえ無さ過ぎだったけど、欲しかったアンプが手に入ったので良しとします(笑
これからは研究材料としても活躍してもらいましょう。




さて、音ですが・・・

やっぱり例の重低音サウンドが出ます。

だけど歪みの質そのものは 「あの時の感動した音」 ほど満足する音ではないなぁ。

メタリカ風のバッキングとかだったらこのアンプで直でもまぁまぁいけるけど・・・
やっぱり低音弦がブーミーだったり、高音ポジションの抜けが悪かったりするので
完璧を求めるならやっぱりアンプをクリーンにしてエフェクターで歪ませることになるのかなぁ。

もしかすると、
10年くらい前に楽器店で試奏した HUGHES&KETTNER の大きなコンボは EDITION BLUE じゃなかったのかも?
それとも 60W と 15W の違いかな?



それでもだいたいは記憶の通りの、好みの重低音サウンドが出てます。

今あらためて弾いてみると結局この重低音は 「箱鳴り」 を再現している感じですね。

大型スタック・アンプを相当の音量で弾いた時の音の感じが部屋で弾く音量で再現されています。
それがとても心地良いんですね。

冒頭で述べた 「もう一つのプラスアルファ」 というのは、この 「箱鳴り感」 ではないかと。


ただし、本物の箱鳴りとは別に、いつからか小型アンプで作為的な箱鳴り感を演出する製品が出てきたんですね。
Fender の小型アンプにも 「CAB STYLE」 というつまみがあります。ああいうやつです。
あたかも大型アンプの箱が振動しているかのような音の度合いを調節出来ます。

でもそれは、本当の箱鳴りとは違うので注意も必要だと思います。

クリーン〜クランチとしてもかっこいい箱鳴りの感じの音が出せちゃいますが
この EDITION BLUE における独特の箱鳴りの感じはセッティングでは消せないというか、このアンプの特徴みたいです。
カラっとした乾いた音を出したい人には向いてないでしょう。 そこらへんの好みで評価が分かれるアンプですね。

このアンプは、「あくまでもこれは部屋で箱鳴りを疑似体験しているのだ。」 という認識を持ってないと
実際にスタジオで大音量でのセッティングをする時の感覚が狂うかもしれないな、という気がしました。


私は家で出している音は、それをスタジオで音量を上げた時にどうなるかとかはもう分かってるので
家の部屋では大型スタック・アンプの重低音は出てないというか、出してないんですけど
最近のマルチのデジタル・モデリングとかだと大型スタック・アンプの重低音が部屋で再現されちゃいますよねぇ?
ああいう感じに近い気がしますねぇ。

だからこそ初心者は注意が必要だと感じるわけです。


家で出している音とスタジオで大音量で出す音との、セッティングの違いと音の違いの関係が分かったうえで、
部屋で弾くような音量で大型スタック・アンプの箱鳴りの感じを楽しむ。
ということを理解して使う必要があるアンプだと思いました。


そういう意味では、音作りをする際にまず確認すべき 「ギターの素の音」 を出しづらいアンプだと思いますので
本格的に音作りを学ぶのには向いていないかもしれないですけど

メタリカやジョン・ペトルーシっぽい音が好みで、部屋で楽しんで弾くならとても良いアンプだと思います。
しかし、そうでない人にとっては、このアンプの良さは全く感じられないと思います。

そんなこんなで賛否両論で評価が分かれるアンプだとは思いますが、
デジタル・モデリングでもなく、完全にアナログで、しかもトランジスタ・アンプでこの箱鳴りを再現する設計は
実に興味深いものがあります。

2017.7.1

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