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No.45「Roland / GB-30 オーバーホール」
今回はRolandのベースアンプ「GB-30」のオーバーホール依頼です。
あと、「今後も安心して使えるように全てのジャックを交換して欲しい。」 とのことです。 (いつものように淡々と交換作業をしてアイドリング調整をすればよいと思っていたのですが、 そうは一筋縄ではいかないということにまだ気付いていません・・・) そして同じGB-30が2台あるとのことで、 1台ずつやろうとまず1台を送って頂いていたのですが・・・ ご依頼主様のお話によると「もう1台はヘッドホンジャックが前面にあります。」とのこと。 先に送って頂いた方はヘッドホンジャックが背面にあるので し、仕様が違うのか!? ということでネットで調べたら、確かにヘッドホンジャックが前にあるタイプもあり、 なんと基板もかなり違うようだということが判明。 急遽、予定を変更し、比較する為にもう1台も送って頂きました。 同じ型番でどこまでマイナーチェンジされているのか。注目です。 どーん!! 左が先に送って頂いた1台目で、右があとから送って頂いた2台目です。 これが1台目で これが2台目です。 もうノブが異なりますね。 そして「GB-30」の文字の下・・・ 1台目はヘッドホンジャックが背面にあるのでここには何もありませんが 2台目にはここにヘッドホンジャックが!! 後ろを見てみましょう。 1台目はヘッドホンジャックが背面にあります。 隣に使われていない穴が塞がれているのはギターアンプ用のフットスイッチジャックかな。 2台目の背面。 1台目のシリアルナンバーは 640500 ですね。 2台目のシリアルナンバーは 866327 です。 つまり見た目は2台目の方が古そうですが、1台目が前期型で2台目が後期型ですね。 消費電力はどちらも37Wですが フューズは1台目が1Aで、 2台目は1.5Aです。 スピーカーはPIONEERなんですね。 ちなみにちょっとこれは撮影前に配線を外してしまいましたので あったあった、配線を外す前に撮ったやつ。 そして2台目のスピーカーなんですけど GNDのケーブルが2本あるんですね。 何でだろう? と思ったら部分的にシールドしてありました。 (この理由は後で判明します。) はい、これが1台目(前期型)の基板です。 そして、なんと!! これが2台目(後期型)の基板です先生!! な、何で裏返しにしたの?? (この理由も後で判明します。憶測ですが。) いや・・・ 単に裏返しにしただけではないな・・・ これが前期型の基板です。 そしてこれが後期型の基板です。 かなり異なりますね。 前期型の最終段パワートランジスタ。2SD586が2個です。 後期型も2SD586が2個です。ここは同じです。 前期型のドライバー段トランジスタ。 2SA682-Yと、コンプリメンタリの2SC1382-Yと、 もう一つ2SC1382-Yです。 後期型も2SC1382-Yと、 2SA682-Yと、 もう一つ2SC1382-Yです。 うん、ここも同じですね。 ここから変わってきます。 前期型は2SA841-GRが2個使われています。 これも2SA841-GRです。 それが後期型は互換品の2SA970-GRに変わっています。 2SA841が廃番になったことで2SA970に変更したわけです。 うん、やっぱり2台目が後期型ということですね。 さらに、前期型はトーン回路とBASS BOOSTER回路にTA7136Pを2個使っているのですが 後期型ではFETの2SK117が4個に変わっています。 はいはいはいはい。なるほどなるどです。 マイナーチェンジの大きな理由は、 TA7136Pが廃番になったのでFETの回路に変更したということですね。 それに伴って電解コンデンサもあちこち変わっています。 そして・・・ 基板を剥き出しにして電源を入れると、 後期型の方が電源の ジー というノイズが目立ちます。 基板をキャビネットに戻すとおとなしくなりますが 前期に比べると、他のアンプとコンセントを共用したりすると ジー って鳴ったりします。 おそらくFETの増幅回路が原因だと思います。 ふむふむ・・・ だからFETの後期型はキャビネットの内側にアルミシートで部分的にシールドしているんですね。 ちょうどFET回路の辺りだけにシールドしてあります。 そして基板を裏返しにしたのも、少しでも ジー というノイズを削減する為に FETのある部品面を内側にしてシャーシーでシールドされるようにしたのだと思います。 さて、それではオーバーホールということで部品を用意するわけですが、 今回はいつもに増してトランジスタの互換品、代替品を入手するのが困難でして 部品店にトランジスタのランクを問い合わせても 回答に時間がかかった挙句、使いたいランクが無かったりとか トランジスタ互換表に載っている互換品は入手困難なものが多くて 自分でデータシートの定格や特性から判断して探したりしましたが それでも種類が限られてしまい、思うようにランクまで揃えられないという・・・ それでもなんとか揃えました。 ドライバー段の2SA682-Yと2SC1382-Yは、TTA008BとTTC015Bです。 最終段の2SD586は、MOSPECの2SC3039Mにします。 ほとんど選択肢が無いのでこれが見つかっただけでもかなり助かりました。 そして・・・ ここで重大な事実が発覚するのです!! なんと、このアンプにはアイドリング調整をする為の半固定抵抗器が無いのです。 私はいつも、パワーアンプのトランジスタを交換したら、やることが2つあります。 ・アイドリング調整 ・熱暴走しないことの確認 この2つです。 この調整・確認を怠ると、アンプが暖まってトランジスタが熱を帯びて周囲温度が上昇した時に 温度上昇に伴ってトランジスタの増幅率が上がり、増幅率が上がることでさらにトランジスタが発熱し、 トランジスタが発熱することでさらに周囲温度が上昇し・・・ というサイクルによってトランジスタが壊れるまで発熱が加速してしまうのです。 ですので、これらは必ず調整して確認しなければいけないですし、 普通のアンプにはアイドリング調整の半固定抵抗器が付いているのですが・・・ そういえばこのアンプはRoland製でしたね。 以前にもRolandのSPIRIT20か何かで、アイドリング調整の半固定抵抗器が無いアンプがありました。 ではアイドリング調整はどうしているのかというと・・・ 1台1台、それぞれの個体にあった抵抗値の抵抗器を決めて取り付けているのです。 なので、同じ型番の機種でも1台ごとに抵抗値が異なるのです。 前期型の方は100Ωが付いていますが、 後期型には120Ωが付いています。 この温度補償回路部分やアイドリング電流を調整する抵抗器は前期も後期も同じですので 前期と後期で異なるということではないですね。 適切なアイドリング電流が流れるように、この抵抗器の値を1台ごとに決めているということです。 ここで第一の難関が訪れます。 だいたい10mA〜20mAのアイドリング電流が適切だと思いますが、 トランジスタを交換後にそのままの抵抗器だと53mAくらい流れてしまい、 それを抵抗器で調節する為には、元の100Ωに対して680Ω〜1kΩまでの抵抗器を並列に繋いで 100Ωを89Ω辺りまで下げる必要があるのですが、 抵抗器2本を並列に繋ぐと見栄えが悪くなるし(まぁ基板を覗かなければ見えませんが。) 一般的な1/4Wの抵抗器であればカーボンでも金属でもうちに在庫が揃っているのですが この抵抗器は3Wとかなので、新たに仕入れようにも100Ωの下というのはあっても91Ωで、 メーカーや部品店によっては100Ωの下が68Ωだったりします。 例えばトランジスタを交換して100Ωの抵抗器をそのままにしていると・・・ エミッタ電圧がじわじわと上昇していき、この時点で0.3Ωのエミッタ抵抗の電圧が15.5Vですから 0.0155V ÷ 0.3Ω = 0.052A でアイドリング電流は52mAになってしまい、 このまま上昇を続ければ熱暴走してしまいます。 これは抵抗器を並列に繋いで0.3Ωのエミッタ抵抗の電圧を6mVにしてますから、 0.006V ÷ 0.3Ω = 0.02A でアイドリング電流は20mAになり、なんとか熱暴走しなさそうです。 もう少し下げた方が安心かな。 でもこれだと抵抗器を並列に繋がなければならないので、出来ればこの方法は避けたいです。 そこで、やり方を変えます。 抵抗値で調整するのではなくて、トランジスタのhFEの組み合わせで調節します。 バラつきがあるので不安ですが。 ちなみに2台目の方がオリジナルの状態でアイドリング電流の変動が大きいです。 エミッタ電圧で最高7.6mVまでいくので0.0076 ÷ 0.3 で25mAまで上昇します。 120Ωの抵抗器を100Ωにすると下がり過ぎるからやむを得ず高めの設定になっているのでしょう。 試しにこの120Ωに680Ωの抵抗器を並列に繋いで102Ωにしてみたところ・・・ 1/{1/120+1/680}=102 0.9mVにまで下がってしまいました。 抵抗器はE系列によって、あるいはメーカーや電子部品店の取り扱い在庫によって 91Ω、100Ω、120Ω・・・という感じなので 120Ωで高めだからといって100Ωに下げられないというわけです。 ちなみにアイドリング調整に関係する3つのトランジスタのhFEは 1台目は 2SA682-Yが231 コンプリメンタリの2SC1382-Yがなんと53と もう一つが86でした。 2台目も2SA682-Yが231に対して、2SC1382-Yは146と125で、かなりバラバラですが 私が使おうとしている代替品も似たようなバラつき方をしていて 2SAが231で安定していて、2SCはそれより低いhFEでバラついているようです。 とりあえずいくつかの組み合わせを試してアンプの暖まり方に対するエミッタ電圧の変化を監視します・・・ 時間と根気が必要な作業です。 でも中学校の卒業式で校長先生から「3本の木(気)」をもらったので頑張れています。 みなさんももらいましたよね?「やる気」「根気」「勇気」って。 いいところまではいくのですが、やはりhFEの組み合わせで調整するのは難しい・・・ 試しにレアな型番の別の代替品、2SB549と2SD415を仕入れてみましたが似たようなhFEでした。 2SAと2SCのバランスってどの型番でもこんな感じのようです。 うーむ。 実際に使う分以外は自腹なのでプレミア価格のトランジスタは避けて 先ほどの流通性のよいトランジスタでほどほどに追加で仕入れました。 その結果・・・ 同じhFEが増えただけっていう!! ってか・・・ 型番が違ってもPNP型はhFEが232あたりで揃っていて NPN型は175あたりと146あたりに分かれているのは偶然なのでしょうか・・・ (完全に作業の手が止まっています。) 時間ばかりかかってなかなか進まないので やはり抵抗値を変更するしかないですね。 120Ωに3.3kΩを並列にして 1/{1/120+1/3300}=116 で、116Ωになります。 これでエミッタ電圧が4.8mV〜5mV程度になり、エミッタ抵抗が0.3Ωなので 4.9mVの場合、0.0049÷0.3=0.016 で、アイドリング電流が16mVになります。 これなら熱暴走の心配もなく、安心してベースを弾きまくれます。 金属抵抗を基板の裏取り付けて並列接合しました。 ちなみにセラミックコンデンサが裏側についているのは元からです。 何か改造でもしているように見えるかもしれませんが、 ただ単に普通にアイドリング調整をしているだけです。 このアンプにはアイドリング調整用の半固定抵抗器が付いていないので このように固定の抵抗器の値で調節するタイプのアンプだということです。 さて、難しそうな2台目の方を先にやってしまいましたが、 1台目の方もこの調子でアイドリング調整をしました。 こちらは元々100Ωの抵抗器だったのを120Ωに交換してから裏で680Ωと並列にして 1/{1/120+1/680}=102 で、102Ωにしました。 元が100Ωで102Ωにしたのでは対して変わらないと思いますよね。 実は元の100Ωは実測で98Ωしかなくて、 並列合成で102Ωにしたところ、実測で100Ωになりました。 まぁべつに100Ω丁度にすることが目的ではなくて、 適切なアイドリング電流になるように調整したらたまたま100Ω丁度だったわけですが。 ということで、あとはオーバーホールで交換する作業だけです!! もう結構な時間と精神力を使い果たしてしまったのであとは何事もなく進めばいいのですがっ!! えー、いつもの部品配置図は殴り書きの手描きのままで汚いので部品だけ並べます(ぇ 既に交換済みのアイドリング調整に関わるトランジスタ以外の交換部品で、 左側が前期型用で、右側が後期型用です。 大きな違いは先にも述べたようにトーン回路とBASS BOOSTER回路の増幅素子が 前期型はTA7136Pで後期型がFETの2SK117に変更になったことなんですけど それは単にTA7136Pが廃番になったから変更したというだけではなく、 電解コンデンサが1μFと100μFだったところを10μFと470μFに変更していて 後期型の方がBASS BOOSTERの効きが良くなっています。 前期のBASS BOOSTERは自然なブーストで、後期のBASS BOOSTERの方が前期よりもパワフルですね。 どちらが良いかは人それぞれ好みがあるでしょう。 そういう違いを楽しめるのも、同じ機種で異なる仕様のアンプを所有しているからこそですね。 では前期の基板から始めます。 部品を外して可能な限り清掃します。 電源の平滑コンデンサは大きさは当時に比べて現在の方が小型・高性能化されて小さくなっています。 2SA841-GRは互換品の2SA970-GRに交換します。 TA7136Pは同じTA7136APに交換します。 TA7136APはもう手元の在庫が少なくなってきてレアなうえに代替品も無いと思います。 これはBOSSの昔のDS-1に使われていて私にとっては思い入れのあるICなので 修理やオーバーホールで使うのはもうこれで最後にしようかな・・・ 交換しました。 かっこいいですねー!! 次に後期の基板です。 後期の方がBASS BOOSTERの効き方が大きいというか低音が出るんですけど それは前期が100μFだったところが後期は470μFになっていて 前期が1μFだったところが後期は10μFになっているからかな。とか・・・ 今回は回路を解析する余裕がなくてなんとなくそう思っています。 ってか、おい。 どうも外しにくいと思ったら足が3本もあるぞ!! 2回路入りの複合型電解コンデンサは足が3本ありますけどこれはどう見ても1回路。 念の為に確認しても1回路だったのですが、 2200μFが2905μFにまで肥大化していました。 2SA970-GRはそのまま新品の2SA970-GRに交換します。 FETの2SK117-GRもそのまま新品の2SK117-GRに交換します。 この2SK117も既にプレミアが付き始めていて入手性が厳しくなってきています。 うちにはまだある程度在庫がありますが、今後はチップを使う可能性大です。 先生、交換が終わりました。 かっこいいですねー!! あとはジャックの交換ですね。 前期の入力ジャックを 新品のBOX型に交換。 前期のヘッドホンジャックを 新品に交換。 後期の入力ジャックも 新品に交換。 後期のヘッドホンジャックも 新品に交換。 完成です。 良い音しますねー。 BASS BOOSTERを絞っていると2台ともまぁ同じ音ですが BASS BOOSTERの効き方が2台で異なります。 自然な効き方の前期型と、パワフルな低音の後期型。 それはIC(TA7136)とFET(2SK117)ディスクリート回路の差というよりも 前期よりも低音が出せるように設計で改良したということだと思いますが どちらも使えるブースターです。 だいたいどのアンプもマイナーチェンジで仕様が変更になることは多いですけど、 同じ型番でここまで仕様が異なるアンプも珍しいかもしれません。 違いを比べる楽しさを存分に味わえますね。 さて、今回のアンプはアイドリング調整の機構が付いていないタイプ すなわちアイドリング調整用の半固定抵抗器が付いていないタイプで 単に部品を交換しただけでは適切なエミッタ電流が流れないどころか、熱暴走の危険もあるだけに 時間の経過とともにエミッタ電圧の変化をいつもより長く監視しながら固定抵抗器で微調整してきました。 昔ながらの、ダイオードの特性を使った温度補償回路でしたので 本当はトランジスタと熱接合させた方が効果が得られるのですが、 アイドリング調整の機構が付いていないところも含めて昔のRolandのアンプの特徴でもあり、 最低限の仕組みや作りで、確実に動作する信頼性の高いアンプを製造する凄い会社だなと思いました。 この時代のトランジスタアンプは回路的にも基板の見た目的にも好きですね。 両面実装基板が主流になってしまった現在では、もうこういう基板は出てこないでしょうね。 昔の基板を集めて博物館でも建てて展示したい気分です笑 2023.04.12 |
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