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No.40「YAMAHA / F50-112 修理 2台目」


YAMAHAのギターアンプ、F50-112の修理依頼を受けました。
F50-112を修理をするのはこれで2台目ですね。





一度修理したことがある機種は回路や使用部品が分かっているので
普通であれば修理したことのない機種よりも気が楽になりそうなものですが
このアンプは入手困難な可変抵抗器が使用されているのでちょっと不安なんですけど・・・

なんとか代替品を探したり工夫したりしてやることにしました。





1 VOLUMEの入力AとGAINのついた入力Bを切り替えられます。





TREBLE、MIDDLE、BASS、の3バンドEQ





このアンプの最大の特徴はPARAMETRIC EQを装備しているところと、
そのパライコにガリが出やすいところです。





裏側。





ふーむふむふむ。





スピーカーはオリジナルJA3066です。60W。





ご依頼主様のお話によると、

・各POTのガリ。
・PEQの真ん中のPOTは基板とPOTを繋いでる部分が折れている。
・TrebleとMiddleのPOTはナットが舐めてしまったのでドリルで破断。
・TrebleのPOTのプッシュプル・スイッチが緩くなってしまいカチカチしなくなった。
・センドリターン端子を増設したい。

とのことです。



実際に確認してみると思ったより症状が酷いですね。

VOLUME
微ガリ、プッシュプル・スイッチ微接触不良
25k(A)プッシュプルSW付
GAIN
プッシュプル・スイッチ接触不良
25k(A)プッシュプルSW付
MASTER
軽ガリ
25k(A)
TREBLE
プッシュプル・スイッチ動作不良、ナット無し
25k(A)プッシュプルSW付
MIDDLE
微ガリ、ネジ溝不良、ナット無し
1k(A)
BASS
微ガリ
25k(A)
LEVEL
重度ガリ
50k(G)センタータップ・クリック付
Q
破損、動作不良
50k(A)
FREQUENCY
中ガリ
50k(C)2連
REVERB
軽ガリ
25k(B)



基板を見てみましょう。





舐めたナットをドリルで破断したというのがこれですね。





何かがポロン、と落ちました。
基板とPOTを繋いでる部分が折れているというのがこれですね。





この3つがプッシュプル・スイッチ付きの可変抵抗器で入手困難です。
250kΩや500kΩならまだ見つかるのですが、これは25kΩでなかなか無いんですよ。
でも値段が高くて取り付けに工夫を要するやつなら見つかったので最悪の場合はそれにします。





これも入手困難です。センタータップ付きの可変抵抗器です。
さらに軸がローレットでこのスペースに収まる大きさというのがなかなか無いです。
ヤフオクで端子の形状がちょっと異なるだけの中古品を見つけました。最悪の場合はそれにします。







そして、TREBLEのプッシュプル・スイッチがカチカチしない原因が判明しました。

カバーが外れて開いてしまって浮いているんですね。





取り外したらバネの力でバラバラになってしまいました・・・





1本のバネがフラフラしているのですが、
組む時はバネを念力で立たせた状態のまま2つの部品を封じ込めなければなりません。
密閉されたケースの中でバネに触れることなくバネを立たせて押さえ込む必要があります。
スイッチのスライドの位置や金具の位置も外側から透視して合わせないと金具が曲がって大変なことになります。
初めて見る構造でも誰にも教わらずに自分で組み立てられる自信の無い人は開けないようにしましょう。





グリースが汚いです。





洗浄します。





接触不良のやつは金具が開いているものもありました。
物理的に、外側から押さえただけでは閉じた状態に戻らないので超能力で元に戻します。





接触不良を直したら直ったことをメーターの付いた特殊な測定器で確認します。





ガリを除去したらガリが無いことを専用設計の配線でアンプに繋いで実際に音を鳴らして確認します。







おぉ〜。

無事に3個とも正常に直りました。
高くて取り付け方法を工夫しなければならないものに交換する必要がなくなりました。







しかし、本当に不安なのはここではないのです。



これが最大の難関だと思います。

センタータップ付、センタークリック付、φ16mm、短軸、ローレット、国産6mmシャフト、基板取り付け用、50kΩのGカーブです。





重度のガリにもかかわらず、同じ仕様のものは代替品すらなかなか見つかりません。





でも意外と中は綺麗で、丹念にクリーニングしたら直りました。







ちなみにこれは端子の形状だけ異なるのですがそれ以外は抵抗値もカーブも同じものをヤフオクで発見して、
もしガリが除去出来なかった場合のことを考えて落札しておいたものです。
使わなかったので自腹購入です。





これもヤフオクで発見して自腹購入です。
軸の形状も抵抗値も異なるので使えませんが、スイッチの分解・組み立ての練習用にと思いましたが、
いきなりぶっつけ本番でやらざるを得ない状況になったので分解することもなくそのままです。





なお、自分で接点復活剤を使ってガリを取る場合には注意すべきことがあります。

こういう隙間から接点復活剤をスプレーしただけではガリが再発しやすくなります。





カーボンに傷を付けないように、この端子の金属部分接点の裏側を磨く必要があります。





また、カバーを開ける時のツメの曲げ方が悪いと元に戻す際にガタが生じます。

どのアンプでもどの箇所でも当てはまることですが、
自己修理を試みた形跡があると、場合によっては当方での修理が困難になりますので
修理を依頼しようという場合はなるべくいじらない方がいいです。

よくメーカーの説明で「お客様により一度分解されたものは修理を受け付けられなくなります。」
というような文言があるのはそういうことですよねー。うーむ。



2連のPOTです。





2連の反対側を外したところ。





どうしてもガリが除去しきれないものやPOTが破損しているものは交換になりますが、
基板取り付け用で同じ仕様のものはなかなか見つからないですし、
見つかっても壊れやすいチャチなブランドのものしか見たことがないので、
信頼性の高いALPSの可変抵抗器を使います。

ただ、端子が基板取り付け用ではないので加工します。





うーむ・・・





こんな感じですね。





足りないナットやネジ溝が舐めたナットを交換します。





全てのPOTの不具合が直りました。





これでとりあえず山場を乗り越えたもようです。



電解コンデンサもトランジスタも消耗品ですので、いつもはこのような古いアンプは
無条件で全ての電解コンデンサとトランジスタを交換(オーバーホール)するわけですが、

今回の依頼は当初はPOTの不具合だけだったのと、見た目は即交換という感じではないので
ご依頼主に相談したところ、長く使いたいということと私の判断にお任せしますということで、

あとは電源投入時の音の立ち上がり方が、
いかにも電解コンデンサに電気が溜まるのに時間がかかっているかのような感じだったので
やはりオーバーホールすることにしました。

まぁ古いアンプですので無条件でオーバーホールするのが良いと思います。





今回交換するトランジスタたち。

全て生産終了品なので互換品や代替品も使います。





今回交換する電解コンデンサたち。

ほぼ全てニチコンです。
金色のFine Goldと緑色のパイポーラコンデンサMUSE ESはオーディオグレードで
他のは耐圧、外形などで合うものを選定しました。





電解コンデンサは容量だけでなく大きさも注意しないと装着スペースや見栄えに影響する為、
いつもはアンプの機種ごとに電解コンデンサの径と高さと位置を示したシートを作成して
シートの上に配置させて大きさと数を確認しているのですが





このアンプ用のは前回の修理の際の手描きの殴り書きの図をまだ清書していないのでアンプの上に並べます。





2SC1509は2SC2235に交換します。どちらも生産終了品です。





2SK30AはUTC製の2SK303Lに交換します。 台湾製のセカンドソースです。





2SC2240も早く良い代替品を探さなきゃなんですけど、なかなかいいのが無いので限りある在庫を使います。
UTCがリリースしてくれることを願います。頑張れ台湾!!







ウィーン・・・ ウィーン・・・





そしてIRON MAIDENの「頭脳改革」を聴きながら順調にサクサクと作業を進めていたのですが、





途中で 「あれ!?」 と思う箇所がありました。





ここは基板の表示にも前回の手描きの殴り書きの図にもあるように220μF/16VのBPのはずです。





どこにどのコンデンサを乗せるかは分かっているので外す時はわざわざ容量を確認しませんでしたが
今になって「あれ!?」っていう違和感がありました。

こんな小さな220μFあったっけ?って。 外した部品を入れてる缶カラの中にもありません。





一つ一つ確認していきます・・・





タイムマシンで過去にさかのぼって電解コンデンサを取り外す前の写真で確認。

ここにあった電解コンデンサはこれです先生。絶対にこいつです。





これは10μFです。10μF/25VのNPです。





220μF/16VのBPのところに10μF/25VのNPが付いていたということです。

耐圧は大きい分には大丈夫なので16Vに対して25Vというのは構わないですし
(厳密には実際にかかる電圧よりもあまり大き過ぎる容量だと劣化を早めますがこの程度なら問題なし。)
BP(バイポーラ)とNP(ノンポーラ)はどちらも「無極性」の意味なので同じですが

220μFと10μFでは結構な差がありますね。

でもまぁこういうことってよくあるんですよ、たまにですけど。

おそらくマイナーチェンジか何かでしょう。



ということで現物に合わせて10μFにします。BP(バイポーラ)です。





はい。これでプリアンプ基板は完了です。







次は電源基板です。





ポンポン抜き取っていきます。





電解コンデンサは全てニチコンのオーディオグレードのFineGoldです。





トランジスタ2SC1509とFETの2SK30Aは先ほどと同じ代替品で、

2SA777は2SA965に交換。 どちらも生産終了品です。





2SA970も生産終了品ですがまだ在庫があるので同じものを使います。





2SA490と2SD726はうちに1つずつあった在庫を使います。
代替品を探すが難しい反面、まだなんとか流通在庫があるようです。





それでですね、

2SC1509と2SA777はコンプリメンタリといって正と負の違い以外は特性が同じものなのですが
(代替品の2SC2235と2SA965もコンプリメンタリです。)





2SA777はhFEが182あるのに、





2SC1509はhFEが33しかありません。





2SC1509も2SA777もランクがQなんですけど、2SC1509のデータシートにQのランクは無くて
小さい方のRだとしても「130〜220」なので33は小さ過ぎますし、





2SA777のデータシートにはQのランクが載っているのですが
「90〜155」なので、やはり33は小さ過ぎます。





また、プリアンプ基板に付いていた2SC1509もQランクでこっちはhFEが108あるので、





hFEが33というのは劣化しているということです。
オーバーホールして正解だったと思います。




ということで・・・



電源基板が完了しました。





次はパワーアンプ基板ですね。カバーがしてあります。





反対側に最終段パワートランジスタがあります。





2SC898が2個ですね。





基板側に戻ってカバーを外しました。





ここで交換する部品たちです。





今まで出てきていないのは・・・

2SC1624を2SD669に交換します。





2SA814を2SA985Aに交換します。





はい、交換しました。





こんな感じです。





最後に電源の平滑コンデンサを交換します。





2200μF/100V ニチコンです。





こうなります。







これで交換するものは全て完了しましたので調整をします。





中点電位が上方向にずれていたので修正しました。

波形の上下が対称になっていることを確認します。





出力のDC電圧が0Vであることを確認します。ほぼ0です。





最初の状態でバイアス電圧が5mV程度だったので、とりあえず5mVにしておきましょう。

エミッタ電流を22mAくらい流しているということですね。





はい先生!!

これで修理とオーバーホールが終わりました!!



あとはセンドリターン端子の増設ですねー。



センドリターンはアンプによって、また挿入場所によって
インピーダンスマッチングやカップリングコンデンサが必要になります。

一般的なエフェクターの入力インピーダンスが470kΩ〜1MΩ、
(昔のエフェクターだと220kΩ程度のものもあります。)
出力インピーダンスは10kΩ〜100kΩであることを考慮してロー出しハイ受けになるようにします。

あとスイッチ付のジャックを使って、プラグINでセンドリターン回路に切り替わるように
そしてプラグを抜いた時は完全に元の回路に戻るようにします。
(プラグの抜き差しは電源を切った状態で行ってください。)

プラグを差し込んだ時にどことどこの端子が導通するのかを確認して配線を決めたら
仮配線で実験して動作を確認します。





背面パネルの空いてるところに設置しますね。





隣に何かの古代遺跡があるのですが段差になっているのでよけます。
丁度いいスペースが空いててよかったですね。





鉄板が硬いうえにボール盤が使えない高さなのでハンドドリルでの穴開けですが
径12mmを開けたいのにドリルチャックが10mmまでなので超能力(棒ヤスリ)で広げました。





シャーシー絶縁型のジャックを使用してますが、
念の為GNDループによるノイズ等が無いことを確認してから配線します。

完璧ですね。





こんな感じになりました。





これで完成です。





最初はPOTが入手困難であることやセンドリターンの増設はアンプに合わせて専用設計が必須など
やってみなければ分からない状態で内心ビクビクしてましたが・・・(笑

なんとかなりました。





あらためて音を出してみて、
トランジスタアンプにはトランジスタアンプの良さがあるということを思い出しました。

昔ながらのTO-3型のパワートランジスタを使った良いアンプですね。







(修理後記)

前にもF50-112を修理したことがありますが、その時は何を書いたかな?って読み返してみたら
「今回のアンプは、トランジスタ・アンプの良さを思い出させてくれたアンプでした。」
と書いていました。
そうなんです。ちょっと上で書いたことと同じなのです。
無意識のうちに前回と今回で同じ感想を言ってました。
ということは本当にトランジスタアンプの良さが感じられるアンプだということなのでしょう。

そして、もう古いアンプですのでとにかく部品が入手困難です。
とくにプッシュプルスイッチ付の可変抵抗器(POT)ですね。
抵抗値が違うものや形状の違うものならなんとか入手可能ですが、取り付けに工夫が必要だったり
流通が確保されているわけでもありません。
今回はたまたま分解・洗浄で対応出来ましたが、これからもこのようなアンプを修理し続ける場合は
中古部品のストックなども含めて備えておかなければいけないと思いました。

高度経済成長期に作られたMADE IN JAPAN製品は、ただ古いだけでなく、
やはり良いものを作っていたのだなと感じることが多いです。

懐かしい、思い入れがある・・・でもそれだけじゃない。

残念なMADE IN CHINA製品が普及し始めてから生まれた「ジャパン・ヴィンテージ」という言葉がありますが
「修理してでも使い続けたい。」と思うようなものが、当時の製品には多かったんですね。


人類が月に行った頃の勢いが無くなったことと、もの作りに勢いが無くなったことは
何か関係がありそうな気がしてなりません。

「月に行くぞ!!」というハングリーさと同じくらい、
「良いものを作るぞ!!」というハングリーさがあった時代・・・

古い昭和の時代だったのに、今よりも凄いことをやってのけていたように思います。

昔は「2001年宇宙の旅」が未来の出来事を描いた映画でしたが
2021年になった今、無人島で火を起こすことがブームになっています。

やはり古いものへの憧れは永遠に続くのでしょうか。

2021.3.8

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