ギターダー
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No.31「NEC / A-10U 修理」


今回はNECのA-10Uというオーディオ・パワー・アンプの修理の依頼です。
なんと、貴重なオリジナルの元箱で届きました。

「ブーン」という大きな振動音が鳴るということです。



私は初めて見るのですが、調べてみると凄いアンプのようです。
NECの開発チームが妥協を許さずに採算度外視で創り上げたA-10シリーズの2代目です。

まず重量が他のアンプとは桁違いに重いです。(初代A-10が20kgでA-10Uは23.5kgのようです。)
何も知らずに普通のアンプのつもりで持ち上げようとしたらビクとも持ち上がりませんでした(笑
見た目の大きさから想像する重さと実際の重量が合ってないです(笑



ただ重いだけではありません。
VOLUMEのつまみに対する反応が良く、バーンと前に出て来るパワーがあります。
音量とパワーって別なんだな、っていう感じ。

うちにあるアンプと価格(当時の定価)で比較してもずば抜けて高級品であることが分かります。

そしてある程度、重量と価格は比例するような気がしないでもない(笑

 ・NEC A-10U
 定価 109,800円
 重量 23.5kg
 (今回修理するアンプ)
 ・YAMAHA CA-X1
 定価 49,800円
 重量 8.7kg
 (ジャンクで入手して修理)
 ・marantz PM-50
 定価 45,000円
 重量 10kg
 (新品購入)
 ・Victor JA-S11
 定価 29,800円
 重量 6.5kg
 (ジャンクで入手して修理)
 ・自作アンプ
製作費 10,000円程度
 重量 軽い




蓋を開けます。 蓋の中にまた蓋があります。



30何年分のホコリが溜っています。



大切に使っていてもこういうホコリは仕方がないことなのです。
メーカーは「ケースを開けたり分解したりしないでください。」と言いますし。



クリーニングすれば新品のように綺麗になると思います。



前面パネルの裏にある基板が見えます。



先生、型番が見えません・・・



うーむ・・・



とりあえず内部の天板を外します。
頑張って拭きましたがどうしても放熱孔の網目の模様が残ってしまいます。



底板を外しました。 メイン基板の裏が見えます。
噂には聞いてましたがネジが大量に出るのでどれがどこのネジなのか保管が重要です。




この鉄板がまず重いこと重いこと。




底板の厚みが3mmもあります。 エフェクターでいうとRATのイメージですね。




パワートランジスタは2SC2987と2SA1227です。
NECのアンプなのでNEC製のトランジスタですね。良かった(笑






「ブーン」の音の正体はトランスでした。




ただ、2階の部屋だと「ブーン」は鳴らなくて、1階のリビングだと鳴ります。
鳴りますというか、鳴ったり鳴らなかったりを不定期に頻繁に繰り返します。

そしてそれは、ファンヒーターと連動していました。ファンヒーターを切ると「ブーン」は止まります。
おそらくインバーターと連動していますね。

これはネットで調べても結構出て来るのですが、ある程度は仕方のないことというか
古い冷蔵庫や暖房器具など、あるいは別の部屋の水槽のポンプなどの影響により
整流が不十分になったりトランスの周波数が共振したりしてノイズが発生してしまうようです。

電気カーペットやファンヒーターなどの暖房器具が原因のことが多いようで
うちでもファンヒーターが原因になっています。

これらのノイズは昔からオーディオ・ファンを悩ませてきたもので
こういうノイズをキャンセルする為のコンセントのタップなどが市販されています。

ダイオードで整流してノイズをキャンセルするタップと同じ回路を自作して試してみましたが
それでは効果がありませんでした。

ネットではメーカーに問い合わせても「仕様です」と言われたとのコメントも見かけました。
原因の家電を買い変えるか、原因の暖房器具などを切るか、アンプを買い替えるなど
マニアになると専用のブレーカーや電源装置などを用意したりして
皆さん様々な工夫をして対処しておられるようです。


とはいえ、なんとかしたいですよね。


調べていくと、トランスというのはメーカー製造時にワニス漬けにするそうで
まぁギターのピックアップをロウ漬けするのと同じイメージですが、要はコイルを固定するんですね。

その、コイルを固定するワニスが劣化して剥がれてくると、振動が抑えられていたのが振動して
「ブーン」という音が鳴ってしまう。(のではないか。)という情報を得ました。

とりあえずトランスのカバーを外してみます。

多分これはワニスでしょうね。
ネジの溝にまでガッチリ埋まっていて、ドライバーを当てるのに苦労しましたが




無事に外せました。




危険ですので絶対に真似しないで下さい。




ドロリと固まっている黄色いのがワニスだと思われます。






ここから夢中になって作業をしていて写真を撮っていないのですが
コイル部分の特定の箇所を指で押さえると「ブーン」が止まることを発見し
熱や経年劣化に強い絶縁物でカバー内で物理的に押さえたら「ブーン」が止まりました。

メーカー製造時では確実に内部にワニスを浸透させる為に真空状態でワニスに漬けるそうですが
当方ではそこまで出来ないので、浸透性の高い絶縁ワニススプレーを内部に吹き付けました。
250度まで耐えられて常温で硬化する絶縁ワニスです。

乾燥後、静かにはなりましたが、物理的に押さえるのと併用した方が効果が大きいので併用しました。

これでファンヒーターを使用していても「ブーン」という音はしなくりました。




このトランスの「ブーン」は、よく言われる「ジー」や「ビー」と同じかどうかは分かりませんが
一概に仕方がないことだとは言えないと思いました。やはり「ブーン」と鳴らないのが正常であると。

周波数により共振してしまうことは仕方がないことだけれども、大きな音で「ブーン」とは鳴らないのが正常で
まぁ個体差や劣化の度合いに応じて多少の「ジー」や「ビー」はやむを得ないかもしれませんが
大きな音での「ブーン」は本来の仕様ではないという感じですね。

おそらくケースバイケースだったり、人によって「ジー」や「ビー」の表現も異なると思いますので
どの程度までが許容範囲(仕様)なのかは文章では伝えにくいですが
今回のブザー音のような「ブーン」に関しては解決しました。



さて、もう一つ。

電源のパイロットランプを電球からLEDに交換して欲しいとの依頼もありましたので改造します。

交換前




ここにあります。




ここから配線が出てます。




実測で上から
灰=0V
黒=41.4V
白=30.6V
白=37.2V
白=0.7V
白=44.7V
赤=44.7V
でした。

パイロットランプは上から2番目と3番目の端子ですので
41.4Vと30.6Vの電位差で10.8Vということです。

VF=2V、IF=20mA のLEDを使いますので

R=(10.8V - 2V) ÷ 20mA = 440Ω

ということで最低でも440Ωの抵抗器が必要になります。
電力は8.8V × 0.02A としても0.176W、10.8Vで計算しても0.216Wですので、
1/4Wで大丈夫な計算ですが、マージンをとって1/2Wにした方が良いですね。

440Ω以上でどのくらいの抵抗値にするかは実際の明るさを確認しながら決めます。




だいたい1kΩくらいで丁度良いですね。




1/4Wを並列にすると耐圧は倍の1/2Wになりますので1.6kΩと2.2kΩの並列にします。

1÷{(1÷1.6k)+(1÷2.2k)}=0.93kΩ になります。
1kΩより若干明るくなる計算です。




実測で0.91kΩになりました。




配線材が長くて助かります。




基板を外して




なんか横の部分が剥がれていたので




接着したりなんかしながら




サクっと交換。




先生!! いい感じになりました!!






あとはホコリを除去して綺麗にします。




μPA68Hというのは複合FETです。




はいはい、綺麗になりましたね。













ということで修理完了です。




お疲れ様でした。



しかーし!!



なんと、動作確認をしてたらRチャンネルだけ鳴っていないことに気付きました。
最初は両チャンネルとも鳴ってたので、修理中に何かがどうにかなってしまったようです。

これは一大事。
すぐに直さねば。





まず疑ったのはリレー周り。
リレーで音声信号をスピーカー端子と ON / OFF するので。




ただし、リレーが切り替えるのはスピーカーAとBであって、LとRではないので
リレー自体が壊れているかどうかではなく、リレーの周辺も含めて接触不良を探します。

ON / OFF させながら導通をチェックしましたが、異常はありません。








仕方がないので入力から見ていきます。phono amp基板です。

とても怪しく見えてきます。




はんだ面をじっくり観察します。




初めて扱うアンプは基板を外すのも時間かかりますよね。
GND線がネジにはんだ付けされてましたよ。




ダイオードやトランジスタ、コンデンサのショートや断線がないかを全てチェック。




基板裏の2SA1220の端子の抵抗値が怪しい。 壊れているかもしれん。




問題は無いようです。






メイン基板にいきます。

整流用ダイオードの電圧を中心にチェックしていきますが問題は見つかりません。




基板の裏を見ていきます。

これは配線材を固定しているだけですね。




こっ、これは!!

はんだの玉です。手では取れないほどガッチリくっ付いています。
強く押すと導通してはいけない端子間が導通します。




Lチャンネル側は普通です。




ケーブルと繋がっているドライバー基板に影響しそうです。


しかし、絶対にこれが原因だと思って修復しましたが症状は何も変わりません。




ケーブルの先に一番見たくないドライバー基板があります。




M5218Lの電圧がおかしいです。




μPA68Hの電圧もおかしいです。




L側は正しい電圧で、R側は電圧が乗ってはいけないところに電圧が乗ってます。
M5218Lに至っては8番pinはプラスVccの供給電圧のはずが−14.8Vになってしまっています。




M5218Lの抵抗値と導通がおかしいので取り外して簡単な回路で動作確認。




これは2回路入りオペアンプなのですが、回路Bの出力がちょっと怪しいので互換品に交換します。
私が個人的な思い入れからどうしてもストックしておきたくて大量に仕入れてあるNJM2904Lです。




2回路入りオペアンプというのは昔から様々なメーカーが改良させながら何種類も出していて
M5218Lは三菱、NJM2904Lは新日本無線の汎用2回路入りオペアンプです。
NJM2904Lは単電源でも使用可能というのが売りになっていますが
まぁ実はM5218Lもデータシートをよく読むと単電源でも使用可能だと書いてあります。



交換しましたが各部の電圧はおかしなまま変わりません。

つまり、電圧がおかしいことの直接の原因はオペアンプではなくて、
まずどこか他に電圧がおかしくなっている原因があるということです。

その根源を直さない限り、またオペアンプが壊れてしまう可能性がありますので即電源を切ります。




電圧がおかしい原因を探すのにいよいよ基板を外さなければなりません。
この基板を一番見たくなかった理由は取り外すのが大変だからです(苦笑

14本の太い配線材のはんだを外して、前面パネルを2枚とも外します。




メーカーによって、あるいはモノによっては修理のし易さを考慮して
はんだを外さなくても基板が取り出せるように作られているものが多いのですが
このアンプは音や性能の為に採算を度外視しただけでなく、修理のし易さまでも度外視したようです。
(自分でも冗談なのか本気なのか分かりません。)

とはいえ、はんだの熱で皮膜が痛まないように、かつ、撚線が広がらないように金具がカシメてあります。
私がよく収縮チューブで保護するところです。
配線材を取り外したり付けたりするのにこの金具があるのと無いのではかなり違います。
結構考えているんですね。(単に製造のし易さの為かもしれませんが。)




取り外しました。




まずは表と裏をよーく観察します。




そして・・・

ものの1〜2分で発見。

このトランジスタの・・・




はんだ割れ。






先生・・・ここをはんだ付けしたら直りました。



かなり時間をかけてあちこちチェックしたわりには原因が単なるはんだ割れだったというわけです。

原因さえ分かってしまえば修復作業は簡単なのですが、見つけるまでが大変っていうね。
まぁいつものやつです(苦笑



『修理とは、はんだ付け作業のことではなく、どこをはんだ付けするのかを探すことである。』

  〜by ギターダー〜





ついでに・・・

原因を探している途中で 「もしμPA68Hが壊れていたら?」 と考えて
入手可能だろうか?代替品はあるだろうか?ということで調べていたのですが




これは廃番品で入手困難。かろうじて代替品なら入手可能なところを見つけましたが
もし入手出来ない場合は、最悪、ディスクリートで組むしかないというか
言い方を変えるとディスクリートで組めばいいだけの話になってくるわけです。

これは複合FETなので単にFETが2つ入っているだけのことであって、データシートの端子配列を見ると
1=D、2=G、3=S で、5=S、6=G、7=D、なので、
まぁ2SK117が妥当かどうかは別として写真のように2つのFETを互い違いの向きにして並べればいいのですが




4=Sub という端子はどうするのか・・・っていう話ですよ。




気になっていたので見てみたら、この回路では4番端子は無視してありました。
色々と参考になります。







さて・・・これで修理は完了です。



最後にアイドリング調整をします。

A-10Uの規定値が7mVであるとの記述をネットで見かけましたが
これは調整前でL側、R側ともに20mV〜22mVありました。




一応完全に冷え切った状態で7.5mVを目掛けて設定して




完全に暖まってきた頃に10mV付近で安定する感じにしました。
本当に7.5mVが規定値ならば完全に暖まった状態で7.5mVにしたいところですが
購入時からいじっていない状態でL側、R側ともに20mV〜22mVということは
ここで私が測定した周囲温度等の条件での7.5mVがNECさんの条件と同じとは限らないし
L側、R側ともにバランスよく10mV付近で安定していれば問題ないと判断しました。




温度で変動するものなのですが、4〜5時間の動作確認をして
暖まって10mVを超えても自動的に9.9mV等に戻るので熱暴走せずに安定していることを確認。






カバーをしていきます。

隅々までチェックしたのでもう愛着が湧いてしまい、手放すのが惜しいです(笑




外して管理していたネジは100本を超えていました。(104本かな?)






さらに最後にひと悶着。

PHONO SELECTORというつまみが元々硬かったのですが
最後につまみを取り付けて操作したらやっぱり硬いので、再びカバーを外していって確認することに。




可変抵抗器じゃなくてスイッチなんですよね。しかも特殊な。
つまみを取り付けないと、指で軸を回すのは無理なほど硬いです。





「硬いなぁ。」っていじってたら茶色い固形物となったグリースのようなものが詰まってしまい
どんどん動きが渋くなっていき、ビクとも動かなくなり(大汗;
CRCとパーツクリーナーとエアガンと接点復活剤を駆使してしばらく格闘。

やっとまぁ普通に操作出来るようになって最初よりはマシな感じだけれども
普通のスイッチに比べるとまだ硬いです。




これはもうメカ的な問題ですよね。

強靭な板バネで押さえられているこの構造が硬い原因のようです。
硬いけど最初よりはマシになったのでこれはこういうものだということで。




ということで、これにて修理完了です。



(修理後記)

最初はトランスの「ブーン」だけだったのですが、そのあとに生じた修理の方が苦労してしまいました。

まぁトランスの方もファンヒーターさえ使わなければ何もノイズは出ないわけで
もちろんファンヒーターに限らず、世間でも言われているように
「他の家電の影響なので仕方がない」ということで終わる可能性も大でした。

今回の経験を踏まえると、ギターアンプのトランスの「ジー」というノイズに個体差があるのも
トランスのコイルのワニスの浸透具合によるものなのかもしれません。


そして後半のRチャンネルだけ鳴らない件ですが
私が心掛けている「まずは基板をよく観察する。」というセオリーがあるのに、それが分かっていても

該当する基板を取り外して見るというところまで来るのに時間がかかりました。

やはり、最初に推測した箇所を徹底的にチェックしたいという気持ちがあったり
取り外しが困難な基板はなるべく後回しにしたいという気持ちがあると、時間の無駄が生じかねない。
ということですね。

あとはメンタル的な問題ですよね。
Rチャンネルだけ鳴らない件では、リレー基板、phono基板、メイン基板、を順に調べてもなかなか原因が見つからず
まだ調べる箇所は残っているのに気持ちが焦っていたことが強く印象に残っています。

結果的には電圧の異変が分かった時点でドライブ基板に原因があると確信できたので
初めて扱うアンプでも地道に順を追ってチェックしていけば大丈夫だという教訓みないなものも感じました。

まぁもしあのまま原因が見つからなかったら、そして時間をかけてもいいのなら、
基板の部品面とパターン面から回路図を起こして発振器で信号を入れてオシロスコープで追うなど
やり方はいくらでもあるし、今回の場合でいえば正常なLチャンネルの回路と比較して探せたので
臨機応変に調査方法を選択するということも大事かなと。

しかし経験というのは積んでも積んでも新しい発見や糧になるものが得られますね。
もっと多くの修理を経験して精進しないとですね。

2019.2.3

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