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No.38「Marshall / Lead12 Tシリアル 修理 (T06277)」


またまた当HPではすっかりお馴染みのギターアンプ、Marshall Lead12 の修理を承りました。

今回もまたいい梱包ですねー。




フタを上にスーっと抜くタイプなので使い回しが容易です。

こっ、これは・・・




なんと、白いマーシャル・・・White Marshallです!!

たまにヤフオクで見かけます。 赤いのもありますよね。




しかもTシリアル!! 初期型です!!




Tシリアルだけサランネットが特別で色褪せて茶色っぽくなるんですけど、
中には茶色くならないサランネットのものもあるそうです。これは茶色くならないやつですね。

かっこいいですねー。




裏側




先生、何かいます!!




Marshall The Guv'nor です。

そうです、ガバナーの修理も承りました。




Made in England 英国製です。




乾電池のフタが欠品なのが惜しいですが・・・英国製あるあるですね。








おっと、INPUTジャックのナットが無いかも。




・・・と思ったらキャビネットの隅に落ちてました。危ない危ない。




あぁー・・・ナットはモノが違うんですね。

緩いというか、締めてもウニューってなってしっかり締まらないです。
無理にウニューってやり続けるとジャック側のプラスチックの溝が割れる可能性大です。
どうにかしましょう。




ご依頼主様によると症状は、

(Lead12) 「ランダムに音が小さくなったりひずみレベルも少なくなったり
明らかに本調子の音ではなくプレイ中に音が途切れる(減退する)」

(The Guv'nor)
「一定して発するハムノイズ的なノイズ」

とのことです。

あと追加で「トゥルーバイパスへの改造」ですね。



基板を見てみます。




Tシリアルはバイアス調整用の半固定抵抗器がある「初期型」です。




1985年2月27日製ですね。




最終段トランジスタはMOTOROLA製のMJ3001とMJ2501。




エミッタ抵抗はBIANCHI IBARRONDO(B&I)の巻線抵抗、KNA412です。




これは、

No.17「Marshall / Lead12 比較・検証」
〜 同じアンプなのに何故こんなに音が違うのか? 〜


で検証した通り、このエミッタ抵抗がLead12の音質に与える影響は大きいです。

ただし影響が大きいとはいえ、凄く音が変わったり良くなったりするわけではなくて
むしろシリアルによって音が異なる一番の原因は可変抵抗器の許容誤差によるものであり、
可変抵抗器の許容誤差をなくした状態で残った 微妙な音の違い の原因が、エミッタ抵抗の種類なのです。
中音域が変わります。

よって、こだわる人はエミッタ抵抗を好みのものに交換することは有効だと思いますが
可変抵抗器の許容誤差により生じる音量や歪み具合などの個体差の方が大きいです。


それでも、それらの検証結果を踏まえたうえで・・・

私が所有している7台のLead12とお客様からお預かりした数台のLead12を実際に弾いてきた感想としては
後期型や中期型よりも初期型の方が乾いた音で中音域が出てGAINをフルにしてもブーミーになりにくいです。





この時期のLead12は電源の平滑コンデンサが松下製のものが多いのですが
Cornell Dubilierっていうのは珍しいですね。






オペアンプ・・・

こっ、これは・・・!! RCAのCA1458Eです!!

RCA製というだけでもレアなのに、MC1458CPではなく CA1458E です。 激レアです先生。






トランジスタを見ていきます。

TR1
MOTOROLA製、BC184




TR2
MOTOROLA製、BC184




TR3
Micro Electronics製、BC212




TR4とTR5は先に紹介した最終段トランジスタで・・・

TR6
収縮チューブが被せてあるので見えませんが、TR1とTR2と同じMOTOROLA製のBC184でしょう。
初期型だけ温度補償の為に放熱器に密着させてあるんですよね。






さて、最初はなかなか症状が表れなかったのですが
まず一番最初に目に付いたのがスピーカーの配線なんですよねー。

プラスとマイナスが逆に接続されているのです。




はんだ付けをやり直した痕跡は見られないので製造時からこうなのかな。
逆でも音は鳴りますが、音が出た時にウーハーやコーンが動く方向が逆になります。


これはこれで直しておきますが、今回の症状の原因とはまた違うようです。



丹念に不良を探したところ、INPUTのLOWジャックとH.P./LINE OUTジャック接触不良がありました。

特にH.P./LINE OUTジャックの接触不良が酷いです。




このジャックはステレオ用のジャックでヘッドホンとLINE OUTを兼ねていて
プラグを途中まで差し込むとスピーカーからは音が出なくなってヘッドホンとして機能し、
奥まで差し込むとスピーカーから音が出ながらLINE OUT信号を出力するのですが、

ヘッドホンプラグを差し込んでいないのに音が出なくなったりします。
何度もプラグを抜き差ししたりはんだ付け部分をグラグラさせたりしながら確認したところ

H.P./LINE OUTジャックの不良のせいでINPUTのHIGHでもLOWでも音が不安定になるのと
INPUTのLOWジャックは普通に接触不良で音が途切れます。

最初はなかなか症状が表れなかったのは
大丈夫な状態でどこもいじらずに弾いていたからだと思われます。


実は意外と知られていないのですが、

プラグに接触する部分の端子なら「擦る」ので接点復活剤が使えるのですが
このようなジャックのスイッチ部分の接点は「付くか離れるか」なので接点復活剤は使えません。




オーディオアンプによく使われているリレーの接点も接点復活剤は使えません。
分解して接点を磨くのは大丈夫ですが、単に接点復活剤を塗布すると逆にもっと駄目になります。

ということで今回のジャックの場合はプラグに接触する部分の端子ではなくて
スイッチ部分の接点の不良なので、交換が好ましいですね。

INPUTのLOWジャックとH.P./LINE OUTジャックを交換します。





あと、電源のスイッチのパイロットランプが点灯しません。

10回に1回か2回はランプが点灯することもありますがほとんど点灯しないのでこれも交換します。








あとは気になる所として・・・

これも製造時からなんですかねー?

INPUTジャックの端子が1か所、はんだ付けされていませんでした。

これでも導通はしてるっぽいけど、本来はんだ付けしなければいけないところです・・・






えーと・・・

とりあえず、ついでに依頼されたThe Guv'norから先にやっちゃいますね。



「一定して発するハムノイズ的なノイズ」というのがなかなか確認出来ないなー、と思ってたら
ご依頼主様のアダプター側が原因だったという連絡を頂きました。

そこで、こちらで確認出来た不具合

・TREBLEとLEVELのPOTのガリ
・INPUTジャックのナットの緩み

と、追加で依頼された

・トゥルーバイパスへの改造

を行います。



まずINPUTジャックのナットのナットですが・・・

モノが違うナットが付いてたので緩んでしまうわけです。




左がオリジナルのジャックのナット、右がモノが違うナット。




このモノが違うナットは何だったかというと、

フットスイッチ用のナットと同じサイズであることが分かりました。

BLUEスイッチやCLIFFのスイッチのナットと同じでした。




そこで、ジャックごと交換しようと思って調べたら
Guv'norのジャックの交換に「マル信無線のMJ-188LPD-8」を使っているのをちらほら見かけるんですよ。

図面で寸法を見るとどうしても高さが1mm高くて干渉するんですけど、
使えるのかなぁ? ということで注文してみたんですね。







そしたらやっぱり・・・

オリジナルのスイッチの高さが




12mmなのに対して、




マル信無線のMJ-188LPD-8は13.3mmあるので、POTと干渉してしまうんですよ。




かといってナットだけ使おうにも、まぁ想定はしていたのですが
国産なのでミリナットで合わないんですね。



そこで、全然形状が異なるけれどもナットが同じだと思われるジャックの

ナットだけが売られていたので試しに注文してみたんです。

これです。




ばっちし合いました。 良かったです。




ナットの種類の確認が取れないんですけど、

ミリサイズでもインチサイズでもないので、管用ナットっぽいですね。

結局、20円のナット一つで済みました。
マル信無線のMJ-188LPD-8は使わなかったので私が買い取ります。



次はガリのあるTREBLEとLEVELのPOTを交換します。




綺麗に取り外します。




ブランドは違いますが形状は同じリプレイスメントです。
右が新品




アルミ板の台座に逆さまに取り付けてガイドとして利用することで位置を固定してからはんだ付け。
こうすることで端子に負担をかけずに済みます。




はんだ付けが終わったら元の向きに戻します。

このアルミの台座はフットスイッチだけで固定してあるので
台座の取り付けが曲がっているとPOTの軸がケースに干渉して引っ掛かります。
フットスイッチのナットを緩めたり締め直したりする場合にも注意が必要ですね。




ちなみにオペアンプはMOTOROLAのTL072CPです。






あとはトゥルーバイパスへの改造です。

9Pスイッチは英国製の初期型と形状と踏み心地が似ている国産フジソクの8Y3011にします。




取り付ける前に下ごしらえをします。




8Y3011って菊座ワッシャーや内側の凸付のワッシャーはあるのですが平ワッシャーが付いてないので、

今までのやつを・・・




磨いて使います。




The Guv'norのノーマルの配線ってちょっと普通のと違うっていうか
ジャックが基板に直付けなので、一般的なトゥルーバイパスの配線図の通りにやろうとすると
ジャック自体をオープンに変えるとか基板のプリントパターンをカットする感じになっちゃうので
何を優先させて何を犠牲にするかで人によってやり方が色々あると思うんですね。

私はなるべく基板を傷付けたくないのでプリントパターンをカットせずに、
ジャックもオリジナルのまま配線材を繋ぎ変える方法でやりました。
配線材も元の配線材をそのまま使っています。




動作確認、OKです。






次はLead12いきましょう。

まずこれなんですけど・・・

スピーカーケーブルのプラス(赤)とマイナス(黒)が逆に取り付けられている件。




ちょっとブログにも書きましたけど、べつに間違いを非難したいわけでもないし
誰がやったのかを突き止めたいわけじゃないんですよ。

中古のアンプなんて今まで何人オーナーがいたかも分からないですし
新品購入時の状態も確認出来ないので、

黙って左右を入れ替えてあげればそれで済むことなんですけれども、

自分の中で、Marshall社や大手メーカーの工業製品に対しての信用を失いたくない気持ちから
製造時からこうなっていたのかどうかが気になるんですね。


よく見ると、はんだ付けされたのはだいぶ昔ですよね。
製造時か、まだ新品に近い状態の頃にはんだ付けされた感じです。






しかしよく見ると・・・



配線材に「撚ってあったクセ」が付いてました。






はんだ付けを外して、そのクセに従って撚っていくと自然にこうなりました。

これが元の状態でしょうね。




撚ってある線は一度はんだ付けを外さないとほどけないので
製造時には正しく配線されていたことが伺えますね。


Marshall社の配線の仕方が間違ってなくて良かったと思うと同時に、
中古製品はこういうことがあるものなのだということを再認識させられました。





ついでにラベルがグチャグチャってなってたので・・・




剥がして繋ぎ合わせ・・・




貼りました。 あんま変わんないか(苦笑





電源スイッチのパイロットランプが点灯しないので交換します。




左が取り外したやつで、右が新品のリプレイスメントです。




私は「リプレイスメント」というのは「純正じゃないけど適合する交換用部品」
という意味で捉えていて、これも見ての通り形状は異なっているんですけど、
同じLead12同士のオリジナルでも時期によってちょっとずつ形状が異なっていたりします。

で、よく見ると同じブランドなんですね。

これはマイナーチェンジしているだけで同じものと捉えていいのではないかと。
呼び方としては「リプレイスメント」じゃなくて「純正品」でいいのかもしれません。




ランプが点灯するようになりました。





INPUTのLOWジャックとH.P./LINE OUTジャックを交換します。




英国製、CLIFFのジャックです。






それでですね・・・

写真だと見づらいかもしれませんが、ビショビショに濡れてました。




ワッシャーもビショビショです。




まぁよくあることですし、べつにビショビショであることを責めようなんて全く思っていないんですよ。

接点復活剤をスプレーしたんだろうなと思いながら拭くだけです。

ただ、上の方でも書きましたが、プラグとの接点は擦る部分なので接点復活剤は有効ですが
スイッチの接点にかかってしまうと逆に接触不良の原因になります。
これは接点復活剤のメーカーでも説明されてると思います。

とはいえ、今回の接点不良がこれのせいだとは思えないんですけどね。
むしろ接点不良になってから接点復活剤をスプレーしたのではないかと思います。

一番考えられるのは、INPUTのHIGHは無事で、INPUTのLOWとH.P./LINE OUTが接触不良ということは
使用頻度の少ないジャックが接触不良を起こしやすいという感じですね。



あ、ここで一つ思い出しました。

私はどれかのLead12の修理記事で
「INPUTのLOWのジャックを好んで使っています。」と書いたと思うんですけど

それはLOWに入れた方が同じ音量でもVOLUMEを上げられるから、だったんですけど
やっぱりHIGHに入れた方が音が良いので最近はHIGHに入れてます。

どっちでも好きな方でいいと思いますけど(笑



さて、上の方でも書いたこの部分、何故かはんだ付けされていない所なんですけど、




よく観察したらはんだが残っていますので、最初ははんだ付けされていたようです。




ジャックを外そうとして一度はんだを除去したものの、やっぱり外すのをやめたのかな?

というのも、このジャックを外すのは慣れていないと困難だからです。

まずはんだを除去すると端子が寝かせてありますのですが、




プリントパターンが剥がれないように慎重に端子を起こさなければならないのです。
これで失敗する人も多いですし、怖くて出来ない人も多いと思います。




怖くていいんですよ・・・怖がるからこそ慎重になれるのです。

私も怖いんです(爆



時間をかけて慎重に外します。






ちなみに外したジャックはREAN製でした。




私は端子を曲げずにはんだ付けします。
HIGH側のはんだ付けされていなかった例の箇所もはんだ付けしておきました。




H.P./LINE OUTジャックも同様に交換しました。

ワッシャーはREANがえんじ色でCLIFFは黒なんですね。




組み込んでしまえば見えなくなってしまうところなんですけど気になるので




オリジナルの色で合わせておきました。





組み込みはPOTで固定するんですけど、ここはご依頼主様が
「ナットが足りず、無理矢理付けてます。」と気にされていたところで
足りないどころか多いんだけどなー、って思ってたら・・・




合うナットが足りないから、合わないナットで無理矢理付けているという意味でした。

カラーの代わりに使っていた、ということです。




そうなんですよ。これはご依頼主様がご自身でPOTを交換したとのことなんですけど
このリプレイスメントのPOTは軸の径が2種類になって、しかも溝のピッチが特殊なんです。

「管用ナット」というやつのM9とM8になります。

このブラスナット10個は全て合いません。




これで大丈夫です。




ブラスの軸が管用ナットのM9でアルミの軸が管用ナットのM8です。




このナットは両側が面取りされてるタイプなので表裏はないのですが
Marshallに取り付けられている純正のナットは片側が面取りしてあるタイプで
オリジナルのLead12は普通とは逆向きに面取りしてある方をパネル側に取り付けられています。
パネルに傷が付かないようにだと思います。






修理完了ですねー。




動作良好です。




安心してお使い頂ける状態です。

やっぱMarshallはいいですよねー。

見た目もいいし音もちゃんとMarshallの音がします。





なんだか今回の記事は自分で書いてても
「ここがこんな風になってしまっていました。」みたいに
あら捜しをして駄目出ししているかのような感じの内容が多くて
ちょっと申し訳ない気持ちでした。

状態が良くないことを説明しているだけのつもりでも
良くない状態にした人のことを責めることになってしまうのかもしれない。

少なくともそういう風に受け取られてしまう可能性は、あるわけで
まぁ今までの記事でもそういう部分はあったと思うんですけど
どう説明・解説するかというのはよく考えていかないとな、って思いました。

あとは今回はナットの合う合わないがよく出てきました。

ミリナット、インチナット、管用ナット・・・
あらゆる種類のナットを一通り揃えておいた方がいい感じですね。

それと、Lead12の過去の実験・検証で結論が出てますが
lead12はPOT(可変抵抗器)の許容誤差による音の個体差が結構あるのですが、

The Guv'norもPOTの許容誤差による音の個体差があることが分かりました。

もっと言うとBOSSのDS-1もそうなんですけど、
The Guv'norの英国製と韓国製の音が違うとかいうやつも
まずはPOTの許容誤差による音の個体差を先に確認した方がいいと思います。

実際にはPOTの個体差によって音が違うのに、
英国製と韓国製の違いだと勘違いしてしまう人って多いかもしれません。

すくなくとも英国製と韓国製を1台ずつ持って比べてもPOTの違いとの区別が付きません。

これって結構盲点だと思うんですよねー。

うーむ。

2020.8.21

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