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No.47「YAMAHA / JX35 修理」


今回はYAMAHAのギターアンプ「JX35」のオーバーホールとジャック交換の依頼です。
あと、到着してから状態をチェックして判明したことですが、
しばらく弾いていると急に音量が小さくなるという症状が出ます。

このところ同じご依頼主様のアンプが続いていましてこれもそのうちの一つです。

古き良きトランジスタアンプを数台お持ちで、
修理やオーバーホールを受け付けてくれるところがなかなか見つからず、
やっとうちを見つけたとのことで、今後も安心して使い続ける為に
片っ端から修理・オーバーホールを依頼されているという状況です。





さて、まず初めに・・・

YAMAHAのJシリーズとJXシリーズの型番と出力(W数)が少しややこしいので整理しましょう。

前回のアンプは「J-25」で今回のアンプは「JX35」ですが、
JシリーズとJXシリーズの中で、近い出力のものを抜粋して比べてみますと



まず1977年〜1979年のカタログで、「J-25」というのが出力30Wです。
「J-25」だから25Wかと思いきや、30Wです。





同じく1977年〜1979年のカタログで、「J-35」というのが出力40Wです。
「J-35」ですが、35Wではなくて40Wです。





次に1980年のカタログで、「JX20」というのが登場します。出力20Wです。
「JX20」で20Wなので分かりやすいですが、型番は「JX-20」ではなく、ハイフンが無くなって「JX20」です。





同じく1980年のカタログで、「JX30」というのが出力30Wです。





そして、

このあと、カタログが見つからなかったのですが、取扱説明書が見つかりまして
「JX25」と、今回の依頼品である「JX35」が登場します。

1980年代でしょう。

「JX25」と「JX35」共用の取扱説明書によると、
「JX25」が出力20Wで、「JX35」が出力30Wです。





そうなんです。

同じ「25」でも「J-25」の出力が30Wで、「JX25」の出力が20Wなのでややこしいのですが

前回の依頼品「J-25」も出力30Wで、
今回の依頼品「JX35」も出力30Wなのです。


結果的に型番の数字は「25」と「35」なのに出力はどちらも30Wというややこしいことになっています。


まぁどうでもいいといえばどうでもいいのですが・・・


これはすなわち、「JX35」の最終段増幅のパワートランジスタは「J-25」と同じか、
もしくはコレクタ損失が同じトランジスタを使っているであろうことが予想されます。



ということで見ていきましょう。

JX35です。





なんかRolandっぽいデザインでかっこいいですね。





コントロールは、
VOLUME、MASTER.VOL、TREBLE、MIDDLE、BASS、REVERB、です。王道ですね。





ジャックはINPUTのHIGH、LOWと、





HEAD PHONEです。





うらー。





ふむふむ、FUSEは1.5Aですね。





シリアルNo.1548です。
「OZAWA KK」というのが気になりますね。このシャーシーを作った金属プレス加工会社かな。





スピーカーはYAMAHAのJA3067です。





おっと!!基板ユニットの下側にリバーブタンクがありますね!!





はい、それでは基板ユニットを引きずり出します。





お、なんか私が修理してきたアンプの中では新しい時代の基板に感じますね。
まぁ40年くらい前の基板ですが・・・





かっこいいです。





最終段増幅のパワートランジスタ2個と、真ん中に温度補償用のダイオードです。





左側が2SD526で、





なんと右側も2SD526でした。これはかなり良かったです。





真ん中の温度補償用のダイオード。
これは根元から配線材が切れやすいので慎重に扱います。





さて・・・両方とも2SD526で良かったと言ったのは何故かと言いますと、

前回のJ-25も同じ30W出力でしたが、
パワートランジスタがNPN型とPNP型のコンプリメンタリで2SD526と2SB596だったんですね。

典型的なプッシュプル回路のアンプです。





で、トランジスタが古過ぎて現在入手可能な代替品を探すのに苦労したわけですが
なんとか見つかったのが、
2SD526の代替品2SC4511と、2SB596の代替品2SA1725だったのです。

ところが、

PNP型の2SA1725の方は一人1個の購入数制限がかかるほど在庫が少なくて
1個だけ入手したものはJ-25で使ってしまったという状況で、
今回の修理品JX35がJ-25と同じ30Wということで

「おう!!2SA1725がまだ入手出来ればいいんだけど!!」

と、心配していたのです。


それがフタを開けてみたら2SD526が2個だったので、良かったなと。

トランジスタ回路の書籍などではコンプリメンタリのプッシュプル回路しか見かけませんが
結構ギターアンプではこの両方ともNPN型の回路を見かけるんですよね。





それではトランジスタを見ていきます。

まずはFETの2SK30A-GRですね。





そして2SC2240-GR

2SC2240といえば私が修理してきたアンプの中では、
古いトランジスタの互換品として採用する新しい部類のトランジスタです。

まぁ新しいとはいえ廃番品ですし40年くらい前のアンプですが。





そして2SA970-GR

これも私の中では新しい部類のトランジスタで、2SC2240とコンプリメンタリです。





もう一つ2SC2240-GR





私にとっては見慣れた2SC1509。 これは古いトランジスタですね。代替品に交換します。





2SA777。 これは2SC1509とコンプリメンタリです。代替品に交換します。





あと一つありますが、うーむ・・・見えづらいぞ・・・





見えました。 2SC1509でした。





電源用の平滑コンデンサ。2200μFの耐圧80Vです。

正負両電源の場合は同じ平滑コンデンサが2個必要ですが、
このアンプは単電源なので電源用の平滑コンデンサ1個です。





これはJ-25の時もそうでしたが、平滑コンデンサではなくて出力部分のカップリングコンデンサです。





オペアンプが使われていますね。 4558DVです。





もう一つ4558DV。





ブリッジダイオードです。 まぁ壊れない限り交換しない感じですね。





おっと!!

エミッタ抵抗がセメント抵抗じゃないぞ。 小さいな。これでいいのか。





もう一つのエミッタ抵抗。 0.47Ωです。





これはアイドリング調整用の半固定抵抗器です。
よくあるやつですが、錆びやすくて接触不良になりやすいので交換します。


実は今回の主役です・・・(詳しくはのちほど。)






おう。エミッタ電圧が20mVもありますね。

エミッタ抵抗が0.47Ωなので、V=RI(オームの法則)にて
I=0.02÷0.47 で、エミッタ電流は42mAですね。

多く流している方だと思いますが、まぁ大丈夫な範囲ではあります。





もう片方も21mVです。





調整範囲は最小で2.3mV、すなわち4.8mAから、





最大で64.3mV、すなわち137mAくらいまでです。

まぁ10mV〜20mV(21mA〜42mA)くらいにすればよいと思います。







はいはいはいはい。

しばらく弾いていると急に音量が下がる症状の原因が判明しました。

これです。





PULLでGAINが上がるやつです。





これの内部で接触不良を起こしていて、勝手にGAINとノーマルが切り替わってしまいます。





グヘヘヘヘヘ!!





見覚えがあるぞ・・・

以前、YAMAHA F50-112の修理をした時もこれを分解クリーニングしましたね。
一度分解したら最後、バネが飛んでって二度と元に戻せなくなるくらいの怖いやつだ笑





抵抗値が違うやつならデッドストックがあるのですが、
これは合わないのでやっぱり分解クリーニングするしかない・・・怖い・・・





問題のバネ笑 取り付ける際にも超能力が必要です。





もう後には引き返せません。





非導電性のグリースがベタベタなのが接触不良の原因だと思っています。





クリーニングして導電性の防錆処理を施します。





超能力で内部のバネの角度を保ちながらパワーでフタを閉めます。





動作確認。 先生、直りました。







さぁ、あとはオーバーホールですね!!



おっと・・・

夜中の2時3時に焦って作業しているせいか、部品を外す前の撮影を忘れてしまった・・・



部品を外したところです。





なんかどうも「サボってると思われないように早くやらなきゃ!!」と焦ってしまうというか、

特に今回はゴールデンウィーク中は振り込みが出来ないなどの関係で
GW前に作業を完了させないとお渡しがGW明けになってしまうということもあり
まぁ一応、自分で根詰めて苦しくならないように、お渡しはGW明けになるとお伝えしてはいたものの、
性格的にのんびり出来ないんですよねぇ・・・



ということで部品が届くまでの間のんびりと製作した毎度の部品配置図。
同じ容量で耐圧が違うものとか間違えやすいものがあるので今回はカラーにしてみました笑





電解コンデンサの径や、足りない部品が無いかなどを確認します。

時間に追われて焦って作業しているわりにはこれを並べるのに結構な時間をかけています(ぇ





取り外した部品たち。





新しい部品たち。





ちょっと気になったこと・・・

どちらも外したやつですが、色違いなだけで同じ1μF/50Vなのです。

何故わざわざ色違いを使っているのか、謎です。





片方がNP(ノンポーラー)というわけではありません。
カソードマークのデザインも同じで、色が違うだけです。





耐熱温度が異なると色違いがあったりしますがどちらも一般的な85°Cです。





容量を測定してみます。

フムフム。 普通に1μFですね。





おっと、こっちはちょっと容量が大きいけど、もともとの精度かな?


過渡期のデザイン違いが混同しているだけかな。
まぁどうせ交換するんだからあまり気にしないでおこう。







はい。遊んでる場合じゃないので次いきます。

FETの2SK30A-GRはUTCの2SK303L-V5に交換します。





2SC1509は代替品の2SC2235-Yに交換します。





2SA777も代替品の2SA965ーYに交換します。2SC2235のコンプリメンタリです。





2SC2240-GRはそのまま新品に交換。





2SA970-GRもそのまま新品に交換。





普通は1kΩ程度なのに500kΩなんて珍しいなぁと思いながら、
アイドリング調整用の半固定抵抗器も新しくします。





電源の平滑コンデンサはちょっと径が小さくなりますが性能は問題ありません。

最近よく使っている耐圧200Vのやつは高さがオーバーしてしまうので却下しました。





信頼と実績のnichiconです。







メイプルストーリーのBGMを聴きながら作業しました。



かっこええぇぇぇ!!





かっこええぇぇぇ!! まるで近代都市のようだ!!





最後にパワートランジスタ2SD526を2SC4511に交換します。





グヘヘヘヘヘ!!





ふぅ・・・



これでアイドリング調整をすればあとはジャックを交換して終わりだな。



なんとかゴールデンウィーク前までに間に合っ・・・



おう??



最小にしても24.8mV以下にならない・・・







エミッタ電圧で10mV〜20mV以内に調整したいのですが、
狙っている調整可能範囲から外れてしまっています。


これは一大事だ。







温度補償は効いていて、30mV程度で安定し始めました。

これを10mV〜20mV以内に収まるように下げる為には・・・





改造なしに下げる一つの方法としては

トランジスタを選別してhFEが小さいものにすることですが・・・





いやー・・・

これでも限界があって思うようには下がり切らない・・・



うーむ。



まず、この調整の仕組みは、
470Ωと500kΩの半固定抵抗器が並列になっていて





最小にすると、470Ωと0Ωの合成抵抗値つまりショートして0Ωになり、

最大にすると、470Ωと500kΩの合成抵抗値になって
1÷{1/470+1/500000}= 469Ωになり・・・



って、

これ、わざわざ500kΩの半固定抵抗器を使う意味あるかな・・・


それより、どんな値の半固定抵抗器を使おうが最小にすると0Ωになるのだから
よく使われる1kΩの半固定抵抗器でも500kΩの半固定抵抗器でも
下限は0mVから調整出来るはず。

そもそも半固定抵抗器と抵抗器を並列にする意味は
半固定抵抗器の可変抵抗値を小さくして調節し易くする為。



ちなみに半固定抵抗器を10Ωに調整して470Ωと10Ωの合成抵抗にした場合、
1÷{1/470+1/10}= 9.79Ωになるはず。



そこで500kΩの半固定抵抗器を最小にして測定、チェックしてみたところ

最小にしても0Ωにならないことが判明!! 300Ωくらいあります。

500kΩという値が大き過ぎて、最小値がアバウトで誤差が大きいようです。

と・・・



そこで重大な事実に気付きます。



500kΩじゃなくて 500Ω じゃないか!!







これが原因でした・・・ 私の凡ミスです。

1kΩの半固定抵抗器に変更したら、何事も無かったかのようにスムーズに調整出来るようになりました。





いや、厳密にいうと、500kΩの半固定抵抗器の精度が悪い為に
最小にしても0Ωにならなかったことが原因なんですけれどもね。

ちゃんと0Ωから可変していればちゃんと調整出来るのだから。

(という言い逃れ)



取り敢えず12mVにして、25mAのアイドリング電流を流します。 安定しています。







ということで最後にジャックを交換します。





INPUTのHIGHとLOW





HEADPHONE





トランジスタとダイオードを放熱器に密着させるシリコングリースが汚いので





綺麗に拭いて新しいシリコングリースを塗り直します。





綺麗になりました。





完成です!!





かっこいい。





最後に入念に温度補償回路が効いて熱暴走しないことを確認して
13mVにしてアイドリング電流を28mA流すように調整しました。





動作良好です。

コントロールがよく効いて音作りも自由自在ですね。 良い音です。

お疲れ様でした!!





いやー、今回は凡ミスのおかげでちょっと焦りましたが、
もうちょっと心に余裕を持って作業しないとなぁ。と思いました。

焦っているわりには、なんだかんだ言って21日に届いて29日に完了・発送したので
予定よりも早く出来ているわけで、気持ちの問題かなと。

まぁそれよりもトランジスタのhFEをどう選別したらどうなるかとか
色々と分かったこともあるし、

ちょっとくらいトラブルが起きたり壁が立ちはだかったりした方が
頭を使って考えることが出てきて勉強になるし、経験値も上がるので
結果的には良かったかなと思います。

しかし今回の基板は40年くらい前に製造されたものだと思いますが、綺麗でした。
そしてプリントパターンも丈夫で部品面も分かり易いですね。

現在は両面実装基板が主流になってしまって修理する側としては好ましくない流れですが
昔ながらの分かり易い基板に触れられることは嬉しいことですね。

そして、トランジスタの2SC2240がうちの在庫も流通在庫も減る一方ということで
実は今回あたりから2SC2240と同じ特性のチップトランジスタを代替品デビューさせようかと思っていましたが
外観が変わるのでなかなか勇気が要りますね。
当分は在庫を使う感じかなぁ・・・

今後の修理の幅を広げる為にも積極的に実験や改革をしていかないとなぁ。

2023.04.30

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