ギターダー
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No.23「Marshall / VALVESTATE 20 Model 8020 修理」


ハードオフのジャンクコーナーにてMarshallのVALVESTATE 20 Model 8020を発見しまして
これはLead12の後継機種で英国製ソリッドということで以前から気にはなっていたんです。

値段はジャンクとしては微妙な4,320円でしたが、まぁ相場の半分かそれ以下ですし
Lead12の後継機種ということでコレクションとして持っててもいいかな? ということで購入しました。




これの上位機種でVALVESTATE 40 やVALVESTATE 2000 AVT20 とかになるとプリチューブになるんですけど
それだと逆にフルチューブの方が良いってことになっちゃって個人的には魅力が半減しちゃうのね。
べつにプリチューブが良くないっていうわけじゃないんですよ。 私の 個人的な興味 の問題です。
「Marshallのソリッドステート」というところに興味が沸くんですよねー。




はい、裏。




初期のシリアルナンバーはLead12の最終型と同じようにZシリアルの刻印があったようですが
これは刻印ではなくてバーコードシリアルになってます。
94から始まってるので94年製です。




スピーカーはLead12と同じで SELESTION の G10D-25 です。





音を出してみたら、基本的にガサガサ、バリバリ鳴るだけで
小型のラジオのようなか細くてスカスカの音が出たり、急に爆音が鳴り響いたりします。

専門的な言葉でいうと・・・壊れてますね。

普通の人なら捨てるレベルです。



基板を見てみましょう。



基板のユニットを取り外すのにどえらい苦労しました。
天井のネジ4つを外して後ろから引っ張り出すだけなのに
どうにもこうにも角の方が奥で何かに引っかかってて外せなかったんです。

もう外すのは無理だと、諦めそうになりました。

何か部品が引っかかっていて物理的に箱を壊さないと外せない仕組みかと思うくらいで
苦労の末、やっと外せたのですが・・・1か所ネジのところが本体にくっついて固着してました。
本体の内側の木が剥がれてこびり付いてます。




アンプなんて壊れたら直す気もなく買い替える人の方が多いと思いますが
これは基板を取り出せなくて修理を諦めた可能性もあるなぁ、とも思いました。


なんとか取り外せて良かったです。





何百年もの間、誰にも荒らされることなく閉ざされた空間だったので内部は綺麗です。




基板の素材や質感は Lead12 の初期や中期に似ていますね。
ただし、部品は後期のような感じで
見た目が「おぉっ!」という感じの高級そうなコンデンサや抵抗器はありません。



なんとなくですが、Lead12 の頃はまだ大型アンプの製造現場の片隅で生産していたから
部品も耐圧の大きい立派なものを共用で使っていたのではないかと思うんですよ。
つまり豪華な部品だったというよりはただ単に無駄にオーバースペックだっただけっていうね。

それが、Lead12 の後期あたりから小型アンプの部門が出来たのだと思うんですよ。
だから部品も小型アンプ用を揃えるようになって無駄がなくなったんだなと。
それはそれで、「小型アンプにも力を入れていく」というMarshall社の方針の表れだと思うんですよね。

もうね、完全に憶測ですけど(笑



LEDが2個並んでるからって何でもかんでもダイオードクリップだと決めつけるのもアレですが
これはダイオードクリップです。 そういえば Marshall は The Guv'nor もダイオードクリップがLEDですね。

このLEDは光らせるのが目的ではないのですが、弾いてない時は消えていて、強く弾くほど明るく光ります。
基板の中に隠れてるのがもったいないです。




オペアンプが4つあります。


5201A と印字されてるのはスイッチオペアンプの M5201A ですね。
4558系の汎用2回路入りオペアンプとは違うものなので互換性はありません。




これはLF353N です。 J-FET入力の汎用2回路入りオペアンプです。
同じJ-FET入力の TL072 や TL082 などと互換性があります。




M5201A がもう一つあって




これは MC1458N 汎用2回路入りオペアンプです。
Lead12 では NC1458CP1 が使われてましたよね。




これはリバーブ。 カバーが付いてます。




スプリングリバーブ。




はい、MADE IN ENGLAND。




そしていよいよ・・・
トランジスタアンプと呼ばずにあえて「ソリッド」と言ってきた理由が明らかにっ!


パワーアンプICの・・・何だこれは。型番が見えん・・・




鉄の固定バンドですねぇ。傷が付いちゃいそう。




パワーアンプIC、LM1875Tです。

まぁICの中身はトランジスタ回路なのでトランジスタアンプということでもいいんですけど
厳密に分類するとICアンプですね。




私は昔はICアンプって簡易的なオモチャのアンプみたいなイメージだったんですけど
ずっとトランジスタアンプだと思っていた Fender Sidekick 10 Deluxe がICアンプだったと知ってから
「重要なのは素子(真空管やトランジスタやIC)じゃなくて設計だ」と、イメージがガラっと変わって
ICアンプに対して偏見を持たないように意識するようになりました。

ただし、ICアンプにはショボいものが多いということは否定出来ません。



さて、修理を始めます。

症状からするとつまみのガリですので、まずは全てのつまみを分解・クリーニングしてガリを取ります。



汚い・・・




汚い汚い。




筆と掃除機でここまで綺麗になりました。

っていうか先生、つまみ8個のうち3個もナットが付いていませんでした。




まぁナットならあるので問題なし。





<< 追記 >>
(後から知ったのですが、全てにナットが付いていない状態がデフォルトのようです。)



配線が短いから「よいしょ」って出すのが大変・・・

中のパネルに留めるナットも別にあるわけです。こっちは全部ありました。




パターン面




可変抵抗器を外しました。




Lead12用と比べると小さいです。






うーむ。
端子が錆びて黒くなってる。 接点復活剤でクリーニングします。




ガリが取れたことをチェックしてから取り付けます。




この長穴のシステムは良いですね。取り外しもし易いし、固定してからハンダ付けが出来ます。




全てのガリ取りが終わりました。




さてどうなるか。




洗剤でジャブジャブ洗ったつまみを取り付けて




完成です。

ガリを取っただけで直りました。




Lead12 に比べると、機能的には色々と進化しているんですよ。

NORMAL CHANNEL とBOOST CHANNEL が分かれていてフットスイッチで切り替えられるし
CONTOUR っていうつまみで箱鳴りのような音にもなるし PRESENCE も付いてるし
歪みも Lead12 よりも使い易くなってると思います。




まぁ一般的な HM/HR あたりをやる分にはとりあえずは困らないと思いますし
Marshall社としての 「自宅用小型ソリッドアンプを本格的に普及させよう」 という意思が感じられます。


ただし、これは中途半端だと思うんですよ。
CONTOUR や PRESENCE を付けるよりも、やっぱり TREBLE、MIDDLE、BASS、の3バンドが欲しかった。

でも頑張ってるのが伝わってくるんです。

あの大型真空管アンプの大御所である天下の Marshall が、何とかして使える自宅用小型ソリッドアンプを創ろうと
必死に頑張ってるのがひしひしと伝わってくるんですね。

これが後の、デジタルエフェクトを搭載した MGシリーズへと進化していくわけですよ。
つまりこれは、幼虫から成虫になる途中の、蛹(さなぎ)なんです。


「じゃぁMGシリーズは完全なのか?」 っていうと、オモチャっぽくなっちゃったりして・・・
(そのへんはまたあとでお話しますが・・・)


とにかく VALVESTATE はまだ完全じゃないんですよ。

完全じゃないから、これだとエフェクターを使った方が良いと思ってしまうんです。

個人的には、この不完全なところが、逆にコレクションとしての価値があるな、と(笑

「優秀な商品としての価値」ではなくて、「Marshall社が試行錯誤している形跡が見られる」という意味で。



なんか色々と思うことがあるんですよね。

例えば、さっきの 「じゃぁMGシリーズは完全なのか?」 っていう話。

少なくともデジタルエフェクトが装備されているからエフェクターは要らないでしょ。
そういう意味では完成されてると思うんですね。

ただそれがギターアンプとして完璧で優秀かどうかは別の話ですよね。


JCM800 だって、不完全だったわけですよ。
私なんかJCM800 をクリーンにセッティングしてエフェクターで歪ませてたし、
当時のギターヒーロー達だってMarshallの歪みが不満だったからMXRのDistortion+とか繋いでたわけですよ。
プロなんかMarshallを改造するのも当たり前でしたよね。オリジナルの音じゃ不満だったわけですよ。

Lead12 なんかはがそういうところもJCM800っぽかったわけで、
もちろん当時JCM800をアンプ直で使ってたバンドのコピーをするならLead12でアンプ直でいいんですけど
あくまでもヘヴィなサウンドを出すことを前提としての話だと
エフェクターでブーストさせるか、クリーンにしてエフェクターで歪ませる方が良い音になります。


それが、現在のMarshallはどうかというと、大型真空管アンプもエフェクター要らないですよね。
プロの声もアマの声も反映させて進化したので、エフェクターが要らなくなったわけですよ。
そしたらそしたで、大型真空管アンプもなんだかオモチャみたいになってくるわけですよ。

せっかく進化したのに、やっぱりヴィンテージが本物だ。ヴィンテージが良いってことになるわけですよ。


まぁこういう話は人それぞれの意見があると思います。
自分でも、自分の考えが正しいかどうかは分かりません・・・

ただ一つ言えることは、
Charさんが言っていた「俺はどんな初めてのアンプでも5分あれば自分の音が作れる。」というのは
ギタリストにとって大事なことなんじゃないかと思うのです。


Marshall VALVESTATE 20 アンプの歪みとDS-1の歪み 動画



2017.10.28

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