ギターダー
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No.25「YAMAHA / CA-X1 修理 5台目」


当HPではすっかりお馴染みのYAMAHAのパワーアンプ「CA-X1」の修理依頼です。

CA-X1の修理はこれで5台目になります。



中を見てみましょう。




こっ、これは・・・ナスカの地上絵ですね! 5台目にして初めて見る仕様です。




今まで見てきた4台はこんな感じで、ナスカの地上絵は描かれていませんでした。




っていうか・・・

近くで見ると凄い雪景色です・・・ かなりホコリが積もってます。




パワートランジスタの裏側




パワートランジスタ・・・ 積もってますねぇ・・・




前の所有者はTUNERだけ使ってたんですね。




ナスカの地上絵はいつ頃描かれたのか?

シリアルNoが25617で、検品が岡本さん。




私のは12960で、なんと検品が同じ岡本さん(笑




4台目が102199でしたので、私のやつの後に描かれてから消されたことになりますね。




さて、依頼主様によると・・・

・オークションにて購入。
・電源は入ります。
・VUメーター照明は、点灯したり、消えたりしますが
 オリジナルのライトが好きなので、このライトを活かしたいと思います。
・後の状態は未確認です。

とのことです。

オークションの場合、「動作未確認」=「動作しない」 ということだと思うことにしているので
完全なジャンクを修理する覚悟で挑みます。



ではいきます。

ショートを防ぐ為に、電源を入れる前に筆と掃除機を使ってホコリを取り除きます。




ホコリを取り除くだけでも見た目がだいぶ変わりますね。



レコード・プレイヤーを繋いで電源オォォーーン!!




・・・。



何も鳴りません・・・


接触不良を疑ってあちこち手でグラグラ動かしてみます。


しばらく探っていくと、まずBALANCEのつまみを動かした時に一瞬音が出る箇所がありました。
ガリが酷いというか、
ほぼ全域が接触不良の状態で、2か所くらい「点」の位置で音が出るポイントがあります。



とりあえず 「音は出る」 ということが確認出来ました。 大きな収穫です。


他にも基板のあちこちで接触不良があるという状態です。

まぁ電解コンデンサも年数劣化で要交換ですし、オーバーホールですね。

あとはLOUDNESSのつまみがスルスルと空回りしてしまいます。




これはつまみの中のギザギザの樹脂の部品が剥がれてしまっているだけなので接着しておきます。




ちなみにこの軸の動きが固いのは他の個体も同じですので仕様ですね。


あと 「VUメーター照明は、点灯したり、消えたりします」 とのことでしたが
何度チェックしても全く点灯しません。

これは配線の絶縁処理の甘さから判断するに、交換か付け直しされてますね。




電圧を測定するとトランスは生きているのですが、麦球のところには電圧がきていません。

とりあえず乾電池を繋いで確認してみると、球は切れていないようです。




両方とも、球切れではないことは確認できました。 球切れではないけど点灯しないという状態。




基板の入り口まではちゃんと電圧が来ているんですけどね。
テスターで配線材をチェックしても断線もしていません。

この麦球はヒューズを通っているのですが、ヒューズも切れていません。


球切れでもない。断線でもない。基板には電圧が来ている。でも麦球のところには電圧が来ていない。



現在、深夜2時・・・



誰も居ないはずの部屋で、白い服を着た長い髪の女が スーっ と移動するのが見えたような・・・



それではもう一度ご覧頂こう・・・



球切れでもない。断線でもない。基板には電圧が来ている。でも麦球のところには電圧が来ていない。



お分かり頂けただろうか・・・ 我々の常識を超えた・・・ そう、超常現象です。



ちょっと厄介な気がしてきましたので後回しに・・・



とりあえず基板を観察してみます。 すると真っ先にこのトランジスタに目が行きました。

「おーい!ここだ、ここだ!!」 と言わんばかりに型番をこっちに向けていますよね?

2SC1313です。




ここは今まで修理した4台とも2SC1918でしたよ?

まぁ隣が2SD234なのはいいとして・・・
今まで2SC1918だったところが3つとも2SC1313で、2SA573だったところが2SA726になっています。

しかも端子配列が普通の E-C-B に対してこれらは B-C-E なので逆向きに取り付けられています。
基板に印刷されているトランジスタの形のマークの向きと合っていません。




参考までに今までのCA-X1のオリジナルの基板を見てみましょう。 これがオリジナルの向きです。




えーと・・・ややこしいかもしれませんが、向きが間違っているわけではないのです。

オリジナルの設計に対して異なる端子配列のトランジスタを使っているから向きが逆になっているだけで
これ自体が不具合というわけではありません。

ただし、今まで見てきた4台とは違いますね。


こっ、これは・・・

ナスカの地上絵基板というだけではなくて、トランジスタまで今までと異なる仕様なのか!!


しかも・・・


2SC1509のはずのところが2SC1212Aで、




2SA777のはずのところが2SA743Aで、




2SC1918のはずのところは先ほどの2SC1313の他にも2SC2320になってるところもあります。




おっと、ここもか。

2SA763のはずのところが2SA970になっています。




つまり、ほとんど全てのトランジスタが今までと違うということです。
しかも私が今まで代替品として選んだものとも全て異なりますね。

エミッタ電圧を測定してみると左が9.8mVで、右が11.7mVですので
左右で多少の誤差はありますがまぁ安定しているとは思います。

ぶっちゃけた話、NPNかPNPかということと最大定格さえ合っていればOKみたいなところもありますしね。
私はもうちょっと細かくデータシートを見て選定しますけども・・・



しかしちょっと気になる箇所がありました。

1か所だけ、今までのオリジナルと同じ2SC1918なんですよ。




ただし今回オーバーホールしますので、結局これらは全て私が選んだ代替品の新品に交換します。


まぁその方が確実ですし。


ちなみにパワートランジスタは今までと同じ2SC1403と2SA745のコンプリメンタリペアです。




左右なのでもう一組。 これは貴重なのでよほど不良でない限り交換しません。





では今度は基板のハンダ面を見てみましょう。




こっ、これは・・・ ハンダが割れて浮いてしまっているではないかっ!!




向きを変えてみます。 これは酷い。

ハンダどころかプリントパターンの銅箔が剥がれてしまっています。




部品面を見てみると・・・ おおぉぉおぉっ!!

先生! 発見しましたっ!! 抵抗器が真っ黒に焦げてます!!

これはメラメラと燃えて煙もかなり出たはずです。




この抵抗器はL2とL4の配線に直接繋がっていて、VUメーターの麦球に流す電流を調節する為にあります。
うちのCA-X1を見ると2本とも56Ωですね。




9Vの乾電池で点灯させた時には39Ωで丁度いい明るさになったので、14Vのここは56Ωで納得です。
これが、ランプが点灯しない原因ですね。 2本の抵抗器を交換して直しましょう。

とりあえず原因が分かった良かったです。



それだけではありません。


工場出荷時の状態とは思えないイモはんだ発見。




イモはんだと、明らかに誰かによって交換された痕跡・・・全てトランジスタの箇所です。




トランジスタでもオリジナルの状態の箇所もあります。



これらの痕跡から・・・


・2SB560、2SD234 は今までと同じ。

・2SC1212A(5個)はメーカー出荷時の状態なので今までにない仕様。(今までは2SC1509だった)

・2SA573、2SA763(4個)、2SA777(2個)、2SC1918(9個)はオリジナルではなく、交換されている。
 (2SA573→2SA726、2SA763→2SA970、2SA777→2SA743A、2SC1918→2SC1313と2SC2320)


ということが分かりました。

1か所だけ今までのオリジナルと同じ2SC1918だった謎が解けました。
メーカー出荷時はもともと2SC1918だったということです。
1か所だけ奥にあって交換しづらかったから諦めたか、交換し忘れたのだと思います。

プリントパターンが無事ならいいのですが、もしパターンが剥がれても修復出来ますので
まぁなんとか大丈夫でしょう。

基板を見ただけでも色々なことが判断出来る、ということが分かりますよね。



ではまず黒焦げの抵抗器を交換して、プリントパターンの剥がれを修復してしまいましょう。

抵抗器を外して周辺の油分を除去します。




剥がれたパターンを耐熱接着剤で貼り付けてフラックスを塗ります。
しかしこの時点でもうパターンが痛んでいて切れている箇所もあるので
とりあえずこれでやって、うまくいかなかったら別の修復方法に切り替えます。




ついでにこのようにヤニで汚れているところも




綺麗にしておきます。




黒焦げの抵抗器と交換する抵抗器。




56Ωは良い抵抗器を大量に持っているのでこれを使います。
激レア、松下の1Wの56Ω。 定格電力が4倍。 簡単に言うと1/4Wより4倍焦げにくいということです。
560とありますが56Ωです。「J」は許容誤差±5%。




実測 56Ω です。 すばらしい。




想定内ですが、案の定パターンが破れたのでハンドワイアリングにて対処しました。
新たに銅箔を形成して貼り付けることも可能ですがこちらの方が強度が増すので逆に安心だと思います。




こんな感じです。




はい、点きました。




絶縁処理をして取り付けます。




先生! 出来ました!!

ご依頼主様のご希望通りオリジナルのライトです。





それではオーバーホールをします。 いつものやつですね。




電源部分からいきましょう。




左側が取り外したもので、右側が交換するもの。
取り外したトランジスタの端子が黒焦げのやつが結構あります。




交換する電解コンデンサ




おっと、ここで気付きました。

左側が取り外したもので右側が交換するものですが、取り外したやつは容量が違います。

今までのCA-X1では22μFだったところに47μFが付いていました。




前回修理したやつの写真がありましたので確認してみましょう。

まずこれが前回修理したやつで、22μFです。 今までのは4台とも全て22μFでした。




これが今回のやつで、部品を取り外す前の写真。 47μFが付いてますね。




これは両方とも日本ケミコン製で交換された痕跡も無いので、メーカー出荷時の状態だと思います。
まぁぶっちゃけた話、22μFでも47μFでもどっちでも大丈夫なので気にしなくてもよろしいかと(笑

今までのに合わせて22μFにしておきます。


そして真ん中が膨れて盛り上がるほど劣化した平滑コンデンサは




いつものこれに交換します。 6800μFがニチコンのKWで、1000μFがFGです。




電源部はこんな感じになります。




残りもやっちゃいましょう。




エミッタ電流を調整する半固定抵抗器が真っ黒です。
ここはとてもシビアな調整が必要なところで、きちんと調整しないと熱暴走を起こしてアンプが燃えます。
これが錆びてるとまともに調整が出来ないので無条件に新品に交換します。




ステレオなので2個あります。




まず交換するコンデンサとトランジスタと半固定抵抗器を全て取り外して
綿棒などを使いながら可能な限りクリーニングします。




さようなら です。




こんにちは です。




ここでトランジスタの「オリジナル」と「今回付いてたもの」と「今回交換したもの」をまとめておきます。

「今回付いてたもの」のうち、※印のものは交換された痕跡があったものです。

オリジナル .
今回付いてたもの
今回交換したもの
2SA573
2SA726 ※
2SA1015-GR
2SA763
2SA970-GR ※
2SA1015-GR
2SA777
2SA743A ※
2SA965-Y
2SB560
2SB560
2SA965-Y
2SC1509
2SC1212A
2SC2235-Y
2SC1918
2SC1313 ※
2SC2320 ※
2SC2240-GR
2SD234
2SD234
2SD880L


一応、取り付ける際の端子配列さえ注意すれば代替品としてはどれでもOKですね。
まぁ私は自分の選んだ代替品の方がいいと思ってますけど(笑



なお、2SD234は2SD400の個体もありまして、どちらもメーカーのオリジナルのようですが
2SD234と2SD400も端子配列が逆向きなので取り付ける向きも逆になります。
基板のマークの向きからすると2SD400が初期の仕様で
途中から何らかの理由によって2SD234にマイナー・チェンジしたものと思われます。

性能的にはコレクタ損失が2SD400の0.9Wから2SD234の25Wへ大幅にUPしています。

代替品としては2SD313でもいいですが、自分で交換する方は端子配列や取り付けの向きに注意しましょう。



ということで交換が終わりました。




こんな感じですね。





アイドリング電流を調整して動作確認。

良好ですが、やはりBALANCEのつまみのガリが酷いので可変抵抗器をクリーニングします。


パネルを外さないと可変抵抗器が外せない仕組みになっています。




ついでに色々と掃除も出来ます。




取り外します。 前回修理ではこれの軸が折れていて苦労しました。

色々と経験しているのでもう怖いものは無いです。(でも本当は毎回怖いです。)




凄い汚れていました。




2連なので構造が複雑です。 ハメ合わせるのに気を付けないと端子が曲がります。




うちは作業机にギターのINPUTとOUTPUTが付いてまして
机の上で実験中のエフェクターの基板の音がいつでも出せるようになっているので
可変抵抗器のガリの有無をギターアンプを鳴らして確認しながら徹底的にガリを除去します。
確実にガリが除去出来たことを確認してから基板に戻してハンダ付け出来るので便利です。




おぉー、ガリが無くなりました。




あとはトランスが汚いので




塗装したり磨いたりして綺麗にしたり




レバーの裏側が汚いので




ゴシゴシして綺麗にしたり




PINジャックに接点復活剤を付けてプラグを抜き差ししたり回したりしてクリーニングしたりします。





エミッタ電圧を12mVに調整しました。 熱暴走せずに安定しております。



スティーヴィー・レイヴォーンのレコードで動作確認。



もちろんチューナーでも動作確認。



修理完了です!





同じ機種を何台修理しても毎回新しい発見がありますね。
マイナー・チェンジが多いということでもあります。

あと今回の基板は一度他の人の手で多くのトランジスタが交換されていたこともあり
プリントパターンの銅箔が痛んで剥がれてしまっている箇所がいくつかあって
焦げていた抵抗器があったところ以外は症状が軽かったので接着で無事に修復出来ましたが
銅箔が剥がれないように部品を取り外す技術だけでなく、
剥がれたり破れたりしている銅箔を修復する技術も重要だとあらためて感じました。

代替品についても、このままいくと代替品すらとっくに生産中止ゆえ入手困難になってくるので
現行品のチップなども積極的に試していくのもアリかなと。

この時期のアンプは使っても楽しいんですけど、修理してても楽しいんですよね。

2018.2.14

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