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No.55「Roland / SPIRIT 30 修理・改造」
今回はRolandの「SPIRIT 30」の修理・改造の依頼です。
私はSPIRIT20を2台と、SPIRIT20の基板ユニットだけもあって合計3台分を所有していまして トランジスタアンプとして良く出来ていると思いますし、気に入っているアンプです。 これはその30W版ですね。 SPIRIT20が縦に大きくなって、なんとキャスターが付いてます。便利です。 見た目からしてJC-120に似た安定感があります。 ぱっと見てSPIRIT20との明らかな違いは MASTER VOLのノブをPULLするとPRESENCEが効くようになってますね。 ご依頼主様のお話によると不具合は、 ・VOLUMEとMASTERに大幅な接触不良よって音が出なくなることがある。 ・INPUTジャックHIGH、LOWの接触不良。 ・VOLUMEとMASTERを絞った状態でもハム多め。 とのことです。 ざっと音出し確認したところ、確かに音が出なくなることがあるほど接触不良とガリが酷いですね。 「ハム(ノイズ)多め」というのは確認できませんでした。 接触不良によってたまたまハムノイズが出たか、アンプ以外の環境の問題だと思いますが まずはPOTのクリーングとオーバーホール(電解コンデンサとトランジスタの交換)で様子を見ましょう。 改造は、 ・VOLUMEがPULLでPRESENCEがONになるのをPUSHの状態でONになるようにして欲しい。 とのことです。 ちなみに1μFの電解コンデンサをフィルムコンデンサにして欲しいというご要望も頂いております。 まぁ電解コンデンサとフィルムコンデンサの使い分けやメリット・デメリットについては色々ありますが 普通は容量が大きいほど電解コンデンサを使わざるを得なくて、 小さい容量は周波数特性や温度特性の良いフィルムやセラミックが向いてます。 昔は1μFだと電解コンデンサしか選択肢が無かったと思いますが 今では小型高性能化が進んで電解コンデンサ以外にもありますので、 まぁ丁度いい大きさがあればあとは好みの問題ですね。 うらー 消費電力28Wです。 スピーカーはオリジナルですね。 それでは基板ユニットを引きずり出しましょう。 グヘヘヘヘヘ!! 見慣れた光景・・・!? おぅ。 上がSPIRIT30で、下がSPIRIT20です。基板が共用なのか!! SPIRIT30が「AP0151-060」で SPIRIT20が「AP0150-060」ですが 製造時期によるマイナーチェンジによる違いの可能性もあるので 20と30の違いとは限らないですね。 気になってSPIRIT20の前期の基板を見てみたら「AP0150-060」でした。 そうするとSPIRIT20が「AP0150-060」でSPIRIT30が「AP0151-060」かな? ちなみにSPIRIT20の前期と後期では電解コンデンサの数も容量も異なっていました。 なんかややこしいですよね。 注目すべきはここですね。 実はご依頼主様よりこのアンプのあとにSPIRIT20の改造の依頼も受けているのですが SPIRIT20を「SPIRIT30のPRESENCEが常時ONの状態に近い音にしたい。」(詳細は未定)とのことで、 ここを見ると、 SPIIRIT30にはPRESENCE用にスイッチ付のPOTが使われているところ・・・ SPIRIT20ではスイッチ部分の穴だけがあるので、やはりこれは共用基板ですが PRESENCE回路を追加する場合は周囲の幾つかの回路定数の変更も必要になりそうです。 ちなみにスイッチ付のPOTはスイッチとPOTが一体化していますが 回路的にはスイッチはPOTとは完全に独立していて、 PRESENCE回路はパワーアンプの中にあります。 基板の上にSPIRIT20では2SD288だったところに2SD313があります。 SPIRIT20では最終段パワートランジスタがこの2SD313でした。 最終段パワートランジスタは基板の裏側、シャーシーの底にあります。 ここですね。 SPIRIT20では許容損失30Wの2SD313でしたが、SPIRIT30では許容損失60Wの2SD586です。 20Wと30Wの違いですね。 トランスの2次側を見ると SPIRIT20は23Vの両電源で1Aで、 SPIRIT30は27Vの両電源で1.5Aです。 プリアンプ回路の電源はSPIRIT20でもSPIRIT30でも±15Vで、 パワーアンプ回路の電源はSPIRIT20が±23Vで、SPIRIT30が±27Vになっています。 では基板のトランジスタを見てみましょう。 基本的にはパワートランジスタ以外のトランジスタはSPIRIT20と同じですが SPIRIT20の前期と後期でも型番は異なりますし、 今回のSPIRIT30ではさらにSPIRIT20の前期と後期のどちらとも異なる型番が混ざっています。 とはいえ、全て互換品なので機能的には同じです。 まずは2SA970-BLが5個 2SC2240-GRが2個 2SB647-Cが3個 2SD666-Cが1個 2SD667-Cが2個 あと、FETの2SK246-GRが5個です。 これらのトランジスタとFETはもう全て廃番なので、互換品や代替品に交換します。 では作業を開始します。 まずPOTのガリを除去しちゃいましょう。 と思って基板を外す為にノブを取っていったら・・・ VOLUMEとMASTERのノブが外れません先生・・・ むやみに強引に引っ張ってもPOTの軸をダメにしてしまうので 超能力を使って取り外しました。 なかなか外せなかった2個は接着剤で接着されていました。 まぁ前の所有者がやったんでしょうけど気持ちは分かります。 緩くなるとPULLした時に抜けちゃうのでしょう。 そう考えるとノブはネジ留めタイプの方がいいですよね。 それでですね、 ガリが酷いのはこのスイッチ付POTの2つなんですけど・・・ ちょっと抵抗値も形状も合わないうちの在庫のスイッチ付のPOTで説明しますと・・・ スイッチの部分はよく分解クリーニングをしますが POTの部分はかしめを外しても軸が抜けないのでこれ以上外せないのです。 どうしても分解したい場合は、後ろの箱のスイッチ部分も外して 完全にバラバラにしなければならなくて危険が伴うので 今回はまず、分解せずに注射器で接点復活剤を注入しながら軸を回してガリを除去します。 それでもどうしてもガリが除去しきれなかったら完全分解することにします。 テスターで可変の具合を見ながらガリが除去出来たことをまず目視で確認してから 音出しして動作確認します。 完全にガリを除去出来ました。 それではINPUTジャックをやっちゃいましょうか。 もうね、ガリが酷いので交換します。 これですね。 モノラルのスイッチ付きです。 このジャックですが、毎度のことながら凄い仕組みで本当に感心します。 なのに、アンプやエフェクターを自作する人でもここに興味を示さない人が多いんですよね。 例えば、HIGHとLOWのINPUTジャックが無いだけのジャンクのアンプがあったとして それを直す為にはジャックを用意して配線すればいいわけですが、 この仕組みを知らないと配線出来ないですよね。 まぁ製作本や製作例で実体配線図があればその通りに配線すれば理解出来ていなくても製作出来るので 危機感が無いのかもしれませんね。 というか、この仕組みをここで説明してしまうと 逆に、ただただ受動的に眺めて理解したつもりになってしまう人を増やしてしまうかもしれない笑 よーし、じゃぁそういうダメ人間を増やす為に説明しよう笑 このジャックは1の端子がHOTで3の端子がCOLDで、 プラグを抜いた状態では1の端子と2の端子が導通していて プラグを差し込むと1の端子と2の端子の導通が解除されます。 HIGHにプラグを差し込むと、27kΩと82kΩが並列になります。 並列合成抵抗なので 1÷(1/27k+1/82k)=20.4kΩになります。 LOWにプラグを差し込むと、82kΩを通過して、27kΩがGNDに繋がります。 HIGHに比べて抵抗値が20.4kΩから82kΩに増えると同時に 27kΩを介してGNDに引っ張られてさらに音量が下がります。 82kΩと27kΩを1つの可変抵抗器とみなして見るとVOLUMEを下げた状態だと分かりますね。 凄い仕組みですよね。 あとアンプのジャックはGNDループ対策で絶縁型ジャックを使うことが多いのですが これは絶縁ワッシャーを使うことでシャーシーとジャックを絶縁しています。 これでわざわざ絶縁型ジャックを使う必要がなくなり、メーカーの在庫管理が楽になります。 一番外側の六角ナット以外は流用します。 交換してこうなりますねー。 綺麗ですねー。えヘヘー。 接触不良がなくなり、HIGHとLOWの差もちゃんと出るようになりました。 次は改造の依頼のやつ。 PULLでPRESENCEがONになるのをPUSHの状態でONになるようにするのをやっちゃいますね。 これはスイッチの真ん中の列がGNDで、 PRESENCE回路をGNDに導通させるとONになる仕組みなので プリントパターンを切断して配線材でPRESENCE回路を入れ替えます。 実際の配線は一番効率の良いルートで繋ぎました。 動作確認です。 PUSHの状態でPRESENCEがON、PULLでOFFになりました。 さぁ、あとはオーバーホールです。 毎度のごとく、部品の種類、数、外形、の確認の為に部品配置図を作成しました。 前期と後期で異なります。これは後期用です。 1μFの電解コンデンサをフィルムコンデンサにする件・・・ 電解コンと同じ程度の小型のものが簡単に見つかると思っていたのですが よくあると思っていたのは0.1μFの勘違いで、大きいものばかりでした。 やっと丁度良い大きさのものを見つけたのですが、仕入れるのに日数がかかるので 私がエフェクターでよく使う積層セラミックでどうか打診してみたのですが ご依頼主様の手持ちのコンデンサを使うことになり、送って頂きました。 というわけで 部品が全てそろっていることを確認。 それでは手術を始めます。 まずはトランジスタを全て外します。 ぜぇ、ぜぇ・・・ 夜中の2時をまわっていたので今日はここまでにしようか迷いましたが なんか今回は部品を発注してから届くまでがいつもよりかなり日数がかかったせいか 「早くしなければ。」と、気持ち的に焦っていたので、 そのまま続けて電解コンデンサも全て抜き取りました。 ぜぇ、ぜぇ・・・ がらんどうです。 新しい電解コンデンサとフィルムコンデンサ。 毎回言ってるかもしれないけどいよいよFine Goldが入手困難になりそう。 電源の平滑コンデンサはnichiconのKWです。 トランジスタ 2SA970はそのまま2SA970に交換。 ランクはオリジナルも時期によってBLだったりGRだったりするのでGRで大丈夫です。 2SC2240-GRもそのまま2SC2240-GRに交換。 2SB647-Cは互換品の2SA965-Yにします。 これもそろそろ市場在庫が無くなってきました。 2SD667-Cも互換品の2SC2235-Yにします。 2SD666-Cも互換品の2SC2229-Yにします。 FETの2SK246-GRは2SK-117-GRあたりにしたいのですが 2SK-117もなんだかレアになってきているので 新しく開拓した互換品の2SK2880-Dにします。 まずはコンデンサから装着していきます。 コイルをコンデンサで固定しているところがありますので 同じように固定します。 全て装着完了!! かっこいいですねー!! HEADPHONEとREVERBジャックの頼りないGND線が千切れていたので すずメッキ線で繋いでおきました。 まぁこのジャックはシャーシーと絶縁されていないので GND線が無くても導通しているんですけどね。もともと繋がっていたので。 これで完成です!! HEADPHONEとREVEABフットスイッチはジャックは交換してないけど動作確認済です。 アイドリング電流が高めなのかなーと思ったけど うちのSPIRIT20と同じでした。 動作も安定しているのでOKです。 お疲れ様でした!! 動作確認。音もバッチリですね。 このところチューブ・アンプが続いていたので 久しぶりのトランジスタ・アンプでした。 SPIRIT20と比べると、フルVOLUMEにした時の音量がちょっと大きいくらいで PRESENCEが付いてる以外は、音そのものは20Wも30Wも同じと言っていいと思います。 音量も、もともとSPIRIT20も他の同程度の出力のアンプと比べて小さく感じるのですが それはVOLUMEとMASTER VOLUMEのタイプだからで VOLUMEをフルにした状態でMASTER VOLUMEで音量調節すると、 他の同程度の出力のアンプと同じような音量になる感じです。 実質的な20Wと30Wの差はパワーアンプの電源電圧ですね。 SPIRIT20が±23VでSPIRIT20が±27Vで、4Vの違いだけなので まぁSPIRIT20とSPIRIT30との違いはPRESENCEが付いてるかどうかくらいかな、と。 私は今は数十台のギターアンプを持っていますが、 私にとってSPIRIT20は3台目のギターアンプでした。 しかも大人になってから中古ジャンクで買ったんですけど VOLUMEをフルにして最大限に歪ませたら、 メタリカを弾くには歪が全然足りないのにメタリカを弾くと楽しかったのです。 それは、音の系統は違えど、 ヘヴィメタルを弾くには歪みの足りない昔のマーシャルのような感じでした。 そこから色々なアンプを試したくて増えていったので、 そういう意味ではかなり思い入れのあるアンプです。 今回はその30W版ということで、そしてそれが20W版と共用基板だったことなど 感慨深い気持ちでした。 何よりもSPIRIT30の一番感動したところは、キャスターが付いているところでした笑 キャスター付きのアンプっていいなぁ・・・ 2024.2.13 |
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