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No.35「Marshall / Lead12 Rシリアル 修理 (08624R)」


ブログで紹介してからだいぶ間が開いてしまいましたが・・・

ついに我が家にやって参りました。
Marshall Lead12 の・・・幻のRシリアルです。

私が所有する Lead12 としては7台目になります。

入手順にいうと、W20127、X21227、W12632、S21230、S18351、S06158、08624R、です。


ハードオフで 「電源入らず。」 ということでジャンクでした。
ヤフオクでさえ滅多に出回らない激レア商品が、生活圏内のハードオフにあって驚きました(笑

しかもとても綺麗な状態。



ネットではSシリアルが 「初期」 もしくは 「最初期」 と説明されていたりもしますが
今回ののRシリアルはそれよりも前ということで、「幻のRシリアル」 と呼ばれたりしています。

しかし前にも記事に書きましたが、Rシリアルはヤフオクやネットで何台も確認していますので 幻 ではなく、
どちらかというと海外サイトで1〜2台だけしか見たことが無い Pシリアル の方が 幻 です。

Pシリアルには電源スイッチの左側に H.P./LINE OUTジャック がありません。
YAMAHAの1985年の日本向けのカタログに載っているのがPシリアル仕様です。

でもRシリアルを入手出来ただけでも大きな喜びです。




今のところ、Lead12に割り当てられているシリアルナンバーのアルファベットとして確認出来ているのは

P=1982年、R=1983年、S=1984年、T=1985年、U=1986年、V=1987年、W=1988年、X=1989年、Y=1990年、Z=1991年

です。
ちなみにMarshallでは数字と見間違えやすい「O」や「Q」はシリアルナンバーに使われていません。


Sシリアル以降のシリアルナンバーはアルファベットが先頭にあるのですが
PシリアルとRシリアルはアルファベットが末尾にあります。

今回私が入手したLead12のシリアルナンバーは 08624R です。




裏側です。




MAINS VOLTAGE のところは国によってコンセントの電圧が異なる為に空欄になっていて
手書きで記入するようになっているのですが、これには「120V」と記入されています。
うちにある他のやつは「105V」だったり「110V」だったりします。




国内販売用にはこのステッカーが貼られています。
Sシリアルまでは輸入元が「NIPPON GAKKI」で消費電力が5W、
Tシリアル以降は輸入元が「YAMAHA CORPORATION」で6Wになっています。
アンプの出力は12Wです。






基板を見てみます。 
はんだ付けされているスピーカーケーブルが短くてピーンと張ってしまって、まだここまでしか引き出せません。




まずはヒューズを確認すると・・・





切れています。

スプリングのようにクルクルなってて珍しいのですが、切れてこうなったのか、元からスプリング状なのか
もしかしたら英国製のヒューズかもしれないのでオリジナルの部品として保管します。




交換したら電源が入りまして、最初は音が出なかったのですが
時間をかけてPOTの内部を思い浮かべながらVOLUMEをグリグリ回してたら
ついに局所的に音が出るポイントが出てきました。

ほとんど念力というか、超能力で音を出したという感じで
普通だったら 「音が出ない」 という結論を出していると思います。

近年まれにみる強烈なガリです。






しかしどうやら不具合は 「強烈なガリ」 だけのようです。



可変抵抗器のクリーニングで直るかどうかが怪しいほど強烈なガリですが
それでも新品のリプレイス品に交換すればいいので・・・直ったも同然です!!


とはいえ、ヒューズが切れた場合は 「ヒューズが切れた原因」 を究明しないと
また切れる可能性がありますので、そのへんも探っていければと思います。



基板ユニットを完全に引き出す為にスピーカーケーブルを外しますが
その前にホコリが凄いので掃除します。




綺麗になりました。




普通は「+」と「−」が記載されているのですが「CELESTION」と書いてあるだけです。




ケーブルを外して平型端子にします。




脱着可能になったので基板ユニットを完全に引き出せるようになりました。
スピーカーケーブルはBELDEN 9497等に交換したりするのが定番ですが
あえてオリジナルのままにしておこうと思います。
レアな物はオリジナルのままにしておきたいのです。(平型端子にするくらいはいいでしょう・・・)






それでは基板を見ていきます。




他の個体はこのステッカーに製造年月日や検品者のサインが記入されていまして
複数のRシリアルに1983年製の記載があることを確認していますが
これには何も記入されていませんでした・・・

「JAPAN」とあるのは「日本輸出仕様」という意味で、これは英国製です。






しかし大きな収穫です。

Rシリアルの基板にはSシリアルと同じ基板と、それよりも前の基板の、2種類があるのですが
これはSシリアルよりも前の、初期の基板でした。

他のシリアルの基板と比べてみましょう。



まずこれはSシリアルの基板です。 
シリアルによって部品は異なっても、初期(S、T)と中期(U、V、W)にはこの基板が使われています。

(※ 厳密にはRシリアルの途中からこの基板が使われ始めています。)




そしてこれはXシリアルの基板です。 後期(X、Y、Z)にはこの基板が使われています。

(※ 厳密にはWシリアルの途中から後期型の基板が使われ始めています。)






そして今回のRシリアル初期の基板は・・・



今までの初期〜後期のどれとも異なります。
部品が違うだけではなく、基板そのものが別物なのです。




レイアウトも異なりますし、トランジスタも1つ少ないですね。



Sシリアル以降にはパワートランジスタの右下のあたりの放熱器のところにもトランジスタがあるのですが





Rシリアル初期にはこのトランジスタがありません。 このことは非常に重要です。



これはバイアス回路のトランジスタで、トランジスタのベース電位を半固定抵抗器で調整するのですが
Rシリアル初期の基板には半固定抵抗器も見当たらないので、バイアス調整をする回路そのものが無いようです。




もう一度言います・・・


バイアス調整をする回路そのものが無いのです!!





製造年月の古い順に並べると・・・


Rシリアル初期はバイアス調整をする回路そのものが無いので半固定抵抗器がありません。




Sシリアルからはバイアス調整をするようにトランジスタと共に半固定抵抗器を入れてますが・・・




Uシリアルからは半固定抵抗器で調整可能な回路を残したまま、470Ωの抵抗器で固定してます。
ややこしいのですが、Rシリアル初期における 「調整しない回路」 とは異なります。
0Ω〜1kΩの調整範囲の中で470Ωに調整してあるということです。






その、Rシリアル初期における 「バイアスを調整しない回路」 の影響は、エミッタ抵抗にも表れています。



Rシリアルの後期やSシリアル以降は、パワートランジスタの間にエミッタ抵抗があるんですけど






今回のRシリアル初期はパワートランジスタの間にエミッタ抵抗がありません。

まぁエミッタ抵抗が無いからエミッタ電流を調整する半固定抵抗器も無いわけですが。




怖いですねー(笑

普通はエミッタ抵抗を入れるものなので、本当に無いのかどうか確認してみましょう。


後期型(Lead12 3005H)の回路図でいうとプッシュプル回路のエミッタ抵抗というのは
このようにトランジスタのエミッタとエミッタの間に繋がれているのですが、




基板の裏で確認しますと・・・

Sシリアル以降はトランジスタのエミッタとエミッタの間に抵抗器があります。




しかしRシリアル初期ではトランジスタのエミッタ同士が抵抗器なしで直接繋がっていて、エミッタ抵抗はありません。




エミッタ抵抗が無いということは、エミッタ電流(=バイアス電流)を流していないということです。

最初からエミッタ電流を流さないし調整しない設計なのです。



私はエミッタ抵抗が無いアンプ(=バイアス電流を流さないアンプ)というのは、実機では見たことがないし
プッシュプル回路の進化の過程の、というか、理想的な回路の一歩手前の回路として
電子回路の専門書で説明されているようなのでしか見たことがありませんので、

驚いているとともに興味津々です。


電子回路の専門書などでも動作の安定や熱暴走対策の為にエミッタ抵抗を入れるようにと書かれておりまして、
だいたい3段階での説明が多いかと思います。





【基本回路】
基本回路のままでは無信号時にアイドリング電流が流れていないのでトランジスタがカットオフしていて
トランジスタ内部のダイオード分、ベース電位がエミッタ電位よりも0.6V高くなるまで動作しませんので、
波形に「クロスオーバー歪み」という段差が出来てしまうんですね。

【歪み補正回路】
そこで、このクロスオーバー歪みを解消させる為にダイオードを入れて
トランジスタのベース-エミッタ間の電位差を相殺することで補正したのが「歪み補正回路」です。
「クロスオーバー歪み」を消させてます。

今回のRシリアル初期がこれです。

でもこれだとまだ熱暴走に対する対策が万全ではないのです。

【熱暴走対策回路】
そこで、エミッタ抵抗を入れて
ベース電位 = B-E間電圧降下(0.7V〜0.8V)+ エミッタ抵抗電圧
という図式を成り立たせることで、熱暴走しないように制御することが重要だとされているのです。

B-E間電圧降下(0.7V〜0.8V)は固定されているので、
ベース電位でエミッタ電流をコントロールすることでコレクタ電流を制御することが出来ます。
この場合のベース電位はダイオードの順電圧を利用するか、トランジスタを使って半固定抵抗器で調節するかです。



つまりRシリアル初期は、動作の安定や熱暴走の観点から見ても理想的な回路ではないということなのです。



ここで冒頭の、「ヒューズが切れた原因」 ということになってくるわけですが、

まぁ普段、普通に使っている分には問題なさそうですが、
このRシリアル初期型は、大音量で弾き続けたり、真夏の暑い日に電源を入れたまま放置したりすると
熱暴走を起こしてヒューズが切れる可能性がある。

ということになります。



とはいえ・・・



ギターアンプやエフェクターというのは意外と雑に設計されているものが多いものであって、むしろ、
「よくこんなんで動くよね。」というものの方が人気があったりします。

おそらくそれは、
「ヴィンテージ物は古いんだから理想的な回路が確立されていない頃の回路なのは当たり前。」ということで
不完全であることも含めて「古き良きヴィンテージ」であると捉えられているのではないかと。



実際に私も、このRシリアル初期の不完全なところこそが魅力的だと捉えています(笑





実はSシリアル以降に追加されたアイドリング電流調整用の半固定抵抗器の箇所も、理想的な回路ではないんです。

更なる魅力です。



R2に対してR1の値が大きくなるほどアイドリング電流が流れるので
アイドリング電流を調整する際には、あらかじめR1を最小の位置にセットしておいて
少しずつアイドリング電流を流していくようにするわけですが、
Lead12の半固定抵抗器の位置はR2側にあるので、半固定抵抗器を「0」付近にしてしまうと危険なのです。

ですので普通はR1側で、尚且つ半固定抵抗器が真ん中の時に丁度良くなるようにR1を入れるのが理想です。



もしかしたら、このあたりの危険性を考慮して、Uシリアルからは可変させないで470Ωで固定したのかな、
とも思います。

そうだとすると、初期にはアイドリング調整の機能が無かったのをRシリアル後期から調整するようにして
さらにUシリアルから470Ωで固定したということの意味と合致してきますよね。

いやー、Lead12の回路に電子回路の歴史が反映されていると思うとさらに楽しくなりますね!(笑



以上のようにRシリアル初期というのは、ただ単に部品や基板の見た目が違うだけではなくて

根本的な回路が他のシリアルとは異なるということです。



マニアとして見ると、「エミッタ抵抗が無い回路」 という意味でも、レアです(笑

例えるならば、発展途上ともいえる単純で基本的な回路である Fuzz Face や Distortion+ のような
初期のエフェクターと同じような魅力があります。



もう一つ付け加えるならば、Rシリアルが他のシリアルと異なる大きな要素として
以前に当HPの


にて検証した結果、Lead12の音の個体差の原因として可変抵抗器の許容誤差が挙げられますが
エミッタ抵抗器が音に影響を及ぼしているということも判明しました。

よく「Sシリアルは音が良い。」と言われているわけですが、
検証の結果、「その理由はエミッタ抵抗器にあった。」と言っても過言ではないということです。

Rシリアルには、その、重要なエミッタ抵抗器が無いわけですから
いかに 別物 であるかが分かるかと思います。

理論上は信号がエミッタ抵抗器に邪魔されることなくストレートに出るということになりますので
オーディオアンプだと「エミッタ抵抗レスにすると音の抜けが良くなる。」などと言われてますが
ギターアンプの場合はオーディオアンプのようなハイファイな性能は全く求めていないので
「Rシリアル初期はエミッタ抵抗レスだから音が良いんだぜ!」ということではなく(笑

あくまでも「回路的に別物である。」というところに魅力を感じます。



さて・・・



さっきの写真をもう一度見ますと、
パワートランジスタの型番もSシリアル以降のものとは異なりますね。

Sシリアル以降はMJ3001とMJ2501ですが、この初期の基板には2N6384と2N6649が搭載されています。
中古ですので前の所有者が修理等で交換した可能性も考えられると思ったのですが、
他のRシリアルも初期の基板には2N6384と2N6649が搭載されているのを複数、確認しました。






データシートで比べてみましょう。

今まで見てきたSシリアル以降に使われていたMJ3001とMJ2501の定格は80Vの150Wですが、
Rシリアル初期の2N6384と2N6649は60Vの100Wですね。




それでですね・・・



Rシリアルの初期っていうのは珍しいわけで、すなわち2N6384と2N6649は珍しいわけで、
R後期以降、S、T、U、V、W、X、Y、Z、は全てMJ3001とMJ2501なので
Lead12のトランジスタといえばMJ3001とMJ2501という認識が普通なんですね。

そうすると、Lead12のトランジスタの代替品を探そうってなった場合には
MJ3001とMJ2501の代替品を探すことになるわけです。

代替品を探すときはオリジナルのトランジスタの定格と同じか大きいものが条件になるので
定格が80Vの150W以上のトランジスタを探すことになります。




しかしそれだと、


もし 「2N6384と2N6649っていうのがあるけどどうかなー?」 って調べると、60Vの100Wですから
「これは駄目だ。」ということになってしまうわけです。


実際にはRシリアル初期に2N6384と2N6649が使われているのに・・・です。



そこで、



MJ3001とMJ2501の代替品を探すという考え方を一旦脇に置いといて・・・

出力12Wのアンプのトランジスタを何にするかを決める。という考え方をしてみます。



まずは大雑把なイメージで考えてみると・・・


例えば、出力20Wの Roland / SPIRIT20 のパワートランジスタは2SD313(60V、3A、30W)で、
出力50W(25W+25W)の Roland / JC-55 のパワートランジスタは2SD1408 / 2SB1017(80V、4A、25W)です。

だいたいコレクタ損失はアンプの出力で、トランジスタのC-E間電圧は出力電力の3倍程度必要なので
Lead12あたりだと最低限36Vの12W以上あればいいのではないか。というイメージです。

ただし36Vの12Wなどという中途半端な定格のトランジスタはなかなか無いので
現実的には40Vや50Vで探すことになるでしょう。







まぁ実際に設計する時には出力を何Wにするかを先に決めて、それに必要な電圧を求めますので


Lead12は出力電力が12Wということが前提になります。

・最大出力電力=12W
・負荷インピーダンス=8Ω(8Ωのスピーカー)

として、必要な電圧(最大出力電圧 Vo)を求めると

Vo = √(Po × Z) = √(12W × 8Ω) = 9.8V

ということで最大出力電圧が9.8Vになり、


p-p(ピーク・トゥ・ピーク)は

9.8V × √2 × 2 = 27.7Vp-p になります。


四捨五入して 28Vp-p として、両電源にするので半分ずつで±14V

これにだいたい4V〜5Vくらいの余裕を持たせて最終的に±18V〜±19Vp-pになります。

実際の回路も±19Vになってますね。




12W出力時のピーク電圧を±19Vp-pとすると、その時の電流値は 1. 3A になります。



ということで・・・

12Wのアンプに使うトランジスタは、計算上は 19V、1. 3A、12W くらいになって
実際にはそれに余裕をもたせて 60V、2A、20W くらいのものを探す感じになります。

余裕を持たせるあたりがアバウトですがそんなもんです(笑



そしてここで注意点があります。

先述の 2SD313とそのコンプリメンタリの2SB507(60V、3A、30W)や
2SD1408 / 2SB1017(80V、4A、25W)あたりでもスペック的には該当するのですが、
Lead12のトランジスタはダーリントン・トランジスタなので、
代替品もダーリントン・トランジスタを選ぶ必要があります。



「ダーリントン接続」と「ダーリントン・トランジスタ」の違いを整理しましょう・・・

例えばこれはJC-55の回路図ですが、赤で囲ったトランジスタがダーリントン接続になっています。




つまり、2個のトランジスタを直列に繋ぐことで電流増幅率(= hFE)を稼いでいます。
一定以上大きな出力のアンプはこうしないと増幅率が足りないのでこれが一般的なのですが
この 「ダーリントン接続された2個」 が、1つのパッケージに収められているトランジスタというのがあって
それをダーリントン・トランジスタと呼びます。

特にダーリントン・トランジスタの回路記号というのは無いと思うのですが、こんなのどうでしょうか?




まぁオペアンプも1回路入りも2回路入りも同じ回路記号ですし、普通に2個のトランジスタを描けばいいと思うのですが
Marshallの回路図ではこんな記号でエミッタの矢印を2個描いて1セットになってます。




Lead12に使われているMJ3001とMJ2501やRシリアル初期の2N6384と2N6649が、このダーリントン・トランジスタなのです。



そして外形。

ダーリントン・トランジスタ自体は、TO-3パッケージでもTO-220パッケージでもありますし
仕様(定格)さえ条件を満たしていれば外形は単に見た目や取り付けの差だけなのでどちらでも使えますし
特にギターアンプにはどちらのパッケージが適しているということはないのですが、
Lead12に使われているのはTO-3パッケージなので、出来ればTO-3パッケージで合わせた方がいいですよね。






これらの条件で、入手性も考慮しないといけません。

せっかく選んでもどこにも売っていないとか高くて買えないのでは意味がありませんので。





そうすると・・・



あぁー、どうしても入手性で難しいですね・・・



入手性を無視すれば、やはり 2N6384 / 2N6649(60V、100W)か MJ3001 / MJ2501(80V、150W)が妥当のようです。



そして、もし壊れて要交換になって入手が容易な代替品を選ぶとしたら、

オーバースペックですけど MJ11015 / MJ11016(120V、200W)あたりでしょうか。

台湾MOSPEC製のセカンドソースで、現行品なので新品で安く入手可能です。






オリジナルにこだわるならデッドストックを探して入手するしかないですね。
私はMOTOROLA製の MJ3001 / MJ2501 を2セット確保してあります。






だいぶ寄り道してしまいました(苦笑



他のトランジスタはBC184が2個と




BC212が1個です。




このへんはSシリアル以降とだいたい同じですね。

BC184がNPNでBC212がPNPなんですけど、SシリアルでNPNがBC182の個体もありましたので
この辺はシリアルに関係なく適当なんだと思います。
ちなみにBC182とBC184は定格とhFEがちょっと異なるだけでほぼ同じものです。



ということで・・・



SシリアルとRシリアル初期の現物から起こしたパワーアンプ部分の回路図を比べてみましょう。

かなり異なるのが分かると思います。


Sシリアル



Rシリアル初期





回路の説明はこのくらいにしてそろそろガリを直さないと・・・





しかしいい眺めですねー(笑

やっぱ音以外の魅力っていうのも大きいですよねー(笑






それでは可変抵抗器のガリを除去していきます。 (やっとか・・・)





スーパーヘビー級のガリですので、
もし除去しきれなかったら新品のリプレイスメントに交換することになります。



それでですね、何故かMIDDLEだけガリが無くてつまみを回す感触が重いんですね。




Marshallのつまみってスルスルと軽いのが特徴でもあるので、
どちらかというとMIDDLEだけ普通の重さという感じなので、リプレイスメントかな?と思ったのですが




外観を見ても他のPOTと同じですし、




はんだ付けを見ても交換されてはいない感じですね。





まぁ全部外してクリーニングします。



ちなみにRシリアル初期の基板はGAINのPOTの部分にジャンパーがありますので丁寧に取り外ししないとです。




っていうか、今まで見てきたどのシリアルとも違って、硬くて太い端子を直角に曲げてあるので
はんだを除去してもさらに熱しながら端子を起こさないとパターンが剥がれます。




パターンが剥がれないように慎重に取り外します。




あと、はんだを除去した際に頑固なヤニがこびり付いてなかなか取れなかったりするので




フラックス等を使って綺麗にしておきます。





左が今回外したもので、右は他のシリアルのやつ。




今まで見てきたシリアルのやつは端子が90度ねじってありました
90度ねじって差し込んでから、若干縦方向に曲げることでグラグラしないようにさせていた感じです。
手間がかからない方法へ効率化したということでしょう。




ちなみに私がリプレイスメントに交換する時には端子をねじったり曲げたりしないです。
頑強に取り付けてしまうともしまた今度取り外す時に大変になっちゃうので。





ということで、全部取り外しました。




ぱっかーん。




もっと錆びてるかと思ったら見た目は意外と綺麗です。




と思ったら・・・やっぱりなんか白っちゃけてておかしい。
つまみを全閉にした位置です。




全開にした位置にも。
そういえばガリが酷いところです。





接点復活剤でクリーニングしてみるとデフォルトが白い状態のようです。





全閉がこの位置で





全開がこの位置です。





カバーのツメを閉じる前に、実際に音を出してガリが除去出来たかどうかを確認します。

除去出来ました。





さっきのがGAINでこれはVOLUMEで全体的にガリが酷いです。 摺動子の部分が茶色く錆びてます。

GAINもこんな感じかと思っていたんですよねー。





まぁこの面はどこにも接触しないので関係ないっちゃ関係ないのですが
ここが汚れているということは接触部分も汚れているのだろうと憶測します。

綿棒で擦れば落ちる汚れみたいな感じでした。

黒いカーボンの部分をクリーニングしてガリはなくなりました。





TREBLEは何故か綺麗でしたが、ガリは酷いです。
でもクリーニングすればガリは除去出来ました。





MIDDLEはこんな感じ。これも綺麗になりました。





MIDDLEはガリは無いのですが回すのが重いので
軸のところに接点復活剤(潤滑効果もあります)を注入してグリグリしてみましたが変わりませんでした。
パーツクリーナーならスルスルに軽く出来ますが、まぁそこまでする必要はないかなと。





そして残るBASSはこんな感じです。 これもクリーニングしてガリは除去出来ました。





ちなみに接点は上側にもありますからね。





ということで・・・



先生、全部おわりました。





カバーを閉める時には相当の力を込めてカバーを押さえながら
常にツメを押す方向(横方向と縦方向)に気を遣ってます。

ツメの曲げ方が悪いと閉める時にガタが出てちゃんと閉まらなくなり
カバーに付いているストッパーが効かなくなって軸の止まる位置がずれてしまいますし、

そうならないようにする為には、カバーを開ける時の「ツメの起こし方」が重要になってきます。
曲げてはいけない方向に曲げてしまうと、それを再度元の方向に曲げて戻すのは難しいのです。

ただツメを起こしたり曲げたりするだけではないということです。

コツは人それぞれだと思いますが、ラジオペンチやテコの応用は使わない方がいいでしょう。

どうしてもオリジナルを使いたい場合や使わざるを得ない場合以外は、
互換品や代替品(リプレイスメント)があるなら新品に交換した方がいいと思います。







これでガリの除去は完了です。





基板を元に戻します。





あとはつまみですが、





溝のホコリが汚いので中性洗剤で洗おうかと思ったのですが
洗剤の力で接着剤が溶けてつまみの上の部分が剥がれたりするので





硬めの筆でホコリを払いました。

ホコリを払う前のものと並べてみます。





イモネジは防錆剤で磨いただけで研磨するまでの気力は無し・・・





まぁこんなもんで勘弁してやろう。







完了です。 頑強だったガリも無くなってパーフェクトな状態になりました。



良い音してますねー。

基本的にはSシリアルと同じ音ですね。


ただし、GAINをフルにした時にRシリアルの方が深く歪みます。
定数が違うのかも?っていうくらい、Sシリアルよりも目盛り2つ分くらい多く歪む感じで
このRシリアルの「Sシリアルよりも歪む部分」というのはファズっぽくブーミーになります。
GAIN周りの抵抗器を確認しましたが全て同じ値でした。
Rシリアル初期のGAINを「8」くらいにするとSシリアルのGAIN「10」と同じくらいになります。


また、Sシリアルは目盛り「9」くらいから急に歪みが増すのに対して
Rシリアル初期は真ん中くらいからだんだん歪んでいくので、
可変抵抗器のカーブも確認しましたが、どちらも22kΩのBカーブです。


まぁ以前Lead12のシリアルによる音の違いを検証した際に
可変抵抗器の許容誤差によるところも大きかったので、
このGAINの差も可変抵抗器の許容誤差によるものである可能性はかなりあると思いますが・・・


いやいや、他に回路的に決定的な違いがあるじゃないですか。


エミッタ抵抗があるか無いかという違いが!!


実際のところ、
オーディオアンプの世界では「エミッタ抵抗レスにすると音抜けが良くなる。」と言われていて
確かに信号の通り道に直接抵抗を入れるのでハイ落ちなどの信号の減衰があるかないかの差があります。

しかしながらエミッタ抵抗を取ってしまうと熱暴走の可能性も高まるので、
「音質」と「安全性」を天秤にかけるようなところがあります。

ただし、このオーディオアンプにおける「エミッタ抵抗レスにすると音抜けが良くなる。」というのは
歪みの無いクリアな音での話ですので、ギターのように歪ませるアンプとは別の話です。

ギターアンプをGAINで歪ませた状態の場合は、このエミッタ抵抗の有無による音の差が、
「音抜け」ではなく「歪みの量」として表れるということは充分にあり得ます。


この歪みの量の差が、エミッタ抵抗の0.33Ω(正負合計で0.66Ω)による影響なのか、
もしくは単に可変抵抗器の許容誤差によるものなのか。

可変抵抗器を交換したりして検証することも出来ますが、今はこの違いを楽しむことにします(笑



2019.11.6

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