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No.59「Roland / SPIRIT 20 オーバーホール・改造」
今回はRolandのギターアンプ、SPIRIT20のオーバーホール・改造の依頼を受けました。
先日、SPIRIT30の修理・改造をしたご依頼主様のアンプです。 SPIRIT20は自分でも2台と基板ユニット1台を所有していて、 修理が3台目な訳じゃないのですが、記事としてはのべ3台目になります。 ややこしいですねー・・・「のべ」って久しぶりに使いました。 トランジスタアンプとしてはかなり気に入っているアンプです。 VOLUMEとMASTER VOLUMEの2-VOLUMEに加えてPULL-OVER DRIVEが付いているので フルに歪ませるとヘヴィ・メタルをやるには一歩足りない歪みが出るのですが、 意外とその音が良くて、マイケルシェンカーやメタリカのバッキングを弾くと楽しいのです。 いや、そういうのを弾くには歪みは全然足りないんですよ。でも楽しいのです。 でもまぁ一般的にはこのアンプの良さはクリーンにあると思うので クリーンで使うか、アンプをクリーンにしてエフェクターで歪ませると良いですね。 ただ、かなりハイが落ち着いていて高音キンキンが抑えられているので JCM800のクリーンやJC-120を大音量で弾いた時のパキパキした高音が好みの人だと もっとハイが欲しいと思うかもしれません。 今回のご依頼主様はもっとハイが欲しい派のようです。 ということで今回のご依頼は・・・ 少し前に修理・改造をしたSPIRIT30に付いているPULL-PRESENCEを常時ONで追加して欲しいとのことです。 あとはオーバーホールです。 コントロールは、VOLUME、MASTER、BASS、MIDDLE、TREBLE、REVREB です。 使い易いです。 Marshallだと極端なセッティングを強いられることが多いのですが このアンプは全て真ん中で私の好みの音が出るので 私に合わせて作られた可能性があります。(ないです。) うらー スピーカーはJensenに交換されています。 製造番号は「052088」です。前期かな。 基板ユニットを引きずり出します。 ズルズルズルズル・・・ 前期ですね。 色だけ見ても前期だと分かりますが C9の電解コンデンサがあるのが前期で、 C9の電解コンデンサがジャンパーでスルーされているのが後期です。 ではトランジスタを見ていきましょう。 FETの2SK246ーGRですね。 2SA970-GR 2SK246-GRが2つ 2SC2240-GR 2SB647-C 2SD667-C 2SA970-GRと2SB647-C 2SD666-C 「666」は悪魔の数字です。 2SD667-C 2SB647-C 2SC2240-GRと2SA970-GR ここにも2SA246-GR 2SA970-GR ここにも2SA246-GR ちなみに4558Dの艶有り4桁シリアルがあります。 電源の平滑コンデンサは2200μF/35Vです。 はい。 ここまで見てきて気付いたのですが、 C9の電解コンデンサがあるのでこれは前期型だと判断していますが トランジスタは後期型と同じですね。
つまり今回のモデルはC9の電解コンデンサは前期型でトランジスタは後期型ということで 前期型から後期型に移行中の「過渡期」ということになりますね。 マニアにはたまらない一品ですねー笑 なお、 かなり前の記事で・・・ No.3「ギター・アンプ解析 Roland / SPIRIT 20」で言っていた「R65」の抵抗器なんですけど その頃は一台一台、抵抗値を変えてエミッタ電圧を調整しているのかと思っていたのですが なんか今になってみるとただ単に前期・後期の違いというだけですね。 それでは、まず改造からやっちゃいましょう。 SPIRIT30に付いているPULL-PRESENCEを常時ONの状態で追加するというやつです。 都合の良いことにSPIRIT20とSPIRIT30は共用基板なので、 回路と基板のパターンをよく理解すればいくつかの部品を追加・変更すればPRESENCE常時ONになります。 まずSPIRIT20はこのようになっているのですが PULL-PRESENCEが付いているSPIRIT30はこのようになっていて、 0.022μFのコンデンサが、 ・47kΩを介してGNDに落ちているとPRESENCEがOFF ・47kΩを介さずにGNDに落とすとPRESENCEがON になりますので、 抵抗器820Ωを680Ωに交換して 新たに680Ωと0.22μFを追加して SPIRIT30で47kΩが取り付けられているところを常時ONにする為にジャンパー(0Ω)で追加します。 ジャンパーはすずメッキ線でもいいのですが、0Ωの抵抗器を使います。 まぁ0Ωの抵抗器というのはつまりジャンパーなんですけど。 それと680Ωが2本と、稀少で入手困難になりつつある0.22μFの電解コンデンサです。 一応、クリップでON/OFFさせてPRESENCEが効いていることを確認します。 効いてますねー。 まるでギター本体のTONEを絞っていたのを全開にしたかのようになります。 先生、PRESENCE追加の改造が完了しました。 ちょっとシャーシー内が汚れていてべたつきがあるので掃除します。 ベタベタするんですよね・・・ 綺麗になりました。 それではオーバーホールします。 ちまちま作成した部品配置図です。 これで電解コンデンサの直径や過不足の有無をチェックします。 前期用です。 そろってますね。 1μFの電解コンデンサはご依頼主様の要望によりフィルムコンデンサにします。 交換する部品を全て抜き取ります RUSHのライブ盤を聴きながらやって、ライブよりちょっと時間がかかりました。 さようならする部品たち・・・ 2200μFがNichiconのKZで、あとはNichiconのFGと1μFのフィルムです。 2SA970-GRはそのまま新品の2SA970-GRに交換します。 2SC2240-GRもそのまま新品の2SC2240-GRに交換します。 一時期は入手困難になりましたが、また流通し始めました。 ある程度の在庫は確保してあるけどどうなることやら・・・ 2SB647-Cは2SA965-Yに交換します。 2SD666-Cは2SC2229-Yに交換します。 2SD667-Cは2SC2235-Yに交換しますが 既に2SC2235-Yあたりも稀少になってきてプレミア価格になってきたので 使うのはもうこれで最後にするかもです。 2SK246-GRももう稀少でプレミア価格になってしまっているので 代替品の2SK2880-Dに交換します。 先生、交換完了しました。 かっこいいですねー!! 動作良好です。 あとはこういうところとか気になりますよね 以前は洗剤でジャブジャブ洗っていましたが 接着剤でくっ付いているのが剥がれちゃったりするので 最近は洗剤を使わずに磨くのがマイブームです。 あとHEADPHONEジャックに接点不良があったのでクリーニングで復活させて INPUTジャックもクリーニングしておきました。 これで完了です!! お疲れ様でした!! いやー、やっぱりSPIRIT20は良いアンプですね。 良い意味でクセが無いというか、良い意味で普通というか。 そこが良い意味でJC-120の自宅用っていう感じで クリーンも良いし、エフェクターの乗りも良いから使い易い。 回路もシンプルで、一見、特徴が無いようにも見えるのに 多機能を売りにするでもなく、極端に幅広い音作りが出来るわけでもなく 「これが基本の音なのだ。」という主張を感じます。 このアンプをいつまでも維持する為には、 壊れても一から作れるほどのトランジスタの代替品を常に選択し続けなければなりません。 そうです。 今は2SA929の代替品として2SA970が使えても、 今は2SB647の代替品として2SA965が使えても、 既に2SK117の代替品として2SA246が使えないと判断して2SK2880を選択したように 今まで使えていた代替品も、もういつ使えなくなってもおかしくないわけです。 そういう意味では危機感を覚えると同時に、 まぁでも回路が分かっているわけだし、何かしらの代替品は常に出て来るだろうという 余裕みたいなものもありますね。 これがもし特殊な部品が必要だったり解析不能なデジタルものだったりしたら そうはいかないでしょうね。 もしソリッド・ギター・アンプ製作の教科書があったとしたら お手本として取り上げてもよいのではないでしょうか。 2024.4.9 |
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