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No.20「Marshall / Lead12 修理 (W39791)」


当サイトをご覧になった方からアンプの修理の依頼を受けることが多くなってきました。
特に修理の記事を公開しているものと同じ機種についての依頼が多いですね。

今回も当サイトではすっかりお馴染みの Marshall の Lead12 の修理を承りました。
アルバイトをして初めて購入したギターアンプだそうですが
長期保管してたようで、ガリが酷いとのことです。



おおぉぉっ!! 届いてびっくり!!


こっ、これは!!


なんと、Marshall の元箱じゃないですか!!



レアだ・・・これはレアだ・・・



おぉぉ・・・



本物だ・・・



シリアルナンバーはW39791 のようです。 つまり 1988年製 の元箱です!



「輸入品検品証」が貼られてます。



ブランド
: マーシャル
品 名
: 5005
検 品
完了印
: 検品合格
検 品
責任者印


「検品責任者印」のところが空欄なので私の名前を記入しておきま・・・(嘘


個口が「2個」なのは YAMAHA が楽器店に2台納品したということかな。



箱から出す為に梱包テープを慎重に剥がします。



こっち側は「はこBOON」の伝票のビニールがベッタリ貼られていて剥がすと危険なのでビニールごと切りました。



この箱はアンプの取っ手の部分を持てるように穴があいているのですが・・・



依頼者様から聞いた話によると・・・


『購入時に楽器店のおじさんが、アンプの持ち手をつかんで運べるようにと箱の上部をカッターで、
「あっ、」と声を出して止める間もなく手際よく切ってしまったときのことを思い出しました。』


とのことです!  おじさんったら・・・なんてことを(笑

内側に半分だけ残ってました!!





この元箱は貴重なものなので、修理が終わって返送する時はこの元箱の上からさらに
プチプチとダンボールで包もうと思います。



あと、半透明のビニールカバーも付属していて保管してあるとのことですが(私も持っているやつですね)
その他にも購入時の付属品を保管していたとのことで、貴重な資料を提供して頂きました。







イギリスの国旗に Marshall のロゴ!! かっこいい・・・



本体です!!


おぉ、なかなかの美品です。 新品のように綺麗です。



後ろ側。



MAINS VOLTAGE(主電源電圧)は105Vと記入されてます。



ちなみにうちのWシリアルは2台とも110Vと記入されてます。
まぁどっちにしても日本のコンセントは100Vなので入力電圧は100Vになります。



POWER CONSUMPTION(消費電力)は6Wです。



初期型には5Wと記載されていますが、 記載が違うだけで実際にはどちらも同じはずです。
あと、MAINS VOLTAGE のところに 105V とありましたが、ここの VOLTAGE にはちゃんと100Vと記載されてました。



CELESTION のスピーカー。



症状はガリがあって特にGAINとTREBLEのガリが酷いとのことですが、
確かにガリが酷いですね。全てのつまみでガリがあるのと、入力ジャックにも接触不良がみられます。

あと電源スイッチの赤いパイロットランプがチカチカしますので、スイッチを交換します。


ということで修理箇所は

・各つまみのガリ
・入力ジャックの接触不良
・パイロットランプのチカチカ

です。

今まで何台もLead12を扱っていて思ったのですが、これらは特にLead12で発生しやすいトラブルですね。





っていうか・・・



うちのWシリアルと全然音が違います。

個体差の範囲から外れるほど明らかに音が違います。


しかも普通は INPUT の HIGH に差し込んだ方が LOW よりも音量が大きいはずなのに
LOW に差した方が音が大きい・・・え? 逆?


と・・・ここで気付きます。



これWシリアル(中期型)なのに、ジャックをよく見たら・・・なんと!後期型の仕様ですよ。 
後期型の仕様だから HIGH と LOW の位置が初期・中期型とは逆なのね。



うちの2台のWシリアルのINPUTがこれで



今回お預かりしたWシリアルのINPUTがこれです。



ややこしいですよね。
初期・中期型は左側が HIGH で右側がLOW 、 後期型は左側が LOW で右側が HIGH なのです。


HEAD PHONE と LINE OUT のジャックも初期・中期型と後期型で異なります。

うちのSシリアルとWシリアルは兼用になっていて、
中間で止めると HEAD PHONE 、奥まで差し込むと LINE OUT になりますが



今回お預かりしたWシリアルはジャックが別々になって、LINE OUT の呼び方が DIRECT OUT になってます。
これはうちのXシリアルと同じく 「後期型」 であることを意味します。

ちなみに後期型はシリアルナンバーの刻印場所も異なります。
箱に貼ってあったラベルの記載の通り、W39791でした。



うちの2台のWシリアルも中期型だし、当然のごとく 「Wシリアルは中期型」 と思い込んでいたのですが
最初にここで気付くべきでした。


ということで、これは 「シリアルはWだけど、仕様はXシリアル以降の後期型」 という珍しいモデルです。

ヤフオクでも見かけたことがあります。



うちには後期型のXシリアルもありますので比べてみたところ、だいたい後期型の音でした。
ただし2台で同じセッティングで弾き比べると、うちのXシリアルの方が音量が小さくて音が丸いですね。

この音の違いは以前の記事 (No.17「Marshall / Lead12 比較・検証」) で検証した通り
可変抵抗器の許容誤差によるものだと思われます。



ということは、基板も後期型の基板だろう、ということになります。


いざ、オープン!!


今回お預かりしたW39791の基板。 やはり後期型の仕様でした。



うちのWシリアルやXシリアルと比べてみましょう。

W12632(中期型)の基板。1988年製です。



そしてこれがうちのX21227(後期型)の基板。1989年製です。




見て分かる通り、今回お預かりしたW39791の基板は後期型の基板ということです。

ただし、Wシリアルですので1988年製です。



「INSPECTED(検品責任者)」は STUART さん。 (←あとで再び出てくるから覚えといてね♪)


まぁWシリアルは中期型だなんていうのは Marshall の説明ではなく、私(私たち)が勝手に決めてるだけですし
仕様が変更になる時期には旧型と新型が混在しているものもあるということは想定してましたが・・・

要は中期型と後期型はWシリアルかXシリアルかで分かれるのではなくて、製造年月日で分かれているということです。


W12632:1988年3月17日製造

W20127:1988年5月18日製造

    ↑ 中期型 ↑
------------------------------
    ↓ 後期型 ↓

W39791:1988年11月23日製造

X21227:1989年8月7日製造



結果的に、Wシリアルには中期型のものと後期型のものがあるということになります。

中期型と後期型は基板そのものも違いますし回路も異なりますので、音もかなり違います。
アンプとしての基本的なトーンはだいたい同じではありますが、やっぱり比べるとかなり違います。

音の好みは人それぞれですのでどちらが良いというのはありません。
初期型や中期型の方が中音域がカラっと出ていて、後期型の方が歪みも強く低音が出て丸みのある音です。


個人的な感覚ですと・・・

初期型と中期型はカラっと抜けの良い1980年あたりのヘヴィ・メタル・サウンドっぽくて
後期型は1990年以降のドンシャリ傾向のヘヴィ・メタル・サウンドっぽいと思います。



せっかくですので、もう少し詳しく基板を見てみましょう。


可変抵抗器は全てオリジナルの TAIWAN ALPHA 製です。



MIDDLE だけ他のに比べて回すのが少し重いのは製造上の個体差のようです。



ちなみにオリジナルの可変抵抗器は軸を回すのがスルスルと軽いのですが、
リプレイスメント(同等品)に交換すると軸が重くなりすので、ガリは可能な限りオーバーホールで直します。

どうしてもガリが取れないような場合にはリプレイスメントに交換するということになります。



カラーコード入りのヒューズ。 珍しいですよね。 抵抗器でいうと 510Ω ってとこですかね(笑



オペアンプは MOTOROLA 製の MC1458CP1 です。



後期型になるとコンデンサが全てアキシャルリード型になります。
Marshall は The Guv'nor とかもそうですがアキシャルリード型のコンデンサを多用しますね。

部品番号に「C」とあるのはコンデンサです。
C3、C5、C9、なんか抵抗器に見えますけどコンデンサです。



随所に見られるこのコンデンサ、これは村田製作所のロゴマークです。



電源の平滑コンデンサ。
初期型や中期型はアキシャルリード型で寝かせて取り付けてありましたが、後期型は立ててあります。



ブランドは中期型と同じ SAMHWA 製です。 韓国の大手メーカーなんだってさ。
ちなみに初期型は松下製です。



エミッタ抵抗は中期型と同じく、言わずと知れた TY-OHM です。



興味がある方は以前の記事 (No.17「Marshall / Lead12 比較・検証」) を最後まで読んでみて下さい。
TY-OHM の隠された秘密が明らかになってます。


曲がってたので直しておきました(笑



Lead12によくみられる傾向として、もともと製造の時点で部品の取り付け方が曲がっていたり
中古の場合は前の所有者が部品の型番が見えやすいようにトランジスタなどの足を曲げてあったりします。


エミッタ電圧は 5.2mV と 5.5mV でした。
回路図によるとここに流す電流の規定値は 12mA ですのでエミッタ電圧は 3.96V がよろしいのですが
気温によっても変化しますので 5.2mV と 5.5mV なら全く問題ないですし、かなり安定しています。





トランジスタを見ていきます。

TR1・・・BC184 Micro Electronics製です。



TR2・・・BC184



TR3・・・BC212



TR4・・・ここはMJ3001のはずですが、何故か印字が剥がれてます。
後で裏のハンダを確認しましたが、交換されたようには見えませんでした。 最初からこれが付いてたようです。



TR5・・・MJ2501 こっちは印字がしっかりしています。



実は私の X21227 も MJ3001 だけ印字がかすれています。
もしかするとこの頃から既に MJ3001 の方が流通在庫が少なくなってきて
こういう状態のものしか仕入られなかったのかも? 現在ではとっくに生産終了品ですし。



TR6・・・BC184



まぁ全体的に見て使われている部品は私の X21227 とほとんど同じですが
この C4 の電解コンデンサだけ違います。 どうやら Vishay / BC 製ですね。



ちなみにネットで DALE の抵抗器のことを Vishay / DALE って書かれてたりするんですけど
それは Vishay が DALE を買収したからです。

同じようにこの Vishay / BC も BC components というメーカーを Vishay が買収したんですね。

東芝半導体も売却が決まって何処かに買収されるようですが、なんだか寂しいですね・・・



それではポットのガリから修理していくわけですが・・・

ちょっと気になることがありました。


一般的なナットには表と裏があるのですが、可変抵抗器を留めているナットが全て裏返しに取り付けてありました。



角が丸くなってる方(写真右)が表なんですけど、もしかするとコントロール・パネルを傷付けないように?
あえて丸くなってる方をパネル側にしているのかもしれません。

うーむ。取り付けるときどっち向きにするべきか・・・


自分のXシリアルを見てみたらやっぱり表と裏が逆向きに取り付けてあります!
なるほど。 じゃぁ逆向きにしましょうね。





そして今度は・・・

パネルの GAIN とVOLUME の間のところがフニャっと曲がって浮いてます・・・ 柔らかいのね・・・



このパネルはステッカーになっててシャーシーに貼り付けてあるのですが・・・


おい、奥に何かいるぞ!!


見えます?

何か丸いのが一枚はさまってくっ付いているんですよ。 こいつのせいで浮いてるようです。



剥がして取り出せました!! なんだこりゃ(笑



ぬををを!!

ちょっと!! 検品責任者の STUART さん!!

パネルの穴の部分をくり抜いた切りカスでしょこれ!!(笑  しかも中心がずれてる(笑



まだステッカーの粘着力があったので、なんとか貼り付けて平らになりました。



50円玉の穴の位置がずれているエラーコインはモノによって2〜3万円の価値があるらしいです。
きっとこれもレアなものなので袋に入れてお返ししましょう(笑





基板をシャーシーから外します。




まず、慎重にやらなければいけないのが可変抵抗器を基板から取り外す作業です。

特にこの Lead12 の場合は足がプリント基板の銅箔に密着するように曲げられてハンダ付けされているので
足を真っすぐに起こさないと可変抵抗器が基板から抜けないのですが
完全にハンダを除去してから足を起こさないと、簡単に銅箔が剥がれてしまいます。



しかも抵抗器の足と違って太くて硬いです。
可変抵抗器をグラグラ動かしながら抜こうとすると簡単に銅箔が剥がれてちぎれます。

銅箔がちぎれてしまうとハンダ付けは出来ませんし、運よくちぎれずに残っていたとしても
銅箔が剥がれてプラプラしてると可変抵抗器が固定されません。
素人が真似する場合は覚悟して下さい。


ちなみに私のような職人になると・・・もし銅箔が剥がれてちぎれてしまった場合でも
すずメッキ線を潰して薄く伸ばして銅箔を作って形成して修復することも可能です。
アロンアルファや普通の接着剤はハンダゴテの熱で溶けてしまうので駄目ですよ。



ということでコテの温度にも気を使いながら慎重に作業します。


今までハンダ付けされていたハンダは劣化しているゆえ再利用しませんので
平らになるように除去しておきます。



ここのように銅箔の面積が小さいところは過熱により剥がれやすいので特に注意が必要です。



ちなみに私がプリントパターンを設計するときはこういうところの面積をなるべく広く取るようにしています。

例えばこのくらい面積を取った方が強度が増して熱にも強くなり、剥がれにくくなります(笑





全ての可変抵抗器を取り外しました。



カシメてあるツメを曲げて起こします。起こす時の曲げ方にコツがあります。
ここで曲げ方が悪いと、あとで元に戻す時に上手く戻せずにカバーにガタが生じます。

ただ起こせばいいというものではないないので気を付けましょう。



カバーを外しました。



レコード盤の溝のような跡が出来ています。 ここをグルっと一周、接点復活剤を塗布して磨きます。
スプレーを吹きかけてビチャビチャにしてしまうのはやめて下さいね。



原理は同じでもモノによって構造が異なったりします。



VOLUMEだけのパッシブ・エフェクターのような簡易回路を作って
カバーのツメを起こしたまま、ガリが取れたかどうか実際に音を出してチェックします。
ガリが無くなるまで何回でも磨いてチェックして・・・を繰り返します。



全てのガリが取れましたが、念の為一晩放置してからまたチェックします。



ガリが無くなったのでツメを閉じます。
カバーには軸の回転のストッパーがありますので、ガタがあると軸の止まる位置が毎回ズレます。
素人がやると、どうやっても、4箇所閉じても、ガタが生じます。

私は険しい山奥で修行を積んだ仙人なので、2箇所だけ閉じればガタが無い状態に出来ます。



2箇所でも大丈夫ですが、4箇所のツメを確実に閉じて固定します。




ここで・・・


例のコントロールパネルのステッカーの粘着力が弱いのか、また浮き上がってました・・・

邪悪なるダークサイドに陥ったフォースの力によって引っ張られていると感じざるを得ません。




マスター・ヨーダの力を借りて、接着剤で完全に貼り付けました。 これで大丈夫だと思います。







入力ジャックの接触不良はジャック内部の接点と、ジャック外側のスイッチ部分の接点があります。
ジャックのスイッチというのはプラグを差し込むことで金具の板(接点)が離れる仕組みになっていて
Lead12の場合は HIGH 側のプラグを抜き差しすることで入力インピーダンスを決定する抵抗器を
並列合成抵抗にするかしないかを切り替えて HIGH と LOW のインピーダンスを変えています。

ジャックの外側に金具の板(接点)が見えます。



このジャックの外側にある金具の板(接点)が接触不良だとちょっとやっかいなのですが
今回の接触不良はジャック内部の接点だったので、プラグに接点復活剤を塗布して
プラグをジャックに何回も抜き差しすることで直りました。



次はパイロットランプがチカチカしてた電源スイッチを交換します。

私が一番最初に購入したWシリアルもパイロットランプがチカチカしてて交換したんですけど
症状が軽いうちは 「あれ?」 って気になる程度ですが、どんどんチカチカが激しくなって
しまいには点灯しなくなります。

今回の依頼主様も
『もうだいぶ前からチカチカしていたため、このアンプはそういうものだと思い込んでしまっていました。』
とのことでした。

このチカチカ、気になりだすと結構気になって演奏に集中出来なくなります。


電源スイッチはパネルの穴から外側に取り外す仕組みになってます。



左が取り外したやつで、右が新品。



この状態で、狭いとこで温度を上げてハンダ付けしなければなりません。
かなり熱くなるのでハンダ付けしたら直ぐに放熱器で熱を逃がします。



交換後。 チカチカしなくなりました。 これで演奏に集中出来ます。




例の部分もしっかり接着されて浮かなくなりました。




修理完了です。



これは基板も外観もかなり綺麗な状態ですし、まだまだ何十年も末永く使えると思います。

音はやはり初期型や中期型とは異なり、低音が効いてます。

しかしこの時代の小型アンプは良いものが多かったですね。
近年のデジタルなエフェクターが内臓されているようなアンプではなかなかこういう純粋な音が出ないです。

時代によって流行りの音も違いますから、そういう関係もあるのかもしれません。
今はエフェクターをガンガン使うことが前提と言っても過言ではないですよね。まぁ人によりますけど。

昔はエフェクターは補う程度だったので、アンプの個性がそのアンプの音として出ていたのですが
おそらく近年のデジタルなアンプは、内臓エフェクターの個性がそのアンプの音みたいになってます。

多機能なアンプに魅力を感じる人が多いから各メーカーもそういう製品を出すわけですが
それは言い換えると、そういうユーザーが魅力を感じているのは「アンプ」の部分ではなくて
「内臓エフェクター」の部分なんですよね。


そういった背景があるからなのかどうかは分かりませんが
私は多機能なアンプほど、ノン・エフェクトの音が 「ただのスピーカーの音」 みたいに感じてしまいます。


あとは、エフェクターは自分が厳選したものを繋げばいいと思うんですね。
内臓のエフェクターでずっと満足出来るとは思えないんですよ。

そうするとやはりアンプ自体の音で勝負してた頃のアンプの方が、アンプの部分が良いことが多いわけです。


余計な機能が一切ない、基本的なアンプの基本的な音。


私は、そういう基本的なアンプの部分が良い音のギターアンプに魅力を感じます。
Marshall Lead12 というアンプは、そういう魅力のあるギターアンプのうちの一つです。

2017.7.13

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