ギターダー
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No.32「YAMAHA / CA-X1 修理 6台目」


今回はYAMAHAのパワーアンプ「CA-X1」の修理依頼です。

私が当HPでCA-X1の修理をするのはこれで6台目になります。








修理の内容ですが、
30年ぶりに電源を入れてみたところ、音は出ましたが、
割れて、途切れ途切れで左CHの音が小さいとのことです。



では中を見てみます。




電源の平滑コンデンサ。




スピーカーのリレーと保護回路部分。




メインアンプ部分




PHONOアンプ部分




最終段パワートランジスタ。




2SC1403と2SA745です。

最近、これの代替品で外観もTO-3で同じの良さげな現行品を見つけたので
万が一これが寿命だったとしても、2SC1403と2SA745の音にこだわらなければ絶望的になることはないと思います。

R側




L側




トランスも綺麗ですね。




左CHの方が音が小さいということで左右のバランス的に一応最初にアイドリング電圧を測定してみました。

L側が10.6mVで




R側が15mVでした。




左CHの方が低いですけど、まぁ変に熱暴走でもしていなければこれはあまり関係ないですね。




各パワートランジスタのコレクタ電圧を測定してみます。

L側の2SA745・・・−37.6V




L側の2SC1403・・・37.7V




R側の2SA745・・・−37.7V




R側の2SC1403・・・37.7V




安定していますね。

ここの電圧がしっかりしていれば基準となる電圧は大丈夫ということです。



うむ。



ざっと見たところ、基板の見た目的には大きな問題は無さそうです。

BALANCEのつまみのガリが酷いので
トランジスタと電解コンデンサを全て交換して、BALANCEの可変抵抗器の酷いガリを除去すれば
一連の症状は改善すると思います。




ちなみに私のCA-X1の検品は岡本さんでしたが




5台目に修理したやつも岡本さんで




今回の6台目も岡本さんでした。




うーむ・・・


合格証の写真を撮ってないやつもあるので次からは毎回確認せねば(笑


トランジスタの型番が機種によって異なるバージョンもあるので確認していきます。



向きが見えにくいものは鏡を使って確認していきます。

2SB560




2SC1509




2SC2320




2SA970




2SA777




2SC458




2SA970とかは当時にしては新し過ぎるのでパターン面のはんだ付けを確認したら

どうやら2SC2320や2SA970当は一度交換されていますね。

代替品の選択としては妥当ですので、これでどうこういうことはありません。
40年ほど前に購入されて30年ぶりに電源を入れたとのことですので
最初の10年のあたりで一度修理されたのでしょう。 まぁ、どっちみち全て交換します。






新しいトランジスタと




新しい電解コンデンサ




若干の変更を加えてちょっと進化させた配置図。




部品が揃っているかどうか、そしてスムーズに交換出来るように並べます。

小さいコンデンサは倒れやすいので並べるのに意外と時間がかかります(爆






まずは全てのトランジスタと電解コンデンサを取り外します。




取り外したトランジスタと電解コンデンサ。






2SB560と2SA777は2SA965に交換します。




2SB560は足が黒焦げなのでhFEを測定してみます。
2SB560のランクEは本来hFEが100〜200なのですが、劣化して88まで低下していました。




2SC1509は2SC2235に交換します。




2SA970は2SA970でもいいのですが、これってオリジナルが2SA970じゃないんですよ。
2SA573だったところと2SA763だったところが2SA970に交換されているんです。
私は2SA1015にしますが東芝の2SA1015も廃番なので最近はUTCの2SA1015Lを使います。




hFEを見てみます。 2SA970-GRが283です。 GRは200〜400なので許容範囲ではあります。




UTCの2SA1015L-GRは317です。 まぁhFEだけを比較すると高い方が良いのです。
hFEが全てではないのですが、私の中ではUTCという現行品セカンドソース・ブランドの信頼性が高まっていますので。




2SC2320もオリジナルではなくて交換されていたものです。
オリジナルは2SC1918ですので、2SC2320でもいいんですけど私は2SC2240に交換します。
まぁ2SC2240だとオーバースペックで勿体ないので、ここもUTCの2SC1815Lでもいいんですけどね。
流通性が良いうちは高性能な方がいいだろうという日本人特有のスペック重視の考え方です(笑






大事なのはこれ。

アイドリング電流調整用の半固定抵抗器です。
大抵これが錆びていて、ちょっと動かすと変な値になって熱暴走するので新品に交換します。




東芝製の半固定抵抗器に交換します。
新品ならブランドにこだわる必要はないですが、たまに変な壊れやすいのがあるので注意が必要です。
ちなみに最近の台湾製や韓国製の電子部品は意外と優秀になってきています。




取り付けました。

色が白いと光の加減で写真が上手く撮れなくて四苦八苦ですよ。
いつもそうなのですが、はんだ付けする時間よりも写真を撮ってる時間の方が長いです(笑




まず基板を綺麗にクリーニングします。 綺麗になりましたよね?




部品を装着していきます。




ジョン・スコフィールドを聴きながら部品を装着していきます。




こんな感じですね。 かっこいい。




先生!! 出来ました!!




とりあえずアイドリング電流を10mVくらいに調整して、安定することを確認。
最終的には12mVに設定します。






次にBALANCE用の2連の可変抵抗器のガリを除去します。




ふむふむ。




BALANCE用の可変抵抗器は普通の動きと異なるので動作を入念にチェックします。







出来たので

QUEENSRYCHEのレコードを聴いて動作確認。今流行りのQUEENとは違います。






おぉぅ・・・



まじかー。



音が割れて途切れ途切れなのは直りましたが、左CHの音が小さいという症状が露骨に。

つまりですね、今までは状態が不安定だったわけですよ。
BALANCEつまみのガリも酷かったので、左CHの音が小さいという症状が埋もれていて目立たなかったと。
それが状態が安定したことによって、常に、明確に、左CHの音が小さいということが浮き彫りになりました。

一歩前進したわけですがガリを除去すれば直ると思っていたので「一筋縄ではいかないなぁ。」と。
今回の修理はここからが本番だったのです。



まずは電圧です。
トランジスタのコレクタに電圧がかかっているかどうかを全てチェックします。
左CHに不具合があるということは右CHと比べればいいので、まだやりやすいです。




念の為トランジスタのベースとエミッタの間にはダイオードが入ってますので
テスターでB-E間のダイオードチェックもします。

全てチェック問題が無いことを確認してから、「こんなとこに原因があるはずがない。」と呟きます(苦笑

それでもチェックすることで「ここは疑わなくてよい。」と、踏ん切りが付くので
パワートランジスタもチェックしましたが、左右を入れ替えても症状は変わらないのでこれも原因ではありませんでした。




ついでなのでhFEを測定します。



右CHの2SC1403、hFE=72




右CHの2SA745、hFE=130




左CHの2SC1403、hFE=62




左CHの2SA745、hFE=153




どちらもNPNの方がhFEが低いんですね。
これは左右どちらもそうなので左CHの音が小さい原因にはなりませんから、あまり気にしないことにします。
いちいち立ち止まっていられませんからね。



とかなんとか言いながらもの凄く気になるので(苦笑



最近私が有力候補として挙げている代替品、MOSPEC製のMJ15015とMJ15016のhFEを測定します。




MJ15015、hFE=83




MJ15016、hFE=319




新品ですよ。
やっぱりNPNの方がhFEが低いものなんですね。

ちなみにパワートランジスタのデータシート上の測定条件は高くて
データシートでは2SC1403と2SA745のhFEは測定条件がIc=3A、Vce=4Vで「Min30 〜」
MJ15015とMJ15016のhFEは測定条件がIc=4A、Vce=4Vで「Min20 〜 Max70」になっています。
うちの測定器はコレクタ電流を4Aも流しませんので、パワートランジスタに関しては
具体的なhFEの数値はアテにならず、比較してどうなっているかを見る程度になりますので。

ということで、いずれにしても原因はどこか他にあるということです。

まぁ冷静に着々とチェックしていくのだ、ということで淡々と作業をしていますが・・・

焦らずに、投げ出さずに取り組むのは精神力が必要だと思いました。



私は行き詰まった場合には次にどこをチェックするかを紙に箇条書きで書き出すことにしていますが
だんだん考えてる時間が長くなってきました。

配線材が断線しかけて抵抗値が高くなってしまっているのではないかとか
外見では判断出来ないけれどもはんだの内部で割れを起こしているのではないかとか
一通りチェックして、

リレーの端子が酸化して接触が悪くなっているのではないかとか思った時に
わざわざはんだを外してリレーのカバーも外して問題が無かったら元に戻すという作業に無駄があると思い、

もうこうなったら最後の手段というか、ある意味これが正当法なんですけど
信号を入力してオシロスコープで波形を観測しよう、と。

「最初からそうしろ(笑」と思うかもしれませんが、経験上はそこまでしなくても解決する可能性もわりと高いですし
メーカーや正規の修理店のようにサービスマニュアルがあって診断の手順が決まっているわけではないので
まぁ診断の仕方にも個性があるという感じですかね。



入力端子から見ていきます。




入力部分では左右とも同じレベルの信号が入っていることを確認して




出力部分、スピーカー端子では左側の信号だけが小さくなっていることを確認します。




信号の経路を辿っていけば、どこで左側の信号が小さくなっているのかが見つかるはずです。

リレーの端子は入力も出力も左側の信号が小さくなっていましたので、もっと前に原因があると。
わざわざはんだを外さなくてよかったです。



そして・・・



見つかりました。

VOLUMEの可変抵抗器の入力までは左右の信号が同じ大きさで
この可変抵抗器から出力されたところでは左CHの信号だけが小さくなっています。




センタータップ付の可変抵抗器ですね。 入手は困難かと・・・




しかしこれ、VOLUMEが一つだけのエフェクターを簡易的に組んでギターを繋いでみても
全くガリも無いし、異常がないのです。




ちなみにうちの作業テーブルはエフェクターの開発をするのに都合が良いように
ギター用のINPUTとOUTPUTのジャックを装備してありまして
作業台の上で仮り組みしたままのエフェクターをアンプで音を出して確認出来るようになっています。

作業テーブルそのものがエフェクターになるということです(笑




いや、そんなことを説明してる場合じゃないですよ。

可変抵抗器の入力では同じレベルの信号が入ってきていて
出力されたところでは左CHだけがレベルが小さくなっているのに
可変抵抗器には問題が無いのです。



左CHの動き。 VOLUMEが最小の時は信号が出ないのでフラット。




VOLUMEを上げていくと波形が崩れながら右CHよりも小さい状態で少しずつ上がっていき・・・




VOLUMEを最大にすると右と同じフルの状態になります。
スピーカーに繋いで最大にはしていませんが、もし最大にしたら左右のバランスは取れているでしょう。
途中までがおかしいということです。






今回は私のCA-X1があるので、うちの正常な可変抵抗器と入れ替えてみます。
同じ機種を持っているとこういう時に役立ちますね。




入れ替えても左CHが小さいままでした。


つまり本当に可変抵抗器には問題が無いということで確定です。



入手困難な可変抵抗器なので問題が無くて良かったといえば良かったのですが
では原因はどこに?



基板を疑ったりもします。 GNDと微かに繋がってしまっていないかとか。
GNDと繋がってしまっているとVOLUMEを絞ったのと同じ状態になりますので。




基板も問題ないですね。



幼稚園児のような絵を描いたりもします。




ここで気付きました。

出力側は、イコライザー用っていうのかな、アンプICのTA7136Pの入力へと繋がっているので
TA7136Pの影響を受けてしまっている可能性ですよ。

そこでTA7136Pの端子の電圧を全て左右で比べると・・・



ありました。

左CHのTA7136Pの3番端子だけに、乗ってはいけない電源電圧が乗っていました。



ついに発見です。 TA7136Pが壊れていると判断。



取り外して端子間抵抗値をチェックしたところ、1番端子と7番端子がショートして壊れていました。

先生!!こいつが原因です!!




これはオペアンプの形をしていますが、オペアンプではなくて稀少なオーディオアンプICなのです。

ギターをやってる人ならご存知の方もいると思いますが、BOSSのDS-1の日本製に使用されていたICで
たまたまDS-1フリークの私だからこそ、大量にストックしてあるものなのです。

TA7136APはTA7136Pのマイナーチェンジ版ですので、代替品でも互換品でもなくて同じものという扱いで
「PとAPは違う。」とか言うのは私のようなマニアだけです(笑




新品に交換して直りました。

・・・長かったです。



あとはメーターの針が色褪せていたのを塗って欲しいとのことでしたので




プラカラーの赤とオレンジを1:1で混ぜて朱色にして塗りました。






あと細かいですけど、パワートランジスタを放熱器に密着させる為のシリコングリスが塗られ過ぎていて
端子の穴に埋まってしまっていましたのでパーツクリーナーで綺麗にしました。




このくらいでいいと思いますよ。
シリコングリスは絶縁性があって接触不良の原因になってしまうので、端子には触れないようにしましょう。




絶縁シートも薄く塗れば密着しますので。




ついでにVOLUMEのつまみの接着部分が剥がれかけていたのも・・・




接着剤で直しました。




最後にアイドリング電流の調整です。




左右ともエミッタ電圧を12mVに調整して、




修理完了です。



(修理後記)

今回の修理は、初心に帰らされたという感じでした。
慣れてる機種だし簡単に直せるだろうという気持ちがどこかにあったと思います。
それゆえ、想定していた原因ではなかった時に気持ちが焦ってしまったり
途中でちょっと弱気になったりもしました。

結果的にはTA7136PというICが壊れていただけで、それを交換したら直ったわけで
後から話を聞いただけだととても簡単な修理だと思ってしまいます。

原因はほんの些細なことなので手品の種明かしを見た後なら簡単だと思うのと同じで
それを見つけるまでが大変なのだと、常に私が言っていたことが、自分に降りかかってきました。

あとはやっぱり、最終的には原因を特定することは出来るとしても
効率よく原因を特定するのは至難の業というか、まだ私のレベルでは遠回りを覚悟で挑んでいくしかないとか
兜の緒を締めて、これからも精進していかなければ。・・・ということで。

それともしかしたら・・・

「最後の砦を残しておきたい。」 という気持ちがあるかもしれないとも思いました。
チェックする箇所が完全に無くなってしまったらもうお手上げになってしまうので
常に 「まだチェックすべき箇所は残っている。」 という状態を維持しておきたいという気持ち。

まぁ言い方を変えると、常に次にチェックすべき箇所を探しておきましょう。
ということになるのかもしれません。

そうするとやっぱり様々なケースを想定する為にも、経験を積むことは大事かな、と。
そこまではいつもと同じなんですよ。

今回の本当の教訓は、経験による勘がいくら働いても、勘だけでは駄目なのだということなのかもしれません。
つまり、勘が働かない時に何をするか・・・の方が、今後の課題かと。

2019.2.18

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