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No.44「YAMAHA / YBA-100 修理」
今回はYAMAHAのベースアンプ「YBA-100」の修理・オーバーホール依頼です。
なんと、前回のTYA-15の修理と同じご依頼主様です。 どこに修理を依頼しても全て断られて諦めていたとのことです。 「とにかく診て頂いて修理・オーバーホールしてもらいたい。」とのことです。 そして・・・ どーん!! コーンフレークやないかい!! 実はこれは先に送ってもらっていたヘッド。 どーん!! YAMAHA YBA-100(BE-200ヘッド+BS-100キャビネット)だ!! リビングを占領するデカさだ!! 大きさ比較用にギターを置いてみました。 いや、ベースアンプだから置くならベースか・・・ 2階の作業場に運べない大きさと重さです。 どうしてくれよう。 コントロールが全てフェーダーなんですね。かっこいい。 ボタンで音色を選べるようです。 裏側を見てみましょう。 実は情報量が少なすぎて使い方が分からないままお預かりしまして、えへ、えへ。 キャビネットにも電源があるんです。 だんだん分かってきたのですが どうやらヘッドはプリアンプだけで、キャビネット側にパワーアンプが入っているようです。 なので、キャビネットのINPUTはパワーアンプの入力のようで ヘッドアンプとキャビネットはスピーカーケーブルで繋ぐのではなく シールドで繋ぐということになります。 なるほど、だからヘッドの消費電力は5Wなのか。 パワーアンプの消費電力は300Wです。 まさか出力が300Wなわけないですよね。BS-100だから出力は100Wかな。 そしてこれ。 以前、YTA-95を修理した時にも同じものがありました。 海外で使うことも想定してコンセントからの入力電圧を切り替えられるやつです。 そう。 実はこれ、最初は単にヘッドがBE-200でキャビがBS-100だと思っていて セットでYBA-100という型番だということは分からなかったのですが YTAシリーズなんですね。 ベースを繋いで音を出してみました。 もの凄く良い音です先生!! 指弾きでもチョッパーでもパワフルで重厚でありながらも落ち着いた音で、 いつまでも弾いていたいほど心地よいです。 上手くなった気がする。 VOLUMEを下げれば自宅でも弾ける音量で使えるし、欲しいなこれ・・・ また、ヘッドはプリアンプなので、 他のパワーアンプやベースアンプに繋いでエフェクターのようにも使えます。 まぁ大きな不具合はありませんが、 ヘッド(プリアンプ)の出力が不安定で音量が小さくなったり戻ったりするのと イコライザーのフェーダーつまみにガリがあります。 キャビネット(パワーアンプ)の方は問題なさそうです。 電源を入れただけで僅かに小さな音で「ビー」というか「ブーン」というか 電源のハム音みたいのが常に鳴っていますが、特に不具合の「ブーン」ではないと思います。 環境に応じてコンセントの向きを差し替えることでノイズ対策をするのと同じ効果の 電源スイッチのONが上下にあって切り替えられるタイプなので 電源由来のハムノイズがあることが前提のアンプです。 ということで、出力が不安定なのとかは電解コンデンサとトランジスタを交換して オーバーホールすれば調子良くなるはずです。 では基板を探していきましょう!! うむ。スピーカーは3個の並列です。 ここにはパワーアンプ基板は無いようだ。 YAMAHA JA3052A 直径約30cm(12インチ)です。 1個が8Ωの50Wですので2.7Ωになり、耐電力は150Wになります。 やはりさっきの300Wというのは出力ではなく消費電力ということですね。 パッカーン!! フタをひもで支えたら縦ピアノみたいになったぞ。 ついにパワーアンプ基板を発見!! こっ、これは・・・!? なんと!! 今までに何台か修理したことのあるYTA-95のパワーアンプ基板と同じです!! 奥の放熱器の陰に隠れているパワートランジスタ、2SC1080が2個。 ぜぇ、ぜぇ・・・ なんとかなりそうです。 次は恐怖のヘッド・・・ おぅ!? もっとぎっしりと部品が詰まっているのかと思ったら!! なるほど。 これは意外と侮れないぞ・・・ これはまぁいいでしょう。 電源基板ですね。 いかにも劣化していそうな電解コンデンサです。 2SC732が2個あります。 これもまぁいいでしょう。 セレクタースイッチの基板ですね。 2SC644があります。 問題はこれです。 イコライザー基板は部品面が見えないようになっています。 こういうのが一番怖いんです。 入手困難な部品があったらどうしよう・・・的な・・・ よかった。なんとかなりそう。 なるほど、2SC644と2SC732が多く使われていますね。 まぁ当時の汎用トランジスタですからね。 このディスクリートでこのイコライザーの音を出すのは凄いなぁ・・・ お、このコンデンサはアキシャルリード(両側に足が出ているタイプ)かと思ったら ラジアルリード(片側に足が出ているタイプ)だったのね。 さて・・・ 実は、今後安心して使えるように全てのジャック(10個)を交換して欲しい という追加依頼を頂いたので 軽〜く 「はい。了解です!」 と引き受けたら・・・ まさかの、いきなり最初の難関が訪れました。 キャビネットの、すなわちパワーアンプの入力ジャック、1と2なのですが・・・ 見たことも無いような旧型のジャックで、複雑な配線が・・・ しかも抵抗器が付いています。 10kΩですね。 これは一体どういうことなのか!? どういう仕組みなのか!? プラグを差したり抜いたりしながら仕組みを調べたところ・・・ 凄い仕組みであることが分かりました。 まず、10kΩの抵抗器はパワーアンプの入力インピーダンス決定抵抗になっていて このパワーアンプの入力インピーダンスは10kΩです。 普通のギターアンプやベースアンプの入力インピーダンスは ハイインピーダンスのギターやベースを受け入れられるように1MΩなどが多いので 入力インピーダンスが10kΩというのはかなり低く感じてしまいますが ここはパワーアンプの入力なので、プリアンプを受け入れる前提になっています。 そこで、試しにプリアンプの出力インピーダンスを簡易的に直流抵抗で測ったら10kΩでした。 つまり、ちゃんとインピーダンスマッチングが取れているということです。 そのうえで、 2つのジャックにプラグを差す、差さない、の組み合わせは、 ・どちらにもプラグを差さない。 ・1だけにプラグを差す。 ・2だけにプラグを差す。 ・1と2の両方にプラグを差す。 の4通りあるわけですが、 常に、プラグを差していないところがオープンにならないように ジャック内でスイッチングされるようになっています。 スピーカーOUTやキャビネットINなら並列にすればいいだけですが これはパワーアンプのINPUTで、しかもINPUTが2つあるから複雑になるのですね。 これがどのようなスイッチ構造のジャックになっていてどのように配線をしているのかは、 このジャックから全ての配線材を外して端子のスイッチのON/OFFを調べる必要がありますが へたに配線を外して万が一ミスって元に戻せなくなったら困るし、 解析したところでどうせこれと同じジャックは入手出来ないので、 現在入手可能なジャックを使って上記の4通りのジャックの抜き差しの動作が得られるように 自分でジャック選びと配線方法を考えることにしました。 配線図を描いては消し、描いては消し・・・ やっと出来ました。 モノラルのスイッチ付だとONとOFFの切替スイッチが1回路分しか無くて無理なので、 ステレオのスイッチ付でAとBを切り替えるスイッチが2回路あるうちの1回路だけを使います。 MJ-188(MJ-188-C)です。 プラグの抜き差しによる各端子の導通はこのようになっています。 これでいけますね。 1回路分しか使わないので下の3つの端子は無視しています。 実際の動作を確認します。 ジャックの外形に惑わされずに、配線だけを追うと分かりやすいです。 どちらにもプラグを差さない場合はHOT(信号線)とGNDがショートしますので VOLUMEを0にしたのと同じ状態になります。 1だけにプラグを差した場合は、2のジャックの端子はただの通過点になり 1のジャックだけが機能して、10kΩの入力インピーダンス決定抵抗も繋がります。 2だけにプラグを差した場合は、2のジャックだけが機能して、 10kΩの入力インピーダンス決定抵抗も繋がり、 不要な1のHOTとGNDはオープンにならないように2のHOTとGNDの一部として吸収されます。 両方にプラグを差した場合は、両方のジャックが機能して、 10kΩの入力インピーダンス決定抵抗も繋がります。 あらかじめ工場内で組み立ててから・・・ 現地で取り付けます。 音を出して正常に機能することを確認しました。 次はパワーアンプ・ユニットのオーバーホールをします。 パワーアンプ・ユニットを取り出しました。 これなら2階の作業場へ運べるので落ち着いてオーバーホール出来ます。 かっこいいですねー ちなみにメタルパッケージの2SC783、2SA483と 同じくメタルパッケージの最終段パワートランジスタの2SC1080の2個は、 本当に壊れでもしない限り交換しない方針です。アンプの個性を保持する為です。 いつもの恒例行事です。 足りない部品がないかどうかと、電解コンデンサの径が合っているかどうかを確認していきます。 よし、おーけー。 電解コンデンサNichiconのFine Goldが多いですが、 耐圧や流通在庫によってモノは変わりますし、同じ機種でも修理する時期によっても変わります。 交換する部品を全て取り外して、可能な限り掃除します。 2SK30A-YはUTCの2SK303L-V5にします。 2SA672は入手困難ですので互換品の2SA1015-Yにします。 この47μFは耐圧が80V以上にしなければならないわけですが 耐圧と大きさと流通在庫のバランスから選定が難しい。今回は日本ケミコンの160Vです。 あとこれね。電源の大容量平滑コンデンサ。 この大きいのはいつも探すのに苦労するのですが 今回は耐圧200VのオーバースペックでNichicon KXです。径があっているので丁度いいです。 というか、新型コロナやウクライナ情勢のせいかこれしか流通在庫がこれしか見つかりませんでした。 これがあって良かった。 どーん!! かっこいい!! 先生、出来ました。 部品を交換したのでアイドリング電流を調整します。 エミッタ電流を45mA流すように調整します。 エミッタ抵抗が0.22Ωなので、エミッタ電流を45mAにする為にはV=RIでエミッタ電圧を10mVにします。 暖まってくるとアイドリング電流が上昇しますが、温度補償回路が効いて元に戻ろうとします。 下がり過ぎるとまた上昇して自動的にバランスを取ります。 すなわち、熱暴走しないことを確認します。 完璧です。 アンプを暖める為にしばらくベースを弾いていたのですが、 本当に良い音がするのでこのアンプ欲しくなっちゃいます。 さぁ、次はBE-200ヘッド。すなわちプリアンプです。 これです。 まずは全てのジャックの交換を依頼されていますのでそこからやっちゃいます。 INPUT、CH1のHIGHとLOW INPUT、CH2のHIGHとLOW そして何故かOUTPUT(TO AMPLIFIER)が4つあります・・・ INPUTのHIGHとLOWは入力抵抗が異なるのですが ジャックのスイッチ機能を上手く使っていて HIGHは2本の68kΩの抵抗器が並列抵抗になって抵抗値が34kΩになり、 LOWでは68kΩ1本そのままになります。 このオープンジャックを BOX型ジャックに交換します。 私の経験上、オープンジャックよりBOX型ジャックの方が壊れにくいです。 ちなみにジャックを交換するだけなので簡単そうですが、 スイッチの仕組みと回路と配線を理解している私でも CH1の交換に1時間半かかり、CH2は少し慣れてそれでも45分かかりました。 世の中、そんなもんです。 OUTPUT(TO AMPLIFIER)は配線がごちゃごちゃしているように見えますが ただ単に全てのジャックが並列になっているだけです。 そして、スイッチ付のジャックなのにスイッチ機能は使われていません。 でもこれ・・・ 何でOUTPUTが4つもあるんですかね・・・ 並列ですからどこに差しても同じ音です。 ベースアンプを4台使ってステレオ・サラウンドにするのかな・・・ はい。私もスイッチ付のジャックを使いました。 スイッチ機能の無い普通のモノラルジャックでいいのに、です。 何故ならば・・・スイッチ付のジャックよりも普通のモノラルジャックの方が高いからです。 (こういうのは仕入れる時期やその時の相場などによって変動します。) はい次!! 電源基板です。 レトロで簡素的で大きなコンデンサで、私の好きなタイプの基板ですねー笑 ふーむふむふむ。 思ったより肥大化していないですねぇ。 でも劣化の度合いは容量だけでは分からないし、年数からしてかなり劣化しているはずなので 当然、新品に交換します。uniconです。 他はnichiconのFine Goldと東信工業です。 トランジスタは2SC732のランクがBLからGRになりますが、 TO-3型はもう廃番どころかプレミア価格になってきているので、2SC732があるだけ良い方です。 そろそろ台湾製あたりのセカンドソースを考えなければ。 こうなりました。 かっこいい基板ですねー、えへへー。 基板をオーバーホールする度に試奏して動作確認します。 カシオペアのドミノラインとU2のニュー・イヤーズ・デイばっか弾いてます。 ちなみにあちこち汚いので ちょこちょこ綺麗にクリーニングしながらやってます。 次はプリセットの音色切り替えスイッチの基板です。 2SC644を互換品の2SC1923-Yに交換します。 ちなみに前にも言いましたが、2SC644にはYとQのマーキングがあるのに データシートを見る限りランクはYもQも存在しません。 うーむ・・・ こうなりました。 さぁ!! いよいよ残すはイコライザー基板です!! 部品面が見えないようにガッチリねじ留めでガードされています。 YTAシリーズ全般に言える、唯一の欠点。 修理で基板の部品面とはんだ面をひっくり返していると配線材がプチプチ切れやすいんです。 切れても直せるように、必ず配線図を描いてから作業します。 そうなんです。 私の修理は色々な記録をとったり、HP用に写真を撮ったり、htmlタグ編集しながら記事を書いたり 意外とパソコンに向かっている時間が長いので、修理のお預かり期間が平均2週間程度かかります。 時間はかかっていますがサボっているわけではないのですよ・・・ っていうか、基板をめくってもまだ部品面が見えませんね先生。 やっと見えたぞ。 ・・・まぁ既に見てから元に戻してあったわけですが。 うーむ、ディスクリート回路でこのイコライザーの効きは凄いなぁ。 ふぅ。IRON MAIDENのアルバム「キラーズ」を聴きながら部品を外しました。 とても根気のいる作業です。 小学校の卒業式の時に校長先生から「やる気」と「勇気」と「根気」をもらったのが役に立ってます。 トランジスタは今までにも登場したやつです。 2SC644は2SC1923-Yに、2SC732-BLは2SC732-GRに交換します。 ちなみに、真ん中の足にある黄色い収縮チューブは必要ないように思いますが せっかくなので流用しておきます。 イコライザー基板チャンネル2つ分の交換部品。 さっきはIRON MAIDENの「キラーズ」でしたが、 今度はKISSのアルバム「キラーズ」を聴きながら作業しました。 懐かしくて涙がボロボロ出そうになりました。(出ていませんが。) ・・・って、ほーら言わんこっちゃない!! 切れた!! すぐに直しました。 フェーダーのガリは分解でのクリーニングは厳しいので接点復活剤を注入するやり方にします。 ガリが無くなるまでやります。 電源コードも交換の依頼があったので ヘッド(プリアンプ)とキャビ(パワーアンプ)の両方を三又に交換します。 まぁコードの丈夫さを優先という依頼での三又なので 一応シャーシーにアース線を繋いでおきますが、元がアース無しの二又ですし 特にアースを取るメリットは無いです。 あるとしたら 水に濡れてAC100Vがシャーシーと導通して手がシャーシーに触れて感電するのを防ぐくらいです。 つまり、変換アダプターでアースを回避しても全然OKということです。 あとは革張りの革があちこち剥がれていたので・・・ 接着しておきました。 ということで完成しましたー!! お疲れ様でしたー!! 最後に記念撮影するのを忘れて梱包してしまったので届いた時の映像を・・・ いやー、今回は特に難しい修理というわけではなかったのですが、 私の中では今回の修理のテーマは「ジャック」でした。 パワーアンプの入力ジャックの見たことのない配線、回路とかがあって たかがジャックの交換のはずが、仕組みを解析したりスイッチの配線を考えたり・・・ 毎回何かしらの学びがあって楽しいです。 あとはスタジオ用の大きなアンプというのが初めてでしたので、大きさと重さとの闘いもありました。 そして、やはりトランジスタの互換品、代替品のレア度が増して入手性が悪くなってきたり 価格が高騰してきたり、今までより選定が難しくなってきているのを感じます。 前回もそうでしたが、まだ新型コロナやウクライナ情勢の影響での流通不足も感じられます。 トランジスタについてはチップをTO-3に流用することを本格的に検討する時かもしれません。 それにしても今回のベースアンプの音が良すぎて感動しました。 スタジオで使う音量はもちろんですが、意外と自宅で普通に弾くような音量でも使い易くて 小型アンプのような音量でもしっかりと低音が効いて音圧もあってパワフルで、 上手くなった気がするくらいに良い音がします。 自分の部屋に置ける大きさなら本当に欲しいくらいです。 置けませんが笑 2023.03.31 |
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