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No.22「YAMAHA / YTA-15 修理」


今回はYAMAHAのギターアンプ「YTA-15」の修理依頼です。

お洒落な梱包ですね!
これは「プラスチックダンボール」とか「プラスチック板」と呼ばれている素材ですね。




まずは経緯を・・・


ヤマハの古いギターアンプYTAを検索していて、当HPにたどり着いたとのことです。
当HPではYTA-95の修理を何台かやって記事をUPしてますので、YTAシリーズということで馴染みがありますね。

依頼主様のお話によりますと、症状は

・普通に音は出ます。一見何ら問題は無いようにも感じます。
・(半年ほど前に、リペアショップで診てもらった時も問題無いと言われました)
・ただ、ちょっとハムノイズが多いと感じるのです。

ということで、完全に治らないにしても軽減できるのか、それともこれが仕様なのか、診てもらいたいとのことでした。

ただ、リペアショップで診てもらっても問題無いと言われたということは
正常だとは思えないノイズが出ているとしても原因を特定するのが相当難しいのかもしれないし、
とりあえず私の頭の中では次のようないくつかのパターンが考えられます。

1.問題が無い可能性。
2.問題があるけれども、原因を見つけるのが著しく困難である可能性。
3.新品の状態と比較しない限り、問題なのかどうかが判断出来ない可能性。
4.依頼主様の家、スタジオ、リペアショップなど、場所や環境によって症状が異なる可能性。
5.「このノイズは異常だ。」と感じるレベルが人それぞれで異なる可能性。

あとはスピーカーとスピーカーケーブルが交換されていて、裏のパネルがオリジナルではないとのことで

6.スピーカーが原因である可能性。

もあり得ます。


YTA-95を修理した時は確かに最初は電源ノイズが出やすいアンプだとは思いましたが
修理後は全くノイズが無かったと思いますし、15Wでハムノイズが出るとは思えないし
とりあえず診てみないと分からないので
恒例の「様々な条件やリスク」を説明し、ご了承頂いたうえで送って頂きました。



それでは見てみましょう!

おぉ〜 YTA-95と同じ雰囲気が漂ってます。




オリジナルではないというバックパネル。 個性的ですね。




シリアルナンバーは5286




スピーカーは EMINENCE の RED CORT です。




YTA-95 と同じ、個性的なつまみ。




シンプルなコントロール。




ここも YTA-95 同様、電源の ON が上と下で切り替えられるタイプ。
コンセントを反対の向きに差し替えるのと同じ効果なので、こういう仕様になっていること自体
このアンプは電源がノイズを拾いやすいものであるということではあります。




ここでギターを繋いで音を出してみます。


あぁ〜・・・・


なるほどなるほど、はいはいはいはい。


確かにこれで 「仕様です」 とは言いたくないノイズですよね。

VOLUMEを絞っても「ザー」とか「サー」というホワイトノイズのようなのが出てまして
さらに、それとは別に常に「ビー」というノイズも出てます。

よくある微かな「ジィー」っていう音とはまた別の、ちょっと気になる「ビー」ですね。
そんなにうるさいわけではないので、気にしなければ気にしないでいいような程度ですが
大型真空管アンプでもないのに、15W程度でこのノイズは普通は出ないかなぁ〜、と思うノイズです。

ん〜・・・難しいところですが、やっぱりこれで 「仕様です」 とは言いたくないレベルです。

「サー」というノイズは今までの YTA-95 の時もあって、それはオーバーホールで消えたはずです。

「ビー」というノイズは、前回の YTA-95 ではトレモロ基板の電圧部分の抵抗器の値がおかしくて出ていて
それは正常な抵抗値にして正しい電圧に直したら止まりましたが、このアンプにはトレモロは無いです。
BLEND っていうのがあるけど、これは関係ないかな。


別のアンプをこのスピーカーに繋いだり、このアンプを別のアンプのスピーカーで鳴らしたり試してみましたが
やはりアンプから出てるノイズのようなので、とりあえずはスピーカーが原因ではなさそうだと判断しました。


基板を見てみます。




古くていかにも 要交換 っていう電解コンデンサがいっぱいあります。




これも気になります。 センタータップ付きの可変抵抗器のセンタータップを使っていません。
YTA-95 の時はこの端子を指で触ると 「ビー」 って鳴りました。




お・・・こっ、これは・・・




YTA-15 はトランジスタ・アンプではなくてICアンプなんですね。 SANYO のオーディオアンプIC、 STK-032 です。

ICアンプだからって、トランジスタ・アンプに比べて音が悪いわけじゃないですよ。
私が Marshall Lead12 と同じくらい優良品だと思っている Fender Sidekick 10 Deluxe もICアンプですし。




トランスの真ん前で配線材をどっさり束ねてるのも気になります。
あとトランスの左側に何かが埋もれてますよね。




電源の平滑コンデンサです。




引っ張り出してみました。

ニチコンの NEGATIVE BLACK (かっこいい名前) 2200uF / 63WV です。
消耗品ですし、寿命により要交換です。 これに負けないかっこいいのを探しますよ。




コンデンサを固定してあるガム(接着剤)を剥がすのが大変そうです・・・




あとはトランジスタですね。 2SC732-BL が1個と、2SC644-Y が4個かな。 全て交換します。








ざっと見てみた感じではトランジスタや電解コンデンサの劣化が一番怪しいですね。

まぁオーバーホールしてもノイズが消えなかったらその時にまた考えます。
消去法でいくしかないですね。



コンデンサ確認シートを作成して、揃えたコンデンサの物理的な大きさや容量が合っているか確認し、
狭くて装着出来ないとか、容量は合ってるけどあまりにも小さいとか、そういうことのないようにします。

電源の平滑用の 2200uF はネットで探して注文しました。この時点ではまだ届いてないので写っていません。




端から順番に交換していきます。 まずはこのへんから。




これは 4.7uF なのですが




実測で 7.4uF あります。 私の経験だと、古いコンデンサはだいたい容量が大きくなってます。




あとこの測定器は ESR も表示されます。
ESR は、コンデンサ内部の抵抗成分を直列等価回路で表した際の等価直列抵抗のことで
数値が小さいほど理想的なのですが、これはあまり古いのと新品での差は出ないようです。

もう一つ 4.7uF があります。 こちらは耐圧 63V です。




実測で 5.6uF です。




他のはニチコンのFGとKZで揃えてますが、耐圧の関係でここだけ ELNA にします。
ELNA の 4.7uF/100V です。




だいたい 4.7uF です。 4.7uF に対して実測 4.511uF ですからその誤差は4%以内です。




大きいのも測定してみましょう。 これは 470uF ですが




実測で 641uF もあります。




それに対して交換するニチコン KZ 470uF の新品は




だいたい 470uF です。




よく「電解コンデンサは劣化すると電解液が蒸発して容量が小さくなる(容量抜け)」
と言われてますが、私の経験では古い電解コンデンサほど容量が大きいです。

ネットでも古い電解コンデンサを測定して同じような結果になったという人をよく見かけます。

中にはその理由として
「昔は精度が悪くて容量が大きかった。それが容量抜けしていないだけではないか。」
という意見もありますが、

どうも私には「劣化して容量が大きくなってしまった。」というイメージしか浮かばないです。



例えば 1uF を測定してみますと




実測で 1.9uF もありますよ。 ほぼ倍です。 誤差でいうと90%ですよ。
いくら昔は精度が悪かったといっても誤差90%はあり得ないと思います。 これ松下ですし。




ちなみにニチコン FG の 1uF の新品は




だいたい 1uF です。




他のも、10uF は




実測で 14uF で




47uF は




実測で 55uF で




220uF は




実測で 273uF でした。






ということでまずはこのへんを交換。




うむ。

このへんを交換しただけでは特にノイズは消えないですね。




まぁオーバーホールを終えてどうなるかですが、
残りのコンデンサとトランジスタを交換すれば 「サー」 は消えると思うんですよね。

でももしかしたら 「ビー」 は他に原因があるような気がしてきたというか
もう他の原因を色々と想定し始めてます。

おそらく心理的に、もし部品を交換してもノイズが消えなかったとしてもあまり落胆しないように
無意識のうちに何かが働いているんだと思います。



ということで、ちょっとのんびりし過ぎましたね。
さっさとオーバーホールを済ませて他の原因を探した方がいいような気がします。

トランジスタはこれだけです。
2SC732-BL はランクを GR にして、2SC644-Y は互換品の 2SC1923-Y にします。




それと整流用ダイオードが焦げてるようで気になったのでテスターでダイオードチェックしたら
一方向にしか順電圧が測れないはずが、両方向に低めの順電圧が出るので交換することにします。




100V / 1A の10D1っぽいです。 取り外してダイオードチェックしたら正常でした。




元に戻してしておきます。


あとは一気に交換します。




こんな感じですね。




基板の方はこれでオーバーホール完了。




この時点でまだ 「ビー」 というノイズは消えていませんが、「サー」 というノイズはかなり軽減されました。

「ビー」 というノイズは部品の劣化以外の箇所に原因があるということが確定したということです。



「これは大変なことになりそうだぞ。」 という不安な気持ちと、
「なんだか面白そうだぞ」 というワクワク感が入り混じります。





そしてここで、電源の平滑コンデンサが届きました。

ニチコンの Super Through 80V 2200uF です。 かっこいいです。




一応測定してみます。 2173uF でした。 ほとんど誤差が無いくらいの良好な数値です。




元のやつは 3000uF 超えてました。
端子に直接刺さらないのでコードを使ってますが、
浮遊容量のせいでは無いことを Super Through でも同じ方法で測定して確認済みです。






怪しいのがこのツインダイオードです。
指を近づけると 「ビー」 という音が大きくなります。 裏側からでないと型番が見えません。




10DC でした。




チューブで保護されていない左右の足が黒こげです。




両側の足から入った交流を直流にして真ん中の足から出力するものです。
耐電圧だけ気を付ければ2本の整流用ダイオードで代用すれば全く同じ働きをします。




これは100V〜400Vまで種類がありますが裏の印字が消えてるので不明です。
が、1N4007は耐圧1000Vなので余裕で大丈夫です。
エフェクターでよく使う1N4002だと耐圧100Vなので場合によっては危険です。安易に真似しないで下さいね。

ちなみに実測で 73V の交流を 49V の直流に変換してますので、一時的使うだけなら耐圧100Vでも大丈夫ですけど
継続的に使うなら耐圧200V以上はあった方がいいですね。 ということで1000Vなら余裕です。



トランスや他の部品との影響を受けている可能性も調べる為に、基板の裏で取り付けて確認します。
クリップで元の 10DC と 代用品 を交換して比較しました。




ちょっとだけ 代用品 の方がノイズが少ないように思えますが、根本的な解決には至りません。

真中の直流 49V にさらにダイオードや抵抗器を介して電圧降下させても変わらないので
足の黒いすすを除去して型番が表向きになるように取り付けて、元に戻しました。




原因は他にありますね。



基板を追って確認していくとこのようになってます。 回路図が無いので電圧は全て実測です。




この時点で、0V 〜 +26.5V 〜 +49V の3種類の電源電圧が用意されています。



トランスはこのようになっています。
一次側は8本ある線のうち、使っているのは2本だけです。




この束になっていた配線材が、トランスの一次側の未使用のものです。
置き場所によっては 「ブーン」 というハムノイズが出ますが、元の場所なら大丈夫でした。
まぁよほど基板の中の特定の部品に近づけない限りは大丈夫です。






で・・・

このパワーアンプICなんですけど




2電源(両電源)仕様で、最大電源電圧が ±32V で推奨電源電圧が ±24V なんですね。

−24V 〜 0V 〜 +24V の電源で使うことを推奨しています。




その両電源をトランスのセンタータップの 0V をGNDにして整流して −37.8V 〜 0V 〜 +37.8V にせず
ツインダイオードで整流して 49V を作って、(センタータップ型全波整流)
それとは別に 21.5V をダイオード1本で半波整流して 26.5V を用意してますので

実際に用意した 0V 〜 +26.5V 〜 +49V の電源の真ん中の 26.5V を「仮想 0V 」としてみなしていて
正側と負側の誤差を無視すると、見かけ上 −26.5V 〜 0V 〜 +26.5V ということになっているのです。

エフェクターで 9V の単電源を半分の 4.5V + 4.5V に分圧してオペアンプを両電源として使うのと同じです。
本物の両電源の場合は 0V をシャーシーに落としますが、あくまでもシャーシーは 0V を保たなければなりませんので
「仮想 0V 」の 26.5V はシャーシーには落とせません。

さらに、シャーシーのいくつかのポイントと基板のいくつかのGNDのポイントが全て0Vとは限らないのです。
実際には理屈ではGNDで繋がってるのでGND同士ならあっちもこっちも 0V のはずが、
例えば配線材などによって微妙な電位差が生じてることがあって、 0.03V とかになっちゃったりするんですね。

そういう電位差の生じているGND同士を繋いでしまうと、「ビー」 って鳴ったりします。
実際にこのアンプも 0V 同士であるGNDとシャーシーを繋ぐと今の 「ビー」 がさらに大きくます。

なので、繋ぐべきではないGND同士が繋がっているのではないかということでかなりチェックしたのですが
セオリー通りの配線になってて問題はありませんでした。



次に気になるのはこのパワーアンプICの最大電源電圧が ±32V のところ、±26.5V になってるので
定格は守られているのですが、負側が +26.5V で、正側が −22.5V というアンバランスが生じているのと
推奨電源電圧の ±24V よりも 2.5V 大きいのが気になります。

「 0V 〜 +26.5V 〜 +49V 」← 実測でこのようになっている真ん中を 0V とみなして置き換えると

「 −26.5V 〜 0V 〜 +22.5V 」← このようになるということです。

ブリッジ型全波整流回路を採用していないことで、負側と正側でアンバランスが生じているのです。


そこで、 +26.5V に整流しているダイオードを一度外して抵抗器を追加して電圧を下げてみました。




これですね。 さっきも外した気がする・・・




外したついでに新品の1N4007に交換しておきます。




結果、電圧自体は多少上下させてもノイズとは無関係でした。

これはこれで問題なのですが、今はノイズの原因を探しているのでこの問題はスルーします。



気分転換を兼ねて、同じICアンプの Fender Sidekick Revarb 10 の電源のリップル電圧と比べてみます。
ノイズの出ないリップルとノイズの出るリップルで違いがあるかどうかを見てみるということです。




リップル電圧というのは、交流をダイオードとコンデンサで直流に変換した時に
整流しきれずに残ってしまって僅かな交流になってしまうことで生じる電位差のことです。




リップル電圧の波形です。 波形から縦の線が出るようなスパイクノイズ等は見当たりません。




続いてYTA-15も見てみます。




余談ですが、肉眼ではちゃんと波形が見えてるんですけど、写真に撮ると途切れて写ります




実際には見えているので問題ないのですが、CRT画面(ブラウン管)だからですね。波形にもよります。




ハンディタイプの液晶画面なら写真には写りますが、設定可能範囲がヘボ過ぎてあまり役に立ちません。




こっちだと先ほどの Fender Sidekick Revarb 10 のリップル電圧は細かくて見えないですね。
まぁそれは写真で撮った時の写り方の話なのでどうでもいいとして・・・

山の形がギザギザなのは周波数の切り替えでギュっと詰めて投影してるので目立ってるのですが
問題はそこではなく、YTA-15は使用電圧が高いのと整流回路のせいでリップル電圧も高く、
Sidekick の 3mV に対して 100mV あります。

整流しきれてない部分が大きいということです。

分かりやすく解説します。 電圧は縦方向の目盛りで見ます。

Sidekick のリップル電圧は DIV = 2mA(1マスが2mAということ)で1マス半だから 3mV で
YTA-15 のリップル電圧はアナログオシロで DIV = 50mV が2マスだから 100mV ということです。
(ハンディオシロも DIV = 0.1V(100mV) で1マスなので 100mV ということです。)


ハンディオシロの方では先ほどの Fender Sidekick Revarb 10 のリップル電圧が細かくて見えないのは
このハンディオシロはヘボいので DIV の切り替えが 1V と 0.1V(100mV) の2つしかないからです。
アナログオシロの方は 5V 〜 1mV まで12段階に切り替えられるので、3mV を観測できるということです。


さて・・・

特にスパイクノイズ等は見当たらないのですが、リップル電圧が高いと 「ジー」 というノイズが出ます。

正常なアンプでも電源を入れると 「ジー」 って鳴ったり、蛍光灯も 「ジー」 って鳴ります。
それらはリップル電圧による音です。

交流を直流に整流した時に、完全な直流になりきれず、交流成分が残ってしまうということです。


これが大きいことで 「ビー」 と鳴っている、ということは考えられますが、


できればもっと明確な不具合による原因を探したいので、まだまだ他の箇所も隈なく入念に調べます。



基板の裏に気になるところを発見しました。 (まぁ気になるところだらけなんですけれども。)

「TP+」と「TP−」ってあるのは、そこにテスターを当ててチェックする「Test Point」です。




回路を追ってみると、リバーブのドライブ回路へ供給する電圧を調整しているところですね。

整流されて +26.5V になったあと、150Ω で +13.3V にされて 47Ω で +12.8V にされてます。




電圧を測定するだけなら TP を +と− に区別する必要はないので、電流を測定して抵抗値を決めるのか
それとも単に、2つの測定ポイントのどちらが電圧の高い方なのかを示しているのかはあれですが
とにかく大事な電圧なのでしょう。

余談ですがここで一つの謎が解けました。

セメント抵抗が2つ並んでいるのですが、
ICアンプなのにエミッタ抵抗があってしかも抵抗値が 150Ω と 180Ω なのが謎だったんですけど
エミッタ抵抗じゃなかったわけです。紛らわしいでしょこれ(笑




話を元に戻して・・・

ただ、YTA-95もリバーブ回路で AN274 を使ってましたが、その電源電圧は 12V だったので
12.8V だとYTA-95よりはちょっと高くなっています。

また、データシートによると最大定格は 16V なので守られてますが、
データシート上の主要特性は電源電圧 10V で測定されていますので気になります。




なので、470Ω の抵抗器を外して




可変抵抗器を取り付けて、12V になるように合わせます。




105Ω だと 12V になります。




しかし 10V まで下げてもリバーブのかかりが弱くなるだけでノイズは消えません。



でももう一つこのリバーブ回路で気になるところがありました。

上の回路図で AN274 の入力バイアス電圧を 56k と 47k で分圧して作ってますが
YTA-95ではここが 120kと 100k で分圧してあったんです。

比率としてはどちらも 1.2 : 1 なので電位は同じですが、抵抗が少ない方が大きな電流が流れます。


ということで


56k と 47k を外して 120kと 100k に交換。




それでもノイズは消えません。

交換した抵抗器を全て元に戻します。



うーむ。

リバーブは増幅器なので怪しいのです。 徹底的に調べます。

リバーブユニットの IN 側の端子間抵抗値を測定すると 2.4Ω で




OUT 側の端子間抵抗値を測定すると 100Ω でした。




端子間はコイルで繋がっているから導通があるわけですが、
IN より OUT の方が抵抗値が大きいのは普通なので問題はなさそうです。





今度は思い切ってリバーブをキャンセルしてみます。

リバーブ回路を通さなかった時に 「ビー」 が止まれば、リバーブが原因だということになります。
逆に 「ビー」 が止まらない場合はリバーブが原因ではないことが確定します。


AN274 の入力部分とリバーブユニットのOUTから帰ってきたところのコンデンサを外して




短絡させます。




しかしノイズは消えません。


リバーブユニット本体と、AN274 によるリバーブのドライブ回路は原因ではないことが確定しました。

っていうか、この状態でリバーブのつまみを回すとリバーブがかからないまま増幅されます。

リバーブユニットのOUTから帰ってきたところにもトランジスタ1石の増幅回路がありまして
これでリバーブのかかりの強さを調節してます。 ここまでを含めてリバーブ回路なのです。



ということで今度はそのトランジスタ1石の増幅回路の、増幅度を弱めてみます。
エミッタ抵抗の 220Ω を大きくすると増幅度が小さくなります。




こんな感じでエミッタ抵抗の値を調節出来るようにしました。






まぁアレですね・・・

単にリバーブの効きが弱くなるだけでノイズは減らないですし、REVERBのつまみで調節するのと同じですね。



なので、この増幅回路を丸ごとキャンセルします。

これは基板裏のパターンのレイアウトの配線図です。
E、C、B、というのがトランジスタで、1uF と 0.1uF を除去して短絡させます。




こうですね。




これでも 「ビー」 は消えません。

短絡させずに開放したままでも変わらないですね。
ただ、短絡させると REVERB のつまみが効いて弱くかかります。

可変抵抗器だけならもう関係ないなと思ったのですが
よく見ると、REVERB の可変抵抗器から FOOT SW のジャックにも繋がっていました。

うーむ。




FOOT SW のジャックにフットスイッチを繋げば足元でリバーブの ON / OFF が出来るわけですが
スイッチで信号線(HOT)をGNDに接触させるか否かというだけのことで
GNDに接触させると REVERB の音量を絞りきった状態になるから OFF になるということが分かりますね。


さらに、100kΩの抵抗器を外すだけで FOOT SW を含む OUT 側の回路全体が切り離されることが分かります。



しかし、100kΩの抵抗器を外して回路全体を切り離しても 「ビー」 は消えませんでした。



つまり、もう本当にリバーブの回路には原因が無いということです。



これ以上リバーブを疑う必要が無くなったので良かったとも言えます。

ちなみにスプリングがたるんでいるからか昔のリバーブはみんなそうなのか
効きが強すぎてつまみが 1 か 2 くらいでもビチャビチャし過ぎてしまうので
コントロールし易くなるように効きを抑える方向に調節しておきました。

それでもつまみを半分以上にまで回せば効き過ぎるくらいにビチャビチャするので
効きを抑え過ぎということはないと思います。


そういえば何年も前ですけど、100円ショップでプラスチックのオモチャのマイクがあって
マイクの中にスプリングが張ってあるだけなんですけど、ちゃんとエコーがかかるんですよ。

電池も要らないのにアナログで凄い仕組みだなって思いました。

うちにあったんですけどどっかいっちゃいました。 また欲しい・・・



ここでまた気分転換に発想を変えて違うことをしてみます。

このへんに手を入れると、どこにも触れてなくても 「ビー」 が大きくなるんですよ。




このアンプの基板って四方八方がガラ空きでシールドされてないですよね。


そこで・・・


紙で筒を作って片側を塞ぎ、アルミホイルを巻いて・・・




その上からまた紙を巻いて絶縁して・・・




怪しいところをあちこちシールドしてみます。




怪しかったところに被せても変わらないし、場所によってはこれを近づけるとハムノイズが大きくなります。
結局何もしない方が一番良いようです。


ちなみにこの辺はパワーアンプICの入力部分の回路があるところです。

ここは回路的にチェックするとして、でもその前にプリアンプに問題が無いかどうかを確認します。



まず、VOLUME の可変抵抗器の3番端子に一番近いBLEND 側の部品を除去して回路を切り離します。
(先ほどの REVERB の OUT 側の回路図を参照)

VOLUME の可変抵抗器の3番端子に一番近いのは BLEND の可変抵抗器からの配線材でした。
この線を外します。




さらに、先ほど REVERB 回路を切り離した時と同じように100kΩの抵抗器も除去して
INPUT のHIGH と LOW の後にある 0.047uF を除去して INPUT の 68kΩ とVOLUME の3番端子を短絡させると
プリアンプが全てスルーされて、VOLUME とパワーアンプだけになります。




BASS、TREBLE、BLEND、REVERB、を全て取り払った状態です。

VOLUME は可変抵抗器1つだけで機能しているので残します。
VOLUME も取り払ってしまうと電源 ON で最大音量になったまま音量調節が出来なくなります。


この状態でも 「ビー」 というノイズは消えませんでした。

つまり、疑う場所として残されたのはパワーアンプ回路だけということになります。



ここらで気分転換を兼ねて可変抵抗器のガリを取ります。

前面パネルの全面パネル(?)を外します。




知恵の輪みたいになってました。




カーボンで真っ黒です。
特に TREBLE と REVERB のガリが酷かったのですが、BLEND 以外全てやっておきました。




はい気分転換おわり。



パワーアンプ回路自体はパワーアンプICの STK-032 で処理されていて pin8 が IN です。
その pin8 の前の入力部分を基板の裏から見るとこうなっているのですが




まずは右上の方に 680kΩ の抵抗器があるのですが、そこが実測で 47kΩ しかないんですね。

あれ? と思って合成抵抗がどうなっているか計算してみると・・・

トランジスタの B - C 間が実測で57kΩ。

57kΩ + 1kΩ + 10kΩ = 68kΩ。

1 ÷( 1/680kΩ + 1/68kΩ )= 1 ÷( 0.00000147Ω + 0.00001471Ω )= 61.8kΩ。

こんなもんなんですね。

回路図にしてみると典型的なトランジスタのバイアス部分でした。



それよりも、あまり見かけない回路になっている部分がありました。(赤線で囲った部分)




この赤線で囲った部分が無ければ一般的なトランジスタ回路です。

そしてこの回路付近に手を近づけると 「ビー」 という音が大きくなります。



電圧を測ると、4.7uFの後が +24V もありました。
STK-032 の入力に行くところです。

普通は無音状態ならパワーアンプ回路の入力部分って直流電圧が 0V 程度なんですよ。
で、音が鳴るとその分だけ交流電圧が出て来ます。

例えば Fender Sidekick 10 Deluxe は 1.4V で、Marshall Lead12 は 0V でした。


何故 +24V もあるのかよく考えてみたら、仮想 0V の+26.5V に動作点を寄せているんですね。
その為に赤線で囲った部分の回路があるのです。

つまり、赤線で囲った部分が無ければ動作点がGNDになってしまい、音が出なくなります。

実際に +49V からのダイオードを外してみたら音が出なくなりました。

どういうことかというと、普通は無音状態なら音声信号の通り道は 0V なのですが
このアンプは無音状態の音声信号の通り道が +24V になっています。

パワーアンプICの STK-032 から見ると、仮想 0V なので 0V なのですが、実際は +24V なのです。

電気を帯びていることでノイズを誘引して 「ビー」 って鳴ってる感じで
回路自体には不具合は無いんです。



故障でも不具合でもなくて、

・ 0V 〜 +26.5V 〜 +49V の +26.5V を仮想 0V として両電源にしていること。
・ +26.5V と +49V を別々に整流していて正負のバランスが崩れていること。
・センタータップ型全波整流回路と半波波整流回路を採用していてリップル電圧が大きいこと。
・トランスと入力回路が近い場所にあること。(トランスと入力は離すのがセオリーです。)

などの要因が重なっている結果だと思います。



ということで、この 「ビー」 は故障や不良ではなくて、仕様ということです。



「ビー というのは仕様である」という結論は、このアンプを「問題ない」と判断したリペアショップと似てますが

この時点で「サー」というノイズはもう消えているので
それは古いアンプによくあるトランジスタやコンデンサの劣化によるものだったということですし

個人的には「問題ない」というよりは、「問題があるけどこういう仕様である」ということだと思います。



いくら仕様だとはいってもこの 「ビー」 というノイズは気になるので
改造というか改良というか、手を加えてこの 「ビー」 というノイズを軽減させてみます。

上のパワーアンプの入力回路で、トランジスタ回路の出力部分(STK-032 の直前)に 0.0012uF があります。
これはラジオの音声などの高周波が侵入することを防ぐ為のもので、高周波をGNDに捨てています。
これと並列に電解コンデンサを挿入して、低周波の 「ビー」 をGNDに捨てます。

実際に取り付けてみると、0.47uF だと効き過ぎて 「ビー」 が消える代わりにハイ落ちが酷くてNG。
0.22uF だと 「ビー」 もかなり消えるけどハイ落ちがまだ大きいですね。
0.1uF だと少しは 「ビー」 も抑えられて許容範囲になり、ハイ落ちはしますが逆に YTA-95 っぽくなったかなと。


この改造をするかしないかは依頼主様に決めて頂くということで
これまでの説明をして、この改造をする承諾を得て、0.1uF を取り付けて終了です。




お疲れ様でした。




終わってから思い返してみると、
このトランスでもブリッジ型の整流をすればバランスの良い −37V と +37V の両電源が取れるのだから
それを STK-032 用に ±24V まで落とせばそれでいいと思うんですけどね。

あとは結果的に 「ビー」 というのは仕様であるという結論を出すまでには、かなり時間がかかったと思います。
リペアショップの判断も、ハンダ付けをやり直した形跡が無かったことから考えると
「サー」 というノイズをも「問題なし」と判断したことを大目に見れば
「ビー」というノイズを「問題なし」と判断したのはやはり経験からくる勘なのかなと思いました。

私は独自のやり方で回路を切り分けて検査するという手法が確実に診断できるので良いと思うのですが
あまりハンダ付けされた部品を何か所も外して検査しないと診断出来ないというのもどうなんだろう?と、
診断の方法も改善の余地があるだろうなという感じもしました。

あとはやっぱり、ソリッドアンプは楽しいですね。
時代によって回路も違うじゃないですか。

昔の基板をじってると、タイムマシンに乗って過去を旅している気分になるんですよ(笑

2017.10.24



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