ギターダー
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No.56「Fender / Sidekick Reverb 20 修理・オーバーホール」


 今回はFenderのSidekick Reverb 20 改造とオーバーホールの依頼です。

タイトルは「修理」になっていますが、最初の依頼は「改造」でした。


私は一番最初に買ったギターアンプがSidekick 10 Deluxeだったこともあって
思い入れのあるアンプであると同時に、
VOLUMEをフルにしたときにヘヴィ・メタルをやるには今一歩歪が足りない感じが
手で歪ませるようなコントロールを身に付けるのに役立ったと思います。

今回はその20W版ということですが、
ちょっとVOLUMEを上げただけで歪んでしまうのでクリーンが出しにくいそうで
歪み始めるポイントを遅らせたいとのことです。

うーむ・・・

FenderのSidekickなのにクリーンが出しにくいってあるかな・・・?





今回のご依頼主様は回路図を見ながら変更出来そうな箇所を探すのがお好きな方のようで、
「ここをこう変えたらどうですかね?」
「そこはこういう用途なので変更しない方がいいです。」
などのやりとりをしながら、
「オペアンプのネガティブフィードバックの1MΩが大き過ぎだと思うので小さくするのはどうか。」
という提案がありました。





私としては負帰還抵抗(ネガティブフィードバック)だけでは増幅率は決まらないことと
このアンプのオペアンプの増幅回路が一般的な増幅回路ではなくて、
増幅率の計算で分母にあたる、GNDに落とす抵抗器が無く、かといってバッファ回路でもなく、
トーン回路全体が増幅率の計算で分母にあたる、GNDに落とす抵抗器の代わりになっていて
かといってトーン回路部分のインピーダンスは不明なので
必ずしも1MΩが大き過ぎるとは言えず、

どちらかというと初段オペアンプのVOLUMEの可変抵抗器のカーブの変更等での調整の方が
効果的なのではないか、という説明をさせて頂いたのですが、
軸がD型だったり、元がAカーブの場合は変更もCカーブなど困難になりそうなので
色々と試してみて改造方法を決めましょう。ということになりました。





コントロールはSidekick 10 DeluxeやSidekick Reverb 10と同じですね。





裏です。





ふむふむ。

商品名は「Sidekick Reverb 20」ですが
モデル名は「Sidekick 20 Reverb」なんですね。

エルク電子製です。





背面ジャックはHEADPHONEとLINE OUTとREVERB PEDALです。





スピーカーはオリジナルではなく、JENSENに交換されていますね。





音を出してみまたところ・・・


確かにVOLUMEを絞っても最初から歪んでいるのですが、
なんか不具合のような音が割れている感じで、
思わずスピーカーのコーンの剥がれをチェックしてしまいました。
(スピーカーは大丈夫でした。)



それでは基板ユニットを引きずり出します。

ズルズルズルズル・・・





てか、スピーカーケーブルを抜いたらファストン端子が取れてしまいました。
圧着が緩くて抜けちゃったようです。





抜けないように確実に圧着しておきました。
2本ともやっておきました。





あらためまして・・・

基板です。
ドゥーーーーーーン・・・





お、おぅ・・・

HEADPHONEとLINE OUTのジャックの配線が切断されているぞ!?





本来は、本体の基板からHEADPHONEとLINE OUTの基板を経由してスピーカーへ行くはずが
本体の基板から直接スピーカーへ結線されています。









これが、音が割れている原因なのでは!?







HEADPHONEとLINE OUTのジャックは切断されているので使えない状態です。





えーと、

戻すにはスピーカーケーブルはどこに繋ぐのかなー。





なるほど。
手前から GND - GND - スピーカー - 基板のOUT ね。





100Ωと2.2kΩと、網の中にも抵抗器が入っていて測定したら100Ωでした。





ジャックの仕組みはこうなっています。
LINE OUTがモノラル・スイッチ付で、HEADPHONEがステレオ・スイッチ付です。





回路を解析すると、
ご依頼主様が見ていたネットの回路図は今回預かった実機とはあちこち違っていますね。
回路が違ったり、数値が違ったり、あるはずのコンデンサが数個抜けていたりしています。

実はその回路図を公開している方は様々なアンプの回路図を実機から起こしてUPされていて
私は実機から回路図を起こす手間の大変さを知っているので感心・尊敬していて
私が修理するような機種もいくつか載っているので参考に拝見させて頂いているのですが
わざとなのかと思ってしまうほど、たいていどこかしらの回路が実機と違うんですね。

まぁ前期や後期などのバージョンによって定数や回路が異なる場合もあるので
一概に間違っているとは言えませんが、単純にミスってるっぽい箇所もあります。

ただし断言したいのは、実機から回路図を起こす作業というのは本当に根気が必要な作業で
私でもあとから間違いに気付くことはザラにありますし、気付いていないこともあると思いますので
間違っていることを責める気持ちなど全くありません。
私なんかは自分で実機から起こした回路図を簡単にUPしたくないと思ってしまいますからね。

というかネットの回路図というのは間違っているものが多いので
信用してはいけないものなのだということを初期の頃に強く思いました。



話がそれましたが・・・


実際のHEADPHONE周りの回路もネットの回路図とは異なっていました。


まぁそれは別にいいのですが、
LINE OUTとHEADPHONEのジャックの配線が切られていたことが
結果的にどういう影響を及ぼすのか、ということです。

LINE OUTはスイッチは使わず常にONになっていて、
HEADPHONEもステレオのうち片側だけスイッチを使っていて、
HEADPHONEジャックにプラグを差し込まない時は基板から直接スピーカーに繋がり、
HEADPHONEジャックにプラグを差し込むと、スピーカーが切断されてHEADPHONEが繋がります。

そして、HEADPHONEジャックにプラグを差し込んでも差し込まなくても
基板からの信号は2.2kΩと100Ωを介して常にGNDに繋がっています。





それが、

今回のこのアンプは、

LINE OUTとHEADPHONEのジャックの基板から配線が切られていたので
基板から直接スピーカーに配線されていた為に、2.2kΩと100ΩがGNDに落ちていませんでした。





これが、

VOLUMEを絞ってもクリーンにならなかった原因です。

歪み始めるのが早かったのではなくて、最初から音が割れてしまっていたのです。



ということで配線を元に戻しましょう。





収縮チューブの収縮が足りず、スルスル抜けてしまいますね。
これだと接触する危険があります。





元通りの配線になるように結線しました。





これで音割れが無くなり、正常にクリーンが出るようになりました。


Sidekick 10 DeluxeのVOLUMEのクリーンからフルの歪みまでと同じ加減ですね。

音色はSidekick 10 DeluxeよりもSidekick Reverb 20の方が
出力が大きい分、音に張りがある感じです。





修理で直ったことをご依頼主様に報告し、改造は不要になりました。



うぇーい!!





あとはオーバーホールですね。

まず作業を始める前にアイドリング電流を測定しておきます。
修理後になるべく元と同じアイドリング電流が流れるように調整したい為ですね。



エミッタ電圧が12.4mVで、





エミッタ抵抗は0.5Ωですので





V = I × R

I = V ÷ R

I = 12.4 ÷ 0.5 = 24.8

エミッタ電流は24.8mA流れていますね。





正側と負側があるので、もう一つのエミッタ電流も測定してみます。

お、おう。

こっちはエミッタ電圧が26.9mVもあるぞ。
エミッタ電流は53.8mA流れているということだ。





負側が24.8mAで、正側が53.8mA・・・

まぁそもそもギターアンプというのは原始的で雑でいい加減な創りですし
古いアンプではよくあることなのでいちいち気にしてたらきりがないのですが、
気になりますよね。

半固定抵抗器でアイドリング調整は出来ますが、
正と負の両方のエミッタ電流を上げるか、両方を下げるかですので
正負のバランスを取ることは出来ません。



電源電圧を測定してみると、

正電源電圧が+27Vで





負電源電圧も−27Vなので電源電圧は同じですね。





ではドライバーのトランジスタのhFEを測定してみます。



2SD600K、hFE=210





2SB631K、hFE=211

ここはバランス良いですね。









うーむ・・・

正負の電源電圧が等しくてドライバーからベースにかかる電圧も同じということは
あとは最終段トランジスタのhFEがばらついているということか・・・



左(正側)の2SD313、hFE=83.6





右(負側)の2SD313、hFE=59.3

おう!! これか!!





hFE=83.6の2SD313とhFE=59.3の2SD313を入れ替えてみます。

グヘヘヘヘヘ・・・

負側エミッタ電圧5.9mV





正側エミッタ電圧20mV





最初より全体的に下がったので半固定抵抗器で調整します。

負側を最初の時と同じ10mVちょいに合わせます。





すると、正側は24.5mVになりました。





つまり、

hFE=83.6の2SD313とhFE=59.3の2SD313を入れ替えてもほとんど効果がないので
hFEの組み合わせでバランスを取ることも出来ないですね。

ということで、

調整のしようがないし、まぁ熱暴走することもなく安定しているので

このアンプはこういう仕様ということで
あまり神経質にならないようにしましょう。



あれ?まだ基板をよく見ていなかったっけ・・・

ちょっと気になったのが、

他のPOTはみんな基板に直付けなのに
REVERBのPOTだけ本体の基板に直付けされていないんですね。





ふむふむ。

基板にはPRESENCEのPOTを取り付ける用になっていますね。
Sidekick 20 で、REVERBが無くてPRESENCEがあるモデルってあったっけ・・・





トランジスタは、2SD600Kと、2SC1815-GRと・・・





2SB631Kと、2SC1815-GRと・・・





FETの2SK30Aと・・・





ここはリバーブのドライブ回路用で放熱器に取り付けられています。
両方のネジを外してしまうと放熱器が外れて面倒なことになるので片方ずつ見ましょう。





2SD600Kと・・・





2SB631Kですね。





ここにも2SC1815-GR





オペアンプ、JRCのNJM4558D・・・

4桁シリアルなのでレアな艶ありのはずですが、艶があるように見えませんね。





もう一つ激レア艶あり4桁シリアルの4558Dがあります。艶ががあるように見えませんが。





プリドライバーと最終段トランジスタはシャーシーを放熱器代わりにしています。

ドライバーは2SD600Kと裏返しになっている2SB631Kです。





最終段の2SD313が2個あります。





正側のドライバーにだけ発信防止のコンデンサがあります。





負側にはありません。





ちまちまと時間をかけて部品配置図を作成します。





ちゃんと全部そろっていることを確認。
ご依頼主様のご要望により1μFの電解コンデンサをフィルムコンデンサにします。





トランジスタと電解コンデンサを全て外します。





さようならする部品たち・・・





2SD313をUTC製の2SD880Lに交換します。
2SD313の代替品である東芝の2SD880も入手困難で、そのセカンドソースです。





型番が写真に写りづらいんですよねー
これで見えるかな。





2SD600KはTTC004Bというトランジスタを代替品に認定しました。
2SSD313や2SD600Kあたりはもう中華の偽物が広く出回っているので
無理に同じ型番にこだわるよりも定格から代替品を探す方がよいと思います。





これも写真に型番が写りにくいんですよね。
光の加減や角度でこうすると見えるかな。





ちなみに2SD600KはhFEが210程度だった中に一つだけhFEが 3 なんてのがありました。
製造番号からリバーブのドライブ回路用なのでエミッタ電流のばらつきとは関係ないですね。





2SB631Kはこれまた写真写りの悪いTTA004Bに交換します。





最初からこの角度で撮ればいいんですけどね。一回真っすぐ撮りたいんですよ。





2SC1815-GRはセカンドソースの救世主、台湾UTC製の2SC1815L-GRに交換します。





FETの2SK30A-GRも台湾UTC製の2SK303Lに交換します。
端子配列が異なるので注意が必要ですがセカンドソースは本当に助かりますね。





電源の平滑コンデンサはオリジナルも小型でしたが、さらに小型になりました。
基板シャーシー内に収まる高さに制限があって選択の余地がほとんどないですね。
小さいけど信頼のRubicon製です。





このところずっと電解コンデンサは可能な限りNichiconのFine Goldを使っていますが
コロナやウクライナ侵攻のせいでメーカーの生産が追い付いていないだけでなく
もう生産終了になるみたいで、早めに代わりのコンデンサを探さないとですね。
何でもよければあるんですけどね。





放熱器に取り付ける際には熱電導性を高める為にシリコングリースを塗ります。





先生、穴が小さくて入りません。





ネジを緩めて遊びがある状態で入らないので穴が小さいのです。





ドリルで穴を広げます。





先生、入りました。BR>




こうですね。





よし、オーバーホール完了だ!!

かっこいいね!!





手前のエミッタ抵抗器から、負側のエミッタ電圧が21.6mVで、





正負側のエミッタ電圧が21.5mVです。

お、バランスが取れましたね!!





熱暴走しないことを確認して、だいたい元の状態の12.5mVに合わせます。

エミッタ電流を25mA流している状態ですね。
(12.5mV ÷ 0.5Ω = 25mA)





最後にノブの溝に詰まっているホコリを硬い筆で清掃して・・・





動作良好!!

修理・オーバーホール完了です。

お疲れ様でした。







今回は最初は改造の依頼でしたが、結果的には修理でした。
最初に音を出した時に「あれ?音が割れてる?」とは思いましたけど
新品の状態を知らないとそういうものだと思ってしまうかもしれない程度の割れとも言えるし
Fenderの、しかもSidekickなのにクリーンが出ないなんておかしいとも言えます。

たまたまHEADPHONE、LINE OUTの基板から配線が切断されていたので
すぐにそれが原因だと分かって良かったですね。
私が昔、愛用していたSidekick 10 Deluxeと比べると
VOLUMEを上げていったときの歪み方が同じですが
フル付近ではSidekick 10 Deluxeの方が歪みがグっと強くなります。

あとSidekick Reverb 20の方が出力が大きい分、音に張りがあります。
まぁSidekick 10 DeluxeはICアンプなので音を比べるのもあれですが
Reverb 20のMIDDLEを90度くらい絞ると10 Deluxeと同じような音になります。

SidekickシリーズはREVERBが良い雰囲気の音を出すので気持ち良く弾けますね。

ギターアンプというと真空管アンプばかりがもてはやされていますが
やっぱりトランジスタアンプも好きですね。

Marshallのトランジスタアンプ、Lead12と比べるとメーカーごとの個性が明確にあるし
回路的にも真空管アンプより面白いと思います。

というか、真空管かトランジスタかにかかわらず昔のアンプは良いアンプが多かったですよね。

個人的に久しぶりに昔の愛機Sidekick 10 Deluxeを弾いて、
VOLUMEをフルにした時の、ヘヴィメタルをやるには一歩足りない絶妙な歪みが心地良くて
「おー、やっぱSidekick 10 Deluxe良いわー。」と思いましたが
ICアンプではなくトランジスタのSidekick Reverb 20も良いですね。

2024.2.28

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