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No.29「YAMAHA / CA-X11 修理」


今までにYAMAHAのCA-X1というオーディオ・パワーアンプを何台か修理してますが
今回はCA-X1の新型として発売されたCA-X11の修理依頼を受けました。






CA-X1との違いが所どころに見られます。
メーターのレンジが切り替えられるようになってます。
大きなパワーで鳴らさなくてもメーターの針が振れるように出来るのですね。




あと目立つ違いは、CA-X1はBALANCEのつまみが個別にありますが




CA-X11はBALANCEがVOLUMEのつまみを囲むリングになってます。
ギシギシ固まっていてVOLUMEを回すとBALANCEのリングも一緒に動いてしまいます。 困ります。




外したらこんな感じです。 取り付け方で直ると思います。





ご依頼主様による症状の説明は以下になります。

@購入時からBass-trebleつまみガリ発生あり→基盤・ボリューム取外し→ボリューム洗浄取付
A音出し確認→正常化をイヤホンで確認後→(電源onのまま音量maxで)前パネル取付
Bこの際、バチッという音とともにボンッと言う音が発生→以後電源投入するも不動となる。
 電源onにしても、全く起動しない状態。
Cヒューズ切れ有無の確認。ヒューズ正常を目視。年の為テスターにて導通を確認。
リレーのみ故障と自己判断し、電子部品店へ問合せ代替品注文するも適合せず、断念。


おそらく 「音量max」で「バチッという音とともにボンッと言う音が発生」 の時に
どこかがショートしてしまったのかと。


その場合・・・コンデンサの破裂、トランジスタの破損、抵抗器の燃焼、ダイオードの破損、etc・・・
どこかの部品が壊れたのであろうと憶測します。


ご依頼主様はリレーが動かなくなったのでリレーが壊れたものと判断なさったようですが
もちろんその可能性もあるものの、現段階では不明です。


さらにその後・・・


修理を依頼する直前に以下のことを試したとのことです。

Dダメモトでオムロン製の新品リレーを取り寄せ、付替えしましたが、状況は全く変わりませんでした。(苦笑)


それだと、おそらくリレーが原因ではないと思いますが、あとは見てみないと分からないですね。
一応オリジナルのリレーも同梱して頂きました。




現状、電源を入れてもランプも点灯せず、レコード・プレイヤーを繋いでも鳴りません。



それでは基板を見てみます。




なーるーほどほどですねぇ。

CA-X1にあったTA7136Pが無いじゃないですか。
TA7136Pが廃番になってしまったからCA-X1が生産出来なくなって、トランジスタに置き換えたCA-X11にした、
という感じですかね。




最終段パワートランジスタは2SC1403と2SA745です。 CA-X1と同じですね。




ステレオなのでもう一組。




リレー周り。 電源を入れてもリレーは「カチッ」って鳴りません。




交換されていたリレー。 OMRONの LY2-0 DC24V




元のリレー。 FUJITSU FRL-264 D024




リレー自体はどちらも正常に動作します。

最大定格24V、動作電圧80%以下、復帰電圧10%以上ですので
19.2V以上あれば動作するというものですが、実際にはもっと余裕があります。
動作確認で電圧をかけてみたところ、どちらも16Vで「カチッ」っと鳴ってONしました。



しかし、スイッチをONの状態にしても音は出ません。
メーターのランプも点灯しません。


ただし、エミッタ電圧は出てるんですよね。


トランスから基板の入り口までの電圧は出てますので、トランスは生きています。
ランプやリレーのコイルへの電圧が来ていないのです。



ダイオードの足が焦げているように見えます。
基板に装着した状態でチェックすると両方向に順電圧が出ているので外してチェックします。




整流用ダイオード1S1885ですね。




一方行にだけ順電圧0.6V弱で出ているので壊れてはいないようです。








「さて、どうしたものか・・・」 と、余裕なフリをしながら実は必死。


型番を確認する意味も含めてトランジスタを外して測定してみます。

そうです。
これはCA-X1とはかなり異なるのでトランジスタの型番を全て調べなければならないのですが
外さなきゃ型番が見えないのです。




日立の2SD476A-Bでした。




hFEが26.3あります。
ランクがBなのでデータシートでは60〜120ですが、とりあえず生きてはいます。
ちょっとhFEが低いですけど、こういうパワートランジスタは測定条件がコレクタ電流1Aとかなので
普通の小信号トランジスタと同じ測定条件で測ると小さい値になったりしますから
まぁ60に対して26だからって故障しているとは言えないですね。
都合によって規格から外れているトランジスタを擁護しているように見えるかもしれませんが
このへんは経験による さじ加減 です。

オーバーホール時に交換する予定ですけどこれが原因だとは思えないです。




2SA872-Eです。




hFEがデータシートでは400〜800のところ、420あります。 
これも原因ではないでしょう。






トランジスタの型番を確認していきます。

2SA844-Eが2個見えますが、後ろ向きのやつが鏡を使ってもなかなか見えません。




見えた。鏡で撮影してから反転させてます。 2SC1918でした。




先生!! 2SA844と2SA673が大漁です!!




2SC1124




2SC1735




うーむ・・・ 見えないっす・・・




拡大してみたらどうやら2SC1918ですね。




ステレオなのでもうひとつの方で確認。 やっぱ2SC1918ですね。




2SC1735




一番後ろのやつが2SC1775で・・・




前の2つが2SA872。






では・・・

とりあえずメーターのランプが点灯しないのと




電源のランプが点灯しないのからいきます・・・って、LEDが抜けてる・・・




まぁどうせ点灯していないのですが。




LED自体は生きていました。




しかしソケットがユルユルで・・・




こんな線で緩さ対策してあってポロっと落ちて来ました。
まぁ緩さ対策してあっても点灯しないのですが。




プリントパターンを追っていくと
ここらへんの、チューブで隠れているあたりが怪しいです。




まずこれ。 1.5kΩの抵抗器。 問題ありません。




そしてこれ。 おぉ!! 焦げてますね!!




15Ωだよなー、焦げててよく見えないけど15Ωだよなー。

と思ったら裏側にも書いてあった。 15Ωです。




15Ωのはずなのに194kΩもあります!!
しかも不安定でどんどん値が大きくなっていきます。

これが原因ですね。




電圧と電流から考えても1/4Wで大丈夫だと思うのですが、
一応33Ωの並列合成の16.5Ωにして耐圧を1/2Wに上げておきます。
(あとでオーバーホールする際にちゃんとしたものを仕入れて交換します。)




はい、メーターのランプが点灯しました。




電源のパイロットランプも点灯しました。
ソケットが緩いのでとりあえず反対側から刺してます。




ソケットを交換しようと思いましたが、LEDのリードを曲げれば解決することに気付きました。




前面パネルを開けて・・・




パネルの裏側にLEDを接着します。




パネルを取り付けてコネクターを差します。
逆に言うと、パネルを外す時にはまずこのコネクターを抜くということです。






本番はこれからです。

リレー自体は壊れていないのに、リレーが動作しないのです。

リレーのコイルの両端の端子に20Vちょい程度の電圧がかかっているはずなのですが
電圧がかかっていないのです。

原因を探します。



不具合箇所を探す基本として、基板上の部品をよく見るというのがあります。
焦げていたりしている部品を探すということです。



カバーで隠してある抵抗器が怪しいですね。

カバーを付けているということは
・燃えるのを防止する為
・他の端子との接触を防止する為
などが考えられます。

それは逆に、ショートした場合に壊れやすい部品であるということでもあります。




270Ωと記されてます。




270Ωで正常でした。




これは関係ないとは思うのですが交換されていたリレーのはんだ付けがあれだったので・・・




はんだ付けし直しておきました。 まぁ症状は変わりませんでしたが。







うーむ。



基板に装着した状態で端子の導通チェックをするとこの2つが怪しいので
取り外してチェックします。




日立、2SA844-E




hFE=421    ランクEは400〜800なので問題ないですね。




これも日立、2SA673A-C




hFE=182  ランクCは100〜200なので問題ないですね。






ダイオードは色々なところにあって足がみんな黒いです。




ショートすると壊れやすい部品なので徹底的に調べます。




整流用ダイオードはみんな1S1885ですね。
代替品があるので1S1885にこだわる必要はありませんが、廃番品の貴重なダイオードです。

どれも普通に順電圧もかかって正常でした。








この100kΩも基板に装着した状態だとテスターでチェックしてもコンデンサのような妙な数値を示します。




取り外します。




取り外して測定すれば正常でした。

取り外さなくても測定出来るものと、取り外さないとちゃんと測定出来ないものがあるのです。
まぁ世の中こんなもんです。






うーむ。



リレー、すなわちプロテクション回路で怪しいのって言ったらもうこれしか・・・




このトランジスタ3兄弟。




おぉ、見よ!!

2SC1918の足が100万ボルトで感電死したかのように、黒焦げを通り越して白っちゃけてる!!




でも生きてるんですよね。 hFE=290




2SA844-E 




hFE=402 端子配列が B C E ですので気を付けなければいけません。

ただし新しいTO-92パッケージのタイプの2SA844は端子配列が E C B なので、本当に注意して下さい。
2SA844には端子配列が B C E のものと E C B のものの2種類があるということです。




これも2SA844-E 




hFE=351

ランクEは本来400〜800なので劣化してhFEが下がったということですねこれ。




これらは一応トランジスタとしての役割は果たすというか、壊れてはいないんですけど
劣化しているので念の為、手持ちの実験用に使い回している適当なトランジスタに交換してみます。

(まぁ他に疑うところが無いというのが実情です。)






するとどうでしょう!

「カチっ」とリレーが動作しました!!

2SA844はPNPなら何でもいいというか、汎用の2SA1015にして動作しましたが
2SC1918のところはhFEが肝心で、hFEの低い2SC1815-Yでは動作せず
hFEの高い2SC732-BLで動作しました。

これらは普段の実験用に使い回しているものを仮に取り付けただけなので
あとでオーバーホールする際に新品に交換します。



さて、リレーが動作したことによって、音も出ました。

しかし音が鳴るのは右チャンネルだけで左チャンネルの音が出ません。

色々とテスターを当ててみると
最終段パワートランジスタのエミッタの電位がおかしいです。

出力の直流電圧が乗ってはいけないところに電圧が乗ってしまっています。
おそらくこれが原因だと思いますが、何故そうなってしまっているのかを探さなければなりません。



とりあえずトランジスタが壊れていないかどうかをチェックします。



取り外してみると・・・



うわーーっ!!




トランジスタを放熱器に密着させる為のシリコングリースが多過ぎです。


絶縁シートも端子もベッタベタです。




ほら、バイクのブレーキパッドに鳴き止め用に薄くシリコングリースを塗るでしょう?
あの程度でいいんですよ。

うすーーーく。



それをピンにまでベッタベタに塗ってしまうと、大抵シリコングリースには絶縁性があるので
接触不良になってしまいます。




しかもネジまで・・・

ネジはC(コレクタ)の端子の役割も兼ねてますので絶縁してはいけないのです。




ピンを差す穴の中まで・・・




グリースはあとで薄く塗り直すとして、まずは綺麗に拭き取ります。 




2SC1403




hFE=66




2SA745




hFE=139




こういうパワートランジスタはデータシートの測定条件とはかなり異なるのであまり参考になりませんが
データシートではhFEは30以上となっているのと、今までの正常な動作品のと比べても悪くないですし
トランジスタ自体は大丈夫でしょう。

原因は他にあるということです。





うーーーーーーむ。


史上稀にみる難題です。


もしこれが自分のアンプだったらもうオーバーホールにかかる部品代を犠牲にしてでも
とりあえずオーバーホールしてしまってどうなるか様子を見るところですが・・・

やはりこれはどこかがショートしたことでどこかの部品が 「バチッ」 っと壊れたという感じなので
オーバーホールで直るものではないという確信があるのと
極力無駄な代金の発生を防ぐ為にも、まずは原因を特定すべきなんですよねぇ。


とりあえず、ここの直流電圧が乗ってはいけないところに+40V程度の電圧が乗ってしまっています。




ここですね。




ここにどこかから電圧が来てしまっているということです。

おそらくどこかがショートしてしまっているのだと思いますが
なかなか見つからないのでそろそろ本腰を入れて確認していきます。

(最初から本腰を入れてるのですが・・・)


ここ、足が他と比べて違うように見えますよね。




これ、ジャンパー線なんですね。

つまり、このジャンパー線の先の方にも原因がある可能性があるわけです。




ジャンパ線はここに辿り着いて・・・




何だかんだパターンを追っていくと、巡り巡ってここに辿り着きます。




どう見てもトランジスタの3本足ですが、電圧を測ると3本とも41.3Vあるのです。

おかしいでしょ。




こんなところに隠れて放熱板に密着させてあるトランジスタでした。




これで確定ですね。 やっと見つけましたよ。

いやー、長かったなー。

原因は分かったからあとは明日にしてもう寝よう。 よかったよかった。





翌日・・・



(作業開始)



放熱板に密着させる為にシリコングリースを塗ってるので型番が見えません。




2SC1918でした。

これを交換して終わりですね。




あれーーっ!! 壊れていない!!




ワナワナワナ・・・





実際の作業と順番が前後してるかもしれないけどこれも怪しかった。




2SC1735ですね。




壊れてました。 もうね、抵抗器になっちゃってますよ。




これがまたデータシートだけでもレアです。




最大定格が100V、500mA、800mWということで
見かけによらず高耐圧なので代替品はパワートランジスタじゃないと駄目ですね。


しかし代替品もみんな廃番品だし高耐圧のものは流通在庫もあまりないので探すのが大変。


とりあえず自分用に確保してある在庫の中から2SC3421をチョイス。




これは以前オーディオアンプを製作した時に
B(ベース)- E(エミッタ)間に入っているダイオードを利用して温度補償用ダイオードとして使う為に
大量にストックしておいたものです。 当然ながら廃番品です。

端子配列が2SC1735は B-C-E ですが2SC3421は E-C-B なので逆向きに取り付ればOKです。




しかしこれでも直りませんでした。



焦げた抵抗器も発見して交換しましたし、壊れたトランジスタも発見して交換しました・・・

それらはそれらで壊れていたのですが、まだ他にもあるということです。



直流電圧が乗ってしまっているパターンを追っていって次に怪しのはこれ。




焦げてました。 今回は抵抗器が焦げているのが多いですね。

しかもチューブで隠れているから焦げているのが見えない。




黄紫金金なので4.7Ωのはずですが・・・




1.8kΩあたりで数値がフラフラしてます。 壊れてます。




手持ちの4.7Ωはオーバースペック過ぎるのでとりあえず10Ωを合成抵抗にして近似値の5Ωにしておきます。
(あとでオーバーホールするのでその際に仕入れて交換します。)




しかしこれでも直りません。



しぶといですね。



うーむ。


そしてこのあたりから、リレーのスイッチがONしてたのがONしなくなりました。

念の為、交換されていたリレーを外し、同梱して頂いた元のリレーと共にチェックします。




コイルに電圧をかけて動作確認。

どちらも正常に動作・導通します。 オリジナルのリレーに戻しておきますね。




プロテクトがかかっている状態ですね。
乗ってはいけないところに電圧が乗っているせいだと思います。
まぁ保護回路が正常に機能しているということでもあります。

あとはいよいよ乗ってはいけないところに電圧が乗っている原因を特定するだけです。

とはいえコンデンサの容量抜けなどによる「DC漏れ」なのか
それともどこかがショートしてしまって直流電圧が乗ってしまっているのかはまだ断定出来ません。



はんだ割れを発見。




再はんだしても症状は変わりません。




そういえばご依頼主様がVOLUMEを基板から外してガリを直したとおっしゃっていました。

なるほど、はんだ付けがこんな感じでした。




しかしはんだを修正しても症状は変わらないですねぇ。






これはネットで探しても回路図は見つからなくて、しかもCA-X1とも回路が全然違うので
とりあえず、約+40Vもの電圧が乗ってはいけないところに電圧が乗ってしまっているところの
回路図を起こしてみました。

赤丸のところに約+40Vもの電圧が乗ってしまっています。
L側のエミッタ抵抗とR側のエミッタ抵抗の中間のところです。




単純に考えても、正電源側と負電源側で抵抗値が上下対称になっているので
中間点の電圧は均等に分圧されて約0Vになるはずなわけです。

一応、0Vを中心に波形が上下に振れるようにバイアスを取ってあるという意味です。




しかし、その中間点の電圧が約+40Vもあるという異常な状態なわけで

抵抗値を測定してみても
2SC1403のベースから2SA745のベースまでの4.7Ω+220Ω+4.7Ω=229.4Ωのところ
230Ωなので正常ですし




エミッタ抵抗0.22Ω+0.22Ω=0.44Ωのところも0.7Ωで
ちょっと大きいですがテスターのリードの抵抗値を考えれば正常な値です。




でも、どこも他のVccやVeeとショートもしていないまま、外部の回路から孤立しているので
物理的に約+40Vの線とショートしているのではないということです。



ということは、考えられるのは・・・



他の部分の回路で負側が機能していないなどの理由によって
「上下のバイアスのバランスが崩れている」 というようなことが考えられます。



それをふまえて各部の電圧を測定していったところ・・・

約+40V出てしまっているランドのちょっと上で
ツェナー・ダイオードが機能していないことに気付きました。




ぐるりと型番を確認




「W210」と表記されています。

20Vのツェナーだと思うのですが20V出ていないどころか0Vでした。




4.6V〜18Vまでのツェナー・ダイオードなら各種揃えてあるのですが
さすがに20Vのツェナー・ダイオードは手持ちが無かったので
とりあえず18Vのツェナー・ダイオードを取り付けておきます。

2本で合計が20Vになるように直列に繋いでもいいのですが
あとでオーバーホールする際に仕入れて交換するまでの間だけなので18Vにしておきます。

しかし、これでもまだ症状は変わりません。



えーと、トランジスタというのはベースとエミッタの間にダイオードが入っておりまして
正常であれば一般的にはダイオードの電圧降下の0.6Vが B-C間 に出てくるわけで
そこが変な電圧になっていると、壊れていたり周辺回路がおかしいということになります。

そこで全てのトランジスタのコレクタ、エミッタ、ベースの電圧を測定しみました。

すると・・・

複数の B-C間 の電圧が異常な数値を示していて




まさに負電源側の、初段増幅回路のトランジスタのコレクタ電圧が妙に小さいことが判明しました。

コレクタ電圧はトランジスタへの電源の供給をするところであり、それが小さいゆえに
トランジスタが機能していないのです。

だから正電源側の電圧がバランス的に大きくなってしまった、と。



ということで周辺の部品をチェックしていたら、見つかりました。



これです。





この100Ωの抵抗器です。




完全に断線していて壊れてます。

見た目も焦げてもいないし、こりゃ発見するのが困難なのも無理はないですよ。




ということで、1/2Wあれば大丈夫そうですが100Ωの1/2Wは手持ちの在庫がないので
とりあえず1/4Wの220Ωを2本並列の合成抵抗にして1/2Wの110Ω(実測109.5Ω)にしておきました。
これもあとでオーバーホールする際にちゃんとしたものを仕入れて交換します。




この時点で、全ての電圧が正常になり・・・リレーがONし・・・







普通にレコードが聴けるようになりました。





長い道のりでしたが、ようやく不具合が直りました。




ということで不具合の原因は


・15Ωの抵抗器が破損 → 交換

・トランジスタ 2SC1735が破損 → 交換

・4.7Ωの抵抗器が破損 → 交換

・ツェナー・ダイオードが破損 → 交換

・100Ωの抵抗器が破損 → 交換

・その他トランジスタや電解コンデンサ数個が劣化 → 交換

でした。



あとは全てのコンデンサやトランジスタがかなり劣化しているのでオーバーホールします。

作業しやすいように部品の配置の略図を作成します。
部品が揃っているかどうかの確認と、電解コンデンサの径の確認も兼ねてます。


電解コンデンサの配置図
(※注意:後述しますが、コンデンサの数が少ない箇所があります。画像をクリックすると訂正版が開きます。)

ca-x11_haiti


トランジスタの配置図

ca-x11_haiti2



並べていきます。




こうなります。




トランジスタも並べていきます。
CA-X1もそうでしたが、バージョンによって型番が異なるものがあるようです。




毎度のことですが古い型番のトランジスタばかりですので互換品や代替品を使います。


ただし2SA798だけはプレミアが付いてしまって値段が高く代替品もなかなか無いので
端子を綺麗に磨いてそのまま使うことにしました。




でもこれ、ただのデュアルトランジスタなので、もし壊れたりして交換が必要な場合は
2SA1015を2つ連結させれば同じことですけど。





2SA844と2SA673Aは2SA1015L-GRに交換します。
端子配列が B-C-E から E-C-B になるので逆向きに取り付けます。




2SC1918は2SC1815L-GRに交換します。




2SC734-Oは・・・
hFEの低いランク「O」は需要が無いゆえにレアで入手困難なので2SC1815-Yに交換します。




2SC734-OはhFE=107で




2SC1815-YはhFE=172です。 問題はありません。 むしろ良いです。




2SA872は2SA1015だと耐圧が足りないので2SA970に交換します。
2SA872は耐圧-90V(872Aで-120V)、2SA1015は-50V、2SA970は-120Vです。




そして2SC1775は、2SA872とコンプリメンタリになります。
NPNかPNPかの違いだけで特性が同じものということです。

なので、2SA970とコンプリメンタリの2SC2240を使います。





もういっちょコンプリメンタリいきます。


印字が見づらいですが、2SC1735ですね。 これを2SC3421に交換します。
これはコレクタ損失が800mWもあって互換品も見当たらず、代替品探しに苦労しました。
2SC3421のコレクタ損失は余裕の1.5Wです。




2SC3421は以前にオーディオアンプを自作した時に温度補償用のダイオードとして使って
(トランジスタの B-E 間にはダイオードが入っていて、しかも放熱器にネジで留められるので。)
気に入って大量に仕入れていたので在庫はあるのですが、だんだん入手しづらくなってきています。
レアなうえにオーバースペックですがやむを得ません。

そしてそのコンプリメンタリの2SA850です。
これも2SC3421のコンプリメンタリである2SA1358に交換します。




今度はこれ。 2SD476Aです。
これは前にCA-X1の記事で「熱くなるので放熱器を取り付けたい。」と言っていたところです。
その頃はまだ私はCA-X11の存在を知らなかったのですが、見事に放熱器が取り付けられていますね(笑
これは2SD880Lに交換します。




錆びがあったので磨きました。




放熱器に密着させる為にシリコングリースを薄く塗って装着します。




2SC1124ですがこれは代替品を探すのにちょっと悩みました。
ちゃんとしたデータシートが見つからなくて、ネットではコレクタ損失が5Wだの950mWだの情報が錯乱。
入手可能な中から最終的に選んだ代替品が2SC2383で、160V、1A、900mWです。




88年度版トランジスタ規格表を参考にコレクタ損失は950mWであると判断しました。
(ちなみに「データシート」というのはメーカーが開示している正規のもので
「トランジスタ規格表」というのはトランジスタ技術のCQ出版社の発行物です。)




2SC1124=140V、1A、950mW に対して
2SC2383=160V、1A、900mW です。

コレクタ損失がちょっと少ないじゃないかと心配されるかもしれませんが
実際に最大出力での電力を測定するわけにもいかないので
900mWで駄目なところにギリギリの950mWを使うわけがないという理屈と
86年トランジスタ互換表による互換品である2SD667が 120V、1A、900mW であることから決断しました。
もちろん長時間の動作確認をしますし、代替品として全く問題ないという確信があります。



あとは PHONOアンプ回路にある2SB560を2SA965に交換します。
2SB560=-100V、-700mA、900mW に対して
2SA965=-120V、-800mA、900mW です。






掃除もします。

汚なかったチューブを




綺麗にします。




気になりますよね。




回路的には関係ないですけど(笑




端子も




可能な限り磨いていきます。






さて、電解コンデンサを交換する前に
壊れていた抵抗器やダイオードの所に仮の部品を取り付けていたやつを交換します。


まずツェナー・ダイオード。
本当は20Vのツェナーなのですが、手持ちで近い値が18Vしかなかったので18Vにしておいたやつ。




黄色で囲ったランドが20Vで安定すべきところです。




交換前は18Vのツェナーで17.6Vです。




1W / 20V のツェナー・ダイオード1N4747A に交換します。




19.9Vになりました。 本来の電圧です。
まぁ17.6Vでも動作には問題ありませんでしたが。






次は抵抗器3本。 15Ωと100Ωと4.7Ωです。

1/4Wや1/2Wでもいいところも余裕を持たせて全て1Wの酸化金属皮膜抵抗器で統一しました。




チューブで見えませんが15Ω




100Ω




4.7Ω






それでは電解コンデンサを交換していきます。

PHONOアンプ回路から。




全てMUSE-FGで統一しました。




ブリッジダイオードのところ。
これはチェックの為に手持ちのコンデンサに交換してあります。他にもそういうところがあります。




交換済の黒いやつも新品なので問題ないのですが性能の良い MUSE-FG に交換します。




次はPROTECTION回路のあたり。




交換後。




次・・・

じつはここでトラブル・・・でもないけど、軽い問題が発覚。

全面パネル側の下の方にに隠れた部分のコンデンサを交換しようとしたところ・・・




よく見たら・・・

いーち、にーい、さーん・・・おいっ!!

左右対称に片側4個ずつだと思ってたら、片側5個ずつ、全部で10個も並んでます先生!!




片側4個ずつの全部で8個で配置図を描いてしまっておりました。




ワナワナワナ・・・


取り外して確認。 10μFが抜けてました。




まぁ手持ちの在庫があるので大丈夫ですが、今度から気を付けないと。 うーむ。




これが修正した配置図です。 (私しか使わないと思いますが。)

ca-x11_haiti


ということで・・・ THE SMITHS のライヴ・アルバム「RANK」を聴きながら

狭くて手が入らない難関を突破。




あとはここだけですね。




ここのコンデンサを交換したらあとはもう半固定抵抗器を交換して調整して完了です。

なんか今回は原因の究明に苦労したことやら何やらで時間がかかったこともあって
いよいよ終盤に差し掛かってゴールが見えた今・・・急に感慨深いような気持ちになったというか

いや、ノスタルジックな気分なのかな?
無事に終わりそうな安堵感と同時に、原因を探していた頃が懐かしく感じます。

ディズニーランドに行ってとても充実して楽しい一日を過ごして夜になって
もうすぐ閉園の時間で帰り道の運転を想像してしまってちょっと淋しくなった時と似た気分です。





単に学生時代の思い出が詰まったTHE SMITHS のライヴ・アルバム
「RANK」を聴きながら作業していたからかもしれませんが・・・



ということでこんな感じですね。




今回、電源の整流用電解コンデンサは10000μFという大容量でこの大きさゆえ
代替品による存在感や値段などデメリットを考慮し、動作には支障がないので交換しないことにしました。






アイドリング調整用の半固定抵抗器を交換します。




錆びててはきちんと調整出来ません。 大事なところです。




こちらはVUメーターの感度調整用の半固定抵抗器です。




前面パネルを外さないとハンダ作業が出来ないんですね・・・




交換しました。




VUメーターって大音量にしないと針の振れが小さくて前の機種のCA-X1に比べてこのCA-X11は
針の振れが大きくなる「2Wモード」に切り替えられるようになったのですが、
それでも針を動かしたいが為に必要以上に音量を上げたりなんかしますよね?(笑

一番針が振れるように調整しておきました。






あとパワートランジスタのシリコングリースが盛られ過ぎだったのを一度除去しているので




放熱器に密着する程度に塗り直しておきます。




これで全ての作業が終了しました。




エミッタ電圧が12mVになるようにアイドリング調整をしておきました。




修理完了です。




お疲れ様でした。






(修理後記)

今回は原因を特定するのが大変で時間がかかりました。
うちは修理屋ではないのですが、これだけ時間をかけているとプロの修理屋としては失格になりますね。

プロというのは技術や知識云々の前に、時間効率や採算による利益を考えなければならないからです。
特にメーカーの修理では大抵マニュアルがありますので、原因を特定するのに悩む時間を取りません。
マニュアルに沿っても直らない場合は悩むことなく基板を交換して終了です。
代替部品を探す時間を費やすなどもってのほかです。
だからこそ古いアンプの修理は、メーカーでは「古くて部品が無いから。」ということで断られますが、
その部品には「基板」も含まれます。 丸ごと交換する為の「部品が載った完成品の基板」です。

決して僻みっぽく言うわけではないですが、さっさと基板ごと交換して済ませるのもプロの仕事ですし
修理を断ることもプロの仕事なのです。


私はどちらかというと早さや採算よりも「経験を積むこと」を優先させているので
じっくりと取り組ませて頂いておりますが、さすがに今回は難解で勉強になりました。

今回の修理のテーマは「抵抗器」だったと思います。

最初にご依頼主様からお伺いした壊れた経緯の説明を聞いた時に
「これはオーバーホールで直るものではない。」と判断したので、
まずは不具合の原因を特定するまではオーバーホールしないぞ、と。 その判断だけは合っていたかな、と。
しかしそこから苦労したわけで、反省もありますが、逆に、時間がかかっても無理もなかったとも思います。

大抵の場合の不具合は、接触不良や電解コンデンサやトランジスタの劣化にあります。
それが今までの私の経験から学んだことです。
それは、はんだ・電解コンデンサ・トランジスタが劣化するものだからです。
しかし今回の決定的な原因は抵抗器3か所でした。
不具合を探す基本として、「基板をよく観察する」というのがありますが
抵抗器がチューブで覆われていたり外観には何も異常が見られなかったりしたことが
原因の特定を困難にさせた要因の一つだと思います。

終わってみれば、すなわち原因が分かってしまえば、「なぁんだ、そんなことか。」で済むわけで
「抵抗器が破損していたので抵抗器を交換したら直った。」というだけの話ですし
本当にね、あとから考えてみれば抵抗器が焦げることくらい推測出来るはずなんですけれども
やはり原因が分かる前までは、諦めるか諦めないかの壮絶な自分との闘いですね(苦笑

「どうすれば修理が出来るようになりますか?」と聞かれることがありますが
多分ですけど、電子回路の知識があるかないかではないような気がします。
いや、そう言うと語弊がありますね。
アンプの修理ならアンプを設計出来る程度の知識は絶対的に必要です。
ただ、やっぱり修理には経験による勘とか、根気とか執念みたいなものが大部分を占めるのではないかと。

おそらく、散々悩んで分からなかった挙句、「え?こんな簡単なことだったの?」という場合の
「悩みながらあれこれと想定して確認して・・・からの・・・意外な結果。」
というプロセスを経験することによってしか学べないことがあるのだと思います。

もちろん仕事上の業務としてさっさと基板を交換して修理を完了させるようなプロの方も
採算抜きのプライベートでは基板を交換せずに徹底的に原因を特定することが出来るでしょうね。

まぁ古いアンプなどはメーカーでは修理を受け付けてもらえないので
そういうアンプを修理する為にも、もっと経験を積んでいきたいと思います。

2018.10.19

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